定量目標とは?設定方法や役割、定性目標との違いを解説

定量目標は、目標の達成度を数値で把握するために設定されますが、人事評価の指標としても活用できます。

人事評価に数値目標を取り入れることで、業務の成果を可視化できると同時に、会社と従業員が同じ方向性を持って成長する指標としても機能します。

定量目標と定性目標それぞれの特徴に触れながら、定量目標のメリットや設定方法について解説します。

定量目標とは?

定量目標は、第三者が見てもわかりやすい「数字」を用いて設定した、量的な目標です。

目標の達成度を一目で確認できるため、達成感の積み重ねを通じたモチベーションアップを期待できます(目標の欲求勾配仮説)。

過去の実績(数字)を比較してパフォーマンスの変動要因を分析し、確実な目標達成に向けて軌道修正を行う(スモールステップを設定する)ツールとしても活用可能です。

パーセンテージや実数によって目標が具体化されており、目標設定に関する認識のズレが起こりにくいことも定量目標の特徴です。

そのため、人事評価とも相性がよく、個人の目標達成度によって評価を行う「絶対評価」や、部門内での健全な競争を促す「相対評価」の両方で用いられています。

「定性目標」との違い

定性目標は数値化することが難しい、目指すべき状態や行動・思考に対する価値観を表した、質的な目標です。

達成度を確認しづらい点が定量目標とは対照的ですが、努力への評価を通じて承認欲求を満たし、モチベーション向上につなげられる面は定量目標と共通する部分だといえます。

目標が抽象的であるため、認識のズレが生じないように目標達成の考え方に関する情報共有を行い、必要に応じて行動へのフィードバックを行うことが重要です。

定性目標に期限や回数といった数値目標を加えると、定量目標として達成を具体化することができます。

また、定性目標で設定した行動特性をコンピテンシー評価という形で定量化し、人事評価制度に落とし込む企業もみられます。

したがって、定量目標と定性目標には「量的目標」と「質的目標」という違いがあるものの、表裏一体の関係にあるといえるわけです。

定量目標のメリット

目標を数値化することで、達成度や結果を簡単に共有できるのが定量目標の特徴です。人事業務において「従業員の有給休暇取得率を上げる」という目標を例に取りながら、定量目標を設けることで生まれる3つのメリットについて説明します。

1.ゴールが明確になる

定量目標を設定することで達成すべき課題(ゴール)が数字という形で明らかになり、ゴールを目指す戦略を立てやすくなります。

数字そのものが、比較・逆算しやすい性質を持っているからです。ゴールは、会社が目指す最終的な定量目標を意味するため、KGI(重要目標達成指標)と呼ばれることもあります。

冒頭の例でみると、単に「従業員の有給休暇取得率を上げる」とだけ目標が提示されている場合、取得率をどれだけ上げたらよいかが不明確で、具体的な行動プランを立てるのが困難です。

一方、「1年以内に、従業員全員の有給休暇取得率を20%上げる」と目標を立てると、「1年以内に」「取得率を20%上げる」というゴールが明確化されると同時に、ゴールを基準に具体的な達成計画を立てやすくなります。

誰が見ても目標を理解しやすく、スムーズな目標共有が実現するのが、定量目標の共有がもたらすメリットです。

2.進捗確認が容易になる

定量目標と達成計画が明確であれば、目標実現へのプロセスの中にチェックポイント(指標)を設けて、達成状況(進捗)や行動状況を短時間で確認できます。

数値目標が定まっていれば、期間ごと、一定の達成率といったチェックポイントの設置も簡単だからです。目標の達成度合いをチェックする指標として機能することから、KPI(重要業績評価指標)と呼ばれることもあります。

「1年以内に、従業員全員の有給休暇取得率を20%上げる」という目標であれば、有給休暇を取得した従業員数と休暇取得日数を一定の期間ごとに集計して、進捗確認が可能です。

その結果に応じて、行動計画の見直しやプロセスの細分化などの軌道修正を図りながら、目標到達に近づくことができます。PDCAサイクルに組み込み、目標達成の仮説を立てながら計画を推進していくと効果的でしょう。

3.達成率が分かりやすい

定量目標では達成すべき課題が数値化しているため、表れた成果と比較することで達成率が明らかになります。

目標を達成したか未達に終わったかの評価だけでなく、定量目標を達成した段階を100%として達成率を割り出し、未達原因の振り返りを含むプロセスに対する評価や、次の行動計画の立案にも活用可能です。

人事部門で目標設定を行う場合、目標達成にあたり他の従業員や部署による協力が必要な場面が多く出てきます。

「1年以内に有給休暇取得率を20%上げるためには、従業員全員が2日ずつ有給休暇取得日を増やす」という例では、人事担当者1名の対応では目標実現が困難です。個人的な目標達成に留まらず、組織が一丸となって目標達成を目指すOKRという目標管理手法に発展できるのも、定量目標の特徴です。

