雇用保険の被保険者になっていた人が離職後に失業保険の給付を受けるためには、一定の条件を満たす必要があります。また、給付開始時期や給付金額、給付日数などは離職理由や離職時の年齢層、雇用保険の被保険者となっていた期間などにより異なります。
本記事では、失業保険の給付条件や申請手続き、失業保険受給時の注意点などについて解説します。社員の離職時に失業保険受給手続きについて説明する立場の人事担当者はぜひ、本記事の内容を参考にしてください。
失業保険とは
失業保険とは社会保険の一つで、労働者が失業した際に一定期間の所得を保障することによって労働者の生活を保障し、再就職を支援するというものです。日本の失業保険制度においては就業中に一定期間、保険料を納付していたことが失業給付を受給する前提となります。
資本主義社会では長期間に及ぶ失業は生活や命を脅かすことになりかねません。そのため、何も保障がなければ労働者は劣悪な職場でも就労せざるを得ない状況になり、結果として憲法で保障されている「職業選択の自由」が失われます。失業保険や失業給付の制度は失業後の一定期間、生活の心配をすることなく再就職活動に専念できるようにするものです。
失業保険の条件とは
雇用保険の被保険者であれば、離職の理由を問わず失業保険の受給が可能です。ただし、以下3つの条件を満たす必要があります。
- ハローワークで求職申込みをするなど、再就職活動を積極的に行っている
- 離職後、いつでも就職できる状態である
- 一定期間、雇用保険の被保険者になっていた
ちなみに、失業保険を受給するために必要な被保険者期間は、離職理由によって違います。失業保険を受けるために必要な被保険者期間は月単位で計算する仕組みで、11日以上就業した月、または、80時間以上就業した月を「1カ月」と考えます。
被保険者ではない期間(空白期間)が1年以内であれば、複数の勤務先の被保険者期間を通算することが可能です。なお、休職や長期欠勤などによって賃金が発生しなかった月があれば、その月を含めずに被保険者期間を計算します。
雇用保険の受給資格がある人は、離職理由ごとに「一般の離職者」「特定受給資格者」「特定理由受給者」の3種類に分類されます。それぞれの受給条件に付いて、以下で解説します。
1.一般の離職者
一般の離職者とは自己都合による退職、あるいは、従業員本人が就業規則違反など重大な過失を犯したために解雇・重責解雇・懲戒解雇処分などを受けた場合の退職をした人を指します。ちなみに、一般の離職者は雇用保険の手続き上、「正当な理由のない自己都合退職者」と呼ばれることもあります。
一般の離職者が失業保険を受給するためには、離職日からさかのぼって2年以内に合計12ヶ月以上、雇用保険に加入していなければなりません。
2.特定受給資格者
特定受給資格者とは、会社の倒産による失業や会社都合による解雇などによって、やむを得ず退職した人を指します。特定受給資格者は一般の離職者よりも受給条件が優遇されており、離職日からさかのぼって1年以内に合計6カ月以上、雇用保険に加入していれば失業保険の受給が可能です。
くわえて、次に述べるような事情で退職した人も、公共職業安定所の審査によっては特定受給資格者に認定されるケースがあります。該当する人は公共職業安定所に相談してみるとよいでしょう。
- 会社から退職勧奨を受けた
- 退職日からさかのぼって直近6ヶ月以内に、45時間以上の時間外労働が連続で3ヶ月以上あった
- 退職日からさかのぼって直近6ヶ月以内に、平均して80時間以上の時間外労働があった
- 有期雇用契約を更新すると確約されていたにもかかわらず、雇い止めにあった(契約更新がなかった)
- パワハラやセクハラなど、業務上でのハラスメント行為を受けた
3.特定理由受給者の場合
特定理由受給者とは、有期雇用契約の満了後に契約を更新しなかったり、育児や介護、自分自身のケガや病気など正当な理由で退職したりして失業した人を指します。特定理由受給者は、離職日からさかのぼって1年以内に合計6カ月以上、雇用保険に加入していれ失業保険の受給が可能です。
ちなみに、退職した時点では一身上の理由と申告していた場合でも、妊娠・出産・育児のために受給期間の延長を受けた場合は特定理由受給者となります。
失業保険の条件を満たすといくらもらえる
1日にもらえる失業保険の金額を基本手当日額といいます。基本手当日額は60才未満の人が賃金日額の50~80%。60才以上65才未満の人が45~80%が目安です。ただし、受給者の年齢層によって、計上できる賃金日額と基本手当日額に上限が設けられています。下限については全年齢で共通です。
