業務に必要なスキルがリスト化されたスキルマップ(力量表)は、人材の技能レベルを把握する手法として有効です。
品質マネジメントシステムの国際規格である「ISO9001」における品質管理の場面でも、多く用いられています。
また、働く人にとっては能力向上のガイドラインとしても活用可能です。今回は、スキルマップの概要や活用のメリットとデメリット、作り方などを解説します。
スキルマップとは?
スキルマップとは、在籍中の従業員全員のスキルを可視化(見える化)したツールです。
技能マップやスキルマトリックス(Skills Matrox)と呼ぶ企業もあります。
横軸に従業員の氏名が記載され、縦軸に業務のプロセスや必要な能力がリストアップされているのが一般的です。
リストアップされた業務プロセスに対して、数値などで力量を表せるように基準を作成しておきます。
例えば、下記の通りです。
4:指導できる
3:1人でできる
2:指導を受けながらできる
1:サポートができる
縦軸に記載された業務内容に対して、基準から数値を入れていくことで、その担当者がどの業務をどこまでできるレベルなのか一目で把握することができます。
スキルマップの目的
スキルマップの目的とは、不足するスキルの底上げを通じて多能工(マルチスキル)化を実現することです。また、従業員の負荷を軽減した上で長時間労働を抑制する働き方改革にも有効となります。
スキルマップに記載された内容は客観性が高いため、従業員のスキルを把握するだけでなく、人事評価や教育研修を実施するためのツールとしても活用できるでしょう。
中途採用の現場では、応募者がスキルを自己申告したり、面接担当者がスキルを審査したりするチェックシートとして応用するケースもあります。
また、従業員にスキルマップを公開することは、健全な形で競争心を刺激した上でスキルやモチベーションの向上を意識付けするのにも効果的です。
エンジニアや営業のスキルを把握。スキルマップが活用できる主な職種・項目例
エンジニア・営業における、スキルマップの使い方や項目例などを紹介します。いずれも、スキルマップを活用できる代表的な職種です。
エンジニアのスキルマップ
ITエンジニアの世界では、プロジェクトメンバーの選定や、プロジェクト遂行中の技術水準の確認を目的としてスキルマップが活用されています。
組織全体と個人のスキルを把握した上で適切に人的リソースを配分し、教育や外注の必要性を判断することが、納期内で良質なシステムを開発するために重要だからです。
また、スキルマップを作成する際には会話が伴うため、プロジェクト内でのコミュニケーション促進ツールとしても機能します。
スキルマップの作成には、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が提供する「タスクディクショナリ」の活用が効果的です。
組織や個人に求められる機能や役割が4階層で体系化されており、約2,600個の評価項目が用意されています。
タスク大分類を選択するだけでテンプレートを確認できるので、スキルマップを迅速に作成できて便利です。
例えば、システム運用設計の「方針と基準の策定」の場合は、次の3つが業務の評価項目です。
- 業務の特性、利用技術や製品の特性を踏まえ、システム運用方針を定める
- システム運用管理要件を踏まえ、運用基準を定める
- システム運用管理要件を踏まえ、運用管理システムの要件を明らかにする
評価レベルは企業ごとに定めることになりますが、5段階評価による診断基準例を紹介します。
・L4…他者を指導できる、またはその経験あり
引用:IPA「自分のITスキルを見える化してみよう!~スキルアップに使うiコンピテンシディクショナリ~」
・L3…独力で実施できる、またはその経験あり
・L2…サポートがあれば実施できる、またはその経験あり
・L1…トレーニングを受けた程度の知識あり
・L0…知識、経験なし
営業マンのスキルマップ
営業マンのスキルマップもITエンジニアと同様、プロセスごとに作成していきます。
コミュニケーション能力や情報分析力に関するスキルを確認するためには、評価項目を具体的に定義することが必要不可欠です。
営業職の場合は、次の6つの項目を指標にスキル評価を進めていくことになります。
概念形成力
顧客情報の分析や市場動向の把握を通じて、課題を抽出したり営業計画を立てたりする能力です。具体的な営業活動を行う準備段階であり、多面的な視点で情報を分析する緻密さが求められます。
