カンパニー制とは?過去の失敗例にとらわれず、新たに挑戦する企業も

1994年、ソニーが赤字転落から業績改善の目的で取り入れたカンパニー制。

実際に、大幅な業績改善に成功したため、当時日本で注目が集まった組織制度です。現在、多様化する顧客ニーズに対応することができる点をはじめ、多くのメリットを会社にもたらすため、再度注目を集めています。

では、実際カンパニー制とはどのような組織制度なのでしょうか。メリットやデメリット、成功事例などを合わせて紹介します。

カンパニー制とは

カンパニー制とは、企業の中で特定の事業分野を独立した会社のように位置づけ、大幅な権限委譲を行い、事業自体がひとつの会社であるかのように独立性を高めた状態で組織することです。

それぞれの執行役員を配置し、人事・予算・投資などの権限を付与、損益計算書・貸借対照表なども各事業部で行い、会計上も独立した状態であることが特徴です。

似たような特徴として持ち株会社があります。持ち株会社とは、一般的にホールディングスと呼ばれる会社が該当します。

投資権・人事権・意思決定といった権限も持ち、株式を有することで傘下となっている企業を支配する形態を持っています。

カンパニー制と持ち株制は同じ権限を持ち、形式が似ていますが、カンパニー制は同じ企業内での枠組みであり、法的にも同じ企業として位置づけられるのに対し、持ち株会社は、別会社となり法的にも扱いが異なります

カンパニー制は、1997年の独占禁止法の改正による持ち株会社の解禁もきっかけとなり導入する企業が増え、ブーム化した時期がありました。しかし、結局経営が混乱した企業が後を絶たず、ほとんどが取りやめるという事態に陥ったのです。

カンパニー制と事業部制の違いとは

もうひとつ、カンパニー制と似た組織編成として事業部制があります。

製品やサービスごとに分けられ、事業運営に必要な権限を持ち、それぞれの事業内独自で運用をおこなっていくスタイルの事業部制と、カンパニー制ではどこに違いがあるのでしょうか。

その違いは、保有する権限の違いが挙げられます。

事業部制では、利益向上を目指し予算策定や業績管理などは行いますが、人事や経営判断は本部がするというのが一般的です。

カンパニー制は、事業部を1つの会社として独立させているため、人事や経営判断も事業部で行い実質的な経営をおこなっています。

例えば、外国企業との事業などで重要な決定を海外で行う際に、事業部制の場合は一旦持ち帰って取締役会などでの決議が必要となりますが、カンパニー制の場合、その場で即決することができスピーディに事業を進めることができます。

利益向上を目指しているにも関わらず、経営権限を持たず、責任ばかりを担う羽目になる事業部制の矛盾を解消できるカンパニー制が注目されている大きな理由のひとつです。

カンパニー制のメリット・デメリット

約20年前のカンパニー制ブームが到来した頃、多くの企業ではカンパニー制にメリット・魅力を感じ、次々と導入に踏み込みました。

しかし、デメリット部分を解消できず失敗に終わってしまった企業が多かったのです。失敗をしないためには、必ずデメリットも把握しておきましょう。

メリット1:意思決定の迅速化

カンパニー制のメリットのひとつが、意識決定の迅速化が可能になることが挙げられます。

人事権や、経営に関わる裁量権も持ち合わせているため、柔軟な組織編成や日々変化していく市場、顧客ニーズに対してスピーディに対応でき、結果として利益向上が期待できます。

また、カンパニー制の大原則として本社はカンパニーの業務に口を挟むことはありません。本社のマネジメントを必要最小限に抑えることがカンパニー制に重要なこととされているのです。

そのぶん、カンパニー制は限りなく独立企業として運用に力を入れていくことができ、その分スピーディに事業を展開することができます。

メリット2:利益の明確化

カンパニー制では、各カンパニーで利益が明確に数値化できるため、透明性を高められる利点もあります。

事業部制では、利益責任はとわれるものの、投資に対しての利益や、本社で負担している見えざる費用について細かく算出していない場合が多いのが実情です。

そのせいで、自分たちがどの程度利益をあげているかなど、明確化しづらいといった問題が生じるのです。

しかしカンパニー制では、どれだけの利益をあげたかなど、明確に算出でき、事業部の評価などつけやすくなるというメリットがあります。

メリット3:次世代経営者の育成に寄与

次世代経営者の育成にもカンパニー制は一役買っています。実際に経営に関わる裁量を与えられ、大きいなお金を動かしていきます。

同じ事業部のトップである事業部長のキャリアでは、本社管理のもと事業部を動かす立場であるため、会社全体の経営の疑似体験とは言えないのです。

一方、カンパニー制であれば、法律上は独立した会社ではありませんが、事業責任者は会社経営と同じような舵取りを行う必要があるため、経営者として必要な資質が養われます。

