これまで日本は、メンバーシップ型雇用と呼ばれる、新卒一括採用での雇用システムが主流でした。しかし、コロナの蔓延によるテレワーク導入の加速や、同一賃金同一労働の義務化を受けて、ジョブ型雇用への変化が必要と言われています。
こうした時代の流れのなかで、メンバーシップ型雇用の特徴のひとつである新卒一括採用を、企業は今後も続けていくべきなのでしょうか?
今回は、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用における新卒採用の仕組みや、メリット・デメリット、ジョブ型を導入した企業の事例などを基に、新卒採用を辞めるべきかどうかについて解説します。
メンバーシップ型雇用の新卒一括採用とは?
新卒一括採用とは、専門学校や大学などを卒業予定の学生を、毎年年度ごとに一括で採用する日本独自のシステムです。
欧米をはじめ諸外国では新卒一括採用のようなシステムは一般的ではなく、新卒一括採用は日本型雇用(メンバーシップ型雇用)の特徴のひとつと言われます。
メンバーシップ型雇用とは、基本的に終身雇用で長期的な人材確保と、総合職の育成を視野に入れたシステムです。
新卒一括採用で入社した社員は、転勤や移動などのジョブローテーションを経て、キャリアアップを図ります。年功序列型の賃金制度もメンバーシップ型雇用の特徴のひとつです。
しかし、このメンバーシップ型雇用は社員の生産性の問題や、ランニングコストの問題など様々なデメリットがあります。これまでもメンバーシップ型雇用の変革が必要と指摘されてきたものの、急激なビジネス環境の変化によりその問題が顕在化してきました。
アメリカなどで主流なジョブ型雇用の新卒採用とは
アメリカでは、コロナ禍前の従来からジョブ型雇用が主流であり、新卒採用においてもそれが適用されてきました。ジョブ型雇用とは、特定の職務に従事することを前提とした雇用システムです。
仕事内容や責任範囲、勤務地、労働時間などを限定し、それを遂行できるプロフェッショナルな人材を雇う方法です。そのため、アメリカでは新卒者であっても、採用するからには高い専門性や知識が求められます。
そこで、アメリカの学生は企業から実務経験を求められることを見越して、学生時代からインターンシップで実践を積むのが一般的です。
メンバーシップ型の新卒採用では、全学部全学科を採用対象とする場合が多いですが、ジョブ型では学生の学歴・専攻・職歴・大学の成績を重要視します。
ジョブ型雇用は、転職を繰り返すことでキャリアアップを図る方式で、ひとつの企業に縛られないのも特徴です。
一方で、自身が任される職務が明確ではあるがゆえに、プロジェクトやその職務がなくなると、そのまま解雇される場合もあります。
メンバーシップ型雇用の新卒一括採用のメリットとデメリットとは
日本で一般的なメンバーシップ型雇用の新卒一括採用には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?次のように、まとめられます。
メリット | デメリット |
・一括採用のため、採用時のコストが抑えられる ・仲間意識を醸成しやすい ・配置転換しやすい ・ジョブローテーションによって部署間を超えた知識共有が行える | ・入社後のパフォーマンスが悪くとも雇用を継続する必要がある ・社員のモチベーション維持が難しく、離職率が高い ・適切な人事評価が難しい ・プロフェッショナルの育成が難しく、ジェネラリストの傾向が強い。 ・仕事の区分が難しく、特にリモートワーク時に、情報共有・業務・成果の把握が困難 |
新卒一括採用では、短い期間にまとめて採用活動を行えるので採用コストの削減につながります。しかし、社員が入社後にパフォーマンスを発揮できなくとも、雇用を継続しなければならないのが難点です。
新卒一括採用は同期入社が多くなることで、仲間意識を醸成しやすいという点も優れています。一方で、社員の意向とは反する職務を、会社の指示によっていつ何時でも行う可能性がある状況はモチベーションの維持が難しく、社員同士が協力し合う関係が崩れてしまえば離職率の悪化は避けられません。
