レジリエンスとは?精神回復力の高い人の特徴やトレーニング方法を紹介

レジリエンスのイメージ画像

レジリエンスとはあるストレス状態下において、適応できる能力・精神回復力があることを意味します。

レジリエンスはもともと環境保全や精神医学の分野で活発に議論されてきた概念です。しかし、職務上のストレスで精神的に病む従業員にも効果的ではないかと、企業でも従業員のレジリエンス向上が注目されるようになっています。

今回はレジリエンスの意味、心理学的な定義、具体例、注目される理由などと共に、レジリエンスの高い人の特徴、測定方法、トレーニング方法や築く方法を紹介します。

レジリエンスとは

レジリエンスとは英語のresilienceのことで、弾力、復元力、回復力、強靭さを意味します。
レジリエンスの概念は、外部からの圧力を意味するストレスとともに物理学の分野から心理学の分野でも積極的に使用されるようになりました。

また、レジリエンスは、生態系が何らかの要因によって損傷を受けたあとに、循環によって元の状態を維持し続ける能力についても指します。そのため、レジリエンスの概念は、環境保全・管理における分野においても活発的に用いられてきました。

例えば、火山噴火や環境汚染などの影響によって生態系が乱された場合に、生態系が崩壊するリスクを防ぐ、もしくは回復させられるかどうかを決定するのに、レジリエンスは決定要因として使用されてきました。
このレジリエンスを活用した手法は、医学研究や、気候変動、災害、金融制度などの応用にも活用されるようになっています。

レジリエンスの心理学的な定義

レジリエンスは心理学的な意味としては、ある脅威などストレスがある状態下でも、適応する能力があること、また適応の結果、精神的回復力があることとされています。
従来から、ある個人に対して何らかの困難な状態が長期的に続くことは、どのような人にとっても何らか悪影響を与えるという考えが一般的でした。

ところが、さまざまな調査結果によると、おなじような過酷な体験をしたからといって、必ずしも同じような悪影響が発生するわけではなく、同じ体験をしたとしても適応できる人が一定数存在することがあきらかになったのです。

このような結果から、人間の精神について説明するのにレジリエンスは適当であるとして、精神医学や心理学の分野でも活発にレジリエンスが使用されるようになりました。
そして、職務上のストレスで精神的に病む従業員に効果的ではないかと、企業でも従業員のレジリエンス向上が注目されるようになっているのです。

レジリエンスとストレス耐性・ハーディネスとの違い

レジリエンスと似たことばに、「ストレス耐性」や「ハーディネス」があります。

ストレス耐性とは、ある過酷な状況下でストレスがある際に耐える度合いを表します。また、ハーディネスはストレスをはね返す屈強な強さを意味し、レジリエンスとはすこしニュアンスが異なります。

レジリエンスの場合は、ストレス下においてはね返したり耐えたりするのではなく、適応できる能力があること、また不適応であったとしても回復できるという現象を指すという点で異なる概念であると言えるでしょう。

レジリエンスの具体的な例

レジリエンスの具体的な例として、戦闘、暴行、事故、自然災害などの急性心的外傷を原因とする外傷後ストレス障害(PTSD:Post-traumatic stressdisorder)を対象とした研究も増加しています。

1995年に発表されたアメリカの論文によると、約半数におよぶアメリカ人は何らかの外傷的体験にあうが、そのうちの8%~20%が PTSD になると報告されています。つまり、PTSDになる可能性のあった約30%以上の人が、何らかの要因によってPTSDならず、病気に苦しめられることなく生活していることになります。

また、レジリエンス因子を調査した臨床研究で、ベトナム戦争中に極度のストレスを受けながらもうつ病や PTSD を発症しなかったパイロットについての事例も報告されています。

PTSDを発症しなかった750人を対象とした研究結果によると、楽観主義、利他主義、他人からの社会的サポートがあること、使命感、何らかのトレーニングを受けていることの5つのレジリエンス因子により発症しなかったのではと報告されています。

参考:「レジリエンスの築き方に関する考察」

木村富美子

ビジネスにおいてレジリエンスが注目される理由

企業からレジリエンスが注目される理由は、労働環境の変化により労働者のストレスが年々増加傾向にあることです。

IT技術の発達により、情報量が増え変化の目まぐるしいなかで労働者のストレスも年々増加傾向にあります。SNSでの連絡などマルチタスクを求められることが増え、集中して仕事に取り組むことが困難な状況もストレス増大に影響を与えているようです。

厚生労働省の調査によると、「現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスとなっていると感じる事柄がある」労働者の割合は、平成25年時点で52%だったのに対して、27年で59%まで上昇し、30年で58%と高止まりしている状況です。

強いストレスの原因は「仕事の質・量」の約60%がもっとも多く、さまざまなストレス解消法が叫ばれるなかで、なかなか効果が出ていないことがわかります。
ストレスによる離職率の上昇や、仕事の効率低下を喫緊の課題として、レジリエンスが注目されているのです。

