「マーケティング思考」という言葉から、企業のマーケティング領域における思考法とイメージする人は多いかもしれません。しかし、実際には営業や採用など、マーケティング以外の場面でも大変役立つ思考法です。
マーケティング思考を取り入れることで、顧客の多様化へ対応できるようになるなどのメリットもあります。
本記事ではマーケティング思考の概要や活用例、主なフレームワーク、鍛え方などについて解説します。
マーケティング思考とは?
マーケティング思考とは、顧客(相手)の目線に立ち、顧客に価値を届けられる施策を考えることです。企業は顧客から選ばれることを目指し、その結果継続的に企業利益を生み出せると考えられています。
つまり企業が顧客へ「買ってください」と強くアピールしなくても、自然と選ばれるようになることを目指す思考法です。
以下は、マーケティング思考の一連の流れです。
- ターゲットのニーズをリサーチする
- ニーズを満たす商品やサービスを生み出す
- 商品やサービスの情報をターゲットに届ける
マーケティング思考では、市場シェアと顧客獲得、組織資源の有効活用などの視点を持つことが必要です。また、マーケティング活動だけでなく、営業や採用活動などにも幅広く応用することができます。
アート思考・デザイン思考との違い
ここでは、マーケティング思考と、ビジネスシーンで活用されるデザイン思考やアート思考の違いについて解説します。
デザイン思考
「デザイン思考」とは、デザインを行う際に必要とされる考え方や手法を用いて顧客や市場の価値を創出し、ビジネスにおける問題解決を図ることです。
デザイン思考のプロセスは、まず共感から始まります。社会や人の行動をじっくりと観察し、顧客のインサイトを見つけ出します。それらをもとに顧客の問題を定義し、解決すべき問題を明らかにしていくのです。
続いて、問題解決のためのアイデアを出し、プロトタイプ(試作)を作るステップです。実際に視覚化して形にすることで、新たな創造性を付加することができるでしょう。
最後に、作ったプロトタイプを実際に使ってもらうテストを実施します。ユーザー視点が加わることで改善点を見つけやすく、消費者理解にもつながります。
アート思考
アート思考とは、アーティスト的な思考プロセスで物事を考えることです。顧客の目線に立って問題解決を図るデザイン思考とは異なり、いかにオリジナリティある視点で発想できるかが重要視されています。
日々アイデアが生み出されるため、似たような考え方ばかりでは社会は飽和状態になってしまうでしょう。新たなビジネスの創出のためにも、直感や美意識などをもとに思考するアート思考が必要とされています。
また、アート思考は問題提起のプロセスともいえます。オリジナルの視点で問題提起をすることで相手の感情を刺激し、行動を促すことが可能です。問題解決を図るマーケティング思考に対し、アート思考には「問いをつくる」という側面があります。
マーケティング思考が必要とされる理由
ここでは、マーケティング思考が必要とされる3つの理由について解説します。
顧客の多様化への対応
価値観の多様化に伴い、顧客の行動も多様化しています。既存のマーケティングの考え方に固執していては、このような社会の変化に対応することは難しいでしょう。顧客の属性や関心、行動に合わせ、相手に響く最適な商品やサービス、情報を提供する必要があります。
自然と顧客から選ばれるためには、相手のニーズをリサーチし、それらを満たす商品・サービスを作って相手に届けるという一連の流れが必要不可欠です。マーケティング思考はまさに、顧客の多様化へ対応できる考え方といえます。
あらゆる現場で活用できる
マーケティング思考はあらゆる場面で活用できます。どの立場や部門であっても、仕事の先には相手がいるはずです。マーケティング思考を日常の業務に取り入れることで、業務をスムーズに進めることができます。人事マネージャーや経営者などの役職者や開発部門の担当者などにも役立つ考え方です。
また、どの分野にも共通することとして、戦略が間違ったまま行動を起こしても、なかなか成果につながりにくい点が挙げられます。ただやみくもに行動するのではなく、マーケティング思考を取り入れることで目指す地点まで到達しやすくなります。
デジタル技術への対応が必須になっている
デジタル技術が急速に発達したことから、消費者の行動にも変化が起こっています。企業においてもデジタルシフトが加速し、対応が必須となっています。
顧客・企業双方がデジタル技術を通じた行動変容をするなかで、顧客のニーズが見えなくなってしまうこともあります。そのような状況で顧客の本質的なニーズを把握するためにも、マーケティング思考は有効です。
マーケティング思考の活用例
マーケティング思考は採用活動や営業、会議などの場面でも活用できます。ここでは、それぞれの場面で実際どのように応用できるのかを見ていきましょう。