ジョブローテーションは、総合的な知識を身につけやすいという利点もあります。反対に、専門的な知識を持つプロフェッショナルの育成は、難しくなります。リモートワークを前提とした働き方では、業務の区分けが難しく、成果の把握が困難になることも懸念点です。
人事評価の面でも、仕事の範囲と責任がはっきりとしないため、成果についても曖昧になりやすく、適切な人事評価がしづらいシステムであることが指摘されています。
新卒一括採用を活かすジョブ型雇用を導入するための7つのポイント
現状、インターンシップ制度などジョブ型の文化が根付いていない中で、メンバーシップ型雇用の新卒一括採用を一切辞めてしまうのは一般の企業にとって負担が大きいでしょう。また、新卒一括採用ならではのメリットもあるため、十分に活かしながらジョブ型雇用を取り入れることをおすすめします。
ここでは、新卒一括採用を活かして、ジョブ型雇用を導入するためのポイントをお伝えします。
幹部から部分的にジョブ型雇用を導入する
新卒一括採用や終身雇用が広く浸透している日本では、いきなり全面的にジョブ型雇用を導入するのは難しいものです。まずは部分的に、幹部から導入を始めるのも一手です。
経営層でジョブ型雇用が浸透したら一般社員にも徐々に適用する、という段階的な措置を講じることで、社員の理解も得やすくなるでしょう。
中途採用でジョブ型を進める
新卒一括採用は現状のまま残しつつ、中途採用でジョブ型雇用を進める方法もあります。ジョブ型雇用では、特定の能力に特化した即戦力が求められるため、その点は中途採用の人材ニーズと一致しています。
そのため、中途採用市場では、ジョブ型の導入が比較的容易であり、すでに一部企業では取り入れられています。
欧米式のインターンシップを取り入れる
新卒でも現場の即戦力となるプロフェッショナルを育成するために、早期から欧米式のインターンシップを取り入れることもよい方法です。
予め職種に合った専攻の学生へのインターンシップを実施し、ジョブ型での新卒採用を行います。ターゲットを絞ったうえで、一部こういった新卒採用を取り入れるのも手でしょう。
実際に、一部の外資系銀行では学生のインターンシップ後に、目星の学生をスカウトする形で即戦力となる人材の採用につなげています。
段階を設けてジョブ型を取り入れる
年齢や役職などを指標とし、ある一定段階まではジョブローテーションでの育成を図り、その後ジョブ型に切り替える段階的な移行プロセスを踏む方法も考えられます。
たとえば、新卒入社後、20代の内はジョブローテーションで知識や経験を積んでもらい、ある程度の年齢で本人が希望するする職能についてもらいます。これまでの新卒一括採用とジョブ型雇用の間をとるシステムを導入してみるのもよいでしょう。
人事評価クラウドシステムを活用する
一部でもジョブ型を導入した場合、業務内容・成果を正確に把握し、人事評価・給与改定が可視化された上で実施することが重要となります。
日本の企業は、人事評価基準となる職務遂行能力が抽象的で、結果的に年功序列となっているのが現状です。 このままではジョブ型雇用を導入しても本質的に変わりがないので、人事評価クラウドシステムを活用し、評価基準を一定にするよう努めるべきでしょう。
人事評価クラウドシステムを導入することで、企業の成長に必要な中核人材の育成にもつながるため、ジョブ型雇用の導入時には必須です。
企業風土の浸透をはかる
新卒社員に対してジョブ型を採用することで、自分の職務内での仕事が増えるため愛社精神が育みにくい恐れがあります。さらに、テレワークなどの普及により、コミュニケーションの場が不足することで、ますます醸成が難しくなることが想定されます。
そこで、ICTを活用することでコミュニケーションを活発化させ、企業風土の浸透を図る方法があります。ICTツールには、チャットや、ビデオ会議システム、プロジェクトの進捗報告ツールなど、相互にコミュニケーションを取りやすいものが多くあります。
密なコミュニケーションを通して企業理念や共通の行動様式が浸透することで、離職率の低減に効果的でしょう。
