インクルージョンの意味を簡単に解説!実は、ダイバーシティとは切っても切れない関係

(画像=Cecilie_Arcurs/iStock)

ダイバーシティ経営に乗り出す企業が増えているなかで、「インクルージョン」という言葉を目にしたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか?

インクルージョンとは「包括」「包含」を意味する言葉であり、実はダイバーシティとは切り離せないものです。

今回はインクルージョンに関する基本的な情報と、ダイバーシティとの関係性、そしてインクルージョン&ダイバーシティの実践例などを解説します。

インクルージョンとは?

インクルージョンとは、「包括」「包含」「一体性」などの意味を持つ言葉です。
ビジネスの世界では、企業内の誰にでも仕事に参画・貢献するチャンスがあり、平等に機会が与えられた状態を指します。

また、個人が持つ特有のスキルや経験、また価値観などが認められ、活用される社会・組織を目指すものです。

教育の分野においては、障がい者と健常者が同じ教室で学習することを「インクルージョン教育」と呼ぶことでも知られています。

インクルージョンが普及した背景 

インクルージョンという考え方が普及した背景には、社会問題や教育現場の問題などがあります。ここでは、それらの背景について解説します。 

ソーシャル・エクスクルージョン(社会的排除)への対策 

1970〜1980年代、ヨーロッパでは誰もが受けられるはずのサービスや権利、機会を差別や社会格差などにより、特定の人が受けられない「ソーシャル・エクスクルージョン(社会的排除)」が大きな課題となっていました。この課題に向き合うため、誰もが平等に社会参画できる「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」という考え方が登場します。 

ソーシャル・インクルージョンはその後、教育やビジネスの現場にも普及し、ソーシャル・エクスクルージョンの対義語として広まっていきました。 

インクルーシブ教育への転換 

日本でインクルージョンの考え方が最初に広まったのは教育分野でした。人間の多様性を尊重し、障がいのある子どもとない子どもが共に学ぶ「インクルーシブ教育」という概念が注目を集めるようになります。障がいのある子どもとそれ以外の子どもを区別して教育するエクスクルージョンの状態から、すべての子どもを公平に、個々を最適化する教育へと転換していきました。 

インクルーシブ教育が推進されるきっかけとなったのは、1994年にUNESCOで出されたサラマンカ声明です。声明の中で、インクルーシブ教育は国際社会全体で取り組むべき課題とされました。このように、初めは教育分野を中心に広まったインクルージョンの概念は、次第にビジネスの分野にも取り入れられていくようになります。 

インクルージョンがダイバーシティ推進の中で登場した経緯

インクルージョンの考え方に近い言葉には「ダイバーシティ」という言葉があります。

もともとはダイバーシティという考え方が先に生まれ、その推進を進める中でインクルージョンという考え方は生まれました。

1960年代に米国で起こった公民権運動によって、マイノリティの権利が認められるようになると、企業に「ダイバーシティ」を推進する動きが広まります。歴史的な背景により従来から移民が多いアメリカでは、企業がマイノリティ従業員を受け入れ、多様性を持った経営を行うことは必要不可欠でした。

そこで、多様な人材の相違を認め登用を目指す「ダイバーシティ」を推進する企業が増えたのです。ところが、実状は「〇%のヒスパニック系社員を雇用する」といった表面的なもので、社員の定着率は低く、採用・教育に係る費用ばかりがかさむ状況に。そうした実態に対し、1980年代に生まれたのがダイバーシティにインクルージョンをプラスした考え方です。

雇用する従業員におけるマイノリティの割合だけに注目するのではなく、マイノリティであっても能力・創造力を発揮できるようモチベーションが向上する職場環境、またそれぞれの従業員が働きやすい職場を整える動きが推進され始めました。

ダイバーシティ&インクルージョンとは?

このようにして、ダイバーシティにインクルージョンをプラスした「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉は生まれました。

日本企業では「ダイバーシティ」が一般的ですが、ダイバーシティ&インクルージョンとはどのような言葉なのでしょうか?

ダイバーシティ&インクルージョンを理解するためには、まずダイバーシティについて知る必要があります。

ダイバーシティとは「多様性」と訳される言葉であり、年齢や性別、人種などにかかわらず、さまざまな人々が社会や組織に参加する機会を得ることを目指そうという考え方です。

働き方改革で注目される「ダイバーシティ」とは?推進のポイントや施策例
政府が掲げる「働き方改革」の一環で、引き続き注目が集まるのが「ダイバーシティ」です。「多様性」を意味しており「違いを受け入れ、企業の成長に活かすという考え方」な...