関係構築力
顧客と良好なコミュニケーションをとり、信頼関係を構築・維持する能力です。会話力や相手に寄り添う心が問われる他、相手の表情・雰囲気に応じて臨機応変に対応する力が求められます。
顧客把握力
顧客のニーズや組織内での力関係などを理解する能力です。必要な情報を選別しながら、顧客のニーズや最終意思決定者を把握する力が求められます。
交渉力
顧客や関係者と合意を形成する能力です。条件面で対立が生じた場合に代案を提示する知識・情報の幅広さや社内・社外から協力的支援を引き出す人間性など、交渉力は多岐にわたります。
自律性
営業職としての使命を果たすために、自分の行動に責任を持つ能力です。目標達成に向けた積極性やフットワークの良さ、最善の結果を出そうとする責任感が求められます。
知識要件
担当する商品のプロフェッショナルとして、営業活動に必要な知識を持っていることです。
契約時にきめ細かな説明を行う能力や、幅広い分野の情報を収集して顧客の世間話に対応する力も求められます。
スキルマップのメリット・デメリット
スキルマップを活用する際に発生する、メリットとデメリットを2つずつ解説します。
スキルマップのメリット
スキルや実力が明らかになる
従業員の得意分野・不得意分野を明確にできるのが、スキルマップの大きなメリットです。
不得意分野に対して重点的に研修を実施したり、得意分野を他部署と共有したりするなど、組織全体のスキル向上につながります。
一つの業務を複数の従業員が担当できる体制(多能工化)を構築することも、長期休暇の取得や退職・休職に伴う業務への影響を回避するリスクマネジメントの観点から有効です。
評価基準の客観性を確保できる
スキルチェックの項目を人事評価項目と共通化することで、昇給・昇格の基準が明らかになります。
業務の達成度が点数化されるため、評価の客観性を担保できる点がメリットです。
スキルマップを公開することで成長目標を立てられると同時に、仕事へのモチベーションが高まる効果も期待できます。
スキルマップのデメリット
スキル(評価項目)の設定に時間がかかる
スキルを設定するためには、実施している業務を細かく洗い出し、個々の業務に対し達成度を定義する必要があります。
業務の流れを直接確認しなければならない場面もあるため、スキルマップの作成には時間がかかりがちなのがデメリットです。
企業のローカルルールや従業員の対人マナーなど、数値化することが難しいスキルが存在する点にも留意が必要です。
従業員が不満を抱くリスクがある
スキルマップの客観性が高いとはいえ、人によってスキルの判定基準が変わると理不尽な評価だという不満が生まれる恐れがあります。
モチベーションの低下を招くだけでなく、上司・管理職との関係性によってはハラスメント問題へ発展するリスクも否定できません。
事前に評価方法のすりあわせを行ったり、複数名でスキルマップを作成したりすることで、リスク軽減は可能です。
スキルマップの作り方
人材育成と人事評価を行う際に効果的に活用できる、スキルマップの作り方を3つのステップで解説します。
スキル体系の作成
最初に、スキルを何階層で作成するかを決めます。階層数を多くすると管理が煩雑になるので2~3階層、多くても4階層にするのが得策です。
複数の部署がある会社の場合は、会社全体で定めるスキル項目を考慮して階層数を統一しておくと混乱を避けられます。
階層数を決めた後は、スキルの分類を行います。業務フローやマニュアルに沿って、作業工程や必要なスキルを整理していくと効率的です。分類に迷ったときは、現場に足を運んで実際の業務プロセスを確認するようにしましょう。保有資格の把握や能力開発が必要な場合は、知識や資格をスキルの一つに含めることも可能です。
スキルの粒度(細かさ)は、職場の特性やスキル管理の目的に応じて決めていきます。業務のスタートとゴールを確定した後、必須のスキルをマップに加えるようにすれば、効率的な管理が可能です。スキル名はできるだけ単語で表現し、誰が見ても同じ解釈や評価が行えるよう概要を追記しておくとよいでしょう。
スキル基準の策定
スキル体系を作った後は、スキルの達成度を判定する基準を決めます。
数段階のレベルを持たせると、従業員が持つスキルを細かく判定することが可能です。スキルマップを公開して、従業員の理解を得やすいメリットもあります。
