社員が会社を退職する際に、人事部では複数手続きが発生しますが退職証明書の発行が必要な場合があることをご存じでしょうか。退職証明書は通常必ず発行する書類ではないため、人事部担当者の方でも聞いたことがない方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では、退職証明書の意味、離職票との違い、法律上の発行義務、発行時期、記載内容・テンプレートなど紹介します。退職証明書に関する内容と併せて、会社側が必要な手続きや注意点、退職を防ぐための3つの対策方法も説明するので、手続きの担当者はぜひご確認ください。
退職証明書とは
退職証明書とは、当該社員が会社を退職していることを証明する書類です。
会社を退職する社員から求めがあった場合に、会社が発行しなければなりません。「退職する場合」には、自己都合の退職のほか、解雇、懲戒解雇、契約期間の満了などが含まれます。
中には、トラブルを避けるために退職者全員に退職証明書を発行する企業もあるようです。ただ、公の場で退職証明書が必要となるケースはそれほど多くないため、基本的には退職者からの求めがあった場合に発行する形で問題はありません。
退職証明書と離職票の違い
退職証明書と混同されやすい書類に離職票があります。離職票も退職証明書と同じく、退職者から求めがあった場合に発行される書類です。ただし、離職票は退職者が失業保険の給付金を申請する際には、必ず用意しなければならない書類となります。退職者が在職中に転職先が決まらなかった場合などに発行されるでしょう。
離職票は企業が直接発行する書類ではなく、企業が離職証明書をハローワークへ提出して、ハローワークから企業を経由して離職票が交付されます。企業はハローワークへ離職証明書を、退職者が被保険者資格を喪失した翌日を起点として、10日以内に提出しなければなりません。そのため、離職票の有無は早めに確認して、準備しておくことが大切です。
離職票を給付金申請時にハローワークへ提出する書類として使用する場合は、退職証明書を代わりの書類として使用することはできません。
退職証明書の発行義務とは
では、退職証明書に法律的な発行義務はあるのでしょうか。
企業の退職証明書の発行義務はあります。労働基準法第22条に明記されている内容は下記の通りです。
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
労働基準法第22条
このように、退職する社員が退職証明書を企業に請求した場合は、企業は迅速に発行しなければなりません。
退職証明書が必要な3つの場合
それでは退職証明書が必要とされるのには、どのような場合があるのでしょうか。
ここでは、主に3つの場合について説明します。
国民健康保険・国民年金を申請する場合
退職後に国民健康保険や国民年金の手続きをする方は、退職日がわかる証明書が必要です。国民健康保険・国民年金ともに退職日から14日以内に窓口で手続きをしなければなりません。離職票が発行されている場合であれば、そちらを使用することができます。
離職票の発行が間に合わず、先に手続きを行いたい場合などには退職証明書を発行してもらい提出しましょう。
失業保険申請時に離職票が間に合わなかった場合
失業保険の申請時に、何らかのトラブルで離職票が発行されていない場合に、取り急ぎ退職証明書で手続きを進められるハローワークもあります。しかし、基本的には離職票により手続きを行うことが必要です。
一時的に手続きを進められたとしても最終的には必要な書類であり、退職者とのトラブルとなったりハローワークから指導を受けたりといったことにつながります。何かトラブルで離職票手続きが滞っている場合には、迅速に退職証明書を発行し、できる限り早く離職票を用意しましょう。
転職先から請求があった場合
退職者が転職先から退職証明書の発行を求められる場合があります。
企業によっては履歴書に記載された内容通り、退職した企業に在籍していたかどうか確認をとるケースがあるのです。
退職したあとの面接時に、退職証明書の提出が可能かどうか聞かれる場合があるので、退職者は退職した企業と連絡が取れるようしておくことが必要でしょう。
退職証明書はいつ発行されるか
企業は退職証明書を滞りなく迅速に発行する義務があります。
退職者から求めがあった場合には、遅滞なく発行するようにしましょう。多くの企業では、即日から10日程度までに発行しています。
退職証明書の申請期限
退職者が退職証明書の発行を企業へ請求できる期間は2年以内と定められています。2年内であれば、退職者は企業に対して何回でも退職証明書を発行してもらうことができるのです。企業は2年を過ぎてから退職者から退職証明書を求められたとしても、応じる必要はありません。
