人材育成の現場において、「内省」という言葉・考え方が話題になっています。
似た言葉である反省は、日常的にも使用されていますが、内省については馴染みのない人も多いでしょう。
しかし、内省をしっかり理解することで、人材育成に活用できる可能性があるため、きちんとチェックしておくべきです。
今回は人材育成に大きく関わる「内省」の意味やビジネスにおける効果、具体的な実践方法について紹介します。
内省とは?
内省(reflection)とは自分の考えや言動、行動について深く省みることです。
また、内省は哲学的な意味を持つ言葉でもあります。
自己意識について反復的に考えることで、次第に知性へと近づいていく活動を指し、「見慣れたものごとを別の角度から見ることで本質を見極める」ことを目的とします。
企業の人材育成における内省は、学習や経験によって得たものについて、自発的に振り返ったり取捨選択したりすることです。
例えば、実際に仕事を進めていくなかで上手に進んだ部分とミスをした部分を見極め、伸ばすポイントと改善点を確認していくこととなります。
内省・内観・反省の違いは?
内省と似た言葉として、「内観」「反省」があります。
内観
内観とは、内省とほぼ同じ意味の言葉であり、もともとは仏教用語です。
反省
反省も内省と同様に、自分の行いや言動について振り返り、良い点と悪い点を考えることを指します。
ただし、一般的に反省という言葉には、懺悔的な意味合いが色濃く、「間違っていなかったかよく考える」という文脈で使用されることが多いです。
内省することでの仕事への効果
変化のスピードが上がっている時代のなかで、仕事には常に行動・改善を繰り返すことが求められています。
内省を行うことで、伸ばすべきポイントや改善点を見つけ、急激な変化にも自然と対応していく力が身につくのです。
また、仕事の中には、同じ作業を繰り返すルーティーンで進むものが圧倒的に多いでしょう。ルーティーンには効率的な面もありますが、人間に飽きを生じさせ、学ぶ必要性を低下させる点に注意が必要です。
そういったルーティーンの仕事であっても、内省は日々の仕事に試行錯誤と学習の機会を与えることができます。
内省を習慣化できれば、自らの経験を振り返り続けることにつながり、新しい発想に至る可能性もあるのです。それまで気づかなかった仕事の進め方やコツをつかむことで、仕事の改善や効率化が行われます。
効果的に内省する主な方法は2つ
仕事において、内省がもたらす恩恵は改善・効率化などいくつもあります。
ただし、実際に内省をしようとしても、効果的な方法を知らないままでは難しいでしょう。ここからは、内省の方法を「個人」と「集団」に分けて、それぞれ解説します。
1.個人で行う内省
本来、内省というのは極めて個人的な行為です。そのため、自らの行動や経験について、自分自身で振り返る必要があります。
しかし、ただ記憶をたどっているだけでは、内省にはなりません。
個人で内省を行う場合には、「書く」ことが重要です。
思考をめぐらせて内省するだけではなく、文字にして書くことで、悪かった点が明確化され今後の改善点についても、自分自身でしっかりと気付くことができます。
例えば、日記や日報などで、今日の自分の行動を記録します。そして、実際に書いたものを見返しながら、その日の自分について内省するのです。
良い点と悪い点をきちんと見極め、続けるべきものと改善点をそれぞれ認識したうえで、翌日以降に備えましょう。
個人で行う内省には限界がある
内省の基本は、個人で実践することです。しかし、個人での内省には限界があります。
それは、「狭さ」「歪み」「堂々巡り」の3つの落とし穴により、内省が上手く機能しなくなるからです。どれだけ勉強熱心な人であっても、個人の持つ知識や経験は制限されます。
そのため、価値観に「狭さ」が生まれますし、考え方にも「歪み」や「偏り」が発生するでしょう。
そして、同じような行動を繰り返してしまう「堂々巡り」や「行き詰まり」に突き当たってしまうのです。他の人とともに内省をすることで、こういった個人で内省を行った場合の限界を乗り越えて効果的に実施することができます。
2.集団で行う内省
集団での内省では、個人の内省と同様に書くことが重要であると同時に、話すことも主要な方法になります。
お互いの行動や考えなどについて、話し合うことによって、それまで自分では気づかなかった改善点を見つけられるでしょう。
内省する対象とは?
