給与明細は企業が従業員に対していくら支払ったかを証明する重要な書類です。保険料や所得税の納税金額を確認する意味もあります。ここでは、給与明細に記載される一般的な内容から、発行義務・保存期間など基礎知識について解説します。
給与明細に記載されている項目
一見複雑にみえる給与明細ですが、「総支給額―控除額=差引支給額」という流れを把握しておけば、どの項目が何に関連づいているのか理解しやすくなります。一般的に、給与明細に記載されているのは以下の3つの項目です。
1.勤怠項目
2.支給項目
3.控除項目
「勤怠項目」は、給与計算の対象となった月の勤務日数、有給取得日数、休日労働や深夜労働、時間外労働などの勤怠記録を記載する箇所で、総支給額の元となる情報です。
「支給項目」は、基本給のほか、残業手当など勤怠項目の情報をもとに計算された給与金額が記載されます。そのほか、役職手当や家族手当といった情報も合わせて記載します。支給項目の合計が「総支給額」となります。
「控除項目」では、健康保険料や介護保険料といった社会保険料のほか、所得税、財形貯蓄など給与から控除する額を記載します。この総額が、「控除額」となります。
以下に、さらに詳しい各項目に記載する情報について説明します。
勤怠項目
勤怠項目では、一般的に以下の内容を記載します。
・勤務日数:給与計算の月で出勤した日数
・有給消化:有休を取得した日数・時間数
・有給残日数:残っている有給の日数
・時間外労働:法定労働時間を超えて残業した時間数
・深夜残業:深夜22時から翌5時の間に勤務した時間数
・休日残業:法定休日に勤務した時間数
・遅刻、欠勤、早退:遅刻や早退、欠勤をした日数または時間数
これらの勤怠項目は給与計算の元となりますが、すべての項目を給与明細に記載しなければいけないという法律上の決まりはありません。
ただし、勤怠情報は法定帳簿である賃金台帳の必須項目になっているうえ、「時間外労働」「深夜残業」「休日残業」には割増賃金が発生します。こうした勤怠管理が適切になされていない場合、労働基準法違反に該当する恐れがありますので、適切な管理が必要です。
支給項目
支給項目には、以下の内容を記載します。
・基本給:各従業員ごとに雇用契約で定められた金額を記載します。時間外労働等で発生した割増賃金分は含みません。
・残業手当:時間外労働分の賃金を記載します
・深夜手当:深夜手当の割増賃金に該当する金額を記載します
・休日手当:休日手当の割増賃金に該当する金額を記載します
・家族手当、通勤手当、役職手当等:就業規則に従い、従業員の状況に変化がないか確認した上で記載します。
・欠勤控除、遅早控除:欠勤や早退により差し引かれる金額を記載します。
控除項目
控除項目は、社会保険料と税負担分に分けられます。それ以外に、会社が独自に設定している控除もあります。
社会保険料
会社に勤めていて加入する社会保険制度は、健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険、厚生年金保険の5種類あります。労災保険のみ会社が全額負担しますが、それ以外の保険では従業員の負担分があるため、給与から控除という形で会社が納付します。なお、介護保険料の支払いは40歳以上の従業員が対象です。
税負担分
所得税、住民税が該当します。所得税は、毎月の給与から所得税を計算し、給与から天引きして国に納付しています。これを、「源泉徴収」といいます。源泉徴収では、実際の1年間に稼いだ額と納める所得税額に差額がうまれます。これを計算し調整するのが「年末調整」です。
住民税は、各従業員の住民票のある市区町村・都道府県に納める税金です。住民税は前年1月から12月の所得に対して加算されます。住民税も給与から天引きし、会社が本人の代わりに納付する形式をとっており、これを「特別徴収」といいます。
その他控除
給与から天引きする財形貯蓄、持株会、労働組合の組合費などが該当します。会社によって、さまざまな控除があります。
給与明細の発行義務は?
