人事評価において、定性評価と定量評価をバランス良く組み合わせることが重要だと言われています。
しかし、定性評価は評価基準の設定や適切な運用に注意すべき点があるのも事実です。
本記事では、定性評価の意義やメリット・デメリットを解説するとともに、定量評価との違いを具体例で紹介します。後半では定性評価の評価観点・評価方法・導入事例など、運用面のポイントについても詳しく取り上げています。
経営者や人事部門の方はもちろん、定性評価制度に関心をお持ちのすべての方にとって有益な情報が得られるはずです。ぜひ最後までお読みください。
定性評価とは
定性評価とは「数値では表せないものに対する評価」のことです。
業務に対する姿勢・意識・工夫などは、その行動や成果を数値化することが容易ではありません。また、部署や担当業務によっては、成果を数値で表せない場合もあります。そういった際に、用いられるのが定性評価です。
評価対象が数値では見えないという特性上、あらかじめ一定の基準を定める必要があり、人事担当者にも知識が求められます。
公正な評価制度は従業員たちの高いモチベーションを維持するだけでなく、社内活性化や離職率低下にもつながります。そのため、従来運用していた人事評価に加えて、定性評価を導入する企業は増加傾向にあります。
定性評価と定量評価とは
前述のとおり定性評価とは「数値では表せないものに対する評価」のことです。それに対して定量評価とは「数値で表せるものに対する評価」のことを言います。
例えば、顧客獲得件数・目標達成率・コスト削減率などは、その成果を○件・○%などと表すことが可能です。このように数値で表せるものを評価する際に用いられるのが、定量評価です。
評価対象が数値で目に見えるため、人事担当者や評価者にとっては評価がしやすく、評価される従業員にとっても納得感が得られる特徴があります。
定性評価と定量評価の違いの具体例
「営業社員が積極的にお客様との対話に努めた結果、目標達成率が120%だった」
この場合、積極的にお客様との対話に努めたことに対する評価は定性評価、目標達成率120%だったことに対する評価は定量評価となります。
定性評価のメリット
定性評価のメリットは、以下のとおりです。
- 数字に表れない会社貢献度を評価できる
- 従業員のモチベーション向上につながる
メリットを知り、定性評価を導入する判断材料にしましょう。
数字に表れない会社貢献度を評価できる
従業員にとっては、定性評価によって数字に表れない自分の頑張りが認められるのがメリットです。
営業成績などの数値だけでなく、仕事への姿勢や同僚との協力関係なども評価の対象となるため、日々の業務プロセスや質の高い仕事ぶりが正当に評価されます。これにより、従業員の士気とモチベーションが高まり、長期的なキャリア形成やスキルアップに専念できるようになるでしょう。
一方、人事担当者にとっては、定性評価を取り入れることで従業員の多面的な能力や組織への貢献度を総合的に判断できるようになります。
業績数値だけに頼らず、各部署や職位で求められるコンピテンシーを評価基準に織り込むことで、会社の目指す方向性に沿った人材育成が可能になるでしょう。
従業員のモチベーション向上につながる
従業員にとって、定性評価は自分の仕事ぶりや会社への貢献が適切に評価される実感を与えてくれます。数字だけでは表せない努力や工夫が認められることで、仕事へのやりがいや満足度が高まります。
会社と従業員との信頼関係が強固になり、円滑なコミュニケーションと協力体制の構築が期待できるでしょう。
加えて、モチベーションの高い従業員は自律的に能力開発に取り組むため、人材育成の効果も高まります。結果として、組織の生産性向上と人材の定着率アップに寄与し、会社の発展に貢献可能です。
ただし、このようなメリットを実感するには、評価制度の適切な設計と運用が重要です。
- 評価基準の明確化
- 評価者の教育
- フィードバックの徹底
上記のように、従業員の納得感と信頼感を得られる仕組みづくりが求められます。
定性評価を効果的に活用することで、従業員一人ひとりのモチベーションを引き出し、組織全体の活性化を図れるでしょう。
