職場におけるハラスメントとは、社員の働く意欲を低下させるだけでなく、身体的・精神的な不調を引き起こします。個人の尊厳を損なうものであり、企業は職場でのハラスメント防止について適切な措置を講じなければなりません。
なにがハラスメントとなるのか。正しい理解が適切な対策と対処につながります。ここでは、職場での3つのハラスメントについて説明します。
ハラスメントとは
ハラスメント(harassment)とは、英語で「嫌がらせ」を意味する単語です。過去日本では、「セクシャル・ハラスメント(セクハラ)」の性的な冗談で異性をからかうという文脈で使われていましたが、ハラスメントは、言動での嫌がらせに限定されるものではありません。
精神的苦痛を与える行動、人間関係の阻害、身体的な攻撃といった行為もハラスメントに該当します。
職場におけるハラスメントの種類
職場で発生するハラスメントは、セクシャルハラスメントのほか、力関係を利用したパワーハラスメント、出産・育児の当事者に対するマタニティハラスメントも問題となっています。以下に、厚生労働省による各ハラスメントの定義を説明します。
セクシャルハラスメント
セクシャルハラスメントとは、職場で発生する労働者の意に反する性的な発言や行動により、労働条件について不利益を受けたり職場環境が害されることをいいます。
パワーハラスメント
パワーハラスメントは、職場での地位や人間関係といった優位性を利用して業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させる行為をいいます。パワハラは上司から部下への行為のみとは限りません。部下から上司、同僚間、正社員から派遣社員、またはその逆などあらゆる関係性において発生する可能性があります。
マタニティハラスメント
職場において上司・同僚からの言動により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業等を申請・取得した男女労働者の就業環境が害されることをいいます。
ハラスメントが横行することで、労働者が快適に働ける環境が阻害されます。働きにくいと感じる労働者が離職したり、生産性が下がったりするリスクがあります。それだけでなく、ハラスメントは個人に対する侵害です。
企業はこれらの職場でのハラスメントを防止するため、適切な措置を講じることが義務付けられています。どのような行為がハラスメントに該当するのか、正しい理解が求められます。
参考:「ハラスメントの定義 」
厚生労働省
ハラスメントの10つの類型
ハラスメント対策にハラスメントへの正しい理解が必要な理由は、職場でのハラスメントが「厳しく指導した」「チームの懇親を深めるため」といった言い訳でごまかされてしまう恐れがあるからです。
厚生労働省によるハラスメントの類型で、どのような行為がハラスメントに該当するのか確認してみましょう。
パワーハラスメントの6つの類型
1.身体的な攻撃
殴打、足を蹴るといった直接的な攻撃のほか、相手に対してものを投げつける行為も該当します。
2.精神的な攻撃
人格を否定するような言動を行ったり、必要以上に長時間拘束し叱責を繰り返したりする行為が該当します。そのほか、大勢の前で威圧的に叱責する行為も含まれます。
3.人間関係からの切り離し
特定の労働者を集団から孤立させるよう仕向けたり、無視したりすることが該当します。
4.過大な要求
労働者に適切な教育を実施せず能力以上の目標を課し、達成できなかった際に叱責すること。また、業務とは関係のない雑用を強制的にやらせることが該当します。
5.過小な要求
気に入らない労働者に仕事を与えない、管理職を自主退職に追い込むために雑用しか与えないといった行為が該当します。
6.個の侵害
職場外でも労働者を監視する、私物の写真を撮影する、本人の了承を得ずに業務上で知り得た個人情報を他人に暴露する行為が該当します。
セクシャルハラスメントの2つの類型
1.対価型セクシャルハラスメント
労働者の意に反する性的な言葉や行動に対して、拒否を示した労働者が解雇、降格、減給といった不当な扱いを受けることを指します。
2.環境型セクシャルハラスメント
労働者の意に反する言葉や行動で就業環境が不快なものとなり、働く上で見過ごせない程度の支障が生じることをいいます。
マタニティハラスメントの2つの類型
1.制度等の利用への嫌がらせ型
解雇そのものの不当な取り扱いを示唆したり、育休等制度の利用を阻害するものをいいます。
