毎年、新年度を前に話題にのぼる「春闘」。
業界の賃金相場が決定される重要事項ということはわかっていても、その仕組みや実例などについては知識があいまいな方も多いのではないでしょうか。
新型コロナウイルスの影響が市場に大きく出た2020年の春闘では、賃上げに応じた業界と、戦略的に「ベアゼロ」に踏み切った企業と、対応が分かれる結果となっています。
本記事では、春闘についての概要や仕組み、2020年の実例などを解説します。
春闘とは
春闘とは、「春季闘争」の略語であり、昭和30年頃から労働組合が賃上げ要求をメインに行っている労使交渉です。
労働組合がある企業では、労働者の賃金は労働組合と会社が交渉して決定されます。この交渉において、労働組合は労働組合連合や産業別組織の指導や調整を受けながら、各企業に要求を提出し、団体交渉を行います。
団体交渉を行う理由は、同じ業界内の労働組合が団結して交渉したほうが、影響力を高めることができるためです。この交渉が、毎年2月から新年度を前に行われることから、一般的に「春季闘争」と呼ばれるようになりました。
労働組合に加入する労働者の数は年々減少しており、2019年時点で全労働者の17%ほどとなっています。
しかし、春闘での交渉は、労働組合がない会社や組合に加入していない人の労働条件にも影響を与えるほか、公務員の給料も民間企業の賃金動向によって決定するため、あらゆる労働者にとって注目すべき重要事項なのです。
春闘で要求される内容とは
春闘では、労働条件に関する様々な交渉が行われますが、一般的には賃上げ要求が中心となります。賃金を上げる主な方法としては「定昇」「ベア」の2通りがあります。
定昇
定昇とは、1年経つと毎月の基本給が自動的に増える仕組みのことです。
一般的な日本の企業では、給与額に年功序列の要素を取り入れており、勤続年数や年齢に応じた賃金が設定されているため、基本給が毎年一定額アップしていきます。これを、定期昇給、略して定昇といいます。
厚生労働省が実施した「平成30年賃金引上げ等の実態に関する調査」によると、従業員数5,000名以上を対象とする大手企業における定昇の平均昇給率は、2%とされています。例えば、基本給が月25万円で入社した社員の場合、翌年には月額5,000円の昇給が見込めることになります。
定昇は、社員個人としては支払われる給料が増えていきますが、会社では、その分毎年定年退職者が出ます。毎年一定数の採用人数を確保している企業であれば、定昇制度を取り入れていても、企業が負担する人件費総額に毎年変わりはありません。
ベア
ベアとは、「ベースアップ」を略した言い方であり、賃金水準を根本的に引き上げることです。
定昇制度の下では、労働者は一年後に、自分より一年先輩の労働者が貰っている給料と同額の賃金を受け取ることになります。
前述の通り、定昇制度の下では退職者数とのバランスが取れている限り、企業が負担する人件費は毎年増加することはありません。
この企業が毎年負担する人件費を底上げし、賃金水準そのものをアップさせるよう要求することを、ベアといいます。
ベアは、税金や社会保険料の値上がりや物価水準の上昇があった際、従業員の生活維持を目的として要求されます。ほかにも、大企業との格差解消や、企業の業績が向上したときに従業員への利益分配目的として行われることもあります。
ベアは、実施すると企業側の負担が継続的に増えてしまいます。そのため、高度経済成長期やバブル期などの好景気時代には頻繁に行われていましたが、景気低迷やデフレが続く2000年代以降は、実施する企業は見られませんでした。しかし、景気が回復してきた14年以降、ベアに応じる企業が復活してきています。
春闘で要求される内容は賃上げだけではない
春闘では、賃上げや賞与、一時金などに関する交渉がメインとなりますが、交渉内容はそれだけに限りません。労働時間の短縮や環境改善など、労働条件全般に関する交渉が行われています。
働き方改革が推進されている昨今では、育児や介護などのライフイベントと両立しやすい制度設計、ワーク・ライフ・バランスの実現を目標とした労働時間の短縮、大企業と中小企業の格差是正など、世間の動向に応じて様々な要求が行われています。また、パートタイムや派遣社員など非正規雇用で働く労働者の権利保全も、昨今の春闘の重要な課題となっています。
これらの要求内容は、労働組合連合が、12月初旬に発表する全体方針を基に、各産業別組織が具体的な要求水準を決定、さらに各企業の要求内容を労働組合が固めていきます。
このように、労働組合をまとめる連合や産業別組合が同業他社の動向を取りまとめ、足並みをそろえて、円滑な交渉を進めていくことも、組合の重要な役割です。
春闘による賃上げは何によって決まるのか?
