終身雇用制の崩壊に伴い、社内での人間関係が希薄化し、人材育成の機会が減少していることが問題視されています。昨今、注目されているメンター制度は、人材育成の土壌形成ができるとして期待されている制度です。
本記事では、メンターの定義やメンター制度の概要、導入する手順について解説するとともに、メンター制度を導入した企業の成功事例を3つ、紹介します。
メンターとは
メンターとは英語のmentorのことで、「優れた指導者」「良き助言者」「恩師」といった意味があります。一方、メンターから指導を受ける人は「メンティ」と呼ばれます。
そもそも、メンターはギリシャ神話が起源とされることばです。トロイア戦争の英雄・オデュッセウスが出立する時、自分の子供であるテレマコスを預けた指導者・メントール(Mentōr)の名前が由来と言われています。
仕事上のメンターとは、部下や後輩に良い手本を示したり、部下や後輩の悩みや課題に適切なアドバイスをしたりしてくれる人材です。メンターを人材育成の手法として活用する「メンター制度」もあります。
メンター制度とは
メンター制度とは、メンター・メンティの関係を意図的に作ることから「斜めからの支援」とも呼ばれます。
メンター制度で、直属の上司などがメンターとなるケースは少数です。一般的には、メンティと通常業務での関与が少ない他部門の先輩(役職なし)などをメンターに任命するのが一般的です。あるいは、社外の人材をメンターに選定するケースもあります。
そういった人材がメンターであれば、メンティとなる社員は自分の社内評価に大きな影響を及ぼす直属の上司・役職者に相談しにくい悩みも打ち明けやすいでしょう。また、キャリア形成の見本としても、年齢が近いメンターのほうが親近感や共感を覚えやすいといえます。
メンターに選ばれる人材は、入社がメンティより数年早い程度の身近な先輩から業務に関する知識・経験が豊富な役員・管理職まで、何を目的としてメンター制度を導入するのかによっても異なるでしょう。
メンターが必要とされる背景とは
従来から日本企業の雇用システムは、終身雇用制度が特徴とされてきました。「この会社に骨を埋める」という意識で働く人が多かったため会社への帰属意識が非常に強く、人材育成を前提として社内の人間関係も形成されやすかったのです。
近年は長期雇用制度が崩壊しつつあります。それに伴って会社への帰属意識や社内のコミュニケーションが希薄化しているため、人材育成も自然と行われにくくなっているのです。
プレイングマネジャーの上司が増えており、部下の育成に専念する余裕がないケースも増えています。人材育成を直属の上司だけに負担させず、別途、メンターをつくる必要性がそこにあります。
また、後輩を指導できる人材の育成がメンター制度導入の目的に含まれる場合もあるでしょう。メンター制度を導入したところ、社員のビジョンが広がった、キャリア意識や社内外のネットワークづくりへの意識が向上した、といった例もあります。
メンターの役割とは
メンターに求められる主な役割は、主に3つです。
・業務実績・経験が豊富であること
・人材育成に積極的であること
・メンティの話を傾聴しキャリアアドバイスができる
それぞれの役割について、以下でくわしく解説します。
1,業務実績・経験が豊富であること
メンティの課題解消に結び付く知識・経験を持つ人材を選ぶ必要があります。後輩の悩みや課題を的確に把握したうえで有効なアドバイスをするためには、メンターが、ある程度以上の業務実績・経験を有する必要があります。
ただし、社歴数十年の大ベテランが業務に関して最新の知識・経験を持っているとは限りません。数年程度の先輩のほうが、メンティの課題解消に役立つ知識・経験を豊富に持っている場合もあります。
2.人材育成に積極的であること
自分の通常業務にくわえて、積極的に人材育成にも時間と労力を費やせる人材をメンターに選ぶことが重要です。
メンターが人材育成に意欲を持っていなければ、メンティは安心して悩みを相談することはできません。また、メンティの相談に対して有益なアドバイスや指導をするには、メンターが熱意を持って人材育成に取り組む必要があります。
3.メンティの話をよく聞きキャリアアドバイスができること
メンターはメンティの悩みや課題を正しく理解する必要があります。そのためには、独善的にハウツーを押し付けることなく、メンティの話をしっかりと傾聴できる人材をメンターに選ぶことが大切です。
メンターの探し方
メンターを探す方法は複数あります。まず、メンティとライフスタイルや志向するワークスタイルが似た人を、社内で探してみましょう。
たとえば、「育児中の30代チーフ」「介護中の50代」などです。メンターは1人に限る必要はなく、複数の人の良い点を、それぞれ、お手本とすることもできます。
職場でメンターを見つけるのが困難であれば、本やインターネットで探してみましょう。目標にしたいと感じられる人を見つけたら、著作やインターネット記事を読んだり、講演会に参加したりして、仕事や人生への指針を得ることが可能です。
あるいは、関係会社や同業他社など、職場以外の組織で活躍している人をメンターにするという方法もあります。
メンター制度の導入手順
ここでは、メンター制度を導入する5つのステップについて解説します。
1.メンター制度の内容を決定
最初にメンター制度を運用する体制作りをしましょう。人事部が中心となって進めるケースが多く、必要に応じて部署を超えた推進チームを作っても良いでしょう。
体制が整ったら、メンター制度の目的、メンター・メンティに選ぶ社員の基準設定、期間、メンタリングの実施頻度や方法といった運用ルールを決めます。
2.メンター・メンティのマッチング
基準に従ってメンティ・メンターをそれぞれ、選びましょう。選定方法としては、指名・自薦・他薦などが挙げられます。
人材育成の効果を上げるためにはメンティの特性に合わせてメンターを選ぶ必要があるので、メンティを先に選定してからメンターを選ぶほうが良いかもしれません。メンターを先に選定するなら、メンターのスキルやライフ・ワークスタイルに応じて人材育成につなげられそうな人材からメンティを選ぶことになります。