基本手当日額は以下の計算式で算出できます。
退職日から直近6ヶ月分の合計賃金÷180
例外として、勤務日数が11日未満の月や労働時間が80時間以内の月は計算に含めません。また、計上して良い賃金とは基本給や通勤交通費、有給休暇を取得した日の給与、休業手当、役職手当や職務手当など各種手当に限られます。ボーナスや退職金は含めずに計算する点に注意しましょう。
基本手当日額に計上できる賃金日額と基本手当日額の上限・下限額は毎年8月1日に改定されます。2021年8月1日改定の金額は以下の通りです。
計上できる賃金日額の上限額と基本手当日額の上限額
離職時の年齢層 | 賃金日額 | 基本手当日額 |
29才以下 | 13,520円 | 6,760円 |
30才~44才 | 15,020円 | 7,510円 |
45才~59才 | 16,530円 | 8,265円 |
60才~64才 | 15,770円 | 7,096円 |
・賃金日額と基本手当日当の下限額
辞職時の年齢層 | 賃金日額 | 基本手当日額 |
全年齢 | 2,577円 | 2,061円 |
失業保険の給付日数の条件
失業保険の給付日数は退職理由と雇用保険加入期間によって異なります。特に、会社都合で退職した場合は年齢層ごとに受給期間が設定されています。
なお、失業保険の受給有効期間は原則として1年間ですが、出産・育児や介護、ケガや病気など離職する「正当な理由」によって再就職活動が30日以上できない場合であれば、受給有効期間を最大3年間まで延長可能です。
以下で、受給資格者の種類ごとに年齢別の失業保険受給期間を紹介します。
自己都合退職時の失業保険給付期間と給付制限期間
雇用保険の被保険者期間 | 給付日数 |
10年未満 | 90日 |
10年以上20年未満 | 120日 |
20年以上 | 150日 |
上記にくわえて、正当な理由がなく自己都合退職した場合や重責解雇・懲戒解雇された場合は給付制限期間が3カ月間、設けられます。ただし、正当な理由による自己都合退職が直近5年間で2回以内の場合、給付制限期間は2カ月間です。
会社都合退職時の失業保険受給期間(年齢層別)
特定受給資格者(会社都合で退職した人)や、特定理由受給者(有期雇用契約が満了後に更新されなかったために退職した人など)は、自己都合退職者よりも失業保険の給付日数が増えます。ただし、雇用保険の被保険者期間が1年未満の場合は離職時の年齢を問わず、受給期間は90日間です。
・会社都合退職時の失業保険給付日数(離職時の年齢別)
雇用保険の 被保険者期間 | 辞職時の年齢層 | ||||
30才未満 | 30~34才 | 35~44才 | 45~59才 | 60~64才 | |
1年~5年未満 | 90日 | 120日 | 150日 | 180日 | 150日 |
5年~10年未満 | 120日 | 180日 | 180日 | 240日 | 180日 |
10年~20年未満 | 180日 | 210日 | 240日 | 270日 | 210日 |
20年以上 | 240日 | 270日 | 330日※ | 240日 |
会社都合の退職の場合は、被保険者期間にくわえて離職時の年齢にも配慮されています。
退職時に65才以上の場合の失業保険給付日数
65才以上で退職した場合は、高年齢求職者給付金という形で失業保険が一括支給されます。高年齢求職者給付金の給付日数は雇用保険の被保険者期間によって異なります。また、正当な理由がない自己都合退職時や懲戒解雇・重責解雇を受けた時は給付制限が適用されます。
・65才以上の人の失業保険給付日数
雇用保険の被保険者期間 | 給付日数 |
1年未満 | 30日 |
1年以上 | 50日 |
再就職が難しい場合の失業保険受給日数
社会的事情により再就職が困難とみなされる場合、たとえば、心身に障害を持つ人や保護観察中の人などの場合は、以下の通り、失業保険の給付日数が長めに設けられています。被保険者期間が1年未満の場合は年齢を問わず150日、1年以上の場合は45才を境目に300日あるいは360日です。
・再就職が困難な人の失業保険給付日数
雇用保険の被保険者期間 | 辞職時の年齢層 | |
44才まで | 45才~64才 | |
1 年未満 | 150日 | |
1年以上 | 300日 | 360日※ |
失業保険の申請手続き
失業保険の申請から失業保険の基本手当日額を受け取るまでの主な手続きは以下の5つです。
- ハローワークで受給資格確認手続きを行う
- 受給説明会に参加する
- 求職活動を行う
- 失業認定を受ける
- 受給
