縦割り組織の弊害に悩む企業は多くあります。特にDX推進のように全社一丸となって取り組む際は、広い視野で全体を統括できる部署・チームを必要とする場合もあるかもしれません。
このような組織に有効なのが、専門人材やノウハウを1カ所に集約して組織横断的な施策を実施するCoEです。
本記事ではCoEの役割やCoEを設置するメリット・デメリット、企業の成功事例などについて解説します。
CoE(センターオブエクセレンス)とは?
CoEとは、専門的な知識を持った優秀な人材やノウハウを1つの組織、拠点に集約して、組織横断的な施策、戦略を実施していくことです。CoEは「Center of Excellence」の略で、「シー・オー・イー」や「センターオブエクセレンス」と読みます。
CoEは部署やチームとして運営されるのが一般的です。しかし、大企業の場合は研究施設や技術集約機関のように、中核的な拠点そのものを設立するケースもあります。
もともとCoEは、スタンフォード大学が優秀な卒業生を大学や地元にとどめるために、優秀な教授や先進的な設備を集め、企業を誘致したことに始まります。これがシリコンバレーの隆盛につながったことから、コンセプトをまねる大学、企業が増えました。
文部科学省も大学を対象としたCoE導入の補助金制度「21世紀CoEプログラム」を、2002年から開始しています。
人事領域のCoEとは?
人事領域のCoEとは、人事に関するエキスパートやノウハウを1つの組織、拠点に集約して、組織横断的な施策、戦略を実施していくことです。
戦略人事を実現するための「3ピラーモデル(Three-pillar model)」においてCoEは、次のような役割を担います。
CoE (Center of Excellence) | 人事評価・報酬制度・採用・人材開発などのエキスパート集団 情報共有・制度構築・企画立案などでHRBPを支援する |
HRBP (Human Resource Business Partner) | 経営層に対する人事施策の提案 各部門への人事施策の実行推進 |
HRSS (Human Resource Shared Service) | 給与計算や社会保険手続きなどの定型業務 |
3ピラーモデルの特徴は、従来型の人事組織が給与、福利厚生などのタスク単位であるのに対して、役割単位に分割している点です。このうちCoEは高度な企画や一元的な情報管理という役割を担います。
CoEが求められる理由
近年CoEが注目されるようになった理由のひとつは、DX推進のために組織横断的な施策や戦略を実行する必要性が高まったためです。
経済産業省によるとDXとは以下のように定義されています。
将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変する
DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(サマリー)|経済産業省
つまり、部分的なIT化・デジタル化ではDXは達成できず、全社的な取り組みが求められます。
例えばイノベーションを促進するために多方面から人材を集めたり、部署を横断した情報活用を進めたりするにはCoEが有効です。DX促進を目的にしたCoEの設立は、特に「DCoE(Digital Center of Excellence)」と呼ばれます。また、クラウド導入を目的にしたCoEは「CCoE(Cloud Center of Excellence)」といいます。
CoEの役割
CoEは全体的にはコンサル的な役割を担います。ここでは、このコンサル的な役割について、情報収集・整理や企画立案など5つの要素に分けて紹介します。
社内のナレッジを収集・整理する
社内の情報やノウハウを集約させるのが、CoEの役割です。縦割り組織の場合、部署単位でデータを管理していたり、業務が属人化していたりするケースが珍しくありません。こうしたナレッジを収集、整理します。
収集・整理は網羅的に行う必要があります。CoEでは企業レベルの高度な企画立案が求められる場合もあるため、部署の垣根をつくらず、広範囲で情報を集めなければなりません。そのために、ITツールの導入や業務システムの更新などを検討する場合もあります。
経営に関する企画立案
収集した情報やノウハウを元に、企画を立案します。内容は企業によって異なりますが、例えば「サプライチェーンの連携強化」「定型業務のアウトソーシング」など、経営視点が求められる企画が多いのが特徴です。
人事領域であれば、「人事評価制度の改正」「報酬体系の見直し」「長期的な人材開発プラン作成」などにあたります。
効果測定・フィードバック
企画が実行された後は、導入したシステムや制度などの効果を測定し、フィードバックを行います。改善サイクルを回すことによって、業務効率化や生産性向上などにつなげられるでしょう。