チームビルディングを図る
ワーケーションの活用によってチームビルディングを図る方法もあります。ジョブ型雇用で普段は一緒に仕事をする機会が少ないメンバーであっても、ワーケーションによって円滑なコミュニケーションや、チームの結束力を高める効果が期待できます。
最近では、大手旅行会社が企業向けにワーケーションプランを用意しており、社員や企業だけでなく、地方への経済的還元などさまざまメリットがある働き方として注目されています。
マネジメント能力のあるリーダーの育成
マネジメント能力の高いリーダーの育成も、ジョブ型の導入に必要です。なぜなら、ジョブ型の社員の能力が発揮できる環境の構築につながるからです。
ジョブ型雇用では、プロフェッショナルな人材が求められます。しかし、プロフェッショナルだけでは業務は回りません。プロフェッショナルを上手くマネジメントする人材がいてこそ、ジョブ型雇用はその真価を発揮します。それゆえ、リーダー育成は優先して進めていくべきです。
新卒一括採用を継続しつつ雇用システムを再構築した企業事例
新卒一括採用採用を継続しながら、すでにジョブ型雇用を導入した企業もあります。そのなかでも日本を代表する企業であるKDDIと富士通の導入事例を見ていきましょう。
ジョブ型雇用の導入で悩んでいる企業にとって、ヒントになるポイントを多く含んでいます。
KDDIのジョブ型雇用の導入事例
KDDIは、2020年8月から社員の仕事に対する成果や挑戦、職務遂行能力を評価して処遇に反映する、ジョブ型雇用制度を導入しています。
また、コロナ禍のワークスタイルの変化に対応すべく、時間や場所に縛られずに成果をあげることを目的とした、「KDDI働き方宣言」を策定しました。この宣言により、緊急事態宣言下では社員の9割がテレワークを活用するなど、働き方に大きな変革をもたらしています。
さらに、2020年度の新卒採用からメンバーシップ型である「OPENコース」と、ジョブ型の「WILLコース」の採用を実施。時代の流れに沿って、新卒採用についても一部ジョブ型雇用を導入しています。
参考文献:https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2020/07/31/4580.html
富士通のジョブ型雇用の導入実例
富士通は、人事評価制度や処遇、職場環境の整備に、ジョブ型雇用の考え方を活用しています。取り組みの一環として、幹部社員にジョブ型人事制度を導入。「人」ではなく、グローバルに統一化された基準をもとに、職責の大きさや重要性を格付けしていく制度へ切り替えを行いました。
職責は、売上などの定量的な規模の観点に加え、レポートライン、難易度、影響力、専門性、多様性等の観点から、職責の大きさと重要性の高さをもとに、格付けがされ報酬が決まる仕組みです。これにより格付けされたランクをFUJITSU Levelと称して、独自の制度を根付かせています。
この評価制度を導入することで、大きな職責に対するチャレンジ意欲を促進させ、成果をあげた人への適切な報酬により評価することを目的としています。
参考文献:https://www.fujitsu.com/jp/about/csr/employees/system/
メンバーシップ型雇用の新卒一括採用を上手に活用しよう
事例からもわかる通り、大手企業の一部ではメンバーシップ型雇用の新卒一括採用を完全に辞めるのではなく、一部ジョブ型雇用をうまく活用し始めています。
技術職向けの新卒採用から部分的にジョブ型を取り入れる、新卒一括採用はそのままに幹部のみ段階的に進めるなどです。
単純にジョブ型を導入しようとするのではなく、まずはジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用のメリット・デメリットを理解し、効果的な新卒採用のシステムに改善していきましょう。
雇用システムを変革することで、それに沿った人事評価システムの構築も重要です。
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