クオータ制とは?効果やデメリット、両立支援等助成金を解説

クオータ制とは、あるポストや役職において、特定の属性を持つ者に一定の比率を割り当てる仕組みです。

先進諸国の中でも日本は女性の社会進出が進んでいないという問題がありますが、性別や人種、民族などに問わずさまざまな人材が活躍できる環境を整えることは、多様性という観点からも重要度を増しつつあります。

今回は、クオータ制の概要や現状、事業者が活用できる制度を紹介しましょう。

クオータ制とは?

クオータ制とは、政治・行政や企業といった社会的組織・団体において、特定の属性を持つ者に一定比率を割り当てる制度です。

具体的には、国会・地方議員や閣僚、企業・団体の役職、専門性が高い職業などが対象とされています。属性とは、人種、民族、宗教、性別などが代表的な例です。

クオータ制は、重要なポストについて特定の属性の者が実質的に優遇されている状況を背景に、少数派の不利益を是正する目的で制度化されたものです。

発祥地である北欧ノルウェーでは、1978年に男女平等法を制定し、公的機関における職員の男女比率を明記しました。その後、世界中に普及し始め、現在では100を超える国・地域で導入されており、政治、行政、企業、その他さまざまな団体で用いられています。

クオータ制の効果やメリット

クオータ制は、多様な人材の社会進出を後押しし、人材を多様化する効果があります。日本国内においては国会議員や地方議員に占める女性の割合が低く、その状況は企業の重要ポストにおいても同様です。

この背景には、女性には出産があり育児・家事の役割の多くを担う場合があるので社会進出の制約がある一方、男性は出産もなく女性と比べて育児・家事負担が少ないケースが多いため社会進出がしやすいということが挙げられます。これは不公平感に繋がる他、重要ポストでの多様性を損なう原因になってきました。

しかし、クオータ制によって女性に一定比率を割り当てるようにすれば、そういった不公平感の解消にも役立ち、価値観の多様性も生まれます。また、多様な人材が活躍できる環境を整備していれば、労働人口が減少して必要な人材が不足した場合の備えにもなります。

クオータ制のデメリット

クオータ制には、いくつかデメリットもあります。

1つ目は、逆差別です。クオータ制は原則として性別などの属性によってポストの比率を定めますが、これは差別や格差の解消に役立つ一方、やりすぎると既存の多数派が不利になるケースも生じかねません。

2つ目は、運用の問題です。例えば、重要ポストの女性比率を増やした場合、その女性が出産・育児休暇を取得した際、代替要員を手配しなければならなくなる可能性もあります。

また、育児休暇に伴って会社独自の休暇補償を支払う場合は会社側の費用負担が増えてしまうでしょう。さらに、休暇明けの人物が、ブランクなどを理由にキャリアダウンしてしまうケースも考えられ、対策が求められます。

日本のクオータ制の現状

現状、日本においてはクオータ制が法制度化されていません。

先述の通り、クオータ制はノルウェーで始まり、その後OECD(経済開発協力機構)の加盟国など多くの国で法制度化・導入されてきました。しかし、OECD加盟国のうち2019年時点でも採用していないのは日本、アメリカ、ニュージーランド、トルコの4ヶ国だけです。

また、クオータ制に限らず、日本では重要なポストにおける女性登用の割合が低いままだという現状があります。「男女共同参画白書」(令和元年版)によると、2019年1月時点で、国会議員に占める女性の割合は衆議院10.2%、参議院20.7%でした。

民間企業の役職については、2018年時点では係長級18.3%、課長級11.2%、部長級6.6%という結果です。男女格差を示す「ジェンダー・ギャップ指数」は、2018年時点で149ヶ国中110位という結果でした。

ただし、女性の活躍に向けた取り組みは着実に行われており、2007年2月の男女共同参画会議においては、「指導的地位」(「議会議員」、「法人・団体等における課長相当職以上の者」、「専門的・技術的な職業のうち特に専門性が高い職業に従事する者」の3つ)の女性比率を2020年までに30%に伸ばすという目標が定められ、達成した分野もあるのです。

海外のクオータ制

クオータ制について理解を深めるためには、海外の事例を知ることが効果的です。ここでは、発祥である北欧2ヶ国について紹介します。

ノルウェーが1993年に導入したのは、パパ・クオータ制度です。これは、育休の一定期間を父親に割り当てるもので、最長で54週間取得できる育休期間のうち6週間は父親のみが取得できるようになっています。なお、父親が育休を取得しない場合には権利が消滅してしまうのが特徴です。

