グループ経営における業務効率化を目指した取り組みのひとつとして、シェアードサービスという仕組みが注目されています。グループ内における間接部門の共有化をはかる手法で、業務の平準化やコスト削減が期待できるといわれています。
今回は、シェアードサービスの概要や仕組みを解説するとともに、企業事例やメリット・デメリット、導入時のポイントなども紹介していきます。
大手企業も導入するシェアードサービスとは?
はじめに、シェアードサービスの概要や種類について解説していきます。
シェアードサービスの概要
シェアードサービスとは、経理や人事、情報システムといったグループ内の複数企業に重複して存在する基本的な部門を、複数企業間で共有する仕組みのことをいいます。
重複部門を一つにまとめることによって、コスト削減や業務の効率化、ノウハウの蓄積などが期待されています。2000年以降、法改正によってグループ連結経営が促進されたことから、より注目を集めるようになりました。
シェアードサービスの対象となる部門としては、総務、経理、人事、採用、法務、情報システム、営業事務といった間接部門が中心です。
特に経理や法務といった専門的知識が必要な部門は、人的リソースを確保することが困難です。専門的な人材や知見をグループ間で共有することも、シェアードサービスの目的のひとつです。
本社部門方式
シェアードサービスの組織方式は、主に2つの種類に分けることができます。
一つが、本社部門方式です。業務を集約するシェアードセンターを本社の一部門として設置し、社内やグループ会社内の間接業務をそこに集約する方法です。この方法は、本社の統括力を維持したい場合に適しています。
子会社分社方式
もう一つの方法が、子会社分社方式です。
こちらはシェアードセンターを本社内に作らず、子会社化してしまう方法です。注力すべき事業の強化をはかったり、社内変革を行う際に適した方法といわれます。
シェアードサービスとアウトソーシング・BPOの違い
シェアードサービスと似た制度として、アウトソーシングやBPOというものがあります。
シェアードサービスと同じく一部業務を社外に任せる方法ですが、どのような違いがあるのでしょうか。
アウトソーシング
アウトソーシングとは、外注や業務委託のことであり、自社内で行っていた業務を社外の会社やスタッフに委託することをいいます。
直接利益とは結び付かない業務を外注することで、コア業務に注力することを目的としています。
シェアードサービスはグループ会社間で共通部門を共有することで、アウトソーシングは社外に業務を委託するという点が異なります。
グループ内に部門を集約するシェアードサービスでは、知見やノウハウは社内に蓄積されていきますが、社外に委託するアウトソーシングではノウハウの蓄積が難しいという点も大きな違いです。
BPO
BPOとは、「Business Process Outsourcing」の略称です。
つまり、BPOもアウトソーシングの一種です。ただし、一般的なアウトソーシングとは委託する業務の範囲が異なります。
アウトソーシングで委託される業務が総務や経理などの間接部門の一業務であるのに対し、BPOでは開発やマーケティング、業務設計や経営分析など企業の根幹にかかわる業務を部門ごと外部企業に委託します。社外業者に自社組織の一部を置いてもらうイメージです。
また、アウトソーシングはあくまでも業務のみの外注です。委託することで結果的に業務の効率化が実現したとしても、効率化までが委託範囲に入っているわけではありません。
一方、BPOにおいては委託における運用方法、プロセス設計、課題解決の提案や結果分析といった範囲まで委託内容に含まれます。部門にかかわる業務すべてを社外に置くことがBPOの特徴です。
さまざまな業界が導入。シェアードサービスの企業事例
シェアードサービスは、どのような企業で取り入れられているのでしょうか。導入事例を紹介します。
LIXIL
LIXILグループは、トステムやINAXなどが統合して生まれたグループ会社です。統合当時は105社の子会社があり、それぞれに間接部門が存在していました。
そこで、グループの一体感を強化することを目的に、会計システムの統合をスタート。子会社の持つ販売や人事などの基幹システムとは切り離し、会計システムのみを統合することを選択します。
その結果、各子会社の基幹システムに影響を与えることなく、経理部門の人材ローテーションが可能になりました。
NEC
9つのビジネスユニット、46の連結会社を持つNECグループは、人事・総務・経理・調達といった間接部門のシェアードサービスを実現しています。
これらの業務は重複している者の、会社ごとにプロセスや制度が異なっており、作業工程や人員配置に無駄があることが課題だったそうです。