内省の対象となるのは、実際に起こった「出来事」です。
内省によって、出来事を振り返るうえで重要なポイントは2つです。
1つ目は、「事実」と「感情」を切り分けることにあります。
実際にどのような出来事が起こったのかという点と、それに対してどのようか感情・判断をしたのかという点をバランスよく見つめ直すことが大切です。
もう1つのポイントは、「内容」と「プロセス」について考えることです。
内容とは、「どのような出来事だったか」といった部分であり、プロセスは出来事の前後関係を指します。
そして、1つの出来事について、以前の経験から評価をしていくのです。共通点や類似点、あるいは相違点から法則性を見つけ出し、概念化・体系化を行うことで学習を深めていきます。
効果的な内省を行う3つのコツ
内省の必要性や方法は理解していても、日常の業務が忙しく途中で挫折してしまうことも多いようです。効率的な内省を実践し、継続するための3つのポイントを紹介します。
何に意義・ワクワクを感じるか振り返る
何に意義を感じ、何にワクワクを感じるのかを知ることは、内省を行い自分のあるべき姿に近付くために重要です。
同時に、それは「自分は社会から何を任されているのか」という使命を探すことでもあります。
「自分の気持ちが前向きになれるものは何か」をわかった上で内省を行うことで、よりスピーディに理想とする自分の姿に近付け、内省を効率的なものにします。
組織の使命とのすり合わせ
上記の自分がワクワクすることを、組織の使命とすり合わせることで、仕事上の内省はますます効果を発揮します。
人間は結局、本当に自分がやりたいと感じていることにしか、深く内省しませんし、継続もできません。
組織の使命が自分のやりたい事ときちんとリンクし、仕事を実践することで、自然と内省しやすい状況を作りだせます。
固執はしない
個人の使命と組織・企業の使命が、しっかりと重なっていくような内省は理想的です。ただし、内省によって得られた使命に固執すべきではありません。
軸や芯を持つことは大切ですが、変化を受け入れる柔軟さがなければ、内省による改善が行われないからです。
内省を繰り返すなかで、変えるべき点はきちんと変化させつつ、成長を続けることが重要になります。
具体的な内省の手順
組織による内省の具体的な方法には、「リフレクション・テーブル」があります。 参加者は12名を目安とし、メンバーはミドルマネージャーです。
リフレクション・テーブルの実践方法はシンプルであり、週に1回ずつ決まった時間に75分間20~30回のセッションを行います。これを繰り返して習慣化することで、組織の内省を促します。
毎回のセッションでは、参加者それぞれの経験を持ち寄って内省を行い、経験や内省によって生まれる気づきを共有していきます。
1人で行う内省と集団で行う内省を同時に行うことで、より高度な内省を行うことができます。
内省の実践に役立つフレームワーク
内省を実践するにはフレームワークを活用するのがおすすめです。フレームワークに沿い、順序立てて内省を行えば、頭のなかで思考が整理され、高い効果が期待できます。ここでは、内省の実践に役立つ3つのフレームワークを見ていきましょう。
KPT法
KPTとは、「Keep(やるべきこと、継続すべきこと)」「Problem(課題点を抽出する)」「Try(課題点の解決に挑む)」の頭文字を取ったものです。業務を進めるうえで、抽出された課題点の改善スピードを速めるフレームワークとして活用されています。
具体的には、上手く進められている業務を見つけ(Keep)、滞りがちな業務を抽出し(Problem)、課題点の改善案を導き出す(Try)ものです。
KDA法
KDAとは、「Keep(やるべきこと、継続すべきこと)」「Discard(問題点、失敗、やめるべきこと)」「Add(K、Dを踏まえ、これから新規に始めること、挑むこと)」の頭文字を取ったものです。KPTと異なるのは問題点の改善ではなく、やるべきことと止めることを明確にするための方法という点にあります。
YWT法
YWTとは、「Y(やったこと)」「W(わかったこと)」「T(次にやるべきこと)」の頭文字を取ったものです。過去を振り返り、これまでの業務のなかで発見・理解したことを基にして次にやるべきことを導き出します。