なお、個人別の目標設定を通じて自発的な成長を目指すためには、MBOという手法が用いられます。

人事における定量目標の設定方法

定量目標の設定にあたっては、「SMARTの法則」を活用できます。

  • Specific
  • Measurable
  • Assignable
  • Realistic
  • Time-related

という5つの成功因子で構成されており、目標達成の実現可能性を具体化しているのが特徴です。

先程の「1年以内に、従業員全員の有給休暇取得率を20%上げる」という目標を「SMARTの法則」にあてはめて、定量目標の設定方法について確認してみましょう。

目標を言葉で具体化する(Specific)

誰にとってもわかる言葉で目標を立てることが、目標達成の第一歩です。統一した解釈ができることを前提条件として、企業や部門が目指す方向性を加味しながら、言葉で目標を具体化していきます。

この段階では行動の目的とゴールを言葉にする作業なので、「有給休暇取得率を上げたい」というような定性目標でもかまいません。

数値目標を定める(Measurable)

具体的な行動目標を定めたら「1年以内」「20%上げる」というように、数値を使って達成したい目標を具体化します。

Measurableは「測定可能」と訳せますが、進捗状況を正確に把握して目標達成への適切な行動を促すためには、目標を数値化しておくことが重要です。

ゴールに加えて中間目標を定めておくと、目標達成へのスケジュールが立てやすく、モチベーション低下も防げます。

役割や権限を割り当てる(Assignable)

人事部門では、個人ベースで数値化できる業績要素が少ないため、会社として推進したい施策に関する数値目標を設定して、チームで目標達成を目指していくことになります。

誰が・何を・どのように実行するかを明確化した上で、必要に応じて権限を委譲します。有給休暇取得率の例では、「休暇届の集計担当者が有給休暇の取得傾向をとりまとめ、休暇取得の好事例を提案する」流れが、明確化の一例です。

なお、役割分担した後に個人別の定量目標を定めることも可能です。

実現可能かどうかを確認する(Realistic)

設定した目標が、会社のビジョンや業務の実態と照らし合わせて妥当かどうか、現状の社内体制や人的リソースで達成可能かどうかを確認します。設定目標が高すぎると、本来業務に影響をきたす懸念があるからです。

「有給休暇取得率の50%アップを目指すと、部署間で不公平が生じたり繁忙期の業務に支障が及んだりする恐れがあるため、現実的(Realistic)な20%アップに修正する」という対応が、確認の一例です。

中間目標での成功体験を積み重ねて、最終的に高い目標への到達をめざすことで、失敗体験によるモチベーション低下も防げるでしょう。

期限を設ける(Time-related)

目標の達成期限を定めることで、時間の経過に伴う従業員のマンネリ化を防ぎ、目標意識が高い状態を維持しながら目標に向き合うことができます。

反対に、期限設定がなければ目標達成への優先順位が下がり、目標そのものが意味をなさない指標になってしまう懸念も出てきます。

有給休暇取得率の例では、「1年以内だとスケジュール調整が難しいけれど、(中間目標の3か月以内だと1日くらい休暇を取れる」「いつでも休暇を取れるだろうと考えていると休暇を取るチャンスを逃す」という考え方です。

目標達成の期限を適切に設定することが大切だといえます。

人事における定量目標のポイント

人事部をはじめとする管理部門では、成果をストレートに数字で表現できる指標が少ないため、目標の数値化が難しいといわれています。

目標を無理に数値化しなくてもよいという意見もありますが、管理部門でも数値が伴う業務(健康診断の受診状況管理など)が多いことから、先ほど説明した「SMARTの法則」に当てはめて定量目標を設定できそうです。

人事・管理部門で定量目標を設定するためのポイントについて、事例を交えながら解説します。

従業員に直接かかわる課題を数値目標化する

健康診断の受診率向上や残業時間の削減といった、従業員の健康やワークライフバランスの実現に直結する内容を定量目標として設定し、会社全体で適正な労務管理につなげていきます。

目標を明示する際に現状説明を行い、目標達成後にもたらされるメリットを提示するのが、社員全員への意識付けには効果的です。

定量目標を複数の段階に分け、業務への影響が最小限となるよう人員配置や業務の効率化などについて経営層や部門長とのすり合わせを行っておけば、目標達成がスムーズに実現するでしょう。

行動実績をスコアリングする仕組みを作る

会社として期待する行動や業務姿勢をいくつかのランクに分けて評価(スコアリング)し、総合得点を定量目標と位置づけて達成度をチェックする方法も考えられます。

従業員ごとの得意・不得意分野や改善が必要な項目を明確化することで、人材育成を効率的に進められるでしょう。従業員の行動特性を評価する、コンピテンシー評価として運用することも可能です。

従業員満足度を数値化する

定量調査であるアンケートにより従業員満足度を調査し、会社が改善したい課題に対して定量目標を設定します。

アンケートには選択式・記述式がありますが、数値化のしやすさを考えて選択式の設問を主体にアンケートを設計するのがおすすめです。

記述式回答を設けた場合でも、回答内容によっては定量目標として具体化できる場合もあります。

定量目標の達成が従業員満足度の向上につながる上、生産性の向上や企業のイメージアップも目指せて一石二鳥です。

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