あらゆる業界の企業から、急速に注目を集めているクロスアポイントメント。
クロスアポイントメント制度の活用が広がることで、民間企業の再興やイノベーションに繋がるとされています。ただ、実際に上手く取り入れられている企業はまだまだ少ないのが現状です。
この記事では、人事担当者などクロスアポイントメントに関する知識を深めたい方に向けて、用語解説や制度の仕組み、企業にとってのメリットなどを解説しています。クロスアポイントメントの導入事例もわかるので、今後の企業経営にも役立てることができます。
クロスアポイントメントとは?
文科省によると、「クロスアポイントメント」とは研究者などが大学・公的研究機関・民間企業といった組織と雇用契約関係を結び、各機関の責任の下で業務や研究開発に従事できるようにする制度です。「クロアポ」と略されることもあります。
次世代に繋がるイノベーションの創出は日本企業の課題であり、オープンイノベーションの場となる大学や公的研究機関の重要性が非常に高まってきました。研究者も社会における多様な課題解決に取り組むメンバーとして、各機関と連携していく必要があります。
新たなイノベーションを創出するには、世界トップクラスの研究者をはじめ、卓越したスキルを持つ人材があらゆる組織の壁を越えて活動できなければなりません。クロスアポイントメントを活用すれば、人材の好循環が実現するだけでなく、複数の機関で生まれた技術を橋渡しすることも可能となるでしょう。
クロスアポイントメント制度の仕組み
2015年4月以前は、研究者などが複数の機関をまたいで活動する場合、雇用契約を結ぶ機関と非常勤とする機関に分けるのが一般的でした。
仕組みが一新されたクロスアポイントメント制度は、大学での全仕事時間を100%とした場合、大学と出向先でエフォートを定めます。
エフォートとは、研究者の全仕事時間を100%とした場合、当該研究の実施に必要となる時間の配分率です。エフォートの割合が10対0や0対10になる場合は、クロスアポイントメントではなく通常の「出向」とされます。
クロスアポイントメントにおける給与は、各機関における協定や雇用契約に基づいて、それぞれの機関が負担します。給与や社会保険料の総額が増すケースもあり、エフォート割合が高い機関が給与を一括支給する方が、利便性は高まるとされています。
また、従来の兼業制度を変更して、クロスアポイントメント契約を結ぶケースも増えています。
クロスアポイントメントのメリット
クロスアポイントメントを実施することで得られる、「大学・教員のメリット」と「企業のメリット」を解説していきます。
大学・教員のメリット
教員が企業で研究開発などに携わり、様々な事業や研究開発プロセスを体験することで、知的好奇心が刺激されたり、研究テーマを発見したりする機会が生まれます。教員の研究を進められるだけでなく、大学における研究活動全体の活性化・発展にも繋がります。
さらに、教員が企業での経験を学生にフィードバックすることで、大学などの教育活動が活性化されるでしょう。
企業との連携が強化されるメリットもあります。大学などの機関と企業の研究内容が共有され、人的ネットワークが深まることで、企業との共同研究やプロジェクトの大型化が期待できます。
クロスアポイントメント対象となる人材を起点に、他の教員による企業との連携も生まれ、人材の好循環がもたらされるでしょう。
企業のメリット
クロスアポイントメントによって新たな技術や知見が提供されることで、自社技術が発展したり、先端技術を取り入れたりすることができます。
企業によっては、「研究分野や新規事業分野の幅が狭い」「基盤技術や最先端技術を持つ研究者がいない」といった問題を抱えています。
さらに、これらの課題を解決できる研究者は需要が高いことから採用が難しかったり、フルタイムで働いてもらえなかったりするといったネックがありました。
しかし、クロスアポイントメント制度を活用すれば、自社が持たない分野の研究者に中・長期的に活躍してもらうことが可能です。
大学教員等の人的ネットワークを活用することで、人材育成も実現できます。幅広い研究者や研究機関との橋渡しをしてもらい、双方が有する情報にアクセス・共有する機会を増やせます。
教員を交えた研修やリカレント教育も実施しやすいため、自社の人材育成においても効果を発揮するでしょう。
クロスアポイントメント制度の現状
経済産業省の資料をもとに、クロスアポイントメント制度の現状を解説していきます。
制度の導入機関数
経済産業省の資料によると、クロスアポイントメント導入機関数のデータは以下の通りです。
平成27年度:国立大学等44、公立大学等1、私立大学等9、合計54
平成28年度:国立大学等60、公立大学等5、私立大学等13、合計78
平成29年度:国立大学等70、公立大学等6、私立大学等23、合計99
現状としては、大学研究者のクロスアポイントメント、つまり大学から企業に対する研究人材の循環と流動性は低い数字に留まっています。その理由として「給与が上がらない」など、「大学研究者がクロスアポイントメントを行うためのインセンティブが乏しい」といった課題が指摘されています。
また、研究者の給与を増加させてクロスアポイントメントを行うにあたり、大学や企業側に実務的な事務・調整ノウハウが確立されていない点も課題です。
適用実績
クロスアポイントメント適用実績は以下の通りです。
・平成28年度
他機関から大学等への移動:企業→大学等37人、企業以外→大学等125人
大学等から他機関への移動:大学等→企業0人、大学等→企業以外154人
・平成29年度
他機関から大学等への移動:企業→大学等51人、企業以外→大学等194人
大学等から他機関への移動:大学等→企業7人、大学等→企業以外221人
課題と対策
導入機関数や適用実績が向上しない現状を踏まえて、2019年には経産省に「クロスアポイントメント制度に関する法・契約の検討委員会」が設置されました。
研究者へインセンティブ(給与増加)が与えられたモデルを前提に、クロスアポイントメントを実現するための実務が整理されています。具体的には、エフォート管理、給与、社会保険の取扱い、人事評価の手法などが実務となります。
このような提案を「基本的枠組と留意点」の追記として再構成し、各大学等の実務に反映するための普及啓発も実施予定です。
クロスアポイントメントの導入事例
1.立命館大学とパナソニック
立命館とパナソニックは、2017年度より「産学官連携の高度化」を目的としたクロスアポイントメント制度を導入しました。
具体的には、立命館大学情報理工学部の谷口忠大准教授が立命館に在籍したまま、パナソニックのビジネスイノベーション本部に勤務しています。肩書は客員総括主幹技師、勤務形態はパナソニックへの従事比率が20%とされています。
谷口氏は人工知能(AI)・ロボティクス分野において新規技術に関する知識提供を行い、新規事業の創出や技術戦略の策定、IoT/ロボティクス分野での共創活動などに協力しています。立命館大学や学会関係者を中心としたコミュニティ作りや、研究会活動を通じた人材育成にも注目が集まっています。
2.大阪大学と小松製作所
大阪大学は企業から提供された人材と資金を活用し、学内に「共同研究講座」という研究組織を設置しています。
また、「協働研究所」として企業の研究組織を誘致し、あらゆるシーンでの産学協働活動を展開しています。これまでに、大阪大学と小松製作所は10年以上にわたり産学連携を発展させてきました。
クロスアポイントメントが正式に開始されてからは、工学研究科教授が協働研究所の従業員と共に、20%のエフォートで勤務しています。小松製作所が既存の研究開発ではなく、大学等教員の自由な発想を求めた結果、実施に至った案件です。
あしたのチームのサービス
導入企業4,000社の実績と12年間の運用ノウハウを活かし、他社には真似のできないあらゆる業種の人事評価制度運用における課題にお応えします。
ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。
サービスガイド
ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。
あした式人事評価シート