「デファクトスタンダード」とは、市場で圧倒的なシェアを獲得した製品や規格などが事実上の標準となることです。デファクトスタンダードになるとライセンス料を得られたり、市場に左右されずに利益を上げられたりとさまざまなメリットがあります。
本記事ではデファクトスタンダードの概要や企業の例、メリット・デメリットなどについて解説します。併せて、近年のデファクトスタンダード争いの事例も見ていきましょう。
デファクトスタンダードとは?
まずは、デファクトスタンダードの概要についてわかりやすく解説します。
「事実上の標準」を意味する言葉
「デファクトスタンダード」とは、「事実上の標準」を意味する言葉です。つまり、市場競争に打ち勝った企業の商品やサービスが、事実上その業界の標準として認められることを指します。
市場にはISOなどの公的な標準機関によって認証を受けた規格も存在しますが、デファクトスタンダードは公的認証はされておらず、あくまで事実上の規格として広まっているものです。
デファクトスタンダードの対義語
デファクトスタンダードの対義語に「デジュールスタンダード」があります。こちらは標準化機関や公的機関により「規格」として認められたもので、世界中どこでも同じ規格の製品を購入することが可能です。代表的なものには乾電池があります。
デジュールスタンダードの規格は、ISO(国際標準化機構)やJIS(日本産業規格)などの機関によって認証されます。
デファクトスタンダードとなった企業の例
デファクトスタンダードについてより理解できるよう、ここではデファクトスタンダードの例を取り上げて解説します。
Windows OS
1985年に発売となった「Windows OS」は、代表的なデファクトスタンダードです。発売当初Windowsよりもクオリティが高いと評判であったMacを押しのけ、パソコンのOSとして莫大なシェアを誇りました。
また、Windowsの表計算ソフト「Excel」や文書作成ソフト「Word」もデファクトスタンダードの一つといえます。
Googleの検索エンジン
検索エンジンのデファクトスタンダードといえば、Googleを思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。検索したいキーワードを入力すれば、ユーザーが探している情報を瞬時に探してパソコンやスマートフォンの画面に表示してくれます。「インターネットで検索すること=ググる」と呼ぶことからも、Googleの認知度は高いといえます。
Google以外にもbingやYahoo!などの検索エンジンがありますが、2023年1月現在、Googleは全世界で92.9%のシェアを誇っています。
USB端子
パソコンやスマートフォン、タブレットなどで使用するUSB端子にはさまざまな形状・タイプがあります。これまではUSB-A端子がデファクトスタンダードでしたが、昨今はUSB-C端子がスタンダードになりつつあります。
ただし、デスクトップパソコンではまだUSB-A端子が主流など、デバイスによって規格が異なるのが特徴です。
LINE
無料通信アプリのLINEは、友人や家族とのコミュニケーション、またはビジネスにも活用できる無料チャット・電話サービスです。
LINEは日本市場においてSNSシェアナンバーワンの座を獲得しており、10代から50代の8〜9割の人が利用しているという調査報告もあります。年代を問わず利用されていることからも分かるように、MessengerやSkypeなどのツールを押さえ、コミュニケーションツールのデファクトスタンダードとなっています。
参考:LINE利用率8割超え:10~50代まで8~9割が利用|モバイル社会研究所
Zoom
オンライン会議サービスツールのZoomもデファクトスタンダードの一つです。新型コロナウイルス感染症対策の一環としてテレワークが推奨されるなか、会議ツールとして注目を集め成長してきました。
同様のツールにGoogle MeetやMicrosoft Teamsなどもありますが、Zoomの認知度は群を抜いているといえるでしょう。また昨今では、ビジネスシーンでの会議だけでなく、友人や家族と顔を見て話すコミュニケーションツールとしても活用されています。
キーボード配列「QWERTY」
QWERTY配列とはパソコンのキーボード配列を指します。この配列はタイプライター時代に確立されたもので、現在では最適な配列とはいえないものの、今なおデファクトスタンダードとして認知されています。
デファクトスタンダードのメリット
ここからは、デファクトスタンダードのメリットについて見ていきましょう。
市場に左右されづらい
デファクトスタンダードのメリットとして、市場の変化に左右されにくい点が挙げられます。デファクトスタンダードとして認知された製品やサービスは安定した収益が見込めます。
また、その製品に関連する製品が開発されやすいのも特徴です。例えば、Windowsで使用するソフトが次々と開発されるなど、関連商品側からの売上も期待できます。そのため、自社製品をデファクトスタンダードにしたいと考える企業は多く見られますが、市場独占の危険性もあるなどアプローチには注意が必要でしょう。
ライセンス料などで利益を得られる
自社の製品やサービス、技術などがデファクトスタンダードになると、ライセンス料やロイヤリティーと呼ばれるパテント料が得られます。これは、製品やサービス、技術の権利者の許可を得てライセンス権を使用する際に支払われるものです。
また、デファクトスタンダードになることによって価格も自由にコントロールできるため、競合他社と争うことなしに有利な立場でビジネスを進められるのもメリットです。
マーケティングコストを削減できる
「自社製品やサービスがデファクトスタンダードになる=市場で広く認知される」といえます。企業は製品やサービスを販売するためにマーケティングに注力しますが、すでに広く認知されているデファクトスタンダードはマーケティングコストを削減できる点がメリットです。
