経済産業省の調査によると、今後IT産業における人材の需要はさらに拡大していくと見込まれています。
IT業界の市場規模が拡大していくにつれ、人材に求められるスキルや専門性なども変わっていき、各社とも優秀な人材を獲得するうえでの対応が迫られていくでしょう。
このような背景の中、企業の経営層や人事担当者が知っておきたいのが「ITSS」というワードです。今回は、ITSSの意味や具体的な項目を解説します。
ITSSとは?
そもそもITSSとは何なのか、まずはその意味や目的について説明します。
ITSSとは国が策定したスキルレベルの指標
ITSSとは「IT Skill Standard」の略語で、「ITスキル標準」を指します。つまり、ITエンジニアなど個人のIT関連能力について、その専門分野やレベルを示すための指標です。
この指標は、経済産業省が策定し、2002年12月に発表されました。以来、数回のバージョンアップを経て現在に至っています。
定義されている項目は、IT関連サービスを提供する際に必要な能力で、職種(キャリア)としては「ITスペシャリスト」などがあり、それぞれ習熟度合いに応じてレベルが分けられています。
IT関連人材のスキルが明確化・体系化されたことで、産業界だけでなく教育の場でもITのプロフェッショナルを育成するうえで共通概念が用いられることになりました。
11職種・35専門分野でスキルレベルを設定
ITSSでは、人材のキャリアを11職種・35専門分野に区分したうえで、それぞれ7段階のスキルレベルが設定されています。
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)のホームページにはITSSの職種やスキルをマッピングした「キャリアフレーム」と呼ばれるチャートが掲載されており、職種・専門分野とレベルが細かく示されています。
職種には、「プロジェクトマネジメント」「アプリケーションスペシャリスト」といったIT業界特有の項目だけでなく、「マーケティング」「エデュケーション」など他の業界の項目も含まれます。
レベルは7段階になっており、レベル4を超えると高度人材とされ、最上位のレベル7は世界でも通用するほどのプレーヤーと定義されます。
ITSSは実務能力を測る“ものさし”
ITSSは、個々人の実務能力を測るための“ものさし”としての役割があります。
IT業界におけるスキルとしては、システム開発やプロジェクトのマネジメント、製品・サービスの運用といったものがありますが、もともとその評価基準は会社によっても異なり、統一した尺度はありませんでした。
しかし、ITSSが策定されたことで、会社のみならず業界に共通の評価指標が生まれ、個人のキャリア形成や人事計画がより定量的に検討できるように変化。
また、スキルについても、業務課題を満足に実現するための実務能力という概念に変わったのです。
UISS、ETSS、CCSFとの違い
ITSSと混同されやすい言葉にUISS、ETSS、CCSFがあります。それぞれの違いを見てみましょう。
UISS(情報システムユーザースキル標準)との違い
UISSとは「Users’ Information Systems Skill Standards」の略で、情報システムユーザースキル標準を意味します。UISSは経済産業省が管轄する検定試験で、ITを使用して業務を行うユーザーのレベルを測定するための取組です。
IT技術の発達により社員のITスキルの能力が業務遂行や業績に大きく関与するようになりました。そのため、企業間での格差がなく、企業がITを活用して業務効率をアップさせることを目的としてUISSは設置されました。ITSSが主にベンダーを対象にしており辞書のように基準として用いられるのに対して、UISSはユーザーを対象としており検定試験である点に違いがあります。
ETSS(組込みスキル標準)との違い
ETSSとは「Embedded Technology Skill Standards」の略で、組込みスキル標準という意味です。ETSSは経済産業省の管轄する組込みソフトウェアの開発スキルを測定する指標で、主にエンジニアを対象としています。組込みソフトウェアは家電製品や産業機器などの機械を制御する仕組みで、家電・産業機器メーカーにとっては欠かせないノウハウです。
