企業の人事担当者が理解しておきたい社会保険の計算方法ですが、複雑な制度という印象があるかもしれません。
実際、主な社会保険には厚生年金保険、健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険があり、企業と労働者が負担する保険料割合も異なります。
そこで、この記事では、社会保険料の計算方法を理解するために、社会保険の種類、負担割合、標準報酬月額、標準賞与額、パートタイム労働者の算定方法などを詳しく解説していきます。
社会保険の種類
主な社会保険には以下の5種類があります。
厚生年金保険
個人事業主などが加入できる公的年金は国民年金ですが、会社員の場合は国民年金に加えて厚生年金にも加入します。一定の条件を満たすことで老齢年金、障害年金、遺族年金が支給されます。
健康保険
個人事業主などが加入できる国民健康保険に対して、会社員は健康保険に加入します。保険者は全国健康保険協会(協会けんぽ)または健康保険組合で、業務災害や通勤災害以外の疾病、負傷、出産、死亡時に給付されます。
介護保険
介護保険は65歳以上の第1号被保険者と40歳以上65歳未満の第2号被保険者に分かれます。第2号被保険者に該当する従業員は給料から保険料が天引きされます。自宅で訪問介護を受ける際などに条件を満たせば保険給付されます。
雇用保険
雇用保険は主に従業員が加入する保険で、1週間の労働時間20時間以上、雇用期間の見込み31日以上が条件です。失業や雇用継続が対象の失業等給付だけでなく、育児休業給付、雇用保険二事業も保険給付に含まれます。
労災保険
労災保険は主に従業員が加入する保険で、正社員、アルバイト、外国人労働者など全ての労働者が対象になります。業務上や通勤時の病気、ケガ、障害、それに伴う介護や死亡時に保険給付されます。
社会保険料の負担割合
事業主と労働者の社会保険料の負担割合は種類ごとに異なります。
・厚生年金の負担割合
事業主と労働者が折半して負担する
・健康保険の負担割合
事業主と労働者が折半して負担する
・介護保険の負担割合
事業主と労働者が折半して負担する
・雇用保険の負担割合
事業主と労働者の双方が負担する(2021年度は労働者負担0.3%・事業主負担0.6%)
・労災保険の負担割合
事業主が全額負担する
このように厚生年金、健康保険、介護保険は事業主と労働者が折半して社会保険料を負担する仕組みになっています。
雇用保険に関しては事業主の負担割合の方が多く、労災保険では事業主が保険料の全額を負担するという違いがあります。
なお、労災保険の保険料は事業の種類ごとに異なります。たとえば2018年の卸売業・小売業、飲食店または宿泊業の場合の労災保険率は3、水力発電施設、ずい道等新設事業の労災保険率は62です。
業務上の病気やケガのリスクが高い業種の方が、一般的に労災保険率は高いといえるでしょう。
社会保険料の計算に必要な標準報酬月額とは?
標準報酬月額は、企業が従業員に支払う給与などを元にしています。社会保険料を計算するために報酬月額の区分(等級)ごとに設定されている金額について解説します。
定時決定について
標準報酬月額は毎年4月、5月、6月の報酬の平均月額によって定時決定され、その年の9月1日から1年間にわたって適用されます。ただし4月、5月、6月に報酬を支払った基礎日数が17日(短時間労働者は11日)未満の月は除きます。
随時決定について
1年に1回の定時決定だけでは、年途中の大幅な給与アップやダウンには対応できません。その場合の改定を随時改定といいます。
継続した3ヵ月間の月平均額が2等級以上変動し、その期間の報酬支払基礎日数が17日(短時間労働者は11日)以上ある場合に適用されます。
標準報酬月額等級表とは
標準報酬月額等級表とは、従業員の報酬月額を等級区分に当てはめて標準報酬月額を算出するための表です。厚生年金保険は32段階、健康保険は50段階の等級に区分されています。
全国健康保険協会
日本年金機構
標準報酬月額の報酬の範囲
標準報酬月額の対象に含まれるものと含まれないものがあるので解説します。
基本給のほかに労働の対価として支給されるもの
基本給以外に労働の対価として支給されるものは標準報酬月額に含まれます。通勤手当、家族手当、住宅手当、役職手当、勤務地手当、残業手当などがあります。賞与(ボーナス)も年4回以上支給される場合は対象となります。