スウェーデンは、1995年にパパ・ママ・クオータ制度を導入しました。これは、父親と母親のそれぞれに240日ずつ、つまり両親合わせて480日間の両親手当の受給権を付与するものです。最大の特徴は、180日分の権利を他方に譲渡できる一方で60日分は譲渡ができず本人が権利を行使しなければ消滅してしまうようになっており、父母ともに受給を促すような工夫がされています。

両立支援等助成金

日本には、両立支援等助成金という制度があり、従業員が働きながら育児・介護などとの両立ができるように事業主が制度を整備する場合や、女性が活躍しやすい環境を整える場合に、事業者が金銭的な支援を受給できる仕組みです。

両立支援等助成金を受給するための要件としては、雇用保険適用事業所の事業主であること、支給のための審査に協力すること、申請期間内に申請することなどが定められています。

なお、不正受給をした事業主で一定期間が経っていない場合や、不正受給に関与した経験のある人物が役員を務めている事業主、労働関係法令の違反などがあった場合などは申請ができません。

両立支援等助成金は、経営者や人事・総務担当者が従業員の働きやすい環境を整備する際に利用しておくと良い制度です。

同制度は出生や介護、育児、女性活躍などのテーマで全6コースがあり、どのような使い方ができるのか知っておく必要があります。

ここではそれぞれ順番に解説しましょう。なお、以下で紹介する助成金額は標準額であり、生産要件を満たしている場合は増額されることがあります。

1.出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)

出生時両立支援コースとは、別名「子育てパパ支援助成金」とも呼ばれており、男性の育児休業取得を推進するための制度です。

事業主が、男性従業員が育児休業を取得しやすい職場風土作りを行い、対象の従業員に対して育児休業取得前に個別面談といった育児休業の取得を後押しする具体的な対応をした場合に指定の金額が助成されます。

支給額は1人目の育児休業であれば中小企業で10万円、大企業で5万円です。

2.介護離職防止支援コース

介護離職防止支援コースとは、事業者側が従業員の介護離職を防止するための措置をとり仕事との両立を促進するための制度です。

助成を受けるには、事業主が、労働協約または就業規則に介護休業関係制度を規定し、育児・介護休業法に沿った制度を導入することが求められます。

また、介護休業の取得や職場復帰、介護休業関係制度の利用について介護支援プランにより支援することを事前に取り決め、従業員へ周知することも必要です。

支給額は介護休業の取得時や職場復帰時に28.5万円、介護両立支援制度の場合も同額が支払われます。

3.育児休業等支援コース

育児休業等支援コースとは、従業員が育児休業を取得しやすく、安心して職場復帰できるような環境整備を推進するための制度です。

助成金を受ける要件は、従業員の育児休業の取得や職場復帰について事前に定めて周知することや、上司または人事労務担当者が該当の従業員と面談を実施したり記録したりすることなどが挙げられます。支給額は、育休取得時と職場復帰時に28.5万円、職場支援加算額として19万円です。

4.再雇用者評価処遇コース

再雇用者評価処遇コースとは、カムバック支援助成金とも呼ばれ、育児・介護等を理由とした退職者の職場復帰支援や、企業の生産性向上に繋がる再雇用の支援を目的とした制度です。

助成金を受ける要件は、再雇用制度を労働協約または就業規則に規定していること、実際に対象の従業員を採用していること、育児休業などの制度を規定していることなどが挙げられます。1人目を再雇用した場合の支給額は、中小企業で38万円、それ以外の事業者は28.5万円です。

5.女性活躍加速化コース

女性活躍加速化コースとは女性の活躍を推進するための制度です。

助成金を受ける要件は、課題解決に繋がる数値目標と行動計画の策定・公表、策定届の提出、女性活躍の状況の公表をした上で、取り組みを実施し、その結果3年以内に数値目標を達成して達成状況を公表することとされています。助成額は47.5万円です。

6.事業所内保育施設コース

事業所内保育施設コースは、子どもを持つ従業員を雇用する事業主が事業所内保育施設を整備し、従業員が安心して働ける環境作りを推進するための制度です。

助成金を受ける要件は、事業所内保育施設の設置、運営、増築または建て替えなどを実施することとされています。支給額は整備内容によって異なりますが、例えば設置費用については最大1500万円、中小企業の場合は2300万円です。

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