Googleなどの企業を中心に提唱されている「心理的安全性」。心理的安全性が組織の中で浸透していると、さまざまなメリットがあります。今回は、心理的安全性の概要や背景、メリットについて紹介します。
心理的安全性とは?注目される背景
心理的安全性という概念は、1999年にハーバード大学の教授エイミーエドモンソン氏によって提唱されました。エイミーエドモンソン氏の論文「Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams」の中で初めて言及されています。
この中のPsychological Safetyが心理的安全性と翻訳されています。
Googleが翻訳した同氏の心理的安全性の定義は、以下の通りです。
対人関係においてリスクのある行動をしてもこのチームでは安全であるという、チームメンバーによって共有された考え
Googleの「Project Aristotle」というプロジェクトにより、組織で働く際に大切なポイントとして紹介されたことで、心理的安全性が注目されるようになりました。
心理的安全性の高い組織の作り方3ステップ
心理的安全性の高い組織の作り方は、以下の順に進めます。
- コミュニケーションを積極的にとる
- 自分の弱みや弱点を周囲に伝える努力をする
- 失敗を批判しない
上記ステップを実践すれば、安心して意見を言い合える環境を構築できるでしょう。それぞれのステップを詳しく解説します。
1. コミュニケーションを積極的に取る
コミュニケーションを積極的に取ることが心理的安全性の高い組織づくりに欠かせません。
特にアサーティブ・コミュニケーションを意識すると、相手との間に摩擦を生じさせず、気持ちのいいコミュニケーションが取れます。
アサーティブ・コミュニケーションは、相手の考えを尊重しながら、自分の主張も伝えるコミュニケーションスキルです。
例えば、相手の意見と違う意見がある場合も、相手を尊重しながら対等な立場で話を進められるため、建設的な意見交換の場となるでしょう。
2. 自分の弱みを周囲に伝える努力をする
心理的安全性をチームメンバーで強化するためには、立場が上の人ほど弱みを見せるのが効果的です。上の立場の方が弱みをみせることで、メンバー全体が弱みを見せやすくなるからです。
例えば、マネージャーが弱みをまったく見せない場合、周囲のメンバーも完璧を求められているように思い、仕事がやりづらくなってしまいます。
腰が低さ、謙虚さがリーダーシップの土台です。
3. 失敗を批判しない
失敗の批判は、心理的安全性のない職場を作り出すことにつながります。
なぜなら、評価に対する過剰反応や、非難や失敗を恐れすぎることによるミスの誘発を招くからです。
上記のような職場環境にしないためにも、あえてリーダー自身が過去の失敗話をするのも効果的です。失敗話を伝えることで、周囲が受けるプレッシャーも軽減できるでしょう。
心理的安全性の高い組織とぬるま湯組織の違いとは
心理的安全性の高い組織とぬるま湯組織の違いを解説します。
- ぬるま湯組織の定義
- ぬるま湯組織との違い
上記ポイントを理解すれば、効果的な組織運営のためにどのような環境を整えるべきかが見えてくるでしょう。
ぬるま湯組織の定義
ぬるま湯組織は、変化を恐れ、リスクを取れない組織のことです。従業員のモチベーションや向上心が低く、業務に対する意識も低い職場をイメージすれば、理解しやすいのではないでしょうか。
特に、努力してもしなくても収入が同じ職場で発生しやすくなります。
ぬるま湯組織との違い
心理的安全性の高い組織と、ぬるま湯組織の違いは、以下のとおりです。
- 心理的安全性の高い組織:職場内のコミュニケーションが活発、従業員一人ひとりの成長意欲が高い
- ぬるま湯組織:同僚同士の仲がよいだけ、仕事への目的意識が低い、生産性が上がりにくい
上記のように、単に居心地のいい組織は、心理的安全性の高い組織ではありません。
心理的安全性の高い組織とは、職場内で安心して意見が言い合え、切磋琢磨してお互い成長し会社の業績アップに貢献する意欲がある状態です。
心理的安全性が低い環境で個人が感じる4つの不安
心理的安全性の定義について確認したところで、次に心理的安全性が低い環境について考えてみましょう。心理的安全性が低い環境では、個人は4つの不安を感じると言われています。
- 無知だと思われることへの不安
- 無能だと思われることへの不安
- 邪魔をしていると思われることへの不安
- ネガティブだと思われることへの不安
それぞれ詳しく紹介します。
1. 無知だと思われることへの不安
まずは、無知だと思われることへの不安です。「こんな発言をしたら、何も知らないと思われるのではないか」という不安が考えられます。このような雰囲気が社内や組織内であると、ちょっとした疑問を尋ねにくくなってしまいます。
疑問について尋ねにくくなってしまうと、思わぬミスにつながることがあります。疑問自体は小さなことであっても、疑問が解消されないことにより業務の方向性が変わってしまうことがあるからです。
2. 無能だと思われることへの不安
無能だと思われるということへの不安は、ミスをしたときに発生しやすい不安です。「ミスをしたけれど報告しにくい。報告をしたら何もできない人というレッテルを貼られてしまいそう」といったことが考えられます。