レジリエンスが高い人の特徴

レジリエンスの上げ方を知る前に、そもそもレジリエンスの高い人には、ある特徴があります。すべての人に必ず当てはまるというわけではありませんが、一般的に高いとみられる人の特徴を参考として見てみましょう。

・楽観主義で失敗したとしてもポジティブにとらえる
・ストレスによってなど、落ち込むことがあった後の回復がはやい
・危機的な状況下で、迅速に状況を判断し効果的な対応をする
・他人と自分を比較して、自分を卑下しない
・自分にとってハードルの高い仕事を命じられた時に恐れずに挑戦する
・自分の強みと弱みを客観的に理解している
・何らかの使命感を持って行動している
・いざという時に信頼できる友人や家族がいる

レジリエンスの測定方法

レジリエンスの測定方法は、「どのような要因がレジリエンスを高めるのか」という点から算出されており、学者の中で様々な見解があります。
ここでは、レジリエンスの測定方法について2つ紹介します。

【小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治(2002)による尺度】

小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治(2002)は,レジリエンスを築くために個人差で精神的回復力を測定できる精神的回復力尺度を提唱しました。
精神的回復力尺度は「新奇性追求」「感情調整」「肯定的な未来指向」の3要素からなると言います。調査結果によると、これらの傾向が高い人は、過去に過酷な出来事を経験しているにもかかわらず、良い精神状態を維持していると報告されているようです。

1つ目の「新奇性追求」は、多様な物事に対して興味・関心があり、そのために新しく行動に移すことを意味します。2つ目の「感情調整」は、内側の感情や、感情に関連する心理的過程を制御するという意味です。3つ目の「肯定的な未来指向」は、将来の夢・目標を持ち、そのための計画や具体的な見通しをもつ傾向のことを言います。

【平野真理(2010)による尺度】

平野真理(2010)は,レジエンスの要因に当たる共通の要素を整理して、生まれながらに持つ気質に強く影響を受ける「資質的なレジリエンス要因」と後天的に身につけやすいと考えられる「獲得的レジリエンス要因」の2つのグループに分類しました。

資質的なレジリエンス要因には「楽観性」「統制力」「社交性」「行動力」の4つがあり、獲得的レジリエンス要因には「問題解決志向」「自己理解」「他者心理の理解」の3つがあります。これら7つの尺度を基に、レジリエンスは総合的に測定されます。

参考:「レジリエンス」

コトバンク

レジリエンスを築く10つの方法

ここでは、アメリカ心理学会が発表したレジリエンスを形成する10つの方法を紹介します。

①家族や友人・他人と良い関係を作ること

人は一人では生きていけず支え合って生活をしています。いざという時に相談できる人や、信頼できる人の存在は、自分が思っている以上に心の支えになっているものです。

②克服できない問題としてとらえない

起こった問題に対して、あれこれと未来について想像を膨らませて乗り越えられない深刻な問題ととらえないようにしましょう。何とかなるものと楽観的に考えます。

③変化を生活上での一部分として受け入れる

変化に対してストレスは感じるものですが、意識的に「変わったものは戻らない」と変化を受け入れて、変えられるものに注意を払うことが大切です。

④目標に向けて進むこと

大きな目標ではなく小さな目標でよいので、現実的に進んでいける目標を立てて、できることから実行しましょう。

⑤断固とした行動を取ること

不利な状況であったとしても、自分で決断して行動に移しましょう。とりあえずからでも、やってみることが大切です。

⑥自己発見のための機会を探すこと

努力してもなかなか上手くいかないこともたくさんあります。そんな時は、自分にとって大切な経験として積みあがっているととらえて、自己発見のためのよい機会になったと考えましょう。

⑦自分に対する肯定的な見方を持つこと

特に自分に対してこととなると、ネガティブに考えてしまいがちなものですが、できるだけ肯定的な見方も持つようにしましょう。必ずいいところがあるので、自信をもって良い点にフォーカスします。

⑧物事のとらえ方についての展望を持つこと

起こったことに対して、短期的な目先のことにとらわれずに、長期的な目線で見るようにしましょう。起こったその時は「大変なことが起きてしまった」ということも、長い目でみると大事ではないかもしれません。

⑨希望に充ちた見方を持つこと

楽観的に考えて希望的な見通しでいましょう。悲観的な状態でいても、事態には何ら関係はなく身体に悪い影響があるだけです。

⑩自分自身を大切にすること

自分の希望や感情がどのようなものか意識を向けて、楽しめることをしましょう。自分を一番に大切にし、心と体をケアします。

参考:「レジリエンス研究の展望」

石井京子

レジリエンスの3つのトレーニング方法

ここでは実際に、レジリエンスを高めるための3つのトレーニング方法を紹介します。

1.ABCDE理論

ABCDE理論とは、1955年にアルバート・エリスが提唱した論理療法におけるカウンセリング方法です。
人間の感情・思考それに伴う行動は、客観的に起こった出来事から直接的に引き起こされるわけではなく、物事のとらえ方や解釈の仕方によってもたらされると考えました。