退職証明書の記載内容
退職証明書は退職者の求めを基に、下記5つの内容を記載します。
- 使用期間
- 業務の種類
- その事業における地位
- 賃金
- 退職の理由(解雇の場合はその理由を含む)
5の退職の理由(解雇の場合はその理由を含む)は1998年の労働基準法の改正時に加筆されました。また、これらの記載内容は法定記載事項ですが、退職者が請求しない内容については記載することが禁止されています。退職証明書を発行する際には、事前に必ず退職者に記載内容を確認してから作成してください。
また、退職証明書には、労働者の就業を妨げることを目的として、記載することも禁じられています。
退職証明書のテンプレート
それでは、実際に退職証明書を発行する際には、どのような文書を作成すればよいのでしょうか。
厚生労働省が退職証明書のテンプレートを公開していますので、紹介します。
退職証明書以外に必要な会社側の手続き
人事担当者は退職証明書以外にも、社員の退職時には多数の手続きが必要です。
ここでは、社員の退職時に必要な人事部担当の手続きを紹介します。
健康保険・厚生年金の手続き
会社は、健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届を退職日の翌日から5日以内年金事務所への提出することが必要です。
健保の場合、退職者より被扶養者分を含めて健康保険被保険者証を回収し添付します。また下記書類が交付されている場合には併せて提出します。
- 高齢受給者証
- 健康保険特定疾病療養受給者証
- 健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証
届出をすると、年金事務所より健康保険被保険者資格喪失確認通知書が交付されます。退職者から国民年金の加入などのために求めがあった場合は、コピーしたものを配布します。
もし、退職者が任意継続を希望する場合は、資格喪失後20日以内に本人が手続きを行わなければならないことを説明しましょう。
雇用保険の手続き
会社は退職日の翌日から10日以内に、雇用保険被保険者離職証明書(※離職票が必要な場合のみ)と雇用保険被保険者資格喪失届をハローワークへ提出します。
雇用保険被保険者離職証明書は、退職者が内容を確認したことが証明できるよう署名を得てから提出することが必要です。
雇用保険被保険者離職証明書を提出した場合は、ハローワークから離職票を受け取り退職者へ渡します。
住民税の手続き
給与から天引きしていた住民税について、徴収方法の変更手続きが必要です。
給与支払報告・特別徴収にかかる給与所得者異動届を退職日の翌月の10日までに
税務課へ提出しましょう。
給与から天引きの場合、毎年6月~翌年5月の期間で住民税を徴収しており、退職時期によって給与・退職金からの一括天引きか普通徴収への切り替えか異なります。担当者は時期に応じて注意して徴収するようしてください。
源泉徴収票等の手続き
会社は給与・賞与など課税対象について所得税・住民税の源泉徴収を行います。
源泉徴収票を作成して退職日から1ヵ月以内に退職者へ交付します。源泉徴収票は再就職する場合には再就職先での年末調整に、再就職しない場合には本人が行う確定申告に使用される書類です。
退職金の支払い手続き
会社は退職者から「退職所得の受給に関する申告書」を提出してもらい、退職金にかかる税金を計算します。こちらの申告書は税務署長から提出の依頼がない限りは、会社が保管しておきます。
申告書を基に税額を確定し、退職金の支払い手続きを行いましょう。また、退職金を支払う場合は給与・賞与の源泉徴収票とは別に、「退職所得の源泉徴収票」を交付することが必要です。
退職手続き時に注意したい3つのポイント
ここでは、退職時に忘れがちな注意しておきたい3つのポイントを紹介します。
従業員持株会の退会手続き
社員が従業員持株会に加入している場合は、忘れないように退会手続きを行いましょう。
従業員持株会とは、社員が自社株を取得することを推奨する制度で、給与から毎月定額で天引きされ自社株を購入できます。従業員持株会制度を持つ会社の中には、購入株の数量に合わせて奨励金を設けている場合も少なくありません。
従業員持株会はあくまでも社員に向けた制度であるため、退職時には退会しなければなりません。退会後、所有している株式を自分の名義に書き換えて個人口座を開設して預け入れます。上場していない企業については、従業員持株会に買い取ってもらうことになるでしょう。
財形貯蓄の手続き