メンターとメンティの組み合わせ(マッチング)をする際は、ミスマッチの防止も重要です。相性の良いマッチングをするためには、メンターとメンティに関する個々の情報を、あらかじめ集めておかなければなりません。個別のヒアリングやアンケートなどを活用しましょう。
3.事前研修の実施
メンター・メンティに向けた制度の事前研修を行いましょう。メンターの役割やメンティが期待すること、メンタリングにおける行動や必要スキルなどについて双方に把握してもらうことで、メンター制度運用上の誤解や混乱を防止するためです。
また、メンタリングを介してトラブルが発生した場合の対処法についても、事前に理解してもらうほうが良いでしょう。
4.メンタリングの実施
メンタリングの面談の進め方、テーマについては基本的に当事者間で決定していきますが、
目的を確認し互いを理解する段階、目標達成のための活動・支援の段階、振返りと今後の活動に活かす段階など段階ごとにテーマを設定します。
メンター制度を運用する体制は、メンター・メンティに実施状況を報告させます。さらに、メンター間・メンティ間でのミーティングを実施し、メンタリングから得られた収穫や課題に関する情報を共有することも、メンタリングの成功につながります。
5.フィードバックと制度の改定
メンタリング実施期間終了後は、メンターとメンティの各自にアンケートやヒアリングを実施し、自社におけるメンター制度の評価や改善すべき内容を抽出しましょう。合同報告会を実施して、メンタリングによって得られた気付きや意識変化などを振り返ることも有意義です。
上記を踏まえ、必要に応じてメンター制度の改訂も行いましょう。
メンター制度の導入事例3選
メンター制度の成功事例として、キリン株式会社、富国生命保険相互会社、コネクシオ株式会社(旧:アイ・ティー・シーネットワーク)におけるメンター制度の特徴などを紹介します。
1.キリン株式会社
キリン株式会社では2008年2月から、主に女性社員のキャリアビジョン形成や女性総合職の継続就業支援を目的としたメンター制度を実施しました。身近にメンターや相談できる人を作ることも目的に含まれます。
メンター制度は第1ステップ(半年間)~第2ステップ(半年間)~第3ステップ(半年間のグループと1年間のグループ)のスケジュールで進行し、累計メンター人数46人、累計メンティ人数67人でした。
キリン株式会社のメンター制度では、役員をメンターに含む点が特徴的です。これは、メンター制度導入の目的が女性総合職社員の継続就業や女性経営職へのステップアップ支援であったことによります。
第1ステップで役員のメンタリングを受けたメンティが第2・第3ステップではメンターになるなど、メンタリングとメンター育成を同時に実施したことが、キリン株式会社におけるメンター制度の特徴といえます。
メンター制度を導入する前は、女性経営職比率の低さ・女性総合職社員の離職率の高さが課題でしたが、実施後には改善がみられたそうです。
2.富国生命保険相互会社
富国生命保険相互会社では、入社後に90%以上が支社へ配属される新入社員の孤独感が離職率の上昇につながるという懸念から、2006年度にメンター制度を導入しました。
メンターに最も大切なのはモチベーションの高さと考えて自発的な応募に限定したこと、メンティの所属部署以外の遠隔地にいる先輩がメンターとなるため電話を中心としたメンタリングであることが、富国生命保険相互会社におけるメンター制度の特徴です。
また、電話でのメンタリングには高度なスキルが必要になるため、メンターとなる社員を対象に、コーチングを中心としたメンター研修を、1年間にわたって受講させています。メンター研修がメンター間の結束力向上やメンティ対応への情報共有に大いに役立っているそうです。
上記を反映してか、制度の初年度からメンターへの応募数は体制が予想した以上となりました。また、制度4年目以降は、過去にメンティを経験した社員がメンターに応募するなど、社員間にメンター制度への関心・意欲が培われています。
さらに、管理職からもメンター制度参加への要望が高まったことを受けて、メンターを支援する存在である「シニアメンター制度」も導入するなど、制度が強化されています。
3.コネクシオ株式会社(旧:アイ・ティー・シーネットワーク)
携帯電話の卸売と販売、携帯電話を利用したソリューションサービス提供を行うコネクシオ株式会社(旧:アイ・ティー・シーネットワーク)。競合において差別化する要素は「人」であると考え、社員一人ひとりの成長を重視しています。
その一環として、2012年の合併で社員数が倍増したのをきっかけに、メンター制度を導入しました。結果として、新入社員の定着率向上につながっています。
コネクシオ株式会社のメンター制度ではライブラリのメンター研修コースを設けており、正社員と契約社員が受講できます。受講の自己負担金を減らして意欲的な社員が積極的に受講できる環境を整えました。メンターになれば自己負担金が免除されるほか、就業時間中の受講も3時間まで許可されます。
クローズドのSNSを使用して人事部への報告を行いつつ、オープンの掲示板で他カップリングのメンター・メンティの状況も共有している点が、コネクシオ株式会社におけるメンター制度の特徴です。主に入社3~4年目がメンターとなり、新入社員のサポートを1対1で実施しています。
メンター制度でキャリア形成上の課題を解決しよう
多くの人は、メンターを持つことによってライフスタイルとワークスタイルを決定できるようになります。良いお手本を得られれば、以降は無駄な努力をしたり判断に迷ったりすることがなくなるため、効率的な自己成長を遂げられるのです。
企業はメンター制度の導入によって、社員のキャリア形成における課題解決を支援できます。同時に、人材育成のスキルを持つ社員を育てるきっかけとしてメンター制度を活用することも可能です。社内外を問わず、社員が複数のメンターを持てる制度を整えましょう。
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