企業はエンジニアの組込みソフトウェアの開発スキルを客観的に判断するためや、研修の一環としてETSSの指標を使用します。ITSSとの違いについては、ベンダーのスキルの指標である点は同じなのですが、ETSSの方が組込みソフトウェアの開発スキルに限定されている点に違いがあるでしょう。
CCSF(共通キャリア・スキルフレームワーク)との違い
CCSFはITSS(ITスキル標準)、ETSS(組込みスキル標準)、UISS(情報システムユーザースキル標準)の各スキル標準を共通して評価する枠組みです。ITSS、ETSS、UISSの3つを指標として活用し、情報処理技術者試験との対応関係が明確化されました。CCFSは、今後ますます活躍が期待される高度IT人材が保有すべきスキルを育成・評価するための枠組みなのです。
これによって、異なる業務領域へと業務を変更したり、職種を変えたりしても、新たな職種でどのぐらいのスキルが必要とされ自分がどのレベルなのか把握することが可能になり、求められるスキル・知識の違いを認識できます。それによって、さまざまな業務領域でスピーディに習練が可能になり、高度なIT人材を育成することが可能なのです。
CCSFでは、高度IT人材の10年先をみすえて、3つの人材類型と、さらに6つに分類した人材像を定義しました。
人材類型 | 人材像 |
基本戦略系人材 | ストラテジスト |
ソリューション系人材 |
システムアーキテクト プロジェクトマネージャ テクニカルスペシャリスト サービスマネージャ |
クリエーション系人材 | クリエータ |
共通キャリア・スキルフレームワークによるキャリアレベルを定義し、3スキル標準の整合性を確保。共通キャリア・スキルフレームワークのレベル1~4との対応関係を明確にし、情報処理技術者試験をレベル判定に活用できます。
共通キャリア・スキルフレームワークのレベル1~4で必要とされる知識を知識体系として整理されているため、各人物像が必要とされるスキルをレベルごとに学ぶことができるのです。
11の専門職種
ITSSで体系化されているのは11職種です。その職種について、ITSSによる定義や明文化された概要を紹介します。
1.マーケティング
マーケティングは、主に市場調査や販売戦略に責任を持つ役割です。具体的には、業界や製品・サービスの市場動向を予測・分析します。そのうえで、事業・販売戦略を策定し、販売チャネルの企画・立案をすることもあります。
2.セールス
セールスは、製品・サービスの受注や顧客との関係構築を担う職種です。IT業界が提供する製品・サービスや各種ソリューションについて精通し、顧客に対して専門的な立場から提案を行い、受注や関係強化を図ります。
3.コンサルタント
コンサルタントは、顧客のIT戦略やIT投資について、専門的な知見から実施の妥当性や方針の整合性などを判断し、最適な意思決定のサポートをする役割です。ITサービスへの専門知識だけでなく、経営戦略にも精通している必要があります。
4.ITアーキテクト
ITアーキテクトは、顧客の業務プロセスや事業形態、ITシステムの構造を把握しつつ、課題を分析してシステム全体の改善や再構築を行う役割です。顧客の業務の流れや事業形態に応じてITシステムを設計するため、深い事業理解とシステム構造への知見が求められます。
5.プロジェクトマネジメント
プロジェクトマネジメントは、システム開発の現場でプロジェクトの品質や進捗などを管理・意思決定する役割です。プロジェクトの管理者として、プロジェクトの計画立案、メンバーのアサイン、進捗管理、トラブル対応といった全般的な業務プロセスへの理解が求められます。
6.ITスペシャリスト
ITスペシャリストは、ハードウェアやソフトウェアの両方について専門知識や技術力を持ち、システム設計、構築・導入やテスト、運用・保守を実施し、顧客が抱えるシステム上の課題を解決します。
7.アプリケーションスペシャリスト
アプリケーションスペシャリストは、アプリケーション開発やパッケージ導入についての専門技術を持ち、アプリケーションの設計、開発、構築、導入、テスト、保守を実施して顧客の課題解決に貢献します。
8.ソフトウェアデベロップメント
ソフトウェアデベロップメントは、ソフトウェアエンジニアリングに関する専門技術を抱え、ソフトウェアの企画、仕様決定、設計、開発といった業務を行います。品質面だけでなく、販売戦略に関するマーケティング視点も重要です。
