源泉徴収票は給与・賞与や社会保険料・源泉徴収税(所得税)の総額などを明記した書類で、従業員や役員(社員)に対して必ず発行することが法令で義務づけられています。
確定申告に必要となるほか、社員が公的機関や金融機関などに収入証明書として提出する場合もあります。
内容に誤りがあると社員に不利益を及ぼす恐れがある他、会社の信頼性が損なう場合もあるため、源泉徴収の対象となる所得を十分に確認した上で正しく作成することが大切です。
今回は、源泉徴収票の作成方法や対象となる所得について解説します。
源泉徴収票とは
源泉徴収票とは、毎年1月~12月に会社が支払った給与手当・賞与の総額と給与などから控除した源泉徴収税・社会保険料の総額を集計した書類です。
単に源泉徴収票と呼ぶ場合は「給与所得の源泉徴収票」をさすのが一般的ですが、役員報酬が支払われる場合でも書類上では給与所得として取り扱われます。
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を会社に提出している人の源泉徴収票には、控除対象の配偶者の有無や扶養親族の氏名・続柄などが明記されます。ただし、マイナンバーは記載されません。
また、年末調整の際に「保険料控除申告書」を提出した人の源泉徴収票には、生命保険料・地震保険料控除・住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の金額が記載される場合があります。iDeCoや確定拠出年金の掛金を支払った人の場合は、年間の掛金の総額が社会保険料欄の上段に記載されます。
源泉徴収票は年末調整が終了した後に社員に渡しますが、退職した人には最終の給与明細書と一緒に渡すことが多いです。退職手当を支払う場合は、別途「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」も発行します。
なお、顧問弁護士や税理士・社会保険労務士などに支払った報酬から源泉徴収した税額は「法定調書」に明記し、対象者に発行します。
源泉徴収票を発行する3つのタイミング
源泉徴収票は、社員の給与・賞与や退職金から源泉所得税を預かった証拠書類となるため、支給金額にかかわらず全社員への発行が所得税法で義務づけられています。源泉徴収票を発行するタイミングは、次のとおりです。
年末調整の終了後
毎年12月または1月の給与明細と一緒に源泉徴収票を発行するのが一般的です。確定申告の一種である所得税の還付申告は翌年1月1日から可能なので、社員から源泉徴収票の早期発行を依頼されることも考えられます。
年末調整の対象外の人にも、同じ時期に源泉徴収票を発行します。なお、年の途中で入社した人で年末調整を行った人には前職の源泉徴収票を返却せず、自社の源泉徴収票の摘要欄に前職の給与支払金額など必要事項を記載します。
社員から発行依頼を受けた時
源泉徴収票は、公的機関や金融機関の手続きで提出する収入証明書としての効力を持っています。そのため、社員から源泉徴収票の発行を依頼される場合があるため、その都度対応するようにします。
前年度の源泉徴収票を発行すればよく、発行の依頼を受ける度に給与などの金額を計算する必要はありません。
社員が退職した時
社員が退職した時は、最終の給与明細書とあわせて源泉徴収票を発行します。退職金を支給する場合は、退職所得の源泉徴収票・特別徴収票の発行も別途必要です。
翌年の確定申告や転職先での年末調整に必要な書類なので、発行する際はその旨も伝えておくと親切でしょう。
源泉徴収の対象となる所得・ならない所得
社員に支払う給与・賞与や役員に支払う役員報酬は、以下の例外に当てはまる場合を除いて源泉徴収の対象となり、所得税が課税されます。食事や住宅といった現物を提供した場合も同様です。
通勤交通費
公共交通機関を利用する場合は、1ヶ月あたり15万円以内なら非課税です。3ヶ月定期券・6ヶ月定期券の料金を支給する場合は、1ヶ月あたりの料金に直して計算します。新幹線定期券や在来線の特急定期券の、自由席特急料金部分も非課税です。
