ピッチとは?プレゼンの違いやメリット・デメリット、やり方を解説

ピッチとは短時間で要点を相手に伝えることで、相手の決断を引き出しやすいとして注目されている手法です。ピッチは、プレゼンのように長時間相手の時間を確保する必要がないため実施しやすく、短時間で決裁に結びつきやすいとしてスタートアップを中心に知られるようになりました。

本記事では、ピッチについて、プレゼンのとの違い、メリット・デメリット、やり方、やり方のコツ、事例など紹介します。

ピッチとは

そもそもピッチとは、同じことを繰り返すなどの場合に起こる、一定の間隔の速度や回数のことを言います。その他に、作業や仕事の効率、ねじのねじ山や歯車の歯の間隔、音の高さ、コールタールや石油原油など蒸留した後に残る黒色の残留物のことなどの意味です。

ビジネスの現場では、ベンチャー企業・スタートアップを中心に、ピッチと呼ばれる短時間で行うプレゼンが注目されるようになっており、この意味でピッチという言葉を使用するケースが増えています。

2010年頃からアメリカのスタートアップを取り上げた映画が流行した影響で、「エレベーター・ピッチ」という言葉が日本でも取り上げられました。有名な投資家は日々膨大な案件が持ち込まれるため、スタートアップが画期的なアイデアを持っていても時間を作ってもらうことは難しいです。そのため、投資家と居合わせたエレベーターでのわずかな時間で、事業への出資に興味を持ってもらおうと考え、これがピッチの由来と言われています。

ピッチとプレゼンの違いとは

ピッチとプレゼンとの違いは具体的に何なのでしょうか。
ピッチは限られた時間の中で相手の心をつかみ決断へと導くことを目的としています。相手にピッチをする時間は3分から5分程度で、エレベーターであろうとも場所はどこでも問いません。ピッチを行う対象者は決裁権を持つ人であり、その場でなんらかの結果を得ることになります。

一方、プレゼンの場合は、自らの提案を聞いてもらい採択されることを目的として、数十分から1時間程度行われます。事前に用意された会議室などの会場に集まってもらい、担当者数名に向けて実施されるでしょう。その場ですぐに判断を仰ぐというよりも、時間をかけて判断してもらうことになります。

決裁の必要な重要案件については、その場に決裁者がいない場合さらに、経営陣にむけてのプレゼンが行われたり会議にかけられたりするなど決裁までに時間がかかるのが特徴でしょう。

ピッチの4つのメリット

ここでは、ピッチのメリットを主に4つ紹介します。

決裁を取り付けやすい

ピッチのメリットの一つ目は、相手から望む決裁を取り付けやすい点です。通常のプレゼンでは、その場での決裁を前提としないものも多く、「プレゼンの準備に時間がかかったけど、何も決まらなかった・進まなかった。」という事も少なくありません。

ピッチの場合、そもそもYes・Noをその場で決めることを前提としているため、答えがその場で出るというメリットがあります。また、ピッチは短い時間の中で相手に決断を促すよう納得性の高い要点を盛り込むため、求める決裁を取り付けやすいメリットがあるでしょう。

誰でも資金を得られる可能性がある

主にベンチャー企業・スタートアップにとって、重要な資金源になりうるという点もメリットです。新興企業にとって新たな事業をはじめる際、独自性・成長可能性があったとしても失敗するリスクが高いために、銀行からの融資を得ることは簡単ではありません。

また、株式公開やベンチャーキャピタルの利用もある程度の実績や規模のある企業でなければ資金調達は難しいでしょう。ピッチはどのような形態の企業であっても、実力次第で資金を得られる点がメリットです。

経営者・投資家を惹きつけて投資したいと思わせることができれば、誰でも資金を得られる可能性があります。

実現可能性の高い事業を組み立てられる

実現可能性の高い事業へとブラッシュアップして立案できるのもピッチのメリットです。ピッチは短時間に相手を惹きつけるために、シンプルな要点を伝えます。しかし、その要点ができるまでには、つきつめて根拠を考え、いかに一番伝わる内容なのかを時間をかけて吟味するのです。

そのため、ピッチを作成すること自体が、本当に実現性がある事業なのか、どのように実現するのか、そもそも必要なのか、成長性が本当に見込めるのか、突き詰めて考えることになります。ピッチを行うことを通して、実現性の高い計画を練ることができるのです。

スピード感のある事業展開を行える

ピッチを行うことでスピード感のある事業展開を行えるのもメリットです。いかに独自性の高い事業を思いついたとしても、資金確保から実現するまでに時間がかかっていては、他の企業が先に進めてしまうリスクが高まります。

特にベンチャー企業・スタートアップにとっては事業の独自性は企業存続の上で重要なポイントです。独自性を模倣されないよう、ピッチで決裁を取り付けることができればスピード感を持って事業展開を行うことが可能でしょう。

