目標達成や組織改革を行う際、必須の作業となるのが振り返り。
事業や成果の振り返りの重要性は誰もが認識しているものの、これまでなんとなく行っていたため、効果的の方法がわからず、チームでの取り組み方に迷った経験がある人も多いのではないでしょうか。
目的に応じた適切な振り返りを行うことで、より高いパフォーマンスを目指すことも可能です。
今回は、振り返りの意義や目的別の手法、振り返りを行う際のポイントや注意点などを解説します。
振り返りの意味
プロジェクトや事業に着手した後は必須のタスクともいえる振り返りですが、そもそも振り返りの意味を正確に理解しているでしょうか。
まずは、振り返りの意味について解説していきます。
振り返りとは
振り返りとは、「内省」とも言い換えられる言葉です。内省とは、これまでの自身の行いを思い返し、自分の内面を見つめ直すことで、思考や気持ちを整理すること。
また、過去の自分を後悔する、過去から学ぶといった意味もあります。
このうち、組織で求められる内省は、過去から学んで次に生かすための振り返りです。
過去から学ぶとは、自分のとった行動や決断がどのような結果に結びついたのか見つめ、その原因を探し出し、次に同じ状況が起こった時の対策を立てることです。
一方、過去を後悔するだけでは失敗にとらわれてしまい、自責の念が増すだけで、未来の行動につながりません。
失敗によってモチベーションを下げるのではなく、失敗を次の糧にして、前向きに次のチャンスに向かっていくために行うのが振り返りといえます。
振り返りは英語でリフレクション
英語では「リフレクション」という言葉が振り返りにあたり、内省の意味の他にも、熟考や反射、反映といった意味があります。
アメリカで初めてリフレクションの重要性を提唱したのは、組織学習の専門家であるマサチューセッツ工科大学のドナルド・ショーン博士です。
ショーン博士は、働きながらも自分の現状を客観的に見つめ、その中で自分が行うべき行動を考える「行為の中の内省(査察)」が重要であると指摘しました。
振り返りの手法
それでは、振り返りの具体的な実施方法を紹介していきます。
一言で振り返りといっても、個人的な行動についての反省から、組織で行うプロジェクトの改善まで、様々な目的の振り返りがあり、目的別にいくつかの振り返り方法があります。具体的なやり方と合わせて、それぞれの違いや特徴も解説します。
KPT
「Keep:継続)」「Problem:問題点」「Try:挑戦」の頭文字をとったものです。
「Keep=良かったこと」「Problem=改善が必要なこと」「Try=次に取り組むこと」の3つの視点から意見をまとめ、改善点や解決策を考えていきます。
KPTは、チームプロジェクトの振り返りを行う際に効果的とされています。
実施方法としては、Keep、Problem、Tryの3つの枠を用意し、順番に書き出しを行っていきます。
チームで行う際には、ホワイトボードを活用するのがおすすめです。
まずは、継続すべきよかった点、次に改善すべき問題を書き出し、この2つの内容を踏まえて、次回の対策を考えていきます。
ポイントは、Tryが具体的なタスクまで落とし込まれていることです。
「連携ミスがないように気を付ける」といった精神論にとどまるものではなく、「終了後に必ず進捗報告をする」といったように、実施できる明確な行動に落とし込みましょう。
PDCA
「P:計画」「Do:実行」「Check:評価」「Act:改善」の4つの段階を繰り返すことで、持続的に改善を行い、組織や事業の質を向上させていく手法です。振り返りの中でも最も有名な手法で、管理業務の改善などに適しています。
まずは、計画を書き出していきます。このとき、計画に期待する目標もあわせて書き出しておくと、より振り返りがしやすくなります。
計画を実行し終わったら、実行→評価→改善の順に書き出しを進めます。「実行」には、計画を実行して得られた結果を記載します。
ここからが重要なのですが、具体的な改善策まで出し終わったら、その内容を基に、そのまま2サイクル目の計画の書き出しを行ってください。
このように、計画から改善までのサイクルを常に循環させ続けるのが、PDCA最大の特徴であり、メリットです。
PDS
PDCAと似た手法で、PDSというものもあります。
こちらは「Plan:計画」「Do:実行」「See:検討」の頭文字をとったものですが、PDCAと同じように、この3つのプロセスを常に繰り返すことで改善をはかるものです。
PDSは、特に経営者や管理者層の振り返りに用いられることが多く、Doは「命令」の意味も持つとされています。組織全体の目標をPlanに設定し、実行して得られた結果を検討して、さらに次のPlanにつなげていきます。
PDCAとの違いとして、最後のプロセスが「検討」で終わっているため、次のステップにつなげにくいというデメリットがあります。