デメリット1:カンパニー間の連携が取れなくなる

与えられた責任と権限のもと、独自で成長発展を目指すカンパニー制。

その大きな問題のひとつとして、自分たち以外のカンパニーや事業に興味を持たなくなり、連携が取れなくなるという問題が生じやすいことが挙げられます。

自分たちのカンパニーの発展に注力することで事業単体としては成果が出やすい反面、単体として断絶しやすく情報共有が不足しがちになる側面があります。

その結果、全社企業運営の視点を欠き各カンパニー単体での利益ばかりに目が行ってしまい、本来の目標である全社総合的に利益を上げることが阻害される可能性もあるのです。

デメリット2:不正や隠蔽リスクが伴う

各カンパニーに意思決定権が与えられ柔軟な決定ができるようになる一方で、不正・隠ぺいのリスクが高まるというデメリットもあります。

事業部制など本社からの監視体制が厳重である場合に比べると、カンパニー制の場合どうしても不都合なことは隠蔽するなどのリスクが出てきてしまいます。

本社の目が届かなくなってきてしまうことは、カンパニー制の重大な弱点です。社外取締役や監査役を配置し、本社が監視できる仕組みや体制を作っておくことが大切です。

デメリット3:経費の増大

カンパニー制では、本社で一元管理していたことがカンパニー毎の管理に移行されるため、人事・経理・総務などの機能も、カンパニーで設けなくてはなりません。

また、損益計算書・貸借対照表など作成も必要となり、業務も複雑化しているため、組織としてある程度の人数を配置しなければなりません。

そのため、人件費の面でいうと、事業部制に比べ、経費がかるというデメリットがあります。

現在では、人事・経理・総務機能をアウトソーシングするカンパニーも増えています。アウトソースをしたとしても費用はかかりますので、コスト面では注意が必要と言えます。

カンパニー制の導入事例

スピーディに意思決定が進むことで事業の成果を生みやすいと言われるカンパニー制ですが、実際に近年、導入に踏み切る企業も増えています。

ここでは、トヨタとシャープが導入したカンパニー制の事例を見てみましょう。

カンパニー制の企業例:トヨタ

トヨタ自動車では、「もっといいクルマづくり」と「人材育成」の促進のため、2016年に製品軸のカンパニー制の導入を実施しました。

2011年からトヨタ自動車では、地域に根付いた「もっといいクルマづくり」や「人材開発」に取り組んできましたが、仕事の進め方は従来の延長的なもので、効率面などの点で懸念されている部分が多くありました、

そこで、製品群ごとに7つのカンパニー体制へ移行し、製造から開発まで一体となった「もっといいクルマづくり」、「人材開発」の実践に踏み切りました。

各カンパニーにプレジデントを配置、権限と責任を与え企画から生産まで一貫したオペレーションを実施していき意思決定の迅速化と完結化、将来を見据えた中長期ビジョン・経営戦略策定機能の強化を目的とした施策となっています。

カンパニー制の企業例:シャープ

シャープは、業績悪化を受け、製品軸とした5つのカンパニーを設置したカンパニー制を導入しました。目的としては、組織の簡素化と意思決定を迅速に行うことで、責任や権限を明確にし、収益改善を狙いとしています。

もともと、「変化への対応力の弱さ」、「成長事業の立ち上げ遅れ」、「コスト競争力の低下」、「ガバナンス・経営管理能力の不足」を課題としていたシャープ。これを機に、大きな組織変化に踏み込んだのです。

27あった事業部を5つのカンパニーと、12の本部に減らし、「副」のついた管理ポストも約600減らすという人員削減や本社スリム化、本社売却、給与削減などを行い収益改善も同時に行いました。

それぞれのカンパニーで中長期的な経営戦略を立て、組織も簡素化することで、スピード感をあげる施策と言えます。

カンパニー制のメリットを優先して導入するのもアリ

業績改善や業務改善など様々なメリットをもたらすカンパニー制。

導入していくには、プロジェクトや事業部をカンパニー制に移行するために、従来の組織改変とは違い大きな改革を必要とします。

しかし、そこから得られるメリットは非常に大きいものがあるのがカンパニー制の魅力と言えるではないでしょうか。想定されるデメリットをしっかりと把握し、導入に踏み切るのも良いかもしれません。

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