基本的に、業績があがった企業に対しては、利益を労働者に還元するよう、労働組合が賃上げを要求します。
しかし、賃上げ要求があったとしても、それを企業がすぐに承認することはありません。一度賃上げした給料を再び下げることは難しく、賃上げは企業にとって先々までの負担となるためです。
労働者にとって賃上げはモチベーションに直結する重要事項ですが、無理な賃上げで経営に支障をきたしては、労働者の利益になりません。組合が一致団結して粘り強く交渉に臨み、会社側は経営コストとのバランスを慎重に検討しながら、それぞれの主張の妥協点をとることで賃上げは実現します。
また、業績不振の企業が定昇の一時停止や賃下げを要求してくることもあります。しかし、賃金は企業の業績のみで決まるものではありません。
業績によって簡単に賃金が上下するようでは、労働者の生活が成り立たなくなってしまいます。そのため、憲法や労働組合法によって、労働者には団体交渉権や団体行動権が保障されており、業績等を理由とした企業の一方的な賃金改定は是正されています。
春闘による昇給事例3つ
ベアを行う企業は、景気回復の兆しが見え始めた14年以降増え始めましたが、新型コロナウイルスの影響も大きい2020年は、ベアを見送る企業も多く見られています。その中でも、ベアを実施した企業事例をご紹介します。
NTT
NTTは、前年度の水準から年収ベースで3%程度となる、正社員の月給平均2,000円の賃上げを発表しました。
非正規社員については、再雇用社員の月給を前年の同額となる平均1,350円アップとしていますが、その他の非正規社員の処遇は各グループ企業の判断にゆだねています。
また、グループ企業のNTTドコモでも、契約更新時に月額500円増額するとしています。
UAゼンセン(外食・流通等の労働組合)
外食や流通などの産業別労働組合であるUAゼンセンでは、加盟労働組合の正社員の賃上げ幅が平均7,298円と、2.49%増となったことを発表しました。
さらに、パートタイマーの平均値上げ率は3.07%と、正社員を超える伸びとなっています。背景には、業界の深刻な人手不足があるとみられます。
KDDI
KDDIでは、総合職の月例賃金改善や契約社員の賃金改善などが見送りとなる厳しい結果となったものの、正社員の少数となる地域限定総合職や地域職についてのみ、若干の改定が実施されることとなりました。
春闘のベアゼロ事例:トヨタ自動車
2020年の春闘において、トヨタ自動車が7年ぶりにベアを見送る「ベアゼロ」を発表しました。
世界的に自動車の販売台数が落ち込む中でも、業績を伸ばし続けていたトヨタがベアゼロを発表したことは大きな話題となりましたが、なぜトヨタはベアゼロを決定したのでしょうか。
背景には、トヨタが業界内でもすでにトップレベルの賃金水準であること、そのうえで2013年の春闘以降ベアに応じ続けていることがあります。
自動車産業全体が変革期にある中、これ以上の賃上げは、競争力に影響を与えかねないと判断し、今回の決定に至ったとされています。
加えて、一律で昇給する従来の年功序列制度を廃止し、評価を給与に反映させる制度変革に踏み出したことも、労働組合が納得した理由のひとつです。
「頑張った人が報われる仕組みを作る」とトヨタが説明している通り、労働者が納得しやすく、明確な賃金システムと人事評価制度を作ることで、ベアゼロを実現した事例となりました。
春闘での賃金上昇が業績悪化につながらないよう対策を
春闘における賃上げ交渉は、労働組合がない企業や加入していない労働者にとっても、大きな影響を与える事項です。経営者や管理者は、業界の動向をしっかり把握しておくことが重要です。
また、先に紹介したトヨタのように、従業員が納得して働ける賃金システムを整えることで、賃上げを回避した事例もあります。賃上げは、企業にとって経営に直結する難しい課題です。まずは、賃金と結び付けられる明確な人事評価制度を構築し、春闘に備えてはいかがでしょうか。
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