資金需要の低下やマイナス金利などで銀行業が苦戦するなか、業績好調な金融機関があります。東京23区を中心に地域に密着する第一勧業信用組合(以下、第一勧信)です。2013年に理事長に就任した新田信行さんは、同組合の理念体系を整理。「目的は人との絆を深めること。収益は結果としてついてくる」という考えのもと、さまざまな改革を推進しています。インタビュー前編では、従業員幸福度を重視する理由、人事評価制度などについて聞きました。
【Profile】
新田 信行(にった のぶゆき)
第一勧業信用組合 理事長
1956年千葉県生まれ。1981年一橋大学法学部卒業後、第一勧業銀行(現:みずほ銀行)入行。みずほフィナンシャルグループ与信企画部長、みずほ銀行銀座通支店長、コンプライアンス統括部長を経て、2011年同行常務執行役員に就任。2013年第一勧業信用組合理事長に就任。多様なニーズに対応した独自のコミュニティローンの新設、専門相談員制度による人材育成、プロセス重視の人事評価など、さまざまな改革を推進。繰越損失を解消し、V字回復をはたす。2016年黄綬褒章を受章。著書に『よみがえる金融―協同組織金融機関の未来』(ダイヤモンド社)。
従業員の「満足」よりも「幸福」が重要な理由
―なぜ、第一勧信は「従業員幸福度」を重視しているのですか?
もともとは従業員満足度を重視していたんですよ。でも、当組合の経営理念には「皆さまの幸せに貢献」と書いてある。だったら、「満足」より一段上の「幸福」をめざすべきですよね? そこでお客さんはもちろん、職員の幸せも大切にするようになりました。
―そもそも業績向上が目的じゃないんですね。
根っこは私たちの使命であり、存在意義です。当組合は銀行と違って、株式会社じゃない。地域の人たちがお金を出しあってつくった協同組合です。したがって、利益や規模の拡大が目的ではありません。金融を軸にしたサービスを通じて、人を幸せにすることが目的なんです。
その原点から経営理念が生まれ、スローガンや基本方針などを定めました。たとえば、3つの基本方針は「『人とコミュニティの金融』を実践します」「『育てる金融』で未来を創造します」「『志の連携』で社会に貢献します」というもの。収益や業績なんて言葉は、どこにも入っていません。
― 一般の中小企業も「従業員幸福度」は重要ですか?
人の幸せが目的なのは、非上場の中小企業や小規模事業者も同じでしょう。たとえば「おいしいラーメンを食べてもらいたい」「新鮮な野菜を提供したい」といった想いが先であって、お金儲けが目的じゃない。人を幸せにした結果として、お金はついてくるものです。目先の利益に走ると、サステイナブル(持続可能)な存在にもなれません。
また、いまは‟人の時代”。モノとカネはあふれているのに、ヒトが足りません。したがって、人材がイキイキと働ける組織をつくる必要があります。その指標としても「従業員幸福度」は有効でしょう。
―幸せの価値観は人によって違います。どうやって、職員の幸福度を高めているのですか?
慶應義塾大学の前野隆司教授(幸福学の第一人者)の研究を参照しました。「幸せは4つの因子で構成される」と学んだので、それらを感じられるような環境づくりに取り組んでいます。
1つめの因子は「自己実現と成長」。一人ひとりの自律的な成長をうながすため、ノルマをなくしました。2つめの因子は「つながりと感謝」。お祭りや町内行事など、地域のイベントへの参加を奨励しています。
3つめの因子は「前向きと楽観」。表彰を増やし、人事処分を指導に変えました。4つ目の因子は「独立と自分らしさ」。職員の副業を認め、近いうちにフレックスタイム制を導入する予定です。
結果として、幸せな人はパフォーマンスも高くなります。明るく元気なほうが、創造性も生産性も上がりますよね。これは、どんな経営者も望むことだと思います。
人事評価は「対話」。結果重視からプロセス重視へ
―具体的な取り組みについて、くわしく教えてください。
当初(2013年に理事長就任)は経営理念を見直して、スローガンや基本方針などを定めました。だけど、なかなか組織風土が変わらない。そんなとき、ふと思ったんです。理念ではカッコいいことを言っているのに、支店や個人を収益に直結する数字で評価している。これは二枚舌じゃないかと。
私たちの目的は人の幸せであり、お客さんとの絆を深めることです。その‟リレーションシップキャピタル”こそ、最大の無形資産。それを一生懸命に積み上げた結果として、収益がついてくるのです。そこで旧態依然とした評価基準を変えて、セールスやノルマを禁止しました。
―どのように評価基準を変えたのですか?
結果重視からプロセス重視に変えました。従来は預金や貸出金などに応じて評点がついていました。平たくいえば、儲けた人が評価されて、ボーナスが増えたり、昇進したりしたわけです。この仕組みは、ほとんどの金融機関に共通しています。
でも、おかしいですよね? 理念や基本方針に照らすなら、多くのお客さんと深く仲良くなった店や職員が評価されるべき。それで、当組合の理念につながるような行動を評価するようにしました。
―結果ではなく、プロセスを評価すると。
じつは「評価」という言葉も好きじゃないんです。本来、人と人は対等なのに、上から目線のニュアンスを感じますよね。しっくりくる日本語が見当たりませんが、今後は「対話」と言い換えるつもりです。
すべての職員は本質的に対等なので、他者と比較はしません。「‟昨日のあなた”と‟今日のあなた”を比べると、どこがどれくらい成長しましたか?」「‟明日のあなた”はなにをやりたいですか?」 そんな対話を通して、よい行動を称賛し、報酬や役職に反映させていきます。
工場見学や祭事参加などの行動を定量目標に
―どのような行動を評価しているのですか?
お客さんと仲良くなるような行動です。抽象的だと測りにくいので、顧客企業の工場見学、理念や社是などのヒアリング、お祭りへの参加など、いくつかの行動を定量目標に置き換えました。これらの回数が多いほど、お客さんと仲良くなったり、信頼関係を築いたりしやすいでしょう。
あとは定性目標の数を増やし、全体に占めるウェイトも重くしました。従業員1万人の大企業だったら、難しいと思いますよ。でも、ウチは400人足らず。役員と人事が目配りすれば、一人ひとりの働きぶりや評判はわかります。
―だから、定性的なプロセス評価が機能しているのですね。
まだまだ、これからですよ。特に難しいのは、長年数字やノルマで叩かれてきた職員の心を変えること。いわば、人生観を変えることです。だからこそ、それを邪魔する制度を壊しました。
同じように、私たちは「体制」よりも「態勢」を重視しています。つまり、組織の枠組みよりも、一人ひとりの行動が大切。定年制の廃止、副業の認可、フレックスタイム制の導入などを通じて、多様で柔軟な働き方を実現したいと考えています。それは職員の幸せにもつながるでしょう。
―後編では、表彰制度や権限移譲、理想の組織像などについて聞きました。次回もお楽しみに。
あなたにおすすめのお役立ち資料を無料ダウンロード
ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。
【無料PDF】テレワーク時に求められる適切な「人事評価」
ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。
【無料PDF】基礎から解説!間接部門のKPI目標事例
ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。
【無料eBookプレゼント】数字で見る人事評価クラウド
あしたのチームのサービス
導入企業4,000社の実績と12年間の運用ノウハウを活かし、他社には真似のできないあらゆる業種の人事評価制度運用における課題にお応えします。
ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。
サービスガイド
ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。
あした式人事評価シート