仕事に対して正当な賃金を支払い、従業員との信頼関係を保ち続けるためには、給与を決定する仕組みを熟知しておくことが大切です。
近年では人事評価制度が普及していることから、仕事の成果に応じて個人ごとに給与を決定する「職能給」という仕組みが注目されています。
給与査定の目安となる賃金モデルを作成しておけば、給与決定の透明性が高まり、業績向上へのモチベーションも高まるでしょう。
どのような仕組みで給与体系が組み立てられているのかを確認しながら、給与計算の方法と給与モデルの作り方を解説します。
給与体系とは?
給与体系(賃金体系)とは、基本給や各種手当の決定方法や支給基準をまとめたものです。
労働の対価として支払いを受けるすべてのものが給与だと、労働基準法第11条で定義されています。通貨(現金)での支払いが原則ですが、社宅や給食の提供など金銭以外で支払われる場合もあります。
賞与や退職金といった、臨時に支払われる賃金も給与の一種です。
給与には労働者の暮らしを守る一面もあることから、1946年の「電産型賃金体系」により生活給という考え方が確立し、1959年の最低賃金法によって時間あたりの最低賃金額が法的に定められました。
高度経済成長期以降は年功序列賃金が定着しましたが、バブル経済の崩壊後は仕事の成果に応じて給与を決定する「成果型賃金制度」へ移行する企業が増加しています。
賃金モデルとは?
賃金モデルとは、新卒で就職した人が標準的なペースで昇格・昇進した場合の給与の推移を表したものです。
学歴や年齢といった労働者のプロフィールと、職種・役職や勤続年数などの社歴を指定し、残業や休日出勤をしないものと考えて算出されます。求人広告で提示されている想定年収も、賃金モデルの一種です。
賃金モデルは、指定した条件に該当する従業員が存在するものとして算出した「理論モデル賃金」と、実在する従業員の年収を例示した「実在者モデル賃金」に2つに分けられます。
実在者モデル賃金は自社の賃金実態を把握するために、理論モデル賃金は給与制度の妥当性をチェックするためにそれぞれ用いられます。地域・業種ごとの給与相場とモデル賃金とのバランスを考慮した上で、賃金を決定しているのが現状です。
給与体系の種類
給与体系は、大きく「基準内賃金」と「基準外賃金」に分けられます。仕事の成果で変動する給与が基準内賃金、個人の事情で変動する給与が基準外賃金と考えることも可能です。
給与体系の決め方に関する法的なルールはなく、名称も企業独自に定められています。給与体系ごとに、賃金構成を確認してみましょう。
1.基準内賃金(所定内賃金)
所定労働時間内の労働に対する対価として支払われる賃金で、最低賃金の対象となる他、割増賃金を計算する基礎としても位置付けられています。
諸手当を基本給に統合している企業もみられますが、給与額の決定にあたっては諸手当の支給基準も考慮しているのが一般的です。
基本給は所定内賃金のコアとなる賃金で、3つの性質に分けられます。中途採用者の基本給が他の社員と比べて高額となる場合は、基本給の一部を調整手当として支給する場合もあるようです。
・仕事給型
担当業務(職務給)や職務遂行能力(職能給)に分類され、労働の対価を重視した上で基本給を決定します。勤続年数の増加に伴う人件費の高騰を抑えられるメリットがある反面、配置転換が困難で市場の変化に対応しにくいのがデメリットです。別途、役職手当や職務手当を支払うケースもみられます。
・属人給型
学歴や年齢・勤続年数などの個人的な要素を重視して基本給を決定します。生活保障の意味合いを持ち長期勤続のインセンティブとなり得ますが、仕事の能力や成果に応じた査定が困難で不公平感が出やすいのがデメリットです。そのため、仕事給と組み合わせてバランスをとる企業もみられます。
・総合給型
仕事給と属人給両方の基準を用いて基本給を決定します。
2.基準外賃金(所定外賃金)
所定労働時間の労働に関係なく支払われる賃金で、基準内賃金のオプションという見方もできます。勤務実態や個人の事情によって変動しうる賃金で、最低賃金法は適用されず、一部を除いて割増賃金の算定基礎にも含まれません。
時間外賃金を除いて、基準外賃金の設定は企業の考え方に委ねられており、福利厚生としての一面もあるようです。支給されるケースが多い、4つの手当について説明します。
なお、住宅手当・通勤手当を一律の金額で支給する場合は、基準内賃金として取り扱うルールなので注意が必要です。
・時間外手当
時間外労働(残業)や休日出勤、深夜労働に対して支払われる割増賃金で、労働基準法第37条で定められた率での支払いが義務付けられています。
業務の負担を考慮し、割増率をアップしたり割増賃金とは別に夜勤手当などの名目で時間外手当を支給したりする企業もみられます。
・通勤手当
通勤交通費の支給は法律で義務付けられていませんが、9割近い企業が通勤手当を支給しています。通勤手当を全額支給する企業や支給限度額を設ける企業、全く支給しない企業など様々です。
・家族手当
配偶者や子どもがいる従業員に対し、家計への支援を目的に支給する手当で、扶養手当と呼ばれることもあります。
配偶者手当を支給する場合には、所得税の非課税枠や社会保険の扶養枠の兼ね合いから、配偶者の年収額に制限を設ける企業が主流です。
・住宅手当
家賃や住宅ローンの支払いを軽減する目的で支給する手当で、家賃補助と呼ばれることもあります。会社の近くに住む人に対して、住宅手当の上乗せ名目で近隣在住手当を支給する企業もあるようです。