退職者が財形年金貯蓄や財形住宅貯蓄など財形貯蓄をしている場合には、退職から一定期間経過してしまうと課税扱いになるため、会社は金融機関に「退職等の通知書」を提出することが必要です。解約の条件については、各契約の定めによります。
転職先で財形貯蓄制度が導入されている場合には、転職先で必要な手続きを踏むことで継続できます。同一の金融機関での取り扱いがない場合も、退職日から2年以内であれば他の金融機関に変更可能です。
法定管理期間対象書類の保管
社員の退職後も、法定管理期間対象書類の個人情報について保管義務の年数保管しておくことが必要です。労働基準法、雇用保険法、厚生年金法、健康保険法、所得税法などの法律により定められています。
該当する書類と年数を確認して、処分期日を忘れないよう明記しておいて保管しましょう。個人情報は流出してはならない重要書類であるため、法定管理期間を過ぎたものは迅速に処分しましょう。
退職を防ぐための4つの対策方法
これまで退職証明書を中心に退職にかかる手続きについて紹介してきましたが、企業にとってそもそも重要なのはいかに離職者を減らすかです。
ここでは退職を防ぐために有効な4つの対策方法を紹介します。
働きやすい制度の拡充
社員が働きやすいよう制度を拡充していくことは、退職防止のよい対策方法です。
高度経済成長期から時代は変化し、仕事の在り方についてワークライフバランスを重視した価値観を持つ人が増えています。
そんな中、「仕事にやりがいがあること」を前提として、社員にとって魅力的な制度を充実させることが大切です。例えば、リモートワーク制度の導入や、時短勤務、フレックスタイム制など柔軟に働き方を選べる体制を整えます。
また、自社独自の特別休暇の創設、有給休暇取得の促進、時間単位有給休暇の取得など休暇制度を充実させるのもよいでしょう。働きやすい制度の拡充は、会社の魅力度アップやブランディングに役立ち、求職者へのアピールポイントとしても有効です。
社内コミュニケーションの活性化
過ごしやすい会社の条件として、同僚同士仲が良くコミュニケーションが円滑であることが挙げられます。社内のコミュニケーションを活性化するためには、社員同士の裁量に任せるのではなく組織として積極的にそのための仕組みを導入することが大切です。
週に一回、部門間でランチ後の雑談時間を設けたり、上司への進捗状況の報告についてこまめに対話できる時間を設定するなど、決まりごととしてコミュニケーションの時間をつくるとよいでしょう。
また、最近ではピアボーナスと呼ばれる同僚同士で感謝をポイント(ボーナス)で送り合うことができるクラウドシステムなどコミュニケーションを活性化させるシステムも登場しています。そういった面白いシステムも活用しながらコミュニケーションの活性化を目指しましょう。
目標管理制度の導入
社員の離職を防ぐためには、社員にやりがいを持って仕事に取り組んでもらうことが大切です。そのために、目標管理制度を導入するのもよいでしょう。目標管理制度とは、企業の目標と個人の目標とをリンクさせ、社員自ら目標を設定・管理することで、「やらされる感」のない自発的な成果を生む手法です。
目標管理制度はノルマ管理制度であるとして、勘違いさた運用をされることがありますが、それは本来の目標管理制度ではありません。
社員と上司とがコミュニケーションを取りながら、個人の目標と組織の目標をリンクさせることで社員の「やりがい」を引き出し、働きやすさを向上させることを意図とします。
人事評価制度の見直し
仕事の成果や頑張りが評価へと反映されるよう、公正公平な人事評価制度へと見直しを行うことも重要です。従来から日本でよくある人事評価制度は、社歴や年齢で報酬が決まる仕組みとなります。
しかし、このような従来からある人事評価制度では、社員一人ひとりの頑張りが報酬に反映されないため、優秀な人材程やりがいを失ってしまいやすい課題がありました。しかし、人事評価は単純に数字や成果だけでは測れない要素が多くあるため、構築が難しい分野でもあります。
そこで最近では、360度評価、コンテンピシー評価、タレントマネジメントなど新たな手法も登場してきています。経験豊富な専門家の力も借りながら、自社ならではの人事評価制度構築を目指しましょう。
退職証明書は退職者の求めに応じて迅速に対応しよう
退職証明書は、退職者の求めに応じて発行しなければならない書類です。
人事担当者は書類の内容、必要とされる場面、他の書類との違いなどしっかりと理解した上で対応するようにしましょう。
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