職務分掌とは? 業務分掌との違いやメリット・デメリット、作成方法を完全解説

チームで仕事をしていると、「この業務、誰が担当なのかはっきりしない…」という状況に陥った経験はありませんか?こうした曖昧さは、業務の遅延や責任問題に発展するおそれもあり、組織にとって見過ごせない問題です。

そこで重要なのが、組織運営の基礎となる「職務分掌」です。職務分掌とは、組織内の各部署や担当者の役割・責任・権限を明確にすることで、業務の効率化や円滑な連携を実現する仕組みのことです。

本記事では、職務分掌の意味やメリット・デメリットに加え、具体的な作成方法や運用方法までわかりやすく解説していきます。ぜひ最後まで読み進めて、組織運営のヒントを見つけてください。

職務分掌とは?

はじめに、組織の「職務分掌」とは一体なんなのかを把握しておきましょう。ここでは職務分掌の意味や表記を解説します。

  • 職務分掌の意味
  • 職務分掌の英語訳

この続きでは、職務分掌によって得られる具体的なメリットや、怠ることによって生じるデメリットを詳しく解説していきます。

職務分掌の意味

「職務分掌」とは、組織内に設けた部署や役職、特定の担当者がそれぞれに取り組むべき仕事を明確にし、職務の責任の所在や権限の適切な配分を意味します。

大手企業やベンチャー企業をはじめ、多くの企業・組織が職務分掌に関する規程を文書化しています。仕事内容や職務の権限・責任の範囲などを記した文書は、「職務分掌規定」「職務分掌表」の呼び名で社内共有されます。

しかし、人手不足や経営悪化などを理由に、仕事内容や持ち回りの変動が激しい組織では、職務分掌規定にない作業が発生することは珍しくありません。

イレギュラーを繰り返すうちに規定自体があやふやになると、常に現場が混乱し、業務の停滞が生じてしまいます。

職務分掌の英語訳

「職務分掌」は、英語で「division of duties(職務の分担)」または「segregation of duties(職務の隔離)」と表現されます。言葉通り、従業員で分担・手分けして職務に取り組むという意味です。

職務分掌の必要性

職務分掌は、組織の効率的な運営と健全な成長に不可欠です。主な必要性は以下の点にあります。

【職務分掌の必要な理由】

業務効率の向上役割と責任が明確になり重複作業が減少する
コンプライアンス強化権限と責任の所在が明確になり不正行為を防止できる
リスク管理の改善潜在的なリスクの特定と管理が容易になる
人材育成の促進各従業員のキャリアパスや成長目標が明確になる
コミュニケーションの円滑化部門間や従業員間の情報共有がスムーズになる

上記のようなメリットがあり、組織全体のパフォーマンスが向上し、持続可能な成長が可能となります。適切な職務分掌は、組織の規模拡大にともなう複雑化にも対応できる必要なツールです。

業務分掌との違い

「職務分掌」と似て非なる言葉に「業務分掌」というものがあります。業務分掌とは、組織内の各部門が果たすべき責任・行使できる権限を明確化するための規定です。業務分掌を明確化することで、各部門の業務範囲を整理・管理できるようになります。

それに対して職務分掌は、代表取締役や専務取締役、各職務の役割などを明確化したものです。役職に対する役割・分担まで詳細に設定する職務分掌と、部門ごとで大まかに分担する業務分掌では、かなり意味が異なることがわかります。

職務分掌の3つのメリット

組織が職務分掌を設定するメリットは具体的にどこにあるのでしょうか。職務分掌のメリットは以下のとおりです。

  1. 組織運営が円滑になる
  2. 人材を育成しやすくなる
  3. 内部統制とリスクマネジメントが可能になる

それぞれ詳しく解説します。

1. 組織運営が円滑になる

職務分掌を設定する最大のメリットは、なんといっても組織運営が円滑になることでしょう。組織というものは、運営規模が肥大化するほど、従業員に与える職務や権限があやふやになっていきます。

職務や権限が明確でないと、人間関係のトラブルや業務上の混乱が生じやすくなります。そこで、職務分掌規程により、各職務の役割や所有する権限を明らかにすれば、各部門と各個人で優先するべき仕事が見えてくるのです。

職務分掌規程があることで、経営者は適材適所のマネジメントも可能となります。個々が遂行してほしい職務を明文化し、従業員にも職務分掌を意識してもらうことで、組織運営はとても円滑に進むようになるでしょう。