この理論を活用し、客観的に起こった出来事をネガティブではなくポジティブにとらえることで、自分の感情・行動をコントロールしレジリエンスを高めようとするものです。

A(Affairs,Activating Event):客観的に起こった出来事
B(Belief):客観的に起こった出来事をどのように受け止めるのか、考え方、受け取り方。
C(Consequence):考え方や受け取り方を経て、起こった感情や行動
D(Dispute):非合理的な考え方や受け取り方に対する反論
E(Effective New Belief,Effective New Philosophy):Dによってもたらされた、効果的な新しい考え方や人生哲学

重要なのはDにおいて、客観的に起こった出来事を客観的かつ多面的にとらえなおし、Eの新たな考え方を導き出すことです。

Aで自分にとって良くないと思われる出来事が起きたときに、否定的に物事を考えてしまいがちですが、そういった考え方を客観的に見直すことで、導き出される結果としての感情・行動をあらためられます。それにより、レジリエンスの向上を見込むことができるでしょう。

2.SPARKモデル

SPARKモデルとはイローナ・ボニウェル博士が提唱した認知行動療法を活用した手法です。
ある出来事が起こった際に、下記のとおりに分けて状況を把握します。

S:出来事・状況(何が起きたのかの事実)
P:とらえ方(状況への解釈)
A:感情(内側に湧きあがる感情)
R:反応(状況への態度・行動)
K:認識(~はこういうものだと記憶)

それぞれの文字ごとに内容を書き終えた後は、P・とらえ方について肯定的な内容に変えたもの横に記載します。そして、そこから湧きあがる自分の思い・願いを記載することで、自分の本当の気持ちに気付くと同時にその後の文字の部分にも変化が生まれたことを認識しましょう。

3.ポジティブ心理学

ポジティブ心理学とは、個人の人生や、所属する組織や社会のあり方が、本来あるべき正しい姿に向かう状態に注目し、そのような状態を構成する要素について科学的に検証・実証を試みる心理学の一領域であると定義されています。

ポジティブ心理学は1998年に米国心理学会会長でありペンシルベニア大学心理学部教授のマーティン・E・P・セリグマン博士によって提唱されました。

ポジティブ心理学では、「真に健康な状態」を意味するウェルビーイングの構成要素であるPERMAを引き上げることが重要としています。

P:Positive Emotion(ポジティブ感情)
E:Engagement(エンゲージメント、またはフロー状態を生み出す活動への従事)
R:Relationship(関係性)
M:Meaning and Purpose(人生の意味や仕事の意義、及び目的の追求)
A:Achievement(何かを成し遂げること。ただし「達成のための達成」をも含むため、必ずしも社会的成功は伴わなくてもよい)

参考:「ポジティブ心理学とは」

一般社団法人 日本ポジティブ心理学協会

レジリエンスを引き出すまでの3つのステップ

レジリエンスを引き出すためには、思考をコントロールするためのトレーニングをいくつか紹介しましたが、自身の思考パターンを改めることはなかなかすぐにとはいかないでしょう。
3つのステップを踏んで、徐々に精神回復力を高めていくと認識することが重要です。

ステップ1:ネガティブ期

さまざまなトレーニングにより何か事象が起こったときに、自分がネガティブな感情により落ち込むための感情や行動を引き起こしていることをまずは認識します。

ネガティブな感情は、さらにネガティブな行動をひきおこし、落ち込むという悪循環を生んでしまいます。
ネガティブな感情・思考を客観的にとらえなおす、ポジティブに考えるという訓練を続けることにより、だんだんと思考をコントロールしてネガティブな状態を少なくしていくことができるでしょう。

ステップ2:維持期

ネガティブな思考を改め直すことなく、ポジティブで客観的な考え方に自然とむかえるように訓練を続けます。

ポイントは自己肯定感を上げるよう努力すること。自分の強みを把握する、周りの信頼できる人をあらためて考える、自分の恵まれているところに感謝をするなど思考のベースとなる部分を鍛えていきます。
自身への肯定感を高めつつ、思考のコントロールを続けることで徐々に精神回復力がアップしていることを感じられるでしょう。

ステップ3:振り返り期

状態が安定してきたら、これまでのネガティブだった思考からどのように変化したか振り返ってみましょう。意識的に取り組んでいた時には効果があっても、日常生活をおくるなかでまた元の状態に戻ってしまうということはよくあることです。

どういった自分が状態になりがちで、どのように実践したら自分には効果があったのか振り返りをメモにして残しておきましょう。

レジリエンスの向上のために、未だ万人に効果のあるはっきりとした方法論は確立されていません。それは、個人個人によってレジリエンスを向上させる要素や効果バラバラであるからです。自分にとって効果のあった内容はしっかりと振り返っておき、また元の状態に戻ってしまった時は活用するようにしましょう。

レジリエンスを高める職場づくりをしよう

レジリエンスは、ストレスの多い環境下で仕事の効率を上げ、イキイキと働いてもらうために有効な手段となりえます。

レジリエンスを高めるためのポイントや、トレーニング方法などしっかりとおさえて、職場でもぜひ取り入れてみてください。
社内研修などで導入することで、レジリエンスを高めストレスに対して回復力が高まるよう促すのも一手でしょう。

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