給与の算出方法
給与は月額や時間給で定められるのが一般的ですが、出来高制や年俸制のように業務の成果を重視して給与が決定される場合もあります。
給与の算出方法ごとの特徴について確認してみましょう。なお、労働者の生活安定の観点から、給与の算出方法にかかわらず賃金は毎月1回以上一定の期日に支払うことが、労働基準法第24条で義務付けられています。
1.定額制
働く期間に応じて支給される給与が決められる仕組みです。月単位(月給)や時間単位(時給)で支払われるのが一般的ですが、パートやアルバイトでは1日・1週間単位で給与が支払われるケースも少なくありません。
月給制の場合は、休日数や勤怠状況にかかわらず毎月一律の給与が支払われる完全月給制と、遅刻や欠勤があれば給与が減額される日給月給制に分けられています。
2.出来高制
契約額や作業量など、労働者本人の業務実績に応じて給与が支払われる仕組みです。歩合制と呼ばれることもあり、固定給に加算して支払う一部出来高制と、給与全体が歩合給である完全出来高制に分けられます。
労働者の最低限度の生活を保障する観点から、労働時間に応じた保障給の支払いを労働基準法第27条で義務付けられています。
3.年俸制
前年度の業績に応じて、賞与を含んだ年間の給与が決定される仕組みで、成果型賃金制度との相性が良いとされています。
時間外手当は別途支払われますが、毎月一定時間分の残業を見込んで年俸に固定残業代を組み込んでいるケースもみられます。
年俸として給与を提示する企業でも、実態は月給制で賞与額が変動する場合がある点に留意が必要です。
給与体系モデルの作り方
2020年の労働基準法改正により、同じ仕事をする人には雇用形態にかかわらず同じ額の賃金を支払う「同一労働同一賃金」制度の実施が義務付けられました。
多様な働き方を実現する観点からも、人事評価制度に基づき職務給を決定する考え方が浸透しつつあります。
厚生労働省が公表している「中小企業のモデル賃金」をもとに、職務給を軸にしたモデル賃金の決定方法を5つのステップで説明します。
1.職務給と年齢給・職能給のちがいを確認
職務給は、職務の重要性や仕事を通じて生み出す価値に応じて決定されます。同一労働同一賃金を前提とした制度で、役割評価表をもとに給与を決定するため客観性が高いのが特徴です。
一方、職能給は知識や経験などの職務能力やリーダーシップなどの資質に応じて決定されます。勤続年数を重ねて能力を高めることで昇給を期待できるので、モチベーションアップにつながるのが特徴です。
職場での経験や業績にかかわらず、従業員の年齢に応じて給与が決定される年齢給という仕組みもあります。企業の風土に応じて、職務給と職能給・年齢給を組み合わせて給与を設計するのも一つの方法です。
2.役割評価表の作成
職務給制度を効果的に運用するためには、役割評価表を用いて役割(職務)の重要度を測定することが必要不可欠です。
役割を評価する手法はいくつかありますが、職務の重要度を点数により可視化できる「要素別点数法」が多く用いられます。
人材代替性や問題解決の困難度・経営への影響度などの評価項目ごとに判断尺度を設定した上で、点数化を行います。企業が考える重要度に応じて、点数に倍率(ウェイト)を設けてもよいでしょう。判断尺度を具体化しておくのが、適正な評価を行う上では効果的です。
3.方向性の検討
職務給の導入によって、従業員にどのような待遇を実現したいか(ニーズ)を確認します。
ニーズとしては、人件費の総額を変えずに業績に応じた賃金配分を実現したい、あるいは賃金設定にメリハリをつけて企業の競争力を高めたいなどが考えられます。
職務給の導入目的を従業員へ具体的に説明できるよう、事業活動の方向性や労働環境の変化を踏まえながらニーズを明確化しておくことが重要です。
賃金制度の改定を機に全面的に職務給へ置き換える企業もみられますが、職務の能力と意欲を高めることを考えると、他の基本給との組み合わせが妥当でしょう。
4.職務給の設計
役割評価表を用いて役割評価を実施し、特定の職種に結果が偏っていないか、賃金制度の改定方針と矛盾が生じていないかなどをチェックします。
給与体系の公平性を確保するためには、職種間・等級間のバランスを保つことが大切です。必要に応じて、評価項目のウェイトや職種・等級の変更を行うことも考えられます。
その上で、現行の賃金制度と新しい賃金制度を比較して、従業員ごとの処遇の変化を検証しながら職務給を決めていきます。
5.制度導入・運用
新たな役割等級に応じて給与額を設定した結果、実際の支払賃金額から増減する従業員に対する賃金の経過措置の検討が必要です。
賃金額が超過している場合は、調整給の支払いや上位等級への格付け変更が考えられます。超過部分を単純に減額すると、労働条件の不利益変更となるので注意が必要です。
一方、賃金額が未達の場合には職務にふさわしい賃金が支払われていない状況なので、従業員のモラル低下を防ぐためにも未達部分の賃金までの引き上げが急務です。
大幅な賃金引き上げが難しい場合は、昇給額を調整するなど数年かけて賃金を引き上げる方法も考えられます。従業員の育成や能力開発に向けた環境を整備したり、人事評価制度を見直したりすることも、従業員のモチベーションを高める上では大切です。
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