定性評価のデメリット
定性評価のデメリットは、以下のとおりです。
- 評価の判断基準が難しい
- 従業員から不満が生まれやすくなる
それでは、詳しく見ていきましょう。
評価の判断基準が難しい
定性評価は、数値化できない要素を評価するため、評価基準が明確化しにくく、評価者の主観に左右されやすいデメリットがあります。
例えば、「コミュニケーション能力が高い」「責任感が強い」の評価項目は、人によってとらえ方が異なり、具体的な行動に落とし込みにくい難点があります。
そのため、評価者によって評価基準がぶれやすく、公平性を保つことが難しい場合があるでしょう。
評価基準があいまいなため、評価者の経験や価値観、好き嫌いが評価に反映されやすくなります。
また評価基準が不明確だと、具体的な改善策を提示できず、従業員の成長を促す効果的なフィードバックが行えない場合があります。
従業員から不満が生まれやすくなる
評価基準があいまいで、評価者の主観に左右されやすい定性評価は、従業員にとって不透明で納得しにくいものになりがちです。
例えば以下のような不満を生み出しやすくなります。
- 不公平感: 評価基準が明確でないため、なぜその評価になったのか理解しにくい。他の従業員との評価の差を説明しづらいため、不公平感を抱きやすい
- モチベーションの低下: 評価基準があいまいだと、努力が正当に評価されているのか不安になり、モチベーションの低下につながる
不信感: 評価に対する不信感は、上司や会社に対する不信感につながる
上記のデメリットを軽減するためには、定性評価する際の評価基準をできる限り明確化し、具体的な行動レベルに落とし込むことが重要です。
また、評価者向けの研修などを実施し、評価基準の理解を深めるとともに、評価における主観の排除に努める必要があります。
定性評価と定量評価を組み合わせることが大切
人事評価では定性評価と定量評価をうまく組み合わせることが大切です。なぜなら、それぞれ評価する対象がまったく異なるためです。
もし人事評価で「定性評価」だけを用いた場合、顧客獲得件数や目標達成率などは評価の対象外となってしまいます。
逆に「定量評価」だけを用いた場合は、業務に積極的に臨む姿勢はもちろん、営業活動を円滑に進めるためのフォロー業務なども、評価の対象から外れてしまいます。
このように、いずれか一方の評価だけを用いると、評価しきれない成果や要素が出てきてしまいます。そうすると、本来評価されるべき行いや成果を見逃すことになりかねません。
それは従業員のモチベーション低下や不信感につながるだけでなく、企業としても給与の割り振りや、昇給、賞与を考える際に影響がでてしまいます。
そのため、公正な人事評価をするためには、定性評価と定量評価の両方を取り入れることが好ましいでしょう。
定性評価における観点や具体例
定性評価を用いるにあたり、まず「どのような行いや成果を評価するのか」という評価対象を決めることがとても重要です。ここでは、どのような観点で決めることが望ましいのかと、評価対象の具体例をお伝えします。
- 評価対象を決めるための観点
- 評価対象の具体例
- 定性評価の導入事例
具体例を知ることで、定性評価をイメージしやすくなるはずです。
評価対象を決めるための観点
評価対象を定めるときには、下記のような観点を踏まえることが一般的です。
<スピード力>
- 任せた業務の対応は素早いか
- 報連相は適切な早さで行なわれているか
<規律性>
- 勤怠状況が良好であるか
- 身だしなみや振る舞いに問題はないか
<協調性>
- 従業員同士で協力しあっているか
- 必要に応じて社外の人間とも協力できているか
<積極性>
- 業務に主体性を持って取り組んでいるか
- 苦手な業務にも前向きに臨んでいるか
<責任感>
- 業務の期日を守れているか
- 任された業務は必ず遂行しているか
<創意工夫力>
- 業務を進める中で工夫をしているか
- 新しい改善案などの提案ができているか
<知性>
- 自社サービスの知識を持ち合わせているか
- 顧客や業種における知識を身に付けているか
評価対象の具体例