特に一般消費者向けの製品の場合、顧客の口コミによって自動的に広まっていく可能性もあります。マーケティングコストや工数の削減により、企業はその他の製品やサービスの開発に着手することができるでしょう。
複数の企業と連携して技術開発を進められる
デファクトスタンダードを獲得したいという思いから、複数の企業と連携して技術開発を進める動きも見られます。近年、顧客のニーズは多様化しており、いくら素晴らしい製品やサービスであっても、必ずしも市場で受け入れられるとは限りません。
そのため、複数の企業が連携して1つの製品やサービスを作り上げていくことはとても効率的です。日頃見ることができない他企業の技術やノウハウを知れる機会ともなるなど、大きなメリットがあります。
デファクトスタンダードのデメリット
続いて、デファクトスタンダードのデメリットについて解説します。
消費者にとってメリットになるとは限らない
デファクトスタンダードである製品やサービスは、消費者にとって必ずしもメリットになるとは限りません。例えば、デファクトスタンダードとなったWindows OSですが、なかには製品に関して不満を抱いている人も少なからず見られました。
しかし、市場にはWindowsでしか使えないツールやソフトが多く出回っており、使い勝手は悪いものの使わざるを得ないという人も。ある特定の製品に市場が独占されてしまうと、消費者それぞれのニーズに合った製品が出回らない状況が出てきます。
模倣品や互換品の対応が必要になる
デファクトスタンダードは模倣品が登場する可能性が高く、特許権を侵害している場合には迅速に対応する必要があります。訴訟対応ともなると莫大な時間や手間、コストがかかるでしょう。
特に国際的に認知されたデファクトスタンダードの場合、国ごとに考え方や法律が異なるため、対応も複雑化する可能性があります。
独占禁止法に抵触する場合がある
デファクトスタンダードは市場での競争を優位に進められるメリットがある一方で、市場を独占してしまう危険性もあります。最悪の場合、独占禁止法に抵触し、競合他社やマスコミ、消費者などから強い批判を受けるケースも見られます。
例えば、2020年には米司法省が米Googleを独占禁止法(反トラスト法)違反で提訴しました。これは、インターネット検索や検索広告市場における米Googleの独占的な立場を不法に維持しているという点が提訴の理由でした。
デファクトスタンダードが生まれる要因
ここでは、デファクトスタンダードが生まれる要因2つについて見ていきましょう。
市場でシェアを獲得する
デファクトスタンダードを確立するためには、市場での競争に打ち勝つ必要があります。例えば、ある企業が消費者に広く受け入れられる画期的な製品を販売した場合、他社が類似製品を販売するなど追随することで、企業間の競争が起こります。
市場で圧倒的なシェアを獲得した製品のみがデファクトスタンダードとなるため、決して容易なことではありません。新たな基準として認識されるためには、緻密な経営戦略や潤沢な資金力も必要になります。
複数の企業が連携して生み出す
一般的に、デファクトスタンダードは企業が市場で競争することにより生み出されることが多いものです。
しかし、なかには複数の企業が連携して生み出すケースもあります。企業間の競争の結果を待ったり、公的機関の認証を待ったりするのは時間がかかるため、特に変化の激しい情報通信分野では率先して動き出す企業も多く見られます。
複数の企業の技術や知識を集めることで消費者の利便性が高まる製品やサービスが生まれ、シェア拡大へとつながりやすくなるのはメリットです。
近年のデファクトスタンダード争い
最後に、近年注目を集めたデファクトスタンダード争いの事例を紹介します。
電気自動車(EV)のオープン戦略
オープン戦略とは、特許を含む自社の技術を他社に公開し、他社と協力しながら製品を開発してデファクトスタンダードを狙う戦略です。オープン戦略を活用することにより、外部資源を有効活用しながら製品開発を行うことができます。
電気自動車(EV)の分野では、2014年に米国の電気自動車会社テスラ・モーターズが、2015年にはトヨタ自動車が自社の特許を解放し注目を集めました。電気自動車の普及にはインフラ整備が必要不可欠ですが、ある程度自動車の普及が見込まれないとインフラへの設備投資に踏み切れないという企業は多いでしょう。
そのため、自社の技術を解放することにより業界全体で開発に取り組むことが早道と考える企業にとって、まずは市場を拡大させることを目的とするオープン戦略は有効な手段といえます。
QR決済のデファクトスタンダード争い
近年、激しいキャンペーンが繰り広げられたQR決済のデファクトスタンダード争い。特にPayPayとLINE Payの熾烈な争いが印象的で、PayPayの「100億円あげちゃうキャンペーン」、LINE Payの20%還元を謳う「Payトク」キャンペーンや「祝!令和 全員にあげちゃう300億円祭」などが記憶に残っている人も多いのではないでしょうか。
これらキャンペーンの結果、LINE Payは利用者数を伸ばしたものの大幅な赤字を生み出してしまい、PayPayがLINE Payを吸収することとなりました。2022年10月時点でPayPayの登録ユーザー数は5100万人を突破。日本におけるQR決済のデファクトスタンダードはPayPayであるといえます。
まとめ
デファクトスタンダードにはWindowsやLINE、Zoomなど、一度は耳にしたことがある製品が名を連ねています。これらは公的な標準機関によって認証を受けたものではなく、市場での競争を勝ち抜いて事実上の標準となったもの。デファクトスタンダードになるためには、競合他社との競争に勝つ技術力や知識、マーケティング力などが必要不可欠です。
一方、複数の企業が協力し合って開発を行うことでも、デファクトスタンダードになり得る製品を生み出すことができます。お互いの技術やノウハウを共有できる機会となり、消費者のニーズに合った製品やサービスが開発される可能性も高まるでしょう。
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