マイカーや自転車で通勤する場合は、片道の通勤距離に応じて非課税の限度額が決まっています。通勤時に高速道路・有料道路の使用を認めている場合は、通行料金を合算した額が非課税になります。
国税庁タックスアンサー
社員に支給する食事
所定労働時間内に食事を支給する場合は社員が食事代の半分以上を支払い、なおかつ会社負担額が1ヶ月あたり3,500円以内であれば源泉徴収の対象外です。残業や宿日直に伴い食事を支給する場合は、無料で支給しても給与とは取り扱いません。
社宅や寮の使用料
社員が社宅や寮に入居する場合は、一定の基準で計算した賃貸料相当額の50%以上を使用料として受け取っていれば、差額は非課税になります。
例えば賃貸料相当額が6万円の場合、社員から3万円以上の使用料を受け取っていれば非課税ですが、使用料が2万円の場合は差額分の1万円が源泉徴収の対象です。会社が賃貸住宅を借り上げている場合も、実際の家賃ではなく賃貸料相当額を基準に源泉徴収の有無を判断します。
国税庁タックスアンサー
退職所得の場合
社員の退職時に退職金を支給した場合や、解雇予告手当を支払って解雇した場合は退職所得として源泉徴収の手続きが必要です。社員が退職日までに使い切れなかった有給休暇を買い取った場合は、支払った額は退職所得として取り扱います。
また、中小企業退職金共済(中退共)や商工会議所などの共済から退職金が支払われる場合は、退職金の支払元で源泉徴収の手続きが行われる場合があります。
源泉徴収票の種類と見方
源泉徴収票には「給与所得の源泉徴収票」と「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」の2種類があります。それぞれの、金額欄の見方を確認しておきましょう。
1.給与所得の源泉徴収票
給与所得の源泉徴収票には、年間の給与支払金額や源泉徴収税額・社会保険料額などを記載します。
・支払金額
基本給をはじめ役職手当・職務手当など毎月支払われる手当、残業手当・休日出勤手当や賞与など、社員に1年間に支給した給料手当の総額を記載します。通勤交通費などの非課税額は含めません。
・給与所得控除後の金額
源泉徴収票に記載された支払金額に応じて、法令で定められた給与所得控除額を差し引いた後の金額を記載します。
・所得控除の額の合計額
社員の合計所得金額に応じた基礎控除額や1年間に支払った社会保険料の総額です。配偶者控除・扶養控除・ひとり親控除といった家庭事情に応じた控除額や、年末調整で計算した生命保険料控除・地震保険料控除がある場合は、その額も加算します。
・源泉所得税額
以下の式で計算した、社員が支払うべき所得税の合計額を記載します。この金額より多い源泉所得税を給与・賞与から控除していた場合は、年末調整で差額を返金(還付)します。
給与所得の源泉所得税額=(給与所得控除後の金額-所得控除の額の合計額)×所得税率-所得税としての控除額
国税庁タックスアンサー
・社会保険料等の金額
社員本人が1年間に支払った、雇用保険料や健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料の総額です。iDeCoの掛金を支払っている社員の場合は上段にiDeCoの掛金合計を、下段に給与から控除した社会保険料の総額を記載します。
年末調整で申告した家族分の社会保険料は「国民年金保険料等の金額」に記載します。
退職所得の源泉徴収票・特別徴収票
退職所得の源泉徴収票・特別徴収票では、源泉徴収税額だけでなく住民税の特別徴収額も記載します。
・支払金額
社員の退職に伴って、会社が一時金として支払った金額の総額です。中退共や社外の退職金共済制度などから支払われる退職給付は含めません。
・退職所得控除額
勤続年数に応じて計算した退職所得控除額を記載します(1年未満の端数は切り上げ)。
・源泉徴収税額
以下の式で計算した源泉徴収税額を記載します。
退職所得の源泉徴収税額=(支払金額-退職所得控除額)×50%×所得税率