ところが、ダイバーシティは多様な人々の参加は促すものの、参画したあとの体制づくりや継続性の部分で不十分なところがありました。

一方、インクルージョンの考え方は、「個々の考え方や能力をいかに活用していくか」に焦点を当てたもので、人材登用後の制度や風土づくりに重きをおく考え方です。

「多様な人材が社会・企業で活躍する」ことを実現するためには、ダイバーシティとインクルージョンの考え方双方が必要不可欠なのです。

ダイバーシティ&インクルージョンとは、あらゆる多様性を受容し、どのような人であっても活躍する機会がある社会・組織を作っていこうとする理念となります。

日本でのダイバーシティ&インクルージョンの動向

もともと多種多様な人種を受け入れてきたアメリカや、多くの国家が密集しているヨーロッパなどと比較して、日本ではダイバーシティ&インクルージョンに対する取り組みは遅れてきました。

近年は、経済産業省が「ダイバーシティ経営」を推進し、「女性」「外国人」「高齢者」「障がい者」を含めた多様な人材が事業に参画しやすい制度を設けており、実際に効果を表している企業を表彰するなどしています。

経済産業省では、企業の経営戦略としてのダイバーシティ経営の推進を後押しするため、「新・ダイバーシティ経営企業100選」や「なでしこ銘柄」の選定により、先進事例を広く発信するとともに、女性を含む多様な人材の活用を経営戦略として取り込むことをより一層推進するための方策を検討しています。

経済産業省『ダイバーシティ経営の推進』より

日本における「ダイバーシティ」は、実質的にダイバーシティ&インクルージョンを目指すものです。

一方で、日本ならではの「ダイバーシティ」ではなく、あえて「ダイバーシティ&インクルージョン」を掲げる企業も増えており、特に外資系企業では強く推進するところも多いです。

ただし、日本でダイバーシティ経営を取り組む会社には、ダイバーシティに対して誤解を抱いている会社が多いのが実情です。それは、「ダイバーシティ=女性の活躍を推進すること」だという考えです。

たしかに、女性の活躍はダイバーシティの目的の1つですが、女性の活躍推進をしておけばダイバーシティが実現できていると考えるのは間違いです。多様な人材は、もちろん女性以外にもさまざまですが、日本ではダイバーシティ経営の名の下に、女性の登用・活用を推し進める会社ことを目標にする会社が圧倒的に多いのが実情となります。日本でも「インクルージョン」を加味したダイバーシティ経営は広まりつつありますが、まだまだ課題が残っている状態と言えるでしょう。

企業がインクルージョンを推進するメリット 

ここでは、企業がインクルージョンを推進するメリットについて見ていきましょう。 

生産性が向上する 

インクルージョンを推進することで多様な人材の個性を発掘し、それぞれが活躍できる環境づくりを目指すことができます。従業員が個性を認められていると実感できたら、モチベーションがアップし、一人ひとりの生産性のさらなる向上にも期待できます。 

各人の個性をチーム貢献に活かせる環境を整えて従業員エンゲージメントを高めることで、企業全体の生産性向上にもつながるでしょう。 

優秀な人材を獲得しやすくなる 

従業員の個性を認め、多様性を受け入れている企業には、多くの求職者が関心を持ちます。年齢や国籍、障がいの有無などにとらわれず、多様な人材が一緒に働ける企業は、優秀な人材を獲得しやすい点がメリットです。求職者に「この会社で働きたい」と思わせる要素の一つとなり得ます。 

昨今は就職先に求めることに「働き方の多様性」「能力や個性の発揮」などを挙げる人も多く、インクルージョンは採用面においても大きなメリットとなります。 

離職率が低下する 

多様性を受け入れ、従業員を適材適所に配置することで、従業員の満足度や幸福度が高まります。自社に対する不満や不安を軽減できるため、インクルージョンは離職率の低下にも効果が期待できるのです。 

インクルージョンの推進に積極的に取り組むことで労働環境が改善され、働きやすい企業として従業員に選ばれ続けることも難しくありません。特に人材不足が顕著な業界においては大きなメリットとなります。離職率が低い企業として有名になれば、優秀な人材の獲得にもつながるなど、良い循環が生まれるでしょう。 