CoEが行うフィードバックは、事業全体の最適化を目指します。特定の部署やプロジェクトを部分最適化するのではなく、常に広い視野に立って判断を下します。
したがって、ある部署に負担を強いるようなケースもあるかもしれません。こうした場合に部署のモチベーションを維持するには、改善の意義や効果などについて、丁寧な説明が必要です。
業務のマニュアル作成・見える化
CoEは組織全体を標準化する役割も担います。例えば製造業なら製品の品質統一、飲食業なら接客の一律化などが挙げられます。
標準化のためには業務マニュアルの作成や、データによる現状の見える化などが必要です。検品マニュアルを作成したり、電子ハンコツールを導入して承認ルートを登録したりするなどです。また、使い回しできるプログラムコードを共有するプラットフォームを構築するなどの施策も考えられます。
社内イノベーションの促進
縦割り組織においては、各部署が高い専門性を持ちやすい反面、イノベーションが起きにくくなるのが問題です。この弊害をCoEの設置によって回避しやすくなります。
社内イノベーション促進に携わるCoEメンバーは広い視野、多角的な見地に立ったクリエーティブな発想が求められます。企業のなかにはジョブローテーションでCoEに所属させ、経営者的な視点を持った人材を育てているところもあります。
CoEを設置するメリット
CoEを設置すると、社内の連携が強化され情報共有が進むなど、さまざまなメリットが期待できます。
社内の連携が強化される
CoEは部署間の司令塔的な役割を担います。例えば、企業ブランディングの方向性をマーケティング部門、営業部門、商品開発部門で一貫させるなど連携を強化できるでしょう。
また、CoEは部署間の調節役も担います。例えば、店舗の売り上げデータを会計部門が転記しているなど無駄な作業ある際は、CoEが連携を見直して業務を効率化します。
情報共有がしやすくなる
CoEは各種のデータや社内の意見などが集まるハブとして活用できます。また、CoEの設立に伴ってITツールやクラウドサービスなどを導入すれば、従業員が情報にアクセスできる機会を増やせるでしょう。こうした施策によって、社内の情報共有を進められます。
情報共有が進めば、経営者のビジョンが伝わりやすくなったり、従業員が自身の役割を把握しやすくなったりするなど、波及的な効果を期待できます。
専門的で高度な課題を解決してくれる
部署単体では解決できない専門的で高度な課題を解決しやすくなるのも、CoEのメリットです。CoEは部署横断的に集約したノウハウを元に施策を立案できるため、課題解決の領域やスピードを改善できます。
例えば、長時間労働の是正を現場の業務効率化に頼ってしまえば、従業員や管理職に負担がかかってしまうかもしれません。しかし、CoEならアウトソーシングの活用や勤怠管理ツールの導入、生産計画の見直しなど、多角的に検討できます。部署の垣根をなくして課題解決に取り組めば、打開策が見つかる場合もあるでしょう。
部署を横断したコミュニケーションの活性化
先にCoEを導入すると情報共有が進むメリットを解説しました。情報共有が進むということは、従業員の間で共通言語が持てることにほかなりません。共有言語を持っていると、課題や問題点の認識も共通になり、コミュニケーションが活性化されやすくなります。
組織が大きくなるほど、部署を横断したコミュニケーションが難しくなるのは珍しいことではありません。だからこそ、例えばCoEが部署を横断して参加できるチャットシステムを導入するなどのメリットが大きくなります。
CoEを設置するデメリット
CoEの導入によって、CoEのメンバーに負担が偏る場合や、CoEの役割が浸透せずに機能しないリスクがあります。それぞれのデメリットについて解説します。
CoEメンバーに負担が偏る
CoEメンバーは、他の業務を兼任するのが一般的です。したがって、既存業務の見直しをしなければ、労働時間が増えるリスクが高いといえます。CoEの業務は全社的な取り組みになるケースが多く、責任の重さから精神的にも負担を与える場合があります。
また、CoEは全体最適化の役割があるため、例えば自身が所属する部署の人員を削減するなど、ダブルスタンダードの立場に陥ることもあります。このため、精神的なストレスを感じたり、モチベーションが下がったりする人もいるでしょう。
社内に役割が浸透しないと機能しない
CoEが単に各部署の不満を受け付ける窓口になってしまう場合があります。あるいは、導入したITツールの使い方を教えるなど、ヘルプデスク化してしまうケースも少なくありません。