臨時的な支給であるため、報酬として認められていないもの
臨時的な支給で報酬として認められないものは標準報酬月額に含まれません。結婚祝い金、出産祝い金、お見舞金、出張旅費などがあります。
通勤手当に関する注意点
通勤手当は標準報酬月額に含めるとお伝えしましたが、所得税上は月15万円までの交通費が非課税です。特に社会保険料や給与計算を行う場合は注意する必要があるでしょう。
社会保険料の計算方法
健康保険の運営主体である「全国健康保険協会(協会けんぽ)」を例に社会保険料の計算方法を解説します。
報酬月額が20万円の場合の計算具体例
東京都の会社員で報酬月額20万円の場合は以下となります。
・厚生年金保険料=標準報酬月額(20万円)×保険料率(18.300%)
・健康保険料=標準報酬月額(20万円)×保険料率(9.84%)
年齢が40~64歳の場合は介護保険料が健康保険料に上乗せされます。
・介護保険料=標準報酬月額(20万円)×保険料率(1.80%)
具体例に基づく解説
厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料は全て事業主と従業員で折半します。先ほどの具体例で計算すると、健康保険料(介護保険料の該当なし)は合計19,680円、折半額9,840円。介護保険料に該当する場合は合計23,280円、折半額11,640円。厚生年金保険料は合計36,600円、折半額18,300円です。
標準賞与額の計算方法
年3回以下の賞与(ボーナス)が支給された場合は、標準報酬月額ではなく、標準賞与額として保険料を計算します。
標準賞与額の支給上限
標準賞与額の上限は支給1回につき150万円(同じ月に2回以上支給された場合は合算)です。
150万円を超えるケースの注意点
標準賞与額が200万、300万など150万円を超える場合は、一律150万円として計算します。
計算方法
標準報酬月額表を利用し、標準賞与額に保険料率を掛けて計算します。1,000円未満の端数は切り捨てです。
厚生年金保険で標準賞与額の対象となるのは、賞与、ボーナス、期末手当、年末手当、夏季手当、冬季手当、越年手当、勤勉手当などです。
なお、賞与が年4回以上支給される場合は標準報酬月額の対象として計算します。
パートタイム労働者の標準月額の算定方法
パートタイム労働者でも社会保険の被保険者になるケースがあります。
社会保険の被保険者になる条件
以下のどちらかが正社員のおおむね4分の3以上であれば、パートタイム労働者も被保険者となります。
・1日または1週間の所定労働時間
・1ヵ月の所定労働日数
時間給の算定方法
パートタイム労働者の時間給の算定方法は、時間給×1日の労働時間×年間労働日数÷12で求めることができます。
算定方法の具体例も紹介
たとえば以下のケースで考えてみましょう。
・時給950円
・1日の労働時間7時間
・年間労働日数230日
この場合の計算は950円×7時間×230日÷12ヵ月=127,458円なので、標準報酬月額表(東京都)に当てはめると9等級で126,000円となります。
退職者の社会保険料算出方法
会社を退職して健康保険の被保険者の資格を失っても、例外的に最長2年間加入できる任意継続被保険者制度があります。
任意で加入できる条件
任意継続被保険者の加入条件は以下です。
・被保険者でなくなった日までに継続して2ヵ月以上被保険者期間がある
・被保険者でなくなった日から20日以内に申請する
なお、任意継続被保険者後の保険料は全て個人で負担します。
退職時の任意継続保険者制度の保険料算出方法
退職時の任意継続保険者制度の保険料は以下の式で求められます。
退職時の標準報酬月額×都道府県の保険料率(40歳以上65歳未満は介護保険料率を含む)=保険料
保険料の上限は以下です。
・退職時の標準報酬月額が30万円を超えていれば30万円
・平成31年3月分までは28万円
社会保険料の計算方法を理解して正しく算出しよう
社会保険料の計算方法は正しく算出することが大切です。
そのために企業と従業員の保険料負担割合や標準報酬月額、標準賞与額、定時決定、随時決定、パートタイム労働者の算定方法などを抑える必要があります。
ぜひ当記事の内容を社会保険料の計算にお役立てください。
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