評価エラーの一つである中央化傾向を避けたい場合は、4段階での判定がおすすめです。数値で管理を行えば、指標として使う合計値や平均値を直接計算できます。
2段階評価で明確にスキル判定を行いたい場合は、具体的な言葉を選択肢に使うのが効果的です。
例えば、業務実施の可否を判定したい場合には「できる・できない」ではなく、「単独でできる・サポートが必要」という選択肢を設けます。
言葉の表現次第では、スキルの有無だけでなく人員配置や教育指導の課題を抽出できる可能性があることを意識しておきましょう。
スキルの評価
スキルマップの運用を開始する前に、評価方法を決める必要があります。評価方法は、大きく分けて次の3通りです。
- 上司が部下のスキルを評価する
- 自分が持つスキルを申告した上で、上司が確認・修正を行う
- 従業員による自己評価と上司による評価後、人事担当者や役員が最終評価を決める
スキルの評価を行う際は面談を実施し、評価の理由やスキルアップの方針について話し合うとモチベーションの向上につながるでしょう。
評価実施にあたっては、公平性を確保に十分配慮する必要があります。誰が評価しても等しい結果となるよう、事前に評価基準のすり合わせを行ったり、評価誤差に関する研修を実施したりすることが大切です。
スキルマップの導入企業事例
実際に、スキルマップを活用してマニュアルを作成し、多能工化に成功した企業の事例を2つ紹介します。
熱川プリンスホテルの事例
客室係が裏方の仕事に追われている現状があったため、裏方の仕事、特に清掃についてのスキルを観察し効率的な清掃手順を整理しました。
清掃業務について、一人ひとりのスタッフの行動を観察。どこから掃除を始めるか、持ち物は何か、順序などを確認し、同時に時間も計測しました。
一番効率的な作業手順の業務マニュアルを作成し、全員が同じレベルで作業ができる環境を整え、裏方の作業について人によるばらつきを抑えるようにしました。また、部署間を超えて社員が多能工化することで協力体制を築きました。
その結果、客室係は本来お客さまへのサービス提供を重視することができ、顧客アンケートの評価がアップ。以前はアルバイトを採用していた部分も、内部の人間のみで対応できるようになりました。
ブリリアントアソシエイツ株式会社
運営している海鮮レストランは昼食時に行列ができるため、多くのお客様に利用してもらえるよう改善が必要でした。
ホール内レイアウトを変更し客席数を拡大するとともに、厨房内動線・レイアウト改善による作業効率の向上を実施。さらに、呼び込み・ホール・厨房の業務について多能工化を目指しました。
(1)呼び込み担当は、満席になった段階でホールに入る。
(2)ホール担当の一人が、満席段階でホール・厨房の境に立ち厨房に指示を出す。
(3)料理出しは、以前は厨房が行っていたが、現在はホール担当が行う。 など、ルール・マニュアルづくりを実施。
特に厨房の作業工程については、製造業の視点から見直し、改善を推進しました。
その結果、改善前が1日最大客数300人だったのに対し、改善後は1日最大客数1,300を達成。
引用文献:経済産業省監修「多能工(マルチスキル)人材育成による
人材の有効活用」
このように、スキルマップは製造業などで定期的に利用されるツールとしてだけではなく、様々な業種で自社の業務プロセスを改善するために、現状を把握する際にも活用されています。
スキルマップで最適な業務手順を洗い出すことで、マニュアル化を実施し、社員全体のマルチタスクを促すルールづくりにも活用されているのです。
スキルマップは人事評価にも有効
スキルマップは、従業員の能力を客観的に把握し、適材適所への人材配置や機動的な教育訓練の実施に役立ちます。
内容をアレンジすると面接時のチェックシートとしても利用でき、採用のミスマッチを防止する効果も期待できます。
スキルマップを作成した後も、業務プロセスの見直しや職場環境の変化に応じて修正を加えていくことが、企業の成長にとって大切なプロセスです。
例えば、人事評価クラウドを導入することで、スキルマップと人事評価データの一元化が実現します。
明確な目標設定と適正な人事評価を両立できるため、スキルマップの運用とあわせて効果的な活用が可能です。
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