ILO(国際労働機関)とは、スイスのジュネーブに本部がある国際機関です。社会正義を基礎とする世界平和を実現することを目的とし、基本的人権の確立や生活水準の向上、労働条件の改善実現に向けた活動を行なっています。
本記事では、ILOの概要や活動内容、企業に与える影響などについて解説します。
ILO(国際労働機関)とは?
まずは、ILO(国際労働機関)の概要について解説します。
ILOの目的
ILO(国際労働機関)とは世界中のさまざまな労働問題に取り組む国際機関で、主な活動は以下の3つです。
- 国際労働基準の設定
- ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)実現への取り組み
- グローバル・ジョブズ・パクト(仕事に関する世界協定)
ILO はこれまでに、児童労働に関する法律や1日8時間労働、母性保護、職場の安全かつ平和的な労使関係などに関して政策を打ち立て、多くの成果を出してきました。
ILOの歴史
1919年、ILOは国際連盟と共に誕生しました。第2次世界大戦後にはフィラデルフィア宣言が出され、大規模な対途上国技術協力活動がスタートすることを明言し、ILOの基本原則・基本目標が再確認されることになります。
日本はILOに1919年に加盟し、1922年には常任理事国に就任。一度脱退するも1951年に再加盟し、1954年には常任理事国に復帰しています。
ILOの活動範囲
ここからは、ILOの主な活動範囲について見ていきましょう。
児童労働の撤廃
ILOは1992年から、技術協力プログラム「児童労働撤廃国際計画(IPEC)」を通して児童労働の撤廃に取り組んでいます。2025年までにすべての児童労働をなくすことを目指し、政府やNGO、労働者団体、学校などとパートナーシップを組み活動しています。
労働安全衛生
毎年、世界中で多くの労働者が雇用に起因する病気や疾病、ケガにより命を落としています。ILOはそのような現状を予防するために、さまざまなプログラムを実施しています。2022年6月、国際労働会議(ILC)において、ILOの労働における基本原則及び権利の枠組みの中に「安全で健康的な労働環境」を含めることが決定されました。
団体交渉と労使関係
団体交渉は公正な賃金と労働条件を確立するために必要な手段であり、ILO憲章でも基本的権利とされています。交渉の対象となる代表的な問題には、労働時間や賃金、均等待遇、労働安全衛生などが含まれます。
ILOは団体交渉や労働協定の促進を目指し、労働者を保護する活動を実施しています。
ジェンダー平等
ILOはすべての働く男女の権利の促進および男女平等の達成を目指し、さまざまなプログラムを展開しています。特に「ジェンダー・平等・多様性部(GED)」は仕事における多様性と平等の促進を担当する部となり、ジェンダーや民族、人種、障害による差別の撤廃などに焦点を当て活動しています。
また、ILOのその他の取り組みとしては、若年層の雇用や家事労働、技能教育などが挙げられます。
ILOの主要な活動
続いて、ILOの主要な活動について、それぞれの目標や具体的な内容について紹介します。
国際労働基準の設定
ILOは基本的人権の確立や労働条件の改善、経済的・社会的安定の増進などに取り組むうえで、設立当初から国際労働基準の設定活動を行なってきました。国際労働基準の扱う分野は実に広く、強制労働の禁止や児童労働の撤廃、差別待遇の排除などから、三者協議、労働条件、社会保障などまで多岐に渡ります。
国際労働基準には主に条約と勧告の2つがあります。条約とは国際的な最低労働基準を定め、加盟国の批准によって効力が発生するものです。批准国は条約を国内の法律に活かさなければならない義務を負います。一方の勧告には拘束力がなく、各国に適した方法で適用できる国際基準です。勧告が条約化するケースもあり、条約化の予備的措置として採択されることも多くみられます。
ただし、これらの国際基準は批准数のみで判断するべきではなく、各国で実際にどのように適用されているかが重要なポイントです。また、条約や勧告以外にも、宣言や行動規範、ガイドラインなどの法的拘束力を伴わない国際労働基準も存在します。
ディーセントワークの実現
「ディーセントワーク」とは、1999年のILO総会にて初めて用いられた「働きがいのある人間らしい仕事」を意味する言葉です。ディーセントワークはILOの活動の主目標に位置づけられ、その実現のために積極的に活動が行われています。
より具体的には「自由、公平、安全と人間としての尊厳を条件とした、すべての人のための生産的な仕事」と定義され、働く権利の保障や十分な収入、社会的保護が与えられ、自由・平等が保障されている仕事などを指します。つまり、生産的かつ人間としての尊厳を保てる仕事といえるでしょう。
労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の推奨
労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)とは、職場の安全衛生水準の向上を図るため、自主的に行う継続的な安全衛生管理の仕組みを指します。OSHMSの目的は労働災害の防止をはじめ、労働者すべてが健康・安全に働ける職場を実現することです。
ILOは国際基準となる「OSHMSに関するガイドライン」を策定しており、厚生労働省の「OSHMSに関する指針」はILOのガイドラインに準拠しています。ILOのガイドラインは労働者の保護や労働災害の根絶に寄与することを目的とし、各国のOSHMSの指針に使用されることを目指しています。
また、ISO(国際標準化機構)による労働安全衛生マネジメントシステムに関する国際規格「ISO45001」も存在します。
OSHMSの認証を受けるメリット
OSHMSは国際標準規格であり、ISOによるISO45001を企業が取得することでさまざまなメリットが得られます。ここではそれらのメリットについて解説します。
安全な労働環境を整えられる
企業がISO45001を取得することで、安全な労働環境を整えられるようになる点がメリットです。社内で労働安全衛生の体制をしっかりと管理し、企業全体の取り組みとして運用しやすくなります。労働環境に関する問題点があれば洗い出し、改善策を講じることも可能です。
安全衛生の質が高いことをアピールできる
国際規格となるISO45001を取得することで、社外に対し安全衛生の質が高いことをアピールできます。企業イメージがアップすれば取引先やクライアントからもより信頼を得やすく、既存顧客の販路拡大や新規取引先の獲得なども期待できるでしょう。
ISO45001は安全衛生に関して継続的な努力を行なっている証となるため、認証取得を目指す企業は増えています。
従業員満足度の向上・離職率の低下
ISO45001のプログラムを実践して労働災害の減少や安全衛生の水準向上が実現すれば、従業員の働きやすい環境となり、従業員満足度の向上や離職率の低下に期待できます。
また、認証取得後の継続的な活動において、労使間で話し合いが行われることにより、相互の信頼関係を築きやすくなる点もメリットです。
安全衛生の向上に役立てよう
ILOが推奨する労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の認証を受ける企業は増加傾向にあります。認証を取得することでさまざまなメリットが得られますが、実際には継続的な活動が必要です。
具体的にはPDCAサイクルを運用することで、安全衛生の段階的向上が実現しやすくなるでしょう。計画を立て、実行して終わりではなく、評価や改善などを繰り返すことが重要です。
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