お伝えした観点を踏まえて評価の対象を定めると、例えば下記のような従業員の行いや成果が評価対象となります。
■目標達成に向け、積極的に営業ノウハウを部下に教えている
■採用活動において面接後の一連の流れを担当している
■明るいコミュニケーションで社内の情報共有の強化を図っている
■頼まれた仕事にはすぐに取り組み、誰よりも早く完成させている
■顧客からのクレームが発生したときは、いつも対応を任されている
数値ではその成果を表せないものばかりですが、いずれも時間や精神を相応に費やすものとなります。こういった従業員の頑張りを見逃さないためにも、定性評価により数値で見えない部分を評価することは、とても重要なのです。
定性評価の導入事例
定性評価は、数値で表せない要素を評価する手法であり、従業員のモチベーションや協調性、創意工夫などを評価する際に用いられます。以下に、定性評価の導入事例を紹介します。
- 株式会社メルカリ
- 評価制度:OKR(Objectives and Key Results)、バリュー評価、ピアボーナスを導入
- 目的:従業員の成長志向を促進し、組織全体のパフォーマンスを向上させるため
- 結果:従業員のモチベーションが向上し、組織全体の目標達成率が上昇
- 株式会社ディー・エヌ・エー
- 評価制度:成長志向を重視した360度評価を導入
- 目的:多面的な視点から従業員の能力を評価し、公正な評価を実現するため
- 結果:従業員の自己認識が深まり、スキルアップにつながった
- 株式会社日比谷花壇
- 評価制度:タレントマネジメントシステム「HRBrain」を導入し、定性評価を実施
- 目的:従業員の潜在能力を引き出し、組織の活性化を図るため
- 結果:従業員のエンゲージメントが向上し、離職率が低下
定性評価は、数値では表せない従業員の貢献や能力を評価するための重要な手法です。導入事例からもわかるように、適切な運用で従業員のモチベーション向上や組織の活性化につながります。
定性評価方法とは
定性評価は数値で見えないものを評価するため、評価対象である行いや成果を点数化する必要があります。それにあたり「どのような目標に対して」「どのような基準で評価するか」も、あらかじめ決めておかなくてはいけません。ここでは、その目標や基準、点数について一例を紹介します。
- 定性評価のための目標設定
- 定性評価の基準・点数
方法を知り、適切な評価方法を学びましょう。
定性評価のための目標設定
定性評価では、評価期間を定め、目標を設定する必要があります。どのような成果や行いを評価対象となるのか、明確にするためです。なお、目標を設定する流れは下記の2手順となります。
手順1:組織目標と職位目標の設定
手順2:必達レベルと努力レベルの設定
<手順1について>
最初に一定期間の組織目標と職位目標をそれぞれ設定しましょう。例えば下記のように「会社組織として今後達成したい目標」「それに関する役職に合わせた従業員個人の目標」を挙げてください。
(例)
組織目標:新入社員が安心して独り立ちできる体制を目指す
職位目標:部長として社内の教育研修制度を整える
<手順2について>
設定した目標に対して、必ず達成したいと思っている「必達レベル」と、ここまで達成できたらなおよいという「努力レベル」を設定します。あくまで一例ですが、下記のように設定できます。
(例)
必達レベル:教育に必要な研修項目を作り、マニュアルを用意する
努力レベル:教育を実際に担当する従業員にその内容を浸透させる
このような目標設定について、「あしたのクラウド®HR」を用いればクラウド上で柔軟にカスタマイズすることが可能です。
評価の分析や可視化もボタン一つで行うことができ、フィードバックすべき内容の把握もしやすくなっています。人事評価の業務を効率化・公正化するにあたり、大変便利なシステムなのでおすすめです。
定性評価の基準・点数
目標設定の次に、評価基準と点数を設定しましょう。これらを設定しないと、評価者の主観が評価結果に影響してしまいがちです。そのため、必ず基準と点数を決めておくことが必要です。例えば下記のように定めましょう。