2.状態への嫌がらせ型
妊娠・出産した状態を理由に解雇等の不利益な取り扱いを示唆したり、嫌がらせをするものをいいます。
参照:ハラスメントの類型と種類
厚生労働省
これもハラスメントになる? 該当する行為や言動の例
職場でのハラスメントはこのようにある程度の定義がなされていますが、個別の事例ごとに状況は異なります。たとえば、定義に「繰り返し行うもの」とされているからといって1回だけの行為だからハラスメントに該当しないと判断されるわけではありません。
日常的に行っている行為が、実はハラスメントである、ハラスメントになる恐れを含んでいることもあります。
ケース1:新入社員に遅刻の指導と企画書作成を指示する
【事例】
体調不良で遅刻してきた新入社員Aに対して、課長が大勢の前で「社会人の自覚が足りないぞ!このままじゃ同期のBやCに置いて行かれるぞ!」と大声で叱責した。また、その後Aが経験のない企画書の作成を、十分な資料を与えずに指示した。Aが参考資料の質問をすると「誰かにきいてくれ」と適切なフォローを放棄し、さらに明日という短期間納期を指示して去ってしまった。
さらに、企画書をAが書きあげて渡したところ、具体的な修正作業を指示されず叱責された。
【ポイント】
遅刻を指摘する際、Aの人格否定にまで踏み込んでいます。さらに企画書のフォーマットや作成の仕方を教えず、「習うより慣れろ」という姿勢で接しています。企画書の改善方法についても、悪いとだけ伝え指導していません。
パワハラにならない指導方法としては、ミスを注意する場合は何が悪かったのか理由を短時間で伝えること。ミスの行為に限定して注意すること。不慣れな作業を指示する場合は、具体的な改善ポイントを教えるなど、相手が作業しやすい環境を整えることがあげられます。
厚生労働省
ケース2:社内交流のため部下にSNSを通じて連絡をする
【事例】
部内のコミュニケーション活性化のために導入されたSNSを利用していた女性社員Bさん。ある日、部長からSNSの申請が届く。抵抗を感じたものの、仕事への影響も考え部長の申請を承認。すると、その日から食事やお茶など部長からの誘いが頻繁に届くように。部内の飲み会でも、恋人はいるかどうか聞かれたり、二人で飲みに行こうと誘われたりBさんは参ってしまった。
【ポイント】
セクハラは言動を受けた相手が不快に感じているかが重要なポイントです。いくらコミュニケーションを図る意図や、相手の緊張をほぐす意図であったとしても、質問や誘いが相手に精神的苦痛を与えることがあります。
また、セクハラは男性から女性だけでなく、女性から男性や同性同士でも起こります。相手を不快にさせる言動をする本人が、自分のしていることがセクハラであると認識することが防止への一歩です。また気づいた周囲による適切な声かけも、セクハラを防ぐ効果があります。
厚生労働省
ケース3:育児休業を取得した男性社員への言動
【事例】
妻の出産にあわせて育児休業を申請した男性社員Cさん。周りに男性社員の育児休業が少なく、残業も多い職場であったことから周りの雰囲気が険悪なものに。「忙しいときに一人だけ休めていいな」など嫌味が聞こえてくるように。育休復帰後も、子どもの迎えのため定時に上がろうとすると、「早く上がれていいよな」と言われてしまった。
【ポイント】
同僚や上司の無理解による一言や態度が、育児休業を取得した労働者の居心地の悪い職場の空気を作っています。こうした言動は、いま育児休業を取得している労働者のみならず、これから取得をする可能性のある人々にも伝播し、制度を利用しづらい雰囲気が生まれてしまいます。
誰もが気持ちよく働き続けられるためには、互いにフォローし合う心遣いが必要です。
厚生労働省
企業でハラスメント対策が必要とされる理由
職場でのハラスメントは、個人を傷つけるだけでなく、仕事のパフォーマンス低下にもつながる恐れがあります。また、職場の雰囲気が悪化し、被害を受けている人だけでなく周囲の人間にも悪影響をもたらします。
職場のハラスメントによって引き起こされる企業への影響は、以下のものがあります。
パフォーマンス・エンゲージメントの低下
ハラスメントを受けた被害者が、集中力の不足や精神の不調からこれまで通りのパフォーマンスを発揮できなくなります。さらに、ハラスメント加害者による身体攻撃や、個人を中傷する言動、性的に深いと感じる言動を目撃した周囲の人間が、職場での働きづらさを感じることもあります。
