社員を出向させる際には、辞令による通知だけではなく、出向契約書を交わす必要があります。トラブルを避けるためにも出向契約書は正しい方法で漏れなく記載しましょう。
今回は、出向の意味や種類、出向契約書の正しい記載方法について解説していきます。
出向契約書とは
出向契約書とは、社員を出向させる際に必要な書類のひとつです。
出向契約書について知る前に、まずは出向の意味を確認していきましょう。出向とは、「企業が社員との雇用契約を維持した状態で、社員を関連会社や子会社に異動させ、就労させる業務命令」のことをさします。
社員を出向させる際、就業規則や給与は出向元企業にあり、業務上の命令権は出向先の企業にあることが一般的です。
社員を他社に出向させる際には、辞令だけではなく本人と契約を交わさなければいけません。
なぜなら、日本では出向に関する法律などは整備されておらず、事前に出向先の就業規則や出向規定を双方の合意のもとで手続きしていく必要があるのです。
出向の種類
出向は、在籍出向と移籍出向の2種類に分けられます。在籍出向と移籍出向は、法律的な意味や指揮命令権に違いがあります。では、具体的にどのように異なるのかを見ていきましょう。
在籍出向
在籍出向は、法律的な意味での出向を指します。菅野和夫著「労働法(第8版)」では、『労働者が自己の雇用先の企業に在籍のまま、他の企業の事業所において相当長期間にわたって当該他の企業の業務に従事すること』と定義されています。
在籍出向は、出向元の企業に在籍したまま出向先の企業で働きます。社員としての籍は出向元に残りますが、指揮命令権、賃金支払い義務は出向先に移ります。
また、就業規則の適用は、出向元企業と出向先企業の取り決めによってそれぞれ決められます。例えば、労働時間や休日といった実務面の事項は出向先の就業規則を適用し、解雇や対象に関する事項は出向元の就業規則を適用することが一般的です。
転籍出向
転籍出向は、法律的な意味での転籍を指します。出向元との雇用契約を終了し、出向先の企業であらたに企業契約を結ぶため、就業規則や指揮命令権は全て出向先の企業にあります。
「出向」という名前がついていますが、社員にとって実質的には出向元を解雇されることと同様です。一部の企業では、従業員に納得して退職してもらうために、解雇ではなく「転籍出向」という言葉を使用しているケースもあります。
そのため、 転籍出向を行う企業は、労働者に対して、労働者個人が個別の出向に関する内容に同意する個別的同意が求められます。
転籍を行う際、社員には下記の3通を交わさなければいけません。
- 転籍協定書(退職・再雇用型)(労働契約譲渡型)
- 転籍辞令
- 転籍合意書
なお、以下のような場合には出向命令が権利の濫用にあたるとして、転籍命令が無効になる場合もあるため注意しましょう。
- 業務上の必要性を欠く場合
- 人選の合理性を欠く場合
- 家庭の事情によって、著しい生活上の不利益を受ける場合
- 勤務形態の著しい低下が考えられる場合
- 出向先の職種が大きく異なる場合
- 出向元の企業への復帰が予定されていない場合
- 出向手続きに違反がある場合
出向に関する契約書、書類
社員を出向させるためには、契約書をかわさなければいけません。具体的には、出向契約書・出向辞令・出向通知書が必要です。それぞれの内容や記載事項について見ていきましょう。
出向契約書
出向契約書では、社員の出向を承諾する条項が記載されます。具体的には、出向期間や短縮・延長に取り決め、出向期間中の出向元会社での扱いなどを明記します。
そのほか、給与や社会保険、労災保険、交通費などの取り決めなども細かく明記した上で、企業と社員間で合意がなされたことがわかるように署名欄も設けておきましょう。転籍出向の場合には就業規則では社員本人の同意は必要ありません。ただし、トラブルを未然に防ぐためにもきちんと交わしておく必要があります。
出向辞令
出向辞令では、当該社員を出向にすることを明記します。
その際、「就業規則●条により」という文言を入れて出向させる根拠を記載しなければいけません。また、出向開始日から終了日までの期間、出向年月日、会社名も記載しましょう。
出向通知書