給与明細を必ず発行しなければいけない義務は、労働基準法ではなく、所得税法第231条において定められています。
また、健康保険法においても、労働保険料の控除額を記載し通知する義務があります。そのため、企業は給与明細書を従業員に必ず交付しなければいけません。
もし、給与明細を発行していない場合、所得税法の第242条に定められる罰則にもとづき、1年以下の懲役、または50万円以下の罰金を科せられる恐れがあります。
給与明細の保管期間は?
給与明細の保管義務は、企業側・従業員側ともにありません。しかし、確認書類として一定期間の保管が理想とされます。
企業側
企業は、給与明細を発行する義務はありますが、給与明細を保管しておく義務はありません。ただし、給与計算の元となる労働日数、労働時間数、時間外労働数を記載した賃金台帳は3年間の保管が義務付けられています。
厚生労働省
従業員側
給与や残業代の未払いを請求する「賃金請求権」は現在は3年です。そのため、3年間分の給与明細を残しておくことは、万が一の未払いに備えた証拠になります。また、退職金の請求権は5年です。
給与明細は、自分で確定申告を行う場合や住宅ローンを申請する際などにも使用します。一定期間数を残しておくことで、自分の収入を証明する書類となります。
厚生労働省
給与明細の内容に間違いがあった時の対処方法
給与明細の内容に誤りがあった場合、気づいた時点で速やかに対処します。まず重要なのが、本人に誤りがあった旨を伝えることです。通知もなしに秘密裏に処理するのは、不信感につながります。
給与を過払いしてしまった場合
当月から翌月支給の間に精算をしましょう。翌月分の給与から過払い分を差し引く処理をするときは、必ず事前に従業員の同意を得ます。
給与が不足していた場合
給与は、「全額支払いの原則」があります。不足分を翌月の支払いに持ち越すことは法律に抵触する行為です。そのため、速やかに不足分を計算し、支払いを行います。
過払いの場合も不足している場合も、いずれにせよミスがあった場合は、正しい給与明細を作成し、変更点を通知した上で従業員に交付しましょう。
給与明細の記載ミスを防ぐ方法
給与計算は、毎月1回行わなければいけない業務です。従業員本人の勤怠情報だけでなく、社会保険料の改定など法律の変更、さらには引っ越しや結婚といったプライベートの状況の変化も関わってきます。
給与明細の記載ミスがあった場合、総支給額だけでなく、場合によっては所得税や雇用保険料の再計算が必要です。ミスが極力発生しないために、以下の点に気を付けるとよいでしょう。
給与計算のルールを整備する
先にも説明した通り、給与計算はさまざまな情報が関連しています。そのため、すぐに金額の計算に取り掛かるのではなく、元となる情報を確認した上で、給与計算を行うことが重要です。
具体的には、まずは従業員本人の情報をチェックします。住所、扶養家族の人数に変更がないか、基本給や役職手当の額に変更がないかなどこの時点で確認できます。
ほかにも、「40歳の誕生日」「部署移動」「介護休業」「育児休業」など、支給額や控除額の変更に関わる情報がいくつもあります。こうしたチェック項目を一覧にし、どの順番で確認作業をしながら計算を行うのか、マニュアル化しておくことでミスを減らすことが可能です。
給与計算をアウトソーシングする
従業員の数が多ければ多いほど、給与計算業務の負担が増えます。そうした場合、給与計算自体を専門の会社にアウトソーシングをするのも一つの方法です。勤怠情報を提出するだけで、必要な計算および給与明細の作成・交付といった一連の流れを任せることができます。
給与計算システムを導入する
給与計算システムは、入力した勤怠情報に基づき給与計算を自動的に行ってくれるシステムです。課税控除額の変動など法律のアップデートにも対応しているため、給与計算担当の業務負担を減らし、効率的に給与計算を行うことが可能です。
また、給与計算は正しくても、給与明細の作成時に数字を間違えたり、名前を取り違えたりする可能性があります。そうしたミスには、給与明細の電子化システムを導入するのも良い方法です。
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企業の信頼を守るために給与明細項目の正しい記載を
給与明細の発行は企業の義務です。正しい勤怠情報を入力し、法律に従った正確な計算に基づく支給は、企業活動を行う上で欠かせない業務といえるでしょう。給与明細の内容を理解し、正しい作成を心がけましょう。
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