労働者にとって働きやすい環境を整えるため、企業におけるストレスチェックが義務化されました。この記事ではストレスチェックの義務化で企業が対応すべきことや実施方法を解説します。
ストレスチェックとは?
ストレスチェックとは、2015年12月より、労働者が50名以上の事業所に義務づけられた検査のことです。ここではその概要や、義務化された背景について解説します。
ストレスチェックの概要
ストレスチェックは、労働安全衛生法の一部改正に伴い、2015年12月より労働者が50名以上の事業所に義務づけられた検査です。
検査は労働者が「自分のストレスがどのような状態にあるのか」を知るためのものとなっており、厚生労働省が推奨している調査票(選択回答式)などを用いて行ないます。
なお、実施頻度は年に1度、対象は全ての労働者です。ただし、契約期間が1年未満や、労働時間が通常の4分の3未満の労働者はこの対象者に含まれません。
義務化の背景
ストレスチェックが義務化された背景には、「過労自殺の労災認定」「日本人の自殺者数・精神障害等の労災請求件数の増加」「メンタルヘルスの浸透性」などがあります。
日本では1984年に初めて、1人の男性の自殺が過労による自殺として労災認定されました。
認定された理由には、業務に強い精神的ストレスがあったことや、男性の主治医を含む多くの精神科医が、その業務と自殺の因果関係を肯定したことなどが挙げられています。
その後、日本では精神障害における労災認定の判断要件が明確化され、厚生労働省から「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」として、メンタルヘルスの重要性も周知されることとなります。
しかし、その後も労働者が感じるストレスは増加し、1998年から2011年の自殺者数は3万人以上にのぼりました。精神障害における労災請求件数も134件から1272件へと年々増え続ける一方です。
そして、厚生労働省が行なった「労働災害防止対策等重点調査」では、このような状況下にも関わらず、メンタルヘルスに取り組む企業の割合は2012年時点で43%と、浸透性の低さを表す結果となりました。
以上のような数値推移や、メンタルヘルスの重要性の浸透状況を踏まえ、2015年にストレスチェックは義務化されることとなったのです。
ストレスチェックの目的
ストレスチェックを実施する目的は大きく分けて3つあると言えます。ここではその3つについて解説します。
メンタルヘルス不調の未然防止
ストレスチェックにおける1つめの目的は、メンタルヘルス不調の未然防止です。
理由としては仕事におけるストレスが原因で精神障害を発病し、労災請求する労働者が増加しているためです。
厚生労働省の「過労死等の労災補償状況」における最新の発表(2018年度分)では、精神障害での労災請求件数は1,820件でした。
また、労働者の自殺者数も直近(令和元年)だけで6,202人にものぼります。
この状況からメンタルヘルス不調は大きな課題となっており、それを未然に防ぐのがストレスチェックを実施する目的の1つとなっています。
メンタルヘルス不調の早期発見
2つめの目的は、メンタルヘルス不調の早期発見です。
早い時点で労働者が自身の不調に気付けば、周囲への相談が可能となります。
また、周囲がその不調に早く気付ければ医療機関の受診などを促すこともできます。
症状が悪化してしまうと、労働が困難になったり、就業復帰に時間がかかってしまったりするのがメンタルヘルス不調です。
また、時には労災請求されてしまうこともあります。そのような事態になってしまわないためにも、早期発見は重要といえるのです。
職場環境の改善
そして3つめの目的は、職場環境の改善です。仕事内容・労働時間・人間関係などに目を向け環境改善を行なうことは、労働者のストレス軽減に繋がります。
ストレスチェックの結果を分析して、「どの部署で」「どんなストレスを感じているのか」を把握し、労働者にとって働きやすい環境を目指しましょう。
ストレスチェック義務化の対象企業
ストレスチェック義務化の対象は、労働者が50名以上いる「事業所」です。
つまり企業全体での労働者数が100名であったとしても、本社に50名、各支社に10名ずつの労働者がいる場合、対象となるのは本社のみとなります。
また、本社に40名、各支社に10名ずつ労働者がいる場合は、本社、支社ともに対象外となります。
なお、ストレスチェック義務化の対象基準となる労働者数は、「常時使用している労働者の人数」を数える必要があります。
そのため、週1日だけ出勤しているアルバイトやパートの方も、継続的に雇用しており、普段から勤務してもらっているのであれば労働者として計上してください。
ただし、労働者として計上はするものの、契約期間が1年未満や、労働時間が通常の4分の3未満であれば、ストレスチェックの対象ではありません。
「労働者数=ストレスチェックの対象人数」とは限らないので注意が必要です。
ストレスチェックの流れについて
ストレスチェックを実施する際の、一連の流れは下記となります。
事業所内でストレスチェックの実施方法を決定