そこで、先行して出張プロセスの改革に着手しました。申請からチケット手配まで2~3日かかっていたところを、出張者自ら手配できるように改革し、手配完了まで20分程度に短縮。事務処理の工数を約30%も削減しました。
大和ハウス工業
大和ハウス工業では、企業成長を維持することを目的に、82ある事業所で分散されていた経理業務の集約を実現しています。
それまでは、各事業所がそれぞれのプロセスで経理業務を進めていたため、ミスや手戻りが多発していたといいます。
そこで、印刷業務や入力業務といった各事業所の業務をシェアード化し、統一。
効率化が大幅に推進されただけでなく、ミスを出してしまうかもしれないという従業員の心的負担も軽減され、働き方改革にも貢献したそうです。
シェアードサービスのメリット・デメリット
シェアードサービスを導入することで、企業にはどのようなメリット・デメリットがもたらされるのか、解説していきます。
シェアードサービスのメリット
シェアードサービスの導入による最も大きなメリットがコスト削減です。各企業に重複して存在していた部門を集中して統一化することで、無駄な作業や人件費を削減できるだけでなく、ミスの防止や業務の効率化を期待できます。
また、シェアードセンターを物価や人件費が安価な本社外の地域や国外におくことで、さらに削減効果を高めることができます。
専門的知識の共有やノウハウの蓄積といった点もメリットと言えます。
経理や法務、情報といった専門的知識を要する部門は、人材の確保が困難です。シェアード化してこれらの部門を共有することで、人的リソースの共有が可能になり、部門の専門性を高めることにもつながります。
シェアードサービスのデメリット
デメリットとしては、シェアード化が進み特定業務が社外に集約されてしまうと、自社内に専門家がいなくなってしまい、何かあったときに連携がとりづらくなってしまうことがあげられます。
相談先や窓口を設置しておくなど、社員が問題に出くわした際の解決方法を周知していくべきです。
また、大企業がシェアード化を進めるにあたり、膨大な費用や開発時間がかかることもデメリットといえるでしょう。
グループ規模が大きければ大きいほど、子会社間のプロセスにも相違が出てきやすく、統合には相当な労力が必要になります。
シェアードサービス導入時のポイント
最後に、シェアードサービスを導入する際に、注意すべきポイントを紹介していきます。
導入範囲の決定
導入に当たって最初に取りかかるべきなのが、導入範囲の決定です。シェアードサービスは、一般的に総務や経理、人事といった間接部門が対象となります。
その中で、どの部門のどの業務をグループ間で共有するのか初めて決定します。ポイントは、現状の業務における課題を洗い出し、導入によってどんな目的を達成したいのか明確にしておくことです。
課題と目標をすりあわせながら、どの業務をシェアード化するか決定していきましょう。
導入計画の設計
シェアードサービスの導入に当たり注意すべきなのが、業務の平準化によってクオリティを落としてしまったり、導入過程で事業に支障を出してしまうことです。
グループ規模が大きくなればなるほど、子会社間の実情に合わせて、制度や運用プロセスには差異が出てきます。
無理に統合を進めると、かえって業務を非効率にしてしまう恐れがありますので、慎重に導入計画を設計すべきです。
社員や子会社の理解
シェアード化を進めて組織変革が行われると、人事異動や雇用形態の変動が発生する可能性があります。
また、慣れ親しんできた業務プロセスを一新するには、一時的にスイッチコストがかかることも覚悟しなければなりません。
そのような変化によって社員や子会社がモチベーションを低下させないよう、導入は全社の納得のもとに進める必要があります。
働く人のやりがいを損なってしまわないか、人事担当者はよく注意を払いましょう。
シェアードサービスを導入する際は人事評価制度の整備を
グループ会社でシェアードサービスを導入すると、コスト削減や業務の効率化といった多くのメリットを享受することができます。
ただし、子会社それぞれの現状に配慮し、通常業務に支障を出さないよう、配慮しながら導入をすすめていくことが重要です。
また、シェアードサービス導入を検討する際は、各子会社の人事評価制度をはじめとする各種制度を見直すことも必要です。
それぞれの内情を理解し、労働環境に即した制度を設計する必要があります。まずは、グループ内の人事制度の見直しから着手してみることがおすすめです。
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