ハラスメントを職場で訴えた結果、黙殺されたり事態が悪化したりすると、被害者・周囲の人間は会社を信じられなくなります。これによって、仕事を通じて成長し会社に貢献しようといったエンゲージメントまでが低下します。
離職率の上昇
ハラスメントを受けた被害者は、状況が改善されないことで離職を決意するかもしれません。ハラスメントは、被害者が去って解決するわけではありません。
ハラスメントを引き起こす労働者の意識や日常的に行われている言動、暗黙のルールによって醸成されている職場の雰囲気が変わらなければ、また新たなハラスメントが引き起こされ、さらなる人員が離職する可能性があります。
職場の多様性を阻害する
ハラスメントが存在する職場は、女性や育児中の社員など特定の属性を持つ人々が働きづらさを感じてしまいます。採用しても社員が定着せず、ハラスメントへの耐性が強い人や、ハラスメントの言動に同調する人ばかりが多く残ってしまうかもしれません。
その状態が長く続けば、ハラスメントの被害を受ける人々への偏見を助長することにもなりかねません。誰もが働きやすい職場づくりへの大きな障害となります。
職場でのハラスメントを防止するための対策
企業は、職場でのハラスメントを防止するために必要な措置を講じることが義務付けられています。具体的には、以下の4点が該当します。また、ここでいうハラスメントとは、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメントが該当します。
ハラスメントに対する方針・対処の周知・啓発
企業は、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメントにあてはまる内容を明確にし、それらを行ってはならない旨の方針を全従業員に周知・啓発する必要があります。また、これらのハラスメントの行為を行ったものは、厳重に対処されること、およびその対処の内容を就業規則等の文書に残さなければいけません。
さらに、マタニティハラスメントについては、妊娠や出産・育児休業の取得に関する否定的な言動がハラスメントの発生原因となりうることを周知し、かつ対象者は制度が利用できる旨を明確に伝えなければいけません。
相談に応じ、適切に対応するための体制を整備
これらのハラスメントの相談窓口を設置し、全従業員に周知します。相談にあたる担当者は、適切な知識を持って対応できなくてはなりません。さらに、すでに発生している事態のみならず、ハラスメントの発生のおそれがある相談や、ハラスメントに該当するか否か相談者が迷うような内容でも、広く対応することが求められます。
また社内に相談窓口を千知するだけでなく、ハラスメントを受けた従業員が相談しやすいよう各都道府県の労働局に設置されている総合労働相談コーナーを案内しておくことも大切です。
厚生労働省
パワーハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
ハラスメントが職場内で発生した場合は、事実関係を迅速かつ正確に確認し、速やかに被害を受けた従業員に対して事態解決のための取り組みを行います。ハラスメントの行為者に対しても、速やかに就業規則等に基づいた措置を施す必要があります。再発防止にむけた措置も求められます。
事態解決の取り組みを行うにあたっては、ハラスメントの被害を受けた本人の意思をヒアリングします。身体的・精神的に不調が見られる場合は、本人の意向を尊重しながら異動や休職等の適正な選択肢を案内します。
併せて講ずべき措置
ハラスメントの相談は、客観的な視点での事実確認が重要です。そのため、関係者に聞き取りを行う際は、相談者や行為者のプライバシーに厳重に配慮しなければいけません。
さらに、相談をした従業員や事実確認に協力した関係者が、解雇など不利益な取り扱いをされないことを定め、全従業員に周知する必要があります。
ハラスメント防止対策を徹底して働きやすい会社を目指そう
ハラスメント防止のための適切な対策は、社員が安心して働ける組織づくりにつながります。また、相談窓口の担当者や、相談を受ける管理者が適切な対応方法を理解することが必要です。
ハラスメント対策研修などを通じて、社員がハラスメントへの理解を深めることで、自らの行動を認識するだけでなく周囲へ働きかけることもできます。
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