↓
労働者に調査票を配布
↓
質問票の回収(実施者、または実施事務従事者が対応)
↓
本人への結果通知(実施者、または実施事務従事者が対応)
↓
本人より申出があれば医師による面接指導
↓
事業所にて就業上必要な措置を実施
↓
結果を5年間保管(実施者、または実施事務従事者が対応)
なお、上記の「実施者」とは、医師、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士の中から選んだ人物である必要があります。
また、「実施事務従事者」とは実施者の補助をする者とされています。例えば、衛生管理者、産業保健スタッフ、メンタルヘルス担当者、事務スタッフなどが対応するのが一般的です。
ストレスチェックの結果は労働者本人の了承なしに、事業所に開示されることはありません。
しかし、事業所は職場環境の分析や改善はもちろん、「ストレスチェックおよび、医師などによる面接指導の実施状況」を毎年労働基準監督署に報告する必要があることを忘れてはいけません。
ストレスチェックの項目
ストレスチェックで用いる調査票は「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3つの項目で構成されています。
ここでは各項目が、何を把握するための項目なのかを解説します。
なお、厚生労働省が推奨している調査票以外にも、独自の調査票を利用することも可能です。
ただし、その場合にも労働衛生規則の第52条の9第1項に基づき、この3つの項目を含む必要があることを留意しておきましょう。
仕事のストレス要因
この項目は「労働者が職場でどういったことにストレスを感じているのか」についての項目となっています。
具体的には下記内容などの設問を通して、ストレスや心身不調の原因を把握します。
環境
・仕事方針に意見を反映できる環境か
・自分の知識や技術を仕事で使えているか
・騒音や照明など環境面が整っているか
仕事量、質、労働時間
・時間内に処理できる内容か
・高度な技術が求められるものか
・注意を常に要すものか
職場での人間関係
・職場の雰囲気が友好的であるか
・部署内で意見の食い違いなどがないか
心身のストレス反応
これは「労働者が自覚している心身の不調」に関する項目です。下記内容についての設問などを通し、労働者の体にどのような症状が出ているのか、労働者がどのような気持ちなのかを把握します。
肉体面の健康状況
・胃腸の具合は悪くないか
・頭痛などの症状はあるか
・首筋や肩がこっていないか
・よく眠れているか
精神面の健康状況
・不安や憂鬱感を感じていないか
・イライラしたりしていないか
・仕事が手につかないことはあるか
周囲のサポート
これは「職場にいる社員、友人や家族などに、どれほどサポートしてもらえる環境であるか」についての項目です。
下記のような設問を通し、労働者がどれほど周囲に頼れているのかを把握します。
・上司・同僚・配偶者・家族・友人とどのぐらい気軽に話せるか
・困った際に上記の人達は頼りになるか
・個人的な相談をしたさいに上記の人達はどれほど話を聞いてくれるか
ストレスチェックを実施しない場合の罰則
2015年12月に義務化されたストレスチェックですが、実施しないことに対する罰則はありません。
しかし、「ストレスチェックおよび、医師などによる面接指導状況」は、労働安全衛生法第 100 条に基づき労働基準監督署へ報告しなくてはなりません。
この報告をしなかった場合に罰則が課せられることとなります。
未報告時に定められている罰則は、50万円以下の罰金です。
第百二十条
労働安全衛生法
次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
5 第百条第一項又は第三項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかった者
※ストレスチェックの結果は実施者または、実施事務従事者により5年保管することが義務づけられています。そのため、それ以前に廃棄してしまった場合にも罰則の対象となるので注意が必要です。
また、ストレスや精神障害が原因となる事故が起きた場合には、労働契約法の第5条の安全配慮義務を怠ったとみなされることがあります。その場合、事故が労災認定されたり、労働基準監督署に事業者名を公表されたりする可能性があります。
ストレスチェック義務化対象の事業所では「ストレスチェックの実施、医師などによる面接指導、そして労働基準監督署への報告」を滞りなく行なうことが、社員・事業所にとって最善であるということを覚えておきましょう。
人事評価制度を見直し、社員のストレスを軽減
ストレスチェックが義務化されたことにより、社員のストレス要因について考える企業が増えました。
人事評価制度を見直し、社員を適性に評価することも社員のストレス軽減につながります。今以上に働きやすい環境を目指して、取り組んでいきましょう。
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