CoEの本来の役割は、人材や情報のリソースを1カ所に集中させて、部署横断的に生産性を向上させることです。この役割を社内に周知することと、担当業務を厳密に区別しておくことが重要です。
CoEの導入事例
ここでは、CoE設立のイメージをより具体的にするために、実際の導入事例を3社紹介します。
資生堂
資生堂は「世界に通用する強いブランドを育成」することを目標に、世界各地にCoE拠点を構築しています。資生堂のCoE戦略の特徴は、各分野の最先端の地域にCoEを設置した点です。
具体的にはスキンケア部門は日本、メーキャップとデジタル部門はアメリカ、フレグランス部門はヨーロッパと、合計4カ所にCoEを設けました。最新の技術、情報を効率的に入手して、競争力を獲得する狙いです。
NTTグループ
NTTグループは2020年、デジタル技術に関する知識をグローバルに蓄積し、専門技術者を育成するCoEを新たに3カ所設立しました。対象になったのは「IoT」「Intelligent Automation(AI、機械学習、データ活用など)」「Software Engineering Automation CoE(AIなどによるアプリケーション開発の自動化)」の3分野で、それぞれ拠点が分かれています。
CoE設立の目的は、インダストリーや技術を1カ所に集中することで、強みと競争力を創出することです。また、技術者の育成や技術支援、知的資産の共有などを効率化を図っています。
NTTグループは今後、他の先進技術についても同じようにCoEを設立するとしており、取り組みを加速させています。
マツダ
マツダは「次々に登場する新技術に対応できない」「短期間でシステムを更新しなければならない」「人的リソースを確保できない」などの課題を持っていました。そこでCoEチームを設け、プロジェクトを横断して統制をとる体制を構築します。
CoEチームによってノウハウ・知識の標準化、共有化を進め、業務効率と生産性を高められました。また、プロジェクト品質を統一するためのガバナンスとサポート体制を強化できたといいます。これによって、海外や地方企業からの人材確保も容易になったということです。
CoEを設置する際のポイント
ここではCoE設置で重要になる人材選定や教育、社内チェック機能の見直しなどのポイントを解説します。
理想の人材像を定義する
CoEが機能するかどうかは、メンバーとなる人材によって大きく左右されます。このため、メンバーにふさわしい人物像を明確にする必要があります。各部署で優秀であってもCoEで活躍できるとは限らないため、実績や役職にとらわれないようにしましょう。
先にも述べたように、CoEの業務は全体的にはコンサルタント的な役割を担います。したがって、コンサルタントに求められる資質と同じく、「コミュニケーション能力が高いか」「論理的な思考ができるか」「メンタルが強いか」などがチェックポイントです。
社内のチェック機能を見直す
業務の状態や、従業員の意識などをチェックできる仕組みを見直すと、CoEが機能しやすくなります。人事領域であれば、勤怠管理ツールや、従業員満足度を調査する定期的なアンケートなどです。CoEはデータや意見が十分に集約されてこそ機能するため、情報収集の仕組みが大切です。
キャリアマップを策定する
能力開発の一般的な道筋であるキャリアマップをつくっておきます。一般的には、ステップアップの段階(レベル1~5など)や、習熟に必要な年数の目安、ステップアップに必要な経験や実績、スキル、資格などを設定します。
ただし、CoEの業務は高度な分析、企画であるため、技能職や事務職のように成長プロセスや必要なスキルを定義しにくい部分があるかもしれません。しかし、キャリアマップは教育方針の基準になるため、できるだけ具体的に策定しましょう。
教育方針の策定
キャリアマップと現在のスキルの差を評価して、教育方針を決めます。一般的には上司が部下とキャリア形成について話し合い、目標達成に向けた具体的な行動を促していきます。
CoEで求められるスキルは範囲が広く、かつ高度です。このため、現在の業務に必要なスキルを優先的に身に付けさせるなど、効率性を考えなければなりません。また、長期スパンで能力開発していく必要もあります。
機能するCoEを組み立てよう
専門人材やノウハウを1カ所に集約して組織横断的な施策を実施するCoEを設置する企業が増えています。近年は、企業全体の活動が求められるDX推進に取り組む企業が増えたことから、CoEがとりわけ注目されるようになりました。
CoEが機能すれば、社内の連携や情報共有、コミュニケーションなどが活性化され、高度な課題を解決できるようになります。自社に合ったCoEの要件を決めてメンバーを集め、組織を刷新していきましょう。
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