退職する人から退職所得の受給に関する申告書が提出されなかった場合は、支払金額にかかわらず20.42%の税率での源泉徴収が必要です。
・特別徴収税額
以下の式で計算した、市町村民税と道府県民税を記載します。
市町村民税=(支払金額-退職所得控除額)×50%×6%
道府県民税=(支払金額-退職所得控除額)×50%×4%
給与・賞与の源泉所得税の計算方法
給与・賞与の源泉所得税は、国税庁が毎年発行している「源泉徴収税額表」を使って計算します。
源泉徴収を行う際は、社員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が提出されている場合は甲欄、提出されていない場合は乙欄の税額表を適用します。また、丙欄の税額票は単発のアルバイトなど、雇用期間が2ヶ月以内の人が対象です。
給与の源泉所得税は、非課税の給与や社会保険料などを控除した後の、課税対象となる給与額によって税額が決められています。月給制・時給制にかかわらず、給与を月ごと・半月ごとに支払う場合は「月額表」を、週ごと・日割で支払う場合は「日額表」を使います。
賞与の源泉所得税は、総支給額から社会保険料などを控除した後に、課税対象となる前月分の給与額に対応した税率を掛けて計算します。
実務では給与計算ソフトで自動計算するケースがほとんどですが、社員から所得税の概算の問い合わせを受ける場合もあるので、上記の源泉徴収税の計算方法は理解しておきましょう。
源泉徴収票の作成方法
前述したように、源泉徴収票は年末調整が終了した時や社員が退職したタイミングで作成します。
本人に渡すもの・会社控・税務署提出用の3枚を作成します。雇用契約書などの書面で本人の承諾を得ていれば、PDFファイルなどの電子データで源泉徴収票を発行しても問題ありません。
年末調整後に源泉徴収票を作成する場合は、その年に支払った給与・賞与の総額(支払金額)を計算した上で、給与所得控除後の金額や所得控除の額の合計額・源泉所得税額を確定します。控除対象になる配偶者・親族の氏名や年末調整の結果も記載します。
源泉徴収税額の乙欄が適用される場合は「乙欄」に○印を付けます。年の途中で入社した人から前職の源泉徴収票を受け取った場合は、摘要欄に前職での支払金額や源泉徴収税額・社会保険料の明記が必須です。
社員の退職に伴って源泉徴収票を作成する場合は、退職した年の1月から退職月までの給与・賞与の支給額や、給与から控除した源泉徴収税・社会保険料の合計額を計算した上でそれぞれの欄に記載します。
給与所得控除後の金額と所得控除の額の合計額は記載しません。摘要欄には「年調未済」と明記し、退職年月日の記載も忘れないようにご注意ください。
なお、年収500万円以上の社員や年収150万円以上の役員の源泉徴収票は、翌年1月31日までに法定調書合計表に添えて税務署へ提出が必要です。
源泉徴収票は再発行できるのか
源泉徴収票は勤務先や収入を証明する書類としての一面もあるため、社員から要望があれば何度でも再発行しても問題ありません。使用目的にもよりますが、過去2~3年分の源泉徴収票の再発行を依頼されるケースも珍しくありません。
源泉徴収票には個人情報が記載されているため、本人確認をした上で再発行の手続きを進めましょう。なお、源泉徴収票の再発行を拒否した場合は、税務署から行政指導を受ける可能性があるのでご注意ください。
源泉徴収票をスムーズに発行しよう
源泉徴収票は、1年間の給与支給額や源泉所得税・社会保険料を証明する書類です。
確定申告に使用するだけでなく、社員が公的機関や金融機関に収入証明書として提出する場面もあるため、年間を通じて源泉徴収票の再発行依頼を受けることがあります。
源泉所得税の概算や源泉徴収票の記載内容についても社員から問い合わせを受ける場合があるため、源泉徴収票の仕組みについて十分に理解しておくようにしましょう。
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