採用活動での活用例
以降の段落で詳しく触れますが、マーケティング思考のフレームワークである「マーケティングファネル(「認知」「興味・関心」「比較・検討」「購入」の4ステップ)」は採用活動にも応用できます。まずは自社のことを多くの求職者に知ってもらう(認知)ため、ダイレクトリクルーティングを実施したり、合同企業説明会に参加したりするなどの機会を持ちます。
続いては、自社のウェブサイトに採用ページを開設して情報発信を行う、会社説明会を開催するなどし、求職者の関心をひいて応募へと導くステップ(興味・関心)です。たとえ応募者が選考に進んだとしても、必ずしも自社を選ぶとはかぎりません。面接の内容によっては企業への関心を失うケースもあるため、企業と応募者が良好な関係を築けるよう、企業は努力する必要があります(比較・検討)。
最終的に内定者が決定(購入)したあとも、社内見学や社員との懇談会などを通して内定者をフォローすることも大切です。
営業職での活用法
以下は、営業職におけるマーケティング思考の活用例です。先述したマーケティング思考の一連の流れを当てはめることができます。
- 顧客が求めているものを考える
- 顧客のニーズを満たす商品やサービスを作り、その特徴を深く理解する
- 顧客に商品やサービスの情報を届ける
ただし、競争化が激しい社会において、営業はただ単に決まったものを売るのではなく、顧客にとって必要不可欠なものを提供し続けることが求められます。
会議での活用法
以下は、会議におけるマーケティング思考の活用例です。
- 会議で求められているのはどのような情報かを考える
- 必要な情報を整理する
- 会議の参加者に情報を届ける
このように、マーケティング思考はさまざまなシーンで活用できます。日常的に自身の業務に取り入れることで、目に見える成果を得られるでしょう。
マーケティング思考で活用できる主なフレームワーク
以下は、マーケティング思考で使われる主なフレームワークです。
3C分析
3C分析とは、「Customer(市場環境・顧客)」「Competitor(競合環境)」「Company(自社環境)」の3つの視点からビジネスの市場環境を分析するフレームワークです。
3C分析を用いることで分析のポイントを効率よく絞り、企業戦略に役立てることができます。顧客や市場、競合他社の正確な情報を把握することで自社の強み・弱みが明らかになり、どういった行動を取ればよいのかが見えてくるはずです。
3C分析はとてもシンプルなフレームワークですが、客観的に分析するのは簡単ではありません。特に自社の分析を行う場合は希望的観測が入りやすいので注意が必要です。
4C分析
4C分析とは、「Customer Value(顧客価値)」「Cost(顧客のコスト)」「Convenience(顧客にとっての利便性)」「Communication(顧客とのコミュニケーション)」の4つの視点で、マーケティング戦略を分析するためのフレームワークです。ポイントは、顧客視点を用いること。価値やコスト、利便性、コミュニケーションのすべての要素において、企業側の都合でなく、顧客ならどう思うかといった視点で分析する必要があります。
顧客価値については商品やサービスに対する価値だけでなく、商品を所有することによる優越感や、ブランドイメージなども考慮しましょう。
SWOT分析
SWOT分析とは、「Strengths(強み)」「Weaknesses(弱み)」「Opportunities(機会)」「Threats(脅威)」の4つの要素を用いて、自社の環境要因を分析するフレームワークです。4つのうち強みと弱みは内部環境に、機会と脅威は外部環境に該当します。
SWOT分析は、将来的な経営戦略や事業計画を練るときによく活用されます。リスクを想定した分析は全体像を把握するためにも有効ですが、すべての要素をこれら4つに分類するのは難しいとの指摘もあるので注意が必要です。
STP分析
STP分析とは、「Segmentation(セグメンテーション:市場の細分化)」「Targeting(ターゲティング:どの市場を狙うかの選定)」「Positioning(ポジションニング:自社の立ち位置の把握)」の3点をもとに分析するフレームワークです。顧客や市場のニーズを分類し、どのサービスをどの市場で提供するかを決定するシーンで活用されます。
STP分析を行うことで、限られたリソースを無駄なく消費できるうえ、自社が競合他社よりも優れている点は何かを見極めることができるでしょう。
セグメンテーションでは、顧客の居住地域や性別、年齢、ライフスタイル、商品やサービスの購入時期などのデータを用いてニーズを分類します。ターゲティングでは自社の商品・サービスの強みをもとにどの市場で勝負するかの狙いを定め、ポジショニングでは、マーケティング施策を行ううえでの自社の立ち位置を分析します。