9.カスタマーサービス
カスタマーサービスは、主にソフトウェア・ハードウェアの導入や、保守運用を支える役割です。提供するサービスのカスタマイズや、メンテナンス、導入に関する専門的知識によって顧客をサポートします。
10.ITサービスマネジメント
ITサービスマネジメントは、システム運用に関して、リスク管理を行いながらシステム全体の安定稼動を支える役割です。システムやサービスの安定性を保つために、信頼性、安全性、効率性の観点からシステムを管理します。
11.エデュケーション
エデュケーションは、教育や研修を担当する役割です。顧客がサービスやシステムを利用するにあたって必要な知識や能力を育成するために、研修カリキュラムの開発・計画や、実行・評価を行います。
7のスキルレベル
ITSSでは、職種・専門分野ごとに7つのレベルに分かれています。この区分は、プロフェッショナルとして価値創出に必要なスキルの度合いを示し、キャリアパスを明確にするために設定されたものです。
レベル1
エントリー(入門)レベルであり、情報技術に関して最低限必要な基礎知識がある状態です。システム開発においてはまだ具体的な作業を任せられるレベルではないため、スキルを獲得するためにさらなる学習が求められます。
レベル2
エンジニアとして独力で特定の作業をするにはまだ不十分ですが、上位人材が指導・管理する状況において、特定の作業を担当することができます。ミドルレベルとして、より上位スキルを獲得するための基本的知識・技能がある状態です。
レベル3
応用的な知識や技能を獲得しており、要求された作業を独力で遂行することができる状態です。さらに上位人材として活躍するには、何らかの専門分野を定めてスキルを伸ばすことが求められます。
レベル4
高度IT人材に該当し、業務を着実に遂行するだけでなく、業務上の課題発見やその解決までも期待される状態です。IT全般に関する基礎的・応用的な知識を基盤としつつ、さらにプロとして専門分野を抱えています。
レベル5
その企業内のハイエンドプレーヤーという位置付けで、確立した専門分野を武器に、社内の技術やノウハウ、あるいは、事業を主体的に創出して牽引するハイレベル人材です。
レベル6
国内のハイエンドプレーヤーであり、自他ともに認める経験と実績を有しています。プロフェッショナルとしての専門分野を中心に、社内だけでなく外部も巻き込みながら技術、事業、ノウハウをリードする貴重な人材です。
レベル7
高度な専門性を活用し、世界市場でも通用するプレーヤーです。業界において革新的なサービス・技術の開発や、市場開拓といった実績を有し、業界の特定分野をリードするレベルとされています。
人材イメージ
ITSSでは、職種やレベルに応じてそれぞれ想定される人材像も定義されています。ここでは3つの例を紹介しましょう。
ITスペシャリスト職種の「データベース」分野でレベル4の場合、中・大規模のDBアプリケーション開発のリーダークラスに値します。
セールス職種の「訪問型コンサルティングセールス」分野でレベル3の場合、業界知識や動向への理解をもとに、小・中規模のITソリューションの提案ができます。
プロジェクトマネジメントは全専門分野共通で、レベル3の場合、小・中規模のサブリーダーとしての遂行能力があるという定義です。
ITSSの活用例
ITSSはIT企業の人事育成などで以下のように活用できます。
1つ目は、ITサービス企業で、人事機能の共通基準として用いる方法です。
自社に必要な人材育成や採用の際の指標となるだけでなく、自社の人材のスキル状況を客観的に把握するためにも活用できます。
2つ目は、教育や研修サービスを提供する団体が、育成計画の策定や訓練の効果指標として活用する方法です。ITSSという基準を用いることで、育成効果を定量的に分析できるようになるでしょう。
人材採用や育成、キャリア計画に活用しよう
ITSSとは、ITエンジニアなど個人的なIT関連能力について、その専門分野やレベルを示す指標です。これを用いることで、共通認識に沿ながら、客観的に個人のスキルを把握しやすくなります。人材採用や育成、キャリア計画にも活用できる概念です。
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