ピッチの3つのデメリット

ここでは、ピッチの主なデメリットを3つ紹介します。

決裁目的ではない場合には向かない

ピッチは決裁を取り付けることを目的としたメソッドのため、決裁目的ではないが説明したことがある場合には向きません。

例えば、事業の進捗状況の報告や、研修などのために場を設ける場合はプレゼンの方が合うでしょう。ピッチはあくまでも短時間で相手に納得してほしい場合に有効な方法です。

詳細を説明できない

ピッチは3分から5分程度の短い時間で行うため、詳細な説明が必要な場合にはデメリットがあるでしょう。説明が必要な場合には、短時間で要点をおさえるのみならず時間をとって詳細に説明しなければならない場面もあるでしょう。

そのような場合には、5分程度までしか時間をかけられないピッチは、有効的な手法とは言えないでしょう。

準備に時間がかかる

ピッチは準備に時間がかかる点も留意しなければなりません。ピッチの時間が短いからといって、簡単に準備できるとは考えないことです。ピッチは短い時間で相手を納得させるための情報を盛り込まなければならないため、精査にかなりの時間を要するのです。

多少準備してきたことと違うことを話したとしても時間に余裕のあるプレゼンと違って、間違えたり話が脱線したりする時間のないピッチは本番までの準備に時間がかかることを覚悟しなければなりません。

ピッチのやり方

それではピッチの具体的なやり方を見てみましょう。

必要な要素を洗い出す

ピッチを成功させるためには、短い時間で相手を納得させるための材料集めである下準備が大切です。まず、そもそも事業にとって必要な要素を洗い出します。その時に大切にしたい目線が、ピッチを行う相手である経営者や投資家の目線になって事業を捉えることです。

ピッチを行う側から見たらどんなに価値のある事業と思っていても、相手に「サービスに市場優位性があり、事業に実現性があり、今後の成長性が見込めるのか」を具体的に伝えられなければ案件を受けてもらうことは厳しいでしょう。

そのためには、相手の目線にたって誰のためにどのように課題を解決するのか要素を洗い出すとよいでしょう。

あらすじを組み立てる

次に、あらすじを考えます。必要な要素で挙げた内容をひとつひとつ書き出していき、流れを組み立てましょう。ひとつの要素に対して、一言で伝えられるように極めてシンプルな回答を用意します。回答はシンプルながらも、そのバックグラウンドには根拠がしっかりと積み上げられた状態で、回答できている状態でなくてはなりません。

相手からよい決断を引き出すために欠かせない要素を見極めます。そして、要素にストーリーを肉付けしましょう。その後、相手を納得させやすい並べ方を考えます。相手の興味を惹くような盛り上げるポイントをつくるとよいでしょう。

演出を考える

次に、ピッチをどのように見せるか考えます。これまでに考えた要素をどのように見せたら効果的なのか、イメージイラスト、図表、数字など要素ごとに検討しましょう。グラフや図表化は「見やすい」というわかりやすさがメリットですが、抽象的で作成者にとって都合のよい見せ方がされやすいことから、安易に使うのは要注意です。

ピッチの場合、相手に提供できる情報が短時間で少ないため、絞り込んだ要素をいかに相手に伝わりやすく見せるかが大切な検討事項になるでしょう。

セリフを考える

次に、要素ごとに何を話すかを決めます。プレゼンでは、ここまでしなくともスライドを基におおよそ話す内容を決めてしまえば当日言い方が変わったとしてもそこまで影響しないかもしれません。

しかし、ピッチの場合は言いたい事を全部言おうとすると時間を超過することがほとんどであり、セリフを削って精査し時間配分をしておくことが重要です。
話し方についても、結論から先に話す、根拠を十分に用意できている事柄に対しては言い切る、誇張しないなど注意してセリフを決めましょう。

スライドを作成する

セリフと同時進行で、スライドも作成します。これまで作った要素をラフとして使用し、デザインに落とし込んでいきましょう。スライドに落とし込んできながら、本当に相手を動かせる内容になっているのか再度見直すことが重要です。

事業の価値が表現できているか、相手がピッチを通して内容を十分に理解し、決断を促す内容・流れになっているのか確認してスライドを修正していきます。実際にはじめて聞く人に流れを聞いてもらい、意図した内容について伝わったか確認し、伝わっていない箇所を変更しましょう。

予行練習を行う

スライドとセリフの内容が出来上がったら、自然に話せるよう何度も練習し、予行練習を繰り返します。ここでは主に話し方や、振舞いをチェックしましょう。セリフを見なくともすらすらと言えるように、録音や録画なども活用しながら繰り返し体に覚え込ませます。

ピッチは短時間なため早口になりがちですが、ゆっくりはっきりと話すことが大切です。盛り上がりを見せる箇所には少し間を置いてから、また、相手を飽きさせないようにスピードとリズムに変化を持たせながら説明しましょう。

また、背筋を伸ばして堂々とし、体や視線を動かして相手を惹きつける振舞いをすることもよいです。

ピッチのスライドとは

ここでは、ピッチのスライドを具体的にどのようにすべきか紹介します。

レイアウトはできる限りシンプルにする

レイアウトはできる限りシンプルして、伝えたい内容を際立たることを意識します。
スライドは横書きですが、その場合、人の目は最初にスライドの左に向かうため、左上にスライドごとのテーマを記載します。

ピッチを聞く人が多い場合、後ろの方の人が見えない可能性があるため、下部に重要な内容は書かないようにしましょう。際立たせたい場合は、余白をしっかりとることが有効です。

文字は短く端的にする

文字はできる限り短く端的にすることで、複雑化されにくく伝わりやすくなります。
文字の大きさは最小でも1行20文字で横幅いっぱいになるのを目安に、可能な限り大きく記載しましょう。

改行が必要なほど長い文章は基本的に用いずに、簡潔な文を記載しましょう。書体や色を統一するのはプレゼンでも同じですが、文字体は可読性の高いゴシック体を採用します。

一目でわかる図表を使用する

図やグラフを使用する時は、フロー図やツリー図を使用し、ロジカルにわかりやすく伝わるよう工夫します。要点を吹き出しに記載するのもよいでしょう。数量比較は棒グラフ、比率は円グラフ、時系列は折れ線グラフを使用します。

実態に沿った内容で、グラフを用いた方が効果的に伝わる場合に使用するようにしましょう。

ピッチのやり方のコツ

ピッチを行う際に、特に意識しておくとよいコツは下記の通りです。

相手が誰なのか常に意識する

ピッチを成功させるために、特に気を付けたい点が常に聞く側である相手の立場に立って考えることです。どんなに情熱をもってピッチを行ったとしても、語り手の目線で話を進めては、相手の納得感は得られません。

決裁者がトップなのか、事業部長なのか等によっても伝えるべき要点に違いがでるでしょう。必要な要素を洗い出す際にも意識しますが、その後修正していく中で常に相手を意識しながら作り上げていくことが大切です。

何度も修正を繰り返す

ピッチの内容は手順のどの段階でも、気になる点があったら修正を繰り返すとよいでしょう。自分の主観で作り込んだ段階では、いくら相手の立場に立って考えても見えてない部分があるものですが、複数人からわかりにくかった点・わかった点を質問することで、足りてなかった部分やよい箇所を見つけることができます。

スライドができたと思っていても予行練習などを行っていく内に気付くこともあるでしょう。最後の最後まで修正を繰り返すことが、より納得感を出せるピッチにするポイントです。

骨子がブレないようにする

ピッチは修正が何度も入るため、おおもとである骨子がブレる可能性があります。骨子がブレてしまうと修正しているつもりが、どんどん論点のズレた方向へ変わってしまうことになりかねません。

最初に考えたあらすじの流れはエクセルなど別のところに情報としてとっておいてから、論点を確認しつつ修正を行うとよいでしょう。流れを変えたとしても、骨子からズレないよう意識します。

ピッチの事例

ここでは、ピッチを実施した事例をひとつ紹介します。

労務手続きの簡易化

煩雑な労務手続きを解決するためのクラウドシステムについてピッチを行うため、まず下記の通り必要な要素を洗い出しました。

課題:労務手続きが面倒すぎる
解決策1:労務手続きをSaaSで自動化
解決策2:フォーム入力のみで書類を自動化
既存代替品:労務士に委託しなくてよいため大幅なコスト削減
市場規模:人事業務アウトソースの潜在市場
トラクション:事前登録の急激な伸び
将来の展望:e-gov電子申告API公開
チーム体制:ディレクター×1、エンジニア×1、デザイナー×1

そしてこの要素に流れをつくり、ストーリーの肉付けを行いました。例えば、労務手続き面倒すぎるという課題を具体化するために、「妊婦の産休申請」というシーンを説明し、聞き手が自分事化できるように促したのです。

解決策2には新旧のワークフローをつけたり、社労士のコスト削減については実際にかかる時間や費用の比較を用意したり、市場規模については金額・企業数をつける、トラクションについては実際の登録者数など具体的な内容を盛り込みます。こうして具体化後に、セリフ・スライドを作成。ピッチは5分間で19枚のスライドを使用し、見事投資家からの資金調達に成功しました。

ピッチでスピード感のある事業展開を実現しよう

ピッチは根拠を積み重ねたシンプルな言葉を、短時間で相手に伝えることで決裁を取り付けられる手法です。特に、ベンチャー企業・スタートアップで既にアイデアがある方で、資金の調達に悩みを抱えている方は、ぜひ試してみるとよいでしょう。

ピッチの準備には時間がかかるものの、より実現性の高い事業案へと落とし込むことができ、誰でもやってみることができるリスクの少ない資金調達手段です。自身の事業案をブラッシュアップするためにも、実施してみてはいかがでしょうか。

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