2. 人材を育成しやすくなる

職務分掌は、組織を支えてくれる優秀な人材の育成にも効果を発揮します。職務分掌に基づいて、個々が遂行するべき職務をはっきりさせることで、各担当者は業務を効率的に進められます。

スムーズに仕事ができる環境は、作業中の集中力もアップさせてくれるものです。職務に集中している部下を見た上司は、適切な評価と新たな目標設定ができるようになるでしょう。

これから成長していく人材にとって、目標達成への指標やモチベーションは重要です。自分の職務の役割や権限が明らかでないと、目標すら立てられません。

職務分掌を通して従業員の目標を明確化し、主体性のある人材を育むことは、組織の将来にとって有益です。

3. 内部統制とリスクマネジメントが可能になる

職務分掌を実行することで、組織の内部統制が可能となるのもメリットの一つです。

各職務における責任の範囲を明確化させれば、「誰が、どのチームが、どの仕事をやるべきか」というプロセスがわかりやすくなります。

それぞれの役割を把握し、似たような業務や無駄な業務を各所で行ってしまう「非効率」を防げます。

また、従業員同士の軋轢や不正が発生しにくくなるのも、リスクマネジメントの重要なポイントです。

内部統制およびリスクマネジメントの基本として、「業務上で実行可能な権限を制限なく個人に与えてはいけない」という考えがあります。

中小企業では、1人の従業員が2つ以上のポジションを兼任することは珍しくありませんが、リスクマネジメントにおいて問題のあるやり方です。

職務分掌で個人の職責や権限を分散させることが、不正や資料の虚偽表示・改ざんなどの防止につながります。

職務分掌の3つのデメリット

職務分掌を実行することで発生してしまうデメリットもあります。具体的な内容は以下のとおりです。

  • 中小企業では仕事が回らないことがある
  • 従業員の行動を制限してしまうリスク
  • 責任の押し付け合いになってしまう

あらかじめデメリットを把握しておき、組織のためになる取り組みをしましょう。

1. 従業員の行動を制限してしまうリスク

従業員の役割や責任を定める職務分掌を導入することで、指揮命令系統が明らかになります。

指揮命令系統によって仕事が円滑になる面があるものの、「一つの行動を起こすために許可が必要」「命令がないと従業員が行動しない」状態に陥るリスクにも注意が必要です。

このデメリットを生じさせないためにも、職務分掌規程を設けた上で、個々の主体性を高める必要を認識してください。

具体的には、目標設定理論を参考に目標達成までの情報管理を徹底するとよいでしょう。目標が明確であれば、従業員のモチベーションを維持しやすく、個々に課せられた役割に対しても責任感が生まれるからです。

2. 責任の押し付け合いになってしまう

職務分掌によって従業員の役割や責任が明らかになりますが、「自分はこの仕事だけやっておけばいい」「この仕事はあの人に任せていい」といった自分本位な考えが生じるリスクがあります。このような考えは、責任を押し付け合う従業員同士の軋轢を生むことになります。

これは、従業員が職務分掌の本来の意味を理解していなかったり、役割・責任に対する認識のズレがあったりすることで発生する問題です。

組織全体の動きを見つつ、主体的に行動できる人材を育成できなければ職務分掌の意味がありません。職務分掌する際には、各部門や従業員同士の意見・認識をすり合わせておくべきでしょう。

3. 中小企業では仕事が回らないことがある

職務分掌は仕事を効率的に進めるための規定です。

しかし、従業員の数が限られている中小企業で適材適所にこだわりすぎることは危険です。職務分掌によって責任の押し付け合いが生じたり、仕事が上手く回らなくなったりするデメリットがあります。

本来は、従業員同士がサポートし合って、不足部分を補えるのが優れた組織です。

職務分掌によるデメリットを防ぐためには、人事評価制度を透明化して、従業員のモチベーションを高める必要があります。

自分自身の役割・責任を果たしているだけでなく、組織全体のパフォーマンス向上も意識している人材は、どちらの面でも評価する仕組みを構築しましょう。

業務を円滑にするためにあらゆる仕事に取り組める人材は、日頃から個々の働きを正当に評価することで育成できます。

職務分掌を定める方法

職務分掌は組織内で共有する必要があります。具体的な内容は以下のとおりです。

  1. 職務分掌表とは?作成時のポイント