出向通知書では、出向先の労働条件を具体的に明記します。具体的には下記の事項を記載しましょう。
出向先 | 名称 |
代表者 | |
所在地 | |
事業内容 | |
資本金 | |
従業員数 | |
出向先での所属 | 所属部署 |
担当業務 | |
労働条件 | 出向期間 |
労働時間 | |
休日 | |
有給休暇、特別休暇 | |
給与 | |
賞与 | |
社会保険、雇用保険 | |
労災保険 | |
福利厚生 | |
特記事項 |
また、出向通知書には当該社員の名前と、出向元の企業名、代表者名も明記します。
出向契約書の正しい書き方
出向は社員とのトラブルを未然に防ぐために、必要事項は漏れなく記載しなければいけません。
出向契約書にはそのような事項を盛り込むのか、厚生労働省の参考様式をもとに記載例を具体的に確認していきましょう。
当事者
まず、出向元の企業と出向先の企業名、住所を記載し、出向する社員名を記載し、当事者を明確にしましょう。具体的には以下のように記載します。
本契約における当事者は以下の通り。
甲〇〇〇〇(出向元企業名)住所
乙〇〇〇〇(出向先企業名)住所
甲より乙に出向させる出向者(以下「丙」)
〇〇〇〇(出向者名)
服務
服務では、出向期間中に当事者が従事する内容を記載します。出向元企業、出向先企業、当該社員それぞれが行うべき事項を明記しましょう。具体的には以下のように記載します。
1.出向期間中、丙は甲の社員として在籍しながら、乙の就業規則に従い業務に従事する。
2.乙は丙の勤務状態を記録し、当月実績を〇〇日までに甲に対して所定の様式で提出する。
出向期間
当該社員の出向期間を明記します。また、短縮、延長に関しても記載しておきましょう。具体的には以下のように記載します。
出向期間は以下の通りとする。
開始日令和〇年〇月〇日
終了日令和〇年〇月〇日
上記の期間にかかわらず、出向期間は甲と乙の協議の上変更することができる。
給与・賞与
出向期間の給与や賞与に関する記載を行います。在籍出向の場合、出向元企業に支払い義務があるため、その内容を記載しましょう。
出向期間中の兵に対する給与および賞与は、甲の給与規定に基づき、甲が兵に支給する。
社会保険・労務保険
社会保険や労災保険、また通勤費などの諸費用に関する記載を行います。基本的に、社会保険に関しては出向元企業に。労災保険に関しては出向先企業に加入義務があるため、その内容に明記しましょう。
1.丙の健康保険、厚生年金保険、介護保険および雇用保険は甲に置いて資格を継続する。
2.労働者火災補償保険は、乙の負担で加入する。万が一丙が業務上被災した場合については、甲がその責を負うこととする。ただし、労災保険の基礎は甲が丙に支給する金額とする。
3.通勤費、交通費および諸経費は、乙の規定に基づいて直接乙が丙に支給する。なお、その他現物支給に関しては乙の支給の都度明細を甲に通知する。
出向料
出向料に関する記載を行います。また、1ヶ月未満の出向料に関しても明記しましょう。具体的には以下の通りです。
1.出向料は1ヶ月当たり〇〇〇〇〇〇円とする。ただし、1ヶ月未満の出向料に関しては日割りで計算を行う。
2.乙は甲に対し、当月分出向料を当月末日までに甲の指定する銀行口座に振り込むものとする。
【預金口座名】〇〇〇銀行本店営業部
当座〇〇〇
株式会社〇〇〇
協議事項
協議事項に関しての記載では、甲と乙の記名を行います。具体的には、以下のように記載しましょう。
本契約締結の証として本書2通を作成して甲・乙記名捺印の上各自1通保有する。
平成〇〇年〇〇月〇〇日
甲〇〇県〇〇市〇〇丁目〇〇番〇〇号〇〇
〇〇株式会社
代表取締役社長〇〇〇〇 印
乙〇〇県〇〇市〇〇丁目〇〇番〇〇号〇〇
〇〇株式会社
代表取締役〇〇〇〇 印
双方の押印
出向契約書では、双方の押印がなければ有効となりません。上記のように、双方の押印を行いましょう。
印紙
契約書では印紙が必要な場合がありますが、出向契約書の場合には必要ありません。印紙は課税対象となる契約書である限り必要です。出向契約書の場合には金額の定めが記載されていても、印紙税は非課税です。
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