企業のイメージアップ 

ワークライフバランスや個人の働き方が尊重される時代において、インクルージョンを推進している企業はイメージアップが期待できます。多様性や個性が認められている企業であることは、社会やクライアントからも高く評価されるでしょう。また、メディアなどでも、インクルージョンを積極的に推進している企業が取り上げられる例も少なくありません。 

求職者が集まるのはもちろん、消費者にも好印象を与え「この企業の商品やサービスを購入したい」と思ってもらえる可能性も高まります。 

新規事業・イノベーションの創出 

異なる分野の経験や知識、価値観などを持つ多様な人材が集まることで、これまでになかった新しい発想が生まれやすくなるのもメリットです。画一化された従業員が大多数を占めると、新しい発想は生まれにくくなります。企業の中に新たな風を吹き込むことで、新規事業やイノベーションの創出が期待できるでしょう。 

多様な視点が良い形で融合できれば、業績アップや競争力の強化も実現しやすくなります。 

企業のダイバーシティ&インクルージョン導入事例

日本の企業においても、ダイバーシティ&インクルージョンの理念を導入し、実践している企業は少なくありません。

ここでは、ダイバーシティ&インクルージョンのために、各企業が実際に行っている取り組みを紹介します。

事例1.パナソニック

パナソニックもダイバーシティ&インクルージョンに対する取り組みを進めており、女性管理職を増やしたり、育児・介護とキャリア継続の両立のための支援制度を充実させたりしています。

また、高齢者や障がい者の雇用やLGBTなどのマイノリティへの理解を促進し、ハラスメントや差別などが起こらないように対応を進めています。

事例2.リクルート

リクルートの経営理念には「個の尊重」が掲げられており、2006年にはダイバーシティ&インクルージョンを推進する専任組織を設置しています。

労働環境の改善から始まり、保育施設の設置や育児と仕事の両立支援など、女性が活躍できる職場環境を整えてきました。

また、リモートワークを導入するなど働き方そのものの変化に対応したり、LGBTQなどのマイノリティに対する体制づくりも進めたりしています。

事例3.カルビー 

カルビーは企業と従業員の力を最大化し、企業が成長するための原動力となる「全員活躍」という考え方を推進しています。これは、性別や年齢、国籍、障がいの有無、個々の価値観などの垣根を越え、多様な人財が活躍することを意味します。 

女性の活躍なしに企業の成長はないという信念のもと、従業員の約半数を女性が占めるカルビーでは、女性が活躍できる環境の整備に積極的に取り組んでいます。 

例えば、女性リーダー候補の選抜型研修やワークショップを実施するなどして、2010年には5.9%であった女性管理職の比率が2022年には23.3%まで上がるなど、成果が表れています。 

事例4.日立製作所 

日立製作所は、ダイバーシティ&インクルージョンを推進するための専門部署であるアドバイザリー・コミッティと推進協議会を開設しています。これらの部署はダイバーシティ&インクルージョンに関する経営方針を決め、意見交換やベストプラクティスを共有する機会を半年に1度のペースで設けています。 

また、職場の現状に応じた取り組みをリードするため、女性活躍推進のプロジェクトを始動させたり、グループ会社や各事業所における課題・実態を把握したりなどのアクションを起こしています。 

あわせて、グローバル女性サミットの開催や労働組合との意見交換など、インクルージョンを推進する積極的な活動が注目を集めています。

Diversity
働き方改革で注目を集めるダイバーシティ経営企業3選
ダイバーシティ経営とは、女性や高齢者・外国人など、多様な人材の能力を最大限に発揮できるような機会を提供することによってイノベーションを生み出し、ビジネスの成果へ...