内省するときの注意点
内省の実践を行う際にはいくつかの注意点があります。なかでも重要なのは次の3点です。
反省会にしない
内省を実践する際、消極的な思考になると内省ではなく「反省」になってしまいます。過去の失敗や間違いをことさら責め立てるのではなく、そこから何を得て、どう次に活かしていくべきかを積極的な思考で実践することが重要です。
完璧を追求しすぎない
内省を実践するうえで重要なポイントは、「継続」にあります。そして継続するために欠かせないのは、完璧を求めないことです。成果を上げるために内省のクオリティを高めるのは重要ではありますが、常に100%を求めると継続は難しくなります。時間をかけてでも少しずつ成長につなげることを意識するのが重要です。
狭い視野で完結させない
内省を実践する際は、一方向だけではなく、さまざまな方面から一つの事象を見ることが必要になります。自分一人で難しいようであれば、先輩や同僚にも意見を聞き、多角的な視野を持つことで内省のクオリティも高められるでしょう。
内省の才能がある人の特徴
内省にも上手くできる人、できない人がいますが、できなくても積み重ねによりできる人になる可能性は少なくありません。ここでは、内省の才能がある人の特徴を見つつ、内省にはどのような能力が求められるかを解説します。
常に「なぜ」という思考を持っている
「なぜ、この仕事は上手くいかなかったのか」「なぜ、契約が取れたのか」、成功失敗に関わらず、常に結果に対して疑問を持ち、理由を追求する人は内省の才能があるといえるでしょう。
日常的にブレインストーミングを行っている
自分ひとりで考えるだけではなく、周囲の人と思考の訓練(ブレインストーミング)を日常的に行っている人も内省の才能に長けた人といえます。また、毎日数分間でも自分の考えをまとめる時間を作ったり、知的な会話を行ったりすること=頭脳活動が好きな人は内省の才能があるといえるでしょう。
あらゆる角度から物ごとを見られる
ほかの人では気づけないような点から物ごとを見つめ、解釈できる人またはそうした思考が好きな人は内省の才能があり、常にさまざまな思考を巡らしています。多角的に物事を捉える意識をすることは、内省の質の向上につながります。
内省できない人の2つの特徴とは
内省は個人にとっては組織にとっても、成長をするために役立つものです。しかし、誰もが内省を行えるとは限りません。内省できない人には、大きく分けると2つの特徴があります。
引きこもり型
1つ目は「引きこもり型」であり、心を閉ざしているタイプです。
周りと関わることを避ける傾向にあり、何事に対しても自己満足で終わってしまいます。間違いに気づくことはあるものの、懺悔的な反省はしますが、自己憐憫に陥るばかりで改善がありません。
好奇心や向学心に欠け、「今のままでよい」という考えが強いため、内省ができないのです。
わがまま型
2つ目は「わがまま型」で、自己正当化ばかりを繰り返し、自己中心的な考え方をします。断定的な話し方が多く、自分の考えで決めつけることを繰り返します。
他者との関わりを避けたりはしませんが、相手を操作したり変えようとしたりするばかりで、自らが変わろうという意志はありません。
自信過剰な面もあるため、自分に変化を求める相手に対して攻撃的になるケースもあります。
内省を進めるためには、こうした「他者を排除する」「自己を肥大化する」といった傾向を持たないように努めることが大切です。
内省で自発的に育つ人材を育成しよう!
内省は、自らの行動や経験から、改善点を見つけるために役立ちます。
また、集団による内省を通じて、組織としての変革や従業員の結束を促すこともできるものです。
効率的な内省を実践すれば、人材育成だけではなく、より良い組織・企業づくりにもつながります。
日頃から自分や組織について理解を深め、変化を受け入れる意識を育てることができれば、従業員自身が積極的に成長を目指すようになることが期待できるでしょう。
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