各手続きについて以下で解説します。
ハローワークで受給資格確認手続きを行う
失業保険の給付は再就職の意思が前提となるため、まずは現住所を管轄するハローワークに出向き、求職手続きをしなければなりません。失業保険申請手続きも並行して行います。当日、持参するものは以下の通りです。
- 雇用保険被保険者離職票1と2(離職後、約1~2週間で退職した会社から郵送、あるいは、メールにPDFファイル添付で送信)
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど官公署が発行した写真付き身分証明書)
- マイナンバーカード、あるいは通知カード(個人番号通知書)
- 証明用写真2枚(3cm×2.5cm、最近撮影したもので正面上三分身)
- 失業保険の振込先銀行口座の通帳またはキャッシュカード(本人名義のもの)
求職手続きと失業保険申請手続きを済ませると受給資格が決定され、「雇用保険受給資格者のしおり」が交付と受給説明会日時の告知があります。
受給説明会に参加する
上記で指定された日時の受給説明会には必ず参加しなければなりません。雇用保険受給に関する重要事項の説明があるので、しっかりと聞いておきましょう。当日は「雇用保険受給資格者のしおり」と筆記用具が必要です。この日に「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」の交付と第1回の失業認定日の告知があります。
求職活動を行う
失業保険基本手当を受給するためには、第1回の失業認定までに最低でも1回の求職活動が必要です。また、その後は毎回の認定対象期間中に原則として2回以上の求職活動が必要です。また、
認定対象期間とは、前回の失業認定日から今回の失業認定日前日までの4週間をいいます。また、求職活動として認められるものは主に以下の5つです。ただし、公共職業訓練の受講期間や採用通知を待っている期間などは求職活動が不要の場合もあります。
- 求人への応募
- ハローワークが実施する職業相談、職業紹介、各種講習、セミナーを受けること
- 認定された民間機関が実施する職業相談、職業紹介、セミナーなどを受けること
- 公的機関などが実施する職業相談、各種講習・セミナー、個別相談ができる企業説明会などの受講、参加
- 再就職に役立つ各種国家試験、検定など資格試験の受験
求人情報の閲覧や知人などへ再就職先の紹介依頼をしただけでは失業保険受給に必要な求職活動と認められず、失業認定を受けられない場合がある点に注意しましょう。
失業認定を受ける
失業認定とは、失業状態にあることの確認です。失業保険を受給するためには、原則として4週間ごとの指定された日にハローワークに出向いて失業認定を受けなければなりません。失業認定日には受給説明会で交付された失業認定申告書に求職活動の状況などを記入して雇用保険受給資格者証と一緒に提出します。
受給
原則として失業認定日から5営業日後に失業保険基本手当が振り込まれます。ただし、年末年始や休祝日がある時期は遅れる場合があります。受給有効期間内に、上記で説明した給付日数を上限として、失業保険の受給が可能です。逆に、受給有効期間を過ぎてしまうと、所定給付日数が残っていても失業保険を受給できなくなります。
失業保険の受給資格があるのは原則的に離職日の翌日から1年間です。例外として、出産・育児・介護・ケガや病気などの正当な理由によって求職活動がすぐにできない場合は最長3年間まで受給有効期間を延長できます。
失業保険はいつから受給できるか
失業保険の受給が開始される時期は、離職者の種類によって異なります。
特定受給資格者と特定理由受給者の場合は受給権利確認の約4週間後から需給が可能です。なお、一般の離職者の場合、受給権利確認からおよそ2カ月強(※)を経過した後に受給できます。受給権利確認から受給までの流れについて以下で解説します。
※過去5年間に自己都合退職を2回以上している場合は3カ月強
最初にハローワークで受給権利確認をした後、すべての受給権利者に対して7日間の待機期間が設けられています。その後、失業認定まで約4週間が必要です。
失業認定されたら、特定受給資格者と特定理由受給者には1回目の失業保険が振り込まれます。つまり、特定受給資格者と特定理由受給者の場合、最初にハローワークに行った日から約5週間後から失業保険の受給が可能です。
一方、一般の離職者は約2カ月間の給付制限期間を経て2回目の失業認定を受けてからでないと、1回目の失業保険を受け取れません。つまり、一般の離職者の場合は最初にハローワークに行った日から約2カ月+7日間を経過してから失業保険を受給できます。