ダイバーシティ&インクルージョン導入に欠かせない考え方

企業においてダイバーシティ&インクルージョンを推進するためには、「多様な人材が参画しやすい体制・風土づくり」が最も重要です。

特に、日本企業においては女性の活躍ばかりに焦点が当たっているところがあるため、もっと広範な多様性を確保できるように努力すべきです。

そのためにも、人材の多様性にどのようなものがあるのかを実例も含めて理解する必要があります。

また、多様性を維持することが経営目標につながるという共通認識を社内に浸透させることも欠かせません。

ダイバーシティ&インクルージョン導入のポイント3つ

ダイバーシティ&インクルージョンを導入するためには、単に理念を掲げるだけでは足りません。ここでは、実践していくために必要な3つのポイントを紹介します。

1.制度・体制を整備する

ダイバーシティ&インクルージョンを実施するにあたり、まずは制度・体制を整備していくことが欠かせません。

たとえば、足の不自由な障がい者を雇用するためには、社内をバリアフリーにして社内を通りやすくするために、道幅を配慮する必要があります。

また、体力的に長時間の仕事が難しい場合や通院状況などを考慮に入れて、細切れでの休暇が取得できるよう休暇制度を見直すなどの対応が必要でしょう。

さまざまな人々が働きやすいように、それぞれの背景の状況に配慮して、育休などの制度を整えたり、教育プログラムを導入したりすることが重要です。

また、多様な人材が集まるということは、評価の手法も見直す必要がでてくる場合もあります。全社員の評価を公平かつ客観的に行える人事評価制度であることが望ましいでしょう。

people
ダイバーシティには適切な人事評価制度が不可欠
多彩な人材を積極的に活用する「ダイバーシティ」を推進することは、今や企業にとって重要な経営課題となっています。 組織を強化、活性化するために取組む企業も増えてき...

2.社内の意識を変化させる

ダイバーシティ&インクルージョンを導入するには、制度を変えるだけでは足りません。管理職や従業員に多様性を受け入れる意識を持ってもらわなければ、本当の意味でダイバーシティ&インクルージョンが達成されているとは言えません。

多様な人材さえ雇用すればよいと考えるのではなく、それぞれが実力を発揮できるようにお互いを尊重する意識を持たせることを目標にしましょう。

3.誰とでも垣根なく発言ができる風土

多様性を確保するためには、誰とでも垣根なく意見を言い合える風土が必要です。

どれだけ多様な人材を雇ったとしても、それぞれの価値観や能力を発揮できなければ意味がありません。

従業員一人ひとりが持つ独特の意見・考えこそ、経営を支えるものだという意識が社内に広まるようにしましょう。

ダイバーシティ&インクルージョン導入の注意点2つ 

ここでは、ダイバーシティ&インクルージョン導入時の注意点について解説します。 

数字にとらわれない 

ダイバーシティ&インクルージョンを導入する際、数字にとらわれてしまう危険性があります。例えば、女性管理職比率や外国人比率を高めたい場合、目の前の目標数値を達成したいがため、基準に満たない人材を採用・登用するなどのケースも見られます。しかし、実態が伴わないのであれば元も子もありません。 

人材の採用・登用などは自社の基準をあらかじめ明確にし、現状の課題に向けた対策を取ることが必要です。 

会社全体で取り組む 

インクルージョンを導入する際には、経営陣を含む全社で取り組むことが重要です。 

インクルージョン導入の背景の伝達や、実行促進、改善行動の推進などの場面で、経営陣の協力は不可欠です。人的資源を最大限に引き出すことは、経営における重要事項といえるでしょう。そのための有効手段となるインクルージョンという考え方を持ち、経営陣も積極的に関与することが求められます。 

導入後は従業員の声を共有し、業績や採用成果、離職率などにおける変化を可視化することで、従業員のエンゲージメントを高める取り組みも必要です。 

インクルージョンとダイバーシティのワンセットで推進しよう!

インクルージョンとダイバーシティは、それぞれが重要な意味合いを持っており、多様な人材の活躍には両者ともに欠かせない考え方です。

ただ単に多様な人材を確保すれば、人材不足を抱える企業の問題解決につながるとは限りません。重要なのは、多様性に注視するだけではなく、それを活かすための体制を構築することにあります。

すでにダイバーシティ&インクルージョンを実施している企業も多いため、そうした実践例をお手本にしたり参考にしたりして、人材の確保や育成、体制の構築に取り組むと良いでしょう。

人事管理に関連したおすすめセミナーのご案内

あなたにおすすめのお役立ち資料を無料ダウンロード

ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。

【無料eBookプレゼント】数字で見る人事評価クラウド

人事管理の課題を解決するサービス紹介

あしたのチームのサービス

導入企業4,000社の実績と12年間の運用ノウハウを活かし、他社には真似のできないあらゆる業種の人事評価制度運用における課題にお応えします。


人事評価制度の構築・運用支援、クラウド化。 これらをワンストップで提供することにより、企業の成長と従業員の育成を可能に。

ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。

サービスガイド


あなたの会社の人事評価制度は運用しにくい制度かもしれません。人事評価制度を適切に運用するノウハウと、その理由をお教えます。

ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。

あした式人事評価シート