組織で用いる際はこの点に注意し、サイクルを回し続ける仕組み作りを心掛けるといいでしょう。
YWT
振り返りの対象となる事柄を「Y:やったこと」「W:わかったこと」「T:次にやること」に分けて、段階的に整理していく方法です。
最後に「M:メリット」を加えて、YWTMと呼ばれることもあります。他の振り返り方法が成果や改善に重点をおいているのに対して、YWTはチームや個人の成長、得られた経験といったものを重視します。
チームの成長を目的として振り返りを行う際におすすめの方法です。
やり方は、KPTと同様に、YWTの順番で書き出しを行っていきます。特に重要なのは、「W:わかったこと」の書き出しです。
単に事実だけを書き出すのではなく、どこが悪かったか、その原因は何か、逆に成功した点はどこだったかなど、深堀りを意識して進めてください。
振り返りの類語(反省・感想との違い)
振り返りと似たような意味を持つ言葉として、「反省」と「感想」があげられます。正しく振り返りを行うために、この2つの言葉との違いも理解しておきましょう。
「振り返り」と「反省」の違い
「反省」という言葉も、その意味は「自分の行いを省みること」ですが、反省は主に、失敗に対して行うものです。
業務上で何か失敗してしまった場合、原因を追究し、責任の所在を明らかにして、関係者にその説明をしなければいけません。
もちろんこれらも必要な作業ですが、過去に焦点をあてて行うのが反省の特徴です。
一方、振り返りの目的は次のステップを考えることですので、失敗が対象とは限りません。
より良くするための次の一手や、もっと効率的な方法を模索することを目的としているため、責任の所在や説明義務は問われません。
反省と違い、これからの未来に焦点をあてているのが振り返りといえます。
「振り返り」と「感想」の違い
やり終えた事柄について自分の考えをまとめる「感想」も、一見振り返りや反省と似ています。
しかし、感想はただ意見を述べるだけで、その先の具体的な行動に結びつきません。
何か仕事で失敗してしまったときに「あのときにこうしたのがいけなかったな」「次はうまくいくといいな」と思うのは、感想であり、振り返りにはなりません。
前述の通り、「ここがダメだったからこう改善しよう」「次はこの行動をやらないようにしよう」など、具体的な対策方法まで考えるのが振り返りです。
仕事で使える振り返りの重要性・ポイント・注意点
ここで、振り返りを行う上でのポイントや注意点を解説していきます。
振り返りの重要性
振り返りを行う最も大きな意義は、モチベーションが向上することです。
単に業務をこなしているだけでは、自分の行った作業の意味や改善点を把握できず、ルーチンワークになってしまいがちです。
定期的に振り返りを行って、自分の成長を自覚したり、毎日の業務を点ではなく線でとらえることで、現在行っている業務にやりがいを見出せるようになります。
振り返りのポイント
振り返りを行う際のポイントは、過去の失敗に固執せず、未来に重点をおいて思考することです。
振り返りを行っていると、どうしても「あのときこうしていればよかった」などと、後悔の気持ちが湧いてきてしまうものですが、後悔だけではその先の行動につながりません。
失敗から学び、自分やチームをより向上させるために行うのが振り返りです。感情的にならず、客観的な視点で現状を分析していきましょう。
また、チームで振り返りを行う際は、他人の失敗を責めないことも大切です。原因を追究していると、つい責めるような口調になりがちです。
お互いを尊重し合い、建設的な話し合いをすることこそ、チーム全体の改善につながります。
振り返りの注意点
振り返りを行うにあたり、最も注意すべきなのが、振り返ったことに満足して、具体的な行動を実施しないことです。
単にやったことや成果の洗い出しを行っただけでは、振り返りとはいえません。行動に移せるレベルまで明確に改善策を策定し、実行してさらなる改善を目指すことが振り返りの意義です。
前章で紹介した振り返りの手法を参考に、必ず次にとる行動まで落とし込んで、確実に実行につなげるよう心掛けましょう。
振り返りのポイント・注意点
振り返りの意義を正確に捉え、プロジェクト後の振り返りを習慣化させることで、より高いパフォーマンスや達成力の向上が期待できます。
管理者や人事担当者が振り返りの重要性と目的に合った実施方法を正しく理解し、習慣的に振り返りを行う体制づくりをしていく必要があります。
同時に、振り返りによって得られた成果や社員の成長を正しく評価できるよう、人事評価制度の見直しを行うことも重要です。
組織内で振り返りを定着させるためにも、改善に向けた取り組みがしっかり評価されるよう、まずは人事評価制度の整備を進めていきましょう。
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