無能だと思われることへの不安でミスの報告が遅れた場合、取り返しのつかない状況になってしまう可能性もあります。その場合、さらに不安が高まるといった悪循環に陥る可能性も考えられるでしょう。
3. 邪魔をしていると思われることへの不安
「私が会社・チームの邪魔をしていると思われるのでは」といった不安もあります。この不安は、思うように業務が進んでいない場合に感じることが多いでしょう。
邪魔をしていると思われるかもしれない感じる場合には、アイディアや意見を言いにくくなってしまいます。その結果、業務の進行が滞ったり、方向性のミスが生じたりしてしまう可能性があるでしょう。
また、アイディアが出てこなくなってしまうと、業務に対する工夫や改善をしようとする雰囲気もなくなってしまいます。
4. ネガティブだと思われることへの不安
業務をチームで進めていると、どうしてもネガティブな意見を言わなければならないタイミングがあります。その際に生じるのがネガティブだと思われることへの不安です。
「こんなことを言ったら、ネガティブだと思われるのではないか」という不安があり、会社・組織にとって有益な意見が共有されないままになってしまいます。
また、意見をいう際に「これはメンバーへの悪口になるのではないか」と考えてしまい、発言を控えてしまうということも考えられるでしょう。
心理的安全性を調べる方法
心理的安全性を調べるための2つの方法を紹介します。
- 7つの質問を行う
- 3つのサインを察知する
上記の方法を使うことで、組織の心理的安全性をより具体的に評価し、改善点を見つける手助けになるでしょう。それぞれの方法を詳しく解説します。
7つの質問を行う
心理的安全性を測る7つの質問とは、具体的に以下の通りです。
項目 | 評価(1〜5点で判断) | |
質問1 | チーム内でミスをしても責められることはない | ☆☆☆☆☆ |
質問2 | チームに対し問題点や難しい課題を指摘しあえる | ☆☆☆☆☆ |
質問3 | チームメンバーは自分と異なることを理由に他者を拒絶するようなことはない | ☆☆☆☆☆ |
質問4 | チームにとってリスクのあるチャレンジが許容される | ☆☆☆☆☆ |
質問5 | チームの他のメンバーに助けを求めることは容易である | ☆☆☆☆☆ |
質問6 | チームメンバー全員が、他人の仕事を咎めるような行動はしない | ☆☆☆☆☆ |
質問7 | チームメンバーと一緒に仕事するとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると実感する | ☆☆☆☆☆ |
心理的安全性は抽象的な概念であるため、対策しづらい側面があります。しかし、7つの質問により定量化・可視化し現状把握できれば、改善策を立てやすくなります。
質問1・3・5は低いほうが良く、質問2・4・6・7は高いほうが良いと判断します。
3つのサインを察知する
ハーバード・ビジネススクールの教場で、心理的安全性の世界的権威者のエドモンドソン教授が提唱しているのが3つのサインです。
具体的内容は以下の3つです。
- ポジティブな発言
- ミスや問題への言及
- 笑いとユーモア
上記サインがすべて認められた場合、心理的安全性の高い組織になります。
「困難な状況でも前向きにとらえ、ポジティブな発言が交わされている。成功以外の話も話題になる。ユーモアのある人が多くて職場が明るい。」
たしかに、上記のような職場なら自分の意見をしっかり伝えられて、成長できそうですね。これらの方法を用いることで、組織の心理的安全性を具体的に評価し、改善策を見出すことができるでしょう。
心理的安全性の高い組織にある4つの因子
心理的安全性の高い組織にある4つの因子は、以下の通りです。
- 話しやすさ
- 助け合い
- 挑戦
- 新奇歓迎
心理的安全性の4つの因子とは、日本能率協会マネジメントセンター石井 遼介氏の著書「心理的安全性のつくりかた」で紹介されたものです。4つが存在する組織は、心理的安全性が高いとされます。以下で4つの因子を解説します。
1. 話しやすさ
すべての従業員が、自由に意見を言い合える環境のことです。
仕事のミスや自分だけ意見の違う場合など、言いにくいことでも素直に話せる状況を指します。例えば、先ほど言われた内容をど忘れしてしまい、もう一度聞くケースです。
2. 助け合い
困ったときや問題が発生したとき、すぐに相談できたり、建設的な解決策を提案できたりするかを指します。 タスクを多く抱えている従業員のサポートや、リーダーがメンバーに相談しやすいのかが重要です。
3. 挑戦
成功や失敗がわかる前に、挑戦したこと自体が推奨される組織であることも心理的安全性が高い組織にある因子の1つです。
新しいアイデアを話しても歓迎される職場か、挑戦に失敗しても、メンバーやチームリーダーが受け入れてくれるかが大切です。「まずやってみよう」と思える環境が職場にあるのか振り返ってみましょう。
4. 新奇歓迎
新奇歓迎がある組織とは、新しいアイデアや異なる視点を積極的に受け入れ、評価する文化が根付いている状態を指します。
例えば、以下のような内容が新奇歓迎因子のある組織かの判断基準になります。