失業保険の条件の注意事項
失業保険の受給にあたって、いくつか注意事項があります。ここでは主な注意事項として以下の5点について解説します。
- アルバイト・パートをしている場合
- 扶養家族になっている場合
- 就職した場合
- 年金を受給している場合
- 職業訓練を受ける場合
アルバイト・パートをしている場合
アルバイト・パート先で雇用法権の被保険者になっている場合や労働時間によっては、失業保険の受給ができなかったり、収入額によって失業保険が減額されたりする場合があります。その判断はハローワークが行うため、くわしくは現住所を管轄するハローワークに問い合わせてください。
まず、以下の場合は就職している期間とみなされるため、実際に就業したかどうかを問わず、失業保険は給付されません。
- 雇用保険の被保険者である期間(原則として週の所定労働時間が20時間以上、31日以上の雇用が見込まれるもの)
- 契約期間が7日以上の雇用契約で週の所定労働時間が20時間以上かつ週4日以上就労する場合、その契約で就労が継続している期間
なお、ハローワークに「就職状態」とみなされない場合はアルバイトをしていても失業保険の受給手続きは可能です。ただし、就業した日は失業保険の給付対象外となったり、収入額によって給付額が減ったりする場合があります。
一般の離職者の場合、給付制限期間中にアルバイトやパートなどをした場合はその旨を正確に申告しなければなりません。初回認定日と、2~3カ月間の給付制限期間が明けた最初の認定日に、失業認定申告書に就業した日などを正確に記入して申告してください。その後の認定対象期間においても同様です。
上記の申告をせずに失業保険を受給すると不正受給となり、以降の失業保険給付が停止するばかりではなく、不正受給額の3倍の金額を納付するように命じられるおそれがあります。
扶養家族になっている場合
親族や配偶者などの扶養家族になっている場合でも、失業保険受給要件を満たしていれば失業保険を受給できます。ただし、失業保険を受給している場合は扶養家族になれないケースもあるため、扶養者の勤務先の福利厚生担当または扶養者が加入している健康保険組合などに確認が必要です。
再就職した場合
再就職が決まった場合は住居所を管轄するハローワークに出向いて申告する必要があります。申告のタイミングは就職日が次回認定日より後であれば次回の認定日、就職日が次回認定日より前の場合は就職の前日(土日祝日の場合はその前の開庁日)です。ただし、給付制限期間中に就職する場合は就職日前日に来所する必要はありません。再就職の申告にあたり、就職先が発行する採用証明書が必要です(後日の郵送も可能)。
また、早期の再就職の場合、失業保険の所定給付日数が3分の1以上あるなどの支給要件を満たせば再就職手当を受給できる可能性があります。再就職手当の支給要件は8つあり、その全てを満たさなければなりません。
なお、失業保険の受給手続きをする前に再就職先が決定した場合、失業保険も再就職手当も受給できない点に注意が必要です。
くわえて、再就職手当の受給後であっても、受給期間が満了する前に再び離職した場合、支給日数が残っていれば再び失業保険を受給できます。再就職先で新規に失業保険の受給資格を獲得後に離職した場合は新しい受給資格に基づいて失業保険が給付されます。
年金を受給している場合
年金受給者が失業保険の受給手続きをすると、受給期間中は老齢厚生年金・退職共済年金の支給が停止されます。これは、65才になるまでの失業保険と年金の供給調整が行われるためです。併給調整に関する詳細は日本年金機構の各年金事務所へ問い合わせてください。
職業訓練を受ける場合
失業保険を受給するためには失業認定を受ける必要があり、失業認定には原則的に積極的な求職活動が必要です。ただし、公共職業訓練を受ける場合、求職活動をしていなくても失業認定され、失業保険を受給できる場合もあります。くわしくは住居所を管轄するハローワークに問い合わせてください。
失業保険の条件をよく確認して適切な手続きを行おう
失業保険の給付額や給付期間、給付開始時期などは、離職の理由や離職時の年齢層、雇用保険の加入期間などによって異なります。
また、離職時は一般の離職者(正当な理由のない自己都合退職者)であった人でも、出産・育児・介護・ケガ・病気など離職する「正当な理由」が生じた場合は受給期間の延長が可能です。失業保険の受給条件をしっかりと確認したうえで適切な手続きを行いましょう。
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