(例)目標達成に対する評価基準
- 必達レベル未達⇒1点
- 必達レベル到達で努力レベル未達⇒2点
- 必達レベル到達かつ努力レベル到達⇒3点
※点数は高い評価になるにつれて高くなるように設定してください。
※必ずしも3段階の基準で評価である必要はありません。適宜5段階にするなど、適切な基準を設けることが重要となります。
定性評価ではこの点数を用いて評価を行ないます。定めていた期間が終了した時点で、必達レベルや努力レベルに達しているかを確認し、点数をチェックするようにしましょう。
また、評価基準は1つだけではなく、会社にとって必要なものを複数用意することが望ましいです。例えば、「積極性」「協調性」を評価対象に含みたい場合、それぞれ次のような評価基準を設けるとよいでしょう。
(例1)目標達成に向けた積極性における評価基準
- 進捗を指摘されてようやく取り組んだ⇒1点
- 指摘を受けずとも自ら取り組んでいた⇒2点
- 指摘を受けずとも取り組み、新しい提案や施策まで用意した⇒3点
(例2)目標達成に向けた協調性における評価基準
- 目標に対し1人だけの考えや判断で取り組んだ⇒1点
- 実際に教育を担当する従業員と相談しつつ取り組んだ⇒2点
- 教育担当者だけでなく新入社員など、他の従業員にも話を聞きながら取り組んだ⇒3点
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定性評価の注意点や課題
定性評価を導入する際には、いくつかの注意点や課題があります。評価の主観性やあいまいさが懸念されるため、評価基準の明確化と評価者の教育が不可欠です。
上記の課題に対処するために、以下のような取り組みが効果的です。
- 多面(360度)評価を導入して客観性を高める
- 評価者を研修し人事評価の精度を高める
それでは、詳しく見ていきます。
多面(360度)評価を導入して客観性を高める
多面評価(360度評価)は、上司だけでなく、同僚や部下、さらには顧客からのフィードバックを評価に取り入れる手法です。多様な視点から従業員の行動や成果を評価することで、評価の客観性を高められます。
例えば、リーダーシップやコミュニケーション能力など、日常の仕事ぶりを観察している同僚や部下の意見は、上司の評価を補完する重要な情報源です。
また、顧客満足度や社外との協働における貢献度など、社外からの評価を取り入れることで、より広い視野で従業員の価値をとらえられるでしょう。
多面評価を導入する際は、評価項目の設定や評価者の選定に注意が必要です。評価の目的に沿った項目を選び、適切な評価者を任命することが重要です。
また、評価者に対する十分な説明と教育を行い、評価基準の理解と公正な評価の実践を徹底する必要があります。
評価者を研修し人事評価の精度を高める
定性評価の精度を高めるには、評価者の能力向上が欠かせません。評価者を対象とした研修を実施し、評価スキルの向上を図ることが重要です。
研修では、評価基準の理解や評価方法の習得に加えて、評価の公平性や客観性の重要性を浸透させることが求められます。
また、評価面談のロールプレイングなどを通じて、適切なフィードバックの方法や部下とのコミュニケーション技術を身につけさせることも効果的です。
さらに、評価者間の評価のバラつきを防ぐために、評価結果の分析やモニタリングを行うことも大切です。各評価者の評価傾向を把握し、必要に応じて追加の教育や指導を行うことで、評価の精度と公平性の維持ができます。
定性評価の課題を克服し、その効果を最大限に引き出すためには、多面的な評価の導入と評価者の能力開発が鍵となります。これらの取り組みを通じて、従業員の納得感と満足度の高い人事評価制度を構築していくことが求められています。
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定性評価は数値で見えないものを評価するため、評価対象を決め、基準に沿って点数化する必要があります。
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