- 苦手なことを「苦手」と話せる環境か
- リーダーと違う意見を言っても批判されないか
新たな改善策やイノベーションの種を生み出すには、「新奇を歓迎する」環境が必要不可欠です。
そのため、心理的安全性を高める上で必要な因子の1つとして、新奇歓迎の文化を育むことが重要です。
企業が従業員の心理的安全性を確保する4つのメリット
企業が従業員の心理的安定性を確保することには、以下4つのメリットがあります。
- 従業員の離職率の低下を実現
- 従業員の生産性の向上
- 従業員間の考え・提案の共有を促進
- 向かうべき方向性が定まる
それぞれのメリットを以下で詳しく解説します。
1. 従業員の離職率低下を実現
心理的安全性が確保されることで、従業員は不安を抱えることが少なくなり、会社に安心していられる環境が整います。これにより、従業員の定着率が向上し、悩みを抱えた従業員がその悩みを打ち明けやすくなるため、メンタル面の安定にも寄与します。
2. 従業員の生産性向上
心理的安全性が保たれることで、活発な意見交換やアイデアの共有が促進されます。これにより、多様な意見の中から最適解を見つけ出すことが可能になります。
また、業務上の心配事を気軽に相談できる環境が整うことで、ミスの削減にもつながり、生産性が向上します。
3. 従業員間の考え・提案の共有を促進
「発言しても大丈夫」という安心感があることで、従業員同士の意見交換が活発になります。心理的安全性が確保されている環境では、考えに対して建設的な意見が出やすくなり、議論が深まることで、よりよい意見や提案が生まれます。
4. 向かうべき方向性が定まる
心理的安全性がある場合、批判的な意見も含めてさまざまな意見が出やすくなります。これにより、建設的な議論が進み、より良い決定を下すことができるため、組織の進むべき方向性が明確になります。
心理的安全性が確保されたチームを作るときの基本的な考え方
心理的安全性が確保された会社や組織を作りたい場合には、以下の基本的な考え方を取り入れておくとよいでしょう。
- 4つの不安の解消に努める
- 心理的安全性はゆるく仕事を行うことではないことに留意する
- ポジティブなフィードバックを組織全体で心がける
- OKRや1 on 1など心理的安全性と相性のよいマネジメント方法を取り入れる
それぞれ詳しく解説します。
4つの不安の解消に努める
まずは、さきほど紹介した4つの不安の解消からはじめましょう。不安が解消されることによってはじめて、心理的安全性が確保されるといえます。
逆に、心理的安全性が確保できていなければ、従業員の不安は大きくなるばかりです。組織の中で4つのうちどの不安が大きいのか、対処方法はないのかを考えていくとよいでしょう。部署ごとに様子を確認するのもおすすめです。
心理的安全性はゆるく仕事を行うことではないことに留意する
心理的安全性というと、リラックスした状態であるため「ゆるく仕事をすればよい」と勘違いをしてしまうことがあります。しかし、それは誤りです。
心理的安全性を確保することは、従業員同士が建設的に意見を言い合い、いい意味でリラックスして仕事を行うことにもつながるのです。決して仕事の手を抜くような施策ではありません。
このような勘違いを防ぐために、社内やチーム内で心理的安全性の研修を行ってみるのも一つの方法といえるでしょう。研修を行うことで、勘違いを予防できます。
ポジティブなフィードバックを組織全体で心がける
心理的安全性を確保する際には、フィードバックはポジティブに行うことからはじめるとよいでしょう。従業員同士で、意見の受容をし、まずはポジティブなフィードバックを行えるようなルールづくりをしていくのがおすすめです。
自分の意見と異なる意見の中にも必ず良い面はあるはずです。仮に批判的な意見を述べる場合でも、まずはポジティブなフィードバックから行うよう習慣づけましょう。
OKRや1 on 1など心理的安全性と相性のよいマネジメント方法を取り入れる
心理的安全性と相性の良いものとして、OKRや1 on 1などがあります。このような手法を取り入れることで、より心理的安全性を保つことができるでしょう。
OKRとは、 Objectives and Key Resultsの略です。日本語に訳すと、目標と鍵となる成果のための目標管理手法となります。詳細は以下の記事で紹介しているので、参考にしてください。
1 on 1とは、一対一で行う面談のことです。週に一度など定期的に実施することで、心理的安全性を確保することができるでしょう。
上司と部下が話す時間を設けることは、自分の意見を話す機会につながるからです。詳細は以下の記事で詳しく解説しています。
心理的安全性の作り方まとめ
今回は、心理的安全性について紹介しました。心理的安全性は、Googleを中心に取り入れられ、より生産的で安定した組織づくりに最適なものです。まずは不安を取り除くところからはじめてみてはいかがでしょうか。
なお、あしたの人事では、人事評価の方法を「あした式人事評価シート」として無料配布しています。こちらもぜひ参考にしてください。
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