これら3つをそれぞれ単体ではなく、連動させて考えることが重要です。
PEST分析
PEST分析とは、「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」の4つの要素を用い、企業の外部環境を分析するフレームワークです。自社に影響を与える脅威を洗い出し、市場変化や自社の課題などを把握する際に役立ちます。主に、マーケティング戦略や施策の方向性を明らかにしたいときや、市場の変化や将来性を予測したいときに活用されます。
ただし、PEST分析は大きな枠組みを採用するため、分析が抽象的になりがちというデメリットもあります。また、4つの要素は常に変化し続けるため、将来的に予測できる変化を考慮したうえで、具体的な目的を設定することが重要です。
5Forces分析
5Forces(ファイブフォース)分析とは、企業が影響を受けやすい以下の5つの脅威(競争要因)をもとに分析するフレームワークです。
- 業界内の脅威
- 新規参入の脅威
- 代替品の脅威
- 買い手の脅威
- 売り手の脅威
ほとんどの企業は他社との競争の中で事業を展開しています。そのような状況のもと、どのような脅威があるかを知ることは重要です。それら脅威を分析することで業界の収益構造を明らかにでき、自社の競争における強みを探ることができます。
マーケティングファネル
マーケティングファネルとは、見込み客が商品やサービスを購入するまでのフェーズを図式化したものです。フェーズは「認知」「興味・関心」「比較・検討」「購入・申込」と進み、フェーズが進むにつれて数が少なくなっていくのが特徴です。
マーケティングファネルを活用することで顧客が現在どのフェーズにいるのかを把握でき、より効果的な施策を考えることができます。とはいえ、昨今は消費者の価値観が多様化しているため、必ずしもこれらのフェーズをたどらないケースもあります。
マーケティング思考を鍛える「マーケティングトレース」とは?
ここでは、マーケティング思考を鍛えられる「マーケティングトレース」の概要や具体的な手順について解説します。
マーケティングトレースとは?
マーケティングトレースとは、マーケティング思考力を鍛える方法論として提唱された造語です。優良企業のマーケティング戦略に学び、成果に結びつくマーケティング戦術をトレース(写す・なぞる)して自社のビジネスに活かしていくものです。
自身がその企業のマーケティング担当だったらどう考えるかと、シミュレーションしながらトレースするのがポイントです。
マーケティングトレースの手順
マーケティングトレースは以下の4つの手順で進めていきます。
- トレース企業を定め概要を把握する
- フレームワークを使い戦略を分析・仮説を立てる
- マーケティングの成功要因を言語化する
- 新しい戦略を立ててみる
1.トレース企業を定め概要を把握する
まずは、自社がトレースする企業を選定します。選定基準は「急成長している」「話題性がある」「マーケティング戦略がユニーク」「感動するサービスを提供している」などさまざまです。また、同業他社ではなく、あえて自社と遠い領域の企業を選ぶという手もあります。
企業を選定したら、トレース企業のマーケティング戦略の概要を把握することからスタートしましょう。
2.フレームワークを使い戦略を分析・仮説を立てる
続いては、上記で解説したフレームワークを効果的に使い分け、戦略を分析するステップです。「PEST分析」や「5Forces分析」は事業環境を理解し、戦略の方向性を決定するために活用できます。「STP分析」では価値を届けるターゲットを定め、競合との差別化要素を特定し、「4P分析」を用いて自社事業の価値の届け方を設計していきます。
3.マーケティングの成功要因を言語化する
続いて、トレース企業のマーケティングの成功要因を言語化します。言語化は目で見て再認識できる重要なステップです。トレースと成功要因の言語化を繰り返し行うことで、マーケティング戦略を立てる力を身につけることができるでしょう。
4.新しい戦略を立ててみる
ここまでのステップで、マーケティング戦略を打ち立てる力が身につき始めたと思います。最後には、自身がトレースした企業のCMOになったつもりで戦略の仮説を立ててみましょう。パターンを変えて繰り返すことで、あらゆるケースに対応できる仮説を作る力が養えます。
マーケティング思考で企業の発展に貢献しよう
相手の目線に立つことで顧客満足度を高められるマーケティング思考は、企業のマーケティング領域だけでなくさまざまなシーンで活用できます。フレームワークを用いて戦略を分析し、さらに多角的な視点を持って考えることでマーケティング思考を鍛えることが可能です。
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