予期せぬ事態が起こったときに「これぐらい大丈夫だろう」と、事態を過小評価してしまう正常性バイアス。もともと心への負担を軽減する役割がありますが、ときにはビジネスに大きな影響を与えることもあるので注意が必要です。
本記事ではそんな正常性バイアスの事例、メリット、起こりうるトラブル、トラブルを防ぐ方法などについて紹介していきます。
正常性バイアスとは
正常性バイアスとは認知バイアスの一種で、予期せぬ事態に遭遇したときに「たいしたことじゃない」「このぐらいなら大丈夫」と判断し、平静を保とうとする心理メカニズムのことです。
正常性バイアスには、日常生活で感じる不安や恐怖を軽減し、心をストレスから守ってくれる役割があります。一方で、地震や洪水、火災、事故といった非常時に、事態を過小評価してしまい初期対応が遅れるケースも指摘されています。
なお、ビジネス上でも正常性バイアスの影響で、損失やトラブルを招いてしまったというケースは珍しくありません。そのため、どういった状況で正常性バイアスが働くのかを認識し、あらかじめ対策を講じておく必要があるでしょう。
正常性バイアスがかかる例
例えばオフィスや商業施設で火災警報器が鳴った場合、本来であればすぐさま状況を確認し、避難しなくてはいけません。しかし、実際に火災警報器が鳴ると「火事かもしれない!」と行動に移せる人もいれば、「どうせ点検中の誤作動だろう」と問題視しない人もいます。
このように非常事態であるにもかかわらず、正常バイアスが働くと「どうせ誤報だろう」「火事なんて起こるはずがない」と、事態を過小評価してしまうことがあるのです。
ビジネスにおいても同様で、すぐに行動が求められる課題があるにもかかわらず、「結果が悪いのは今だけだ」「この施策が失敗するはずがない」と捉えてしまうことがあります。その結果、業績低下や信用失墜を招くケースもあると覚えておきましょう。
正常性バイアスがかかった事例
ここでは実際に正常性バイアスが働いたとされる事例を2つご紹介します。
東日本大震災
2011年3月に起こった東日本大震災では、1万5899人の方が亡くなりました。この内の90%以上が津波による溺死で亡くなっていると発表されており正常性バイアスが影響したと言われています。
津波が沿岸部を襲ったのは、地震発生から30分ほど経過した後、つまり避難する時間がある程度あったにもかかわらず、大多数の人が避難し遅れて亡くなっているのです。「自分のいる場所は安全だろう」「大きな津波がきたことなんてないから大丈夫」と、正常性バイアスが働き、事態を小さく見てしまったのが被害拡大の一因だとされています。
コロナ禍
2020年から今もなお収束を見せない新型コロナウィルス感染症の拡大についても、正常バイアスとの関連性が指摘されています。例えば「自分はコロナにかからないだろう」「飲み会に参加するぐらい大丈夫だろう」と、不要不急の外出をしたり、3密を気にせず行動したりしてしまうケースでは、正常性バイアスが働いている可能性があります。
実際に研究戦略イニシアティブ推進機構「コロナ禍でも自分だけは大丈夫?非常事態における心と行動のメカニズムを解明する」では、東京都在住の20~60代の710名を調査したところ、正常性バイアスが不要不急の外出や、感染者への怒りなどにつながっていることが明らかになっています。
正常性バイアスのメリット
正常性バイアスが働くと「このぐらい大丈夫だろう」と楽観的な思考に陥りやすく、非常時における行動が遅くなりがちです。
一方で正常性バイアスには悪い面ばかりではなく、メリットもあります。ここでは、正常性バイアスのメリットを2つ紹介させていただきます。
ストレスの軽減につながる
正常性バイアスは、ストレスを回避するための心の安定機能のような側面を持ちます。そのため、正常性バイアスがあることで、日々の生活で出会うさまざまな情報や事象によるストレスを軽減できるというメリットがあります。
例えば大きな地震はいつ発生してもおかしくないと言われていますが、それに過度な恐怖や不安を感じるとと、外出できなくなったり、防災グッズが常にないと安心できなかったりと、一般的な日常生活を送りづらくなってしまいます。そうならないよう、不安や恐怖を軽減してくれているのが正常性バイアスなのです。
鬱などメンタルへの負荷を防ぐ
生活を送っていればさまざまな情報が入ってきます。また、自身を取り巻く環境も日々変化します。ときにはショッキングなニュースを目にしたり、職場で嫌なことがあったりする日もあるでしょう。
しかし、そのストレスを全て受け止めていれば心が疲弊し、鬱などのメンタルヘルス不調を起こす可能性があります。正常性バイアスは、先述したようにストレスを軽減してくれるので、結果的に心の不調の防止にもつながると言えるでしょう。
正常性バイアスによるトラブル
ここでは正常性バイアスによって発生しうるトラブルについて説明していきます。
命に危険が及ぶ可能性がある
災害が起きた際には、迅速な状況確認や避難が重要となります。他にも事故により怪我をした・させてしまったという場合にも、救急車を呼んだり手当をしたりと、状況に応じた対応が求められます。しかし正常性バイアスが働くと「自分は被害にあわないだろう」「死ぬことはないだろう」といった考えに陥ってしまいます。そのため、避難や対処が遅れ、最悪の場合には命を落としてしまう可能性もあります。
正常性バイアスは人の心にもともと備わっている機能なので、完全に排除することは困難です。そのため、予め災害をはじめとする非常事態において「100%大丈夫」という状況はないと、認識しておくことが重要です。
リスクヘッジが遅れる
正常性バイアスが働くと、「このぐらい大丈夫だろう」という思考に陥ってしまいます。そのためリスクへの備えが薄くなったり、遅くなったりしてしまう可能性があります。
例えば災害はいつ起きてもおかしくありません。しかしそう分かってはいるものの、「しばらくは起こらないだろう」「時間のある時に備えればいいだろう」と防災グッズの用意を後回しにしてしまったり、ハザードマップの確認を怠ったりしてしまうケースも少なくありません。いざ災害などが起こったときに焦らないよう、今できる備えは今することが大切です。
正常性バイアスの仕事におけるトラブル
正常性バイアスはビジネス上でも影響を及ぼします。では実際にどんなトラブルにつながるケースがあるのでしょうか。ここでは2つ紹介させていただきます。
コンプライアンス違反
冷静に考えれば好ましくない行為だと分かっていながらも、正常性バイアスの影響を受けると「ちょっとくらいなら大丈夫だろう」「今まで問題にならなかったし平気だろう」といった思考に陥り、コンプライアンス違反をしてしまうケースがあります。
機密情報や個人情報の持ち出し、パワハラやセクハラといったハラスメント、不適切な時間外労働の強要、会社支給の携帯やPCの不正利用など、コンプライアンス違反にはさまざまな種類があります。
特に、上司や先輩が日常的にコンプライアンス違反をしている、組織自体がコンプライアンス違反を見て見ぬフリしているといった場合、正常性バイアスの影響を受け、違反行為が常態化する可能性があるので注意が必要です。
事業での大きな損失
組織運営をしていれば、業績が振るわないこともしばしばあるものです。そういった際には原因を究明し、早めに対策を打つことが重要となります。しかし正常性バイアスが働けば「業績が悪いのは今だけだろう」「このぐらいの数値低下なら大丈夫だろう」という楽観的な考えに陥ってしまいます。結果的に大きな損失を生み、経営が悪化してしまう可能性があります。
なお、これは個々の社員にもいえることです。業績が芳しくない社員が正常性バイアスに陥ると、「今月契約が取れなかったのはたまたまだろう」「少し成約数が減っても何も言われないだろう」と考えてしまう恐れがあります。社員自身の成長や、組織全体の業績に影響がでる恐れがあるため、適宜対策する必要があるでしょう。
正常性バイアスを防ぐ3つの方法
ここでは、正常性バイアスによるトラブルを防ぐ3つの方法を紹介していきます。
正常性バイアスについて知っておく
正常性バイアスによるトラブルを防ぐには、あらかじめ人は予期せぬ事態に遭遇したときに物事を過小評価してしまう性質があると知っておくことが大切です。知識を身につけることで「正常性バイアスの影響で事態を楽観視しているのでは?」と、自身の考えを客観的に見られるようになれば、それだけ適切な対処がしやすくなります。
職場での防災訓練
オフィスで地震や火災が起こった際には、社内の防災に関する責任者などが正常性バイアスに捕らわれずに適切な判断・指示をしなくてはなりません。しかし、実際にそうした事態に遭遇した場合、責任者が状況を楽観視してしまうケースもないとは言い切れません。仮に適切に避難指示を出したとしても、社員が楽観的であれば避難を渋る可能性もあります。
そうした事態を防ぐためにも、定期的に防災訓練を行うとよいでしょう。全員が「地震は余震が収まるまで机の下で待ってから避難する」「火災警報機が鳴ったら発生源を確認して避難する」など、非常時の一連の行動を体に染みこませておくことで、正常性バイアスが働いたとしても迅速に避難できるようになります。
社内研修の実施
社員が正常性バイアスについて知っていれば、非常時に適切な対応がしやすくなります。先述したビジネス上でのトラブルも避けやすくなるため、社内研修などで正常性バイアスについての知識を共有しておくとよいでしょう。
また、研修時以外も日頃から社員のことを気にかけ、適宜声をかけるようにしましょう。例えば成果がでていないにもかかわらず楽観的になっている社員がいれば、成長を促すアドバイスをしたり、改めて正常性バイアスの話をしたりと、早めの対応が大切です。
正常性バイアス以外のバイアスとは
正常性バイアスの他にも、人の心に備わっているメカニズムがいくつかあります。ここではその5つに関して説明していきます。
集団同調性バイアス
集団同調性バイアスとは、どのように判断・行動すればよいか迷ったときに、周囲と同じ行動をとってしまう心理傾向のことです。例えば火災警報器が鳴っているにもかかわらず、「みんな逃げてないし大丈夫だろう」と感じてしまう人がいるのは、集団同調性バイアスが働いているためです。
確証バイアス
確証バイアスとは、自分にとって都合の良い情報を集め、反する情報を軽視したり排除したりする心理傾向のことです。例えば血液型と性格を結びつけ「O型だからあの人は大雑把なのか」「A型だから几帳面なのか」と、自分にとって都合良く解釈してしまう現象があげられます。
内集団バイアス
内集団バイアスは、自分が所属する集団のメンバーが、それ以外の集団に比べて優れていると思い込む心理傾向です。例えば自分と同じ大学出身の人に対し、他の社員よりも優れているといった感情を持つことが、この内集団バイアスにあたります。
コンコルド効果
コンコルド効果は、損失につながると分かっているにもかかわらず、それまでに費やした時間やお金など惜しんで、投資を継続してしまう現象のことです。ギャンブルや事業などにおいて「これまでの損失を取り返そう」「ここでやめたらもったいない」と、利益がでる見込みが低くても、さらに投資を重ねてしまう状態が、この効果にあてはまります。
ハロー効果
ハロー効果は、対象とする人物や物を評価する際に、一部の印象に引きずられて全体を評価してしまう効果のことです。例えばCMで有名人を起用すると、商品やサービスにその有名人の印象がつくのが、このハロー効果にあたります。
正常性バイアスのリスクを防ごう
正常性バイアスは心の負担を軽減するメカニズムです。日々の生活を問題なく送るために必要である一方で、ときにはトラブルを招いてしまうこともあります。トラブルを回避するためにも、正常性バイアスについての理解を深め、日頃から定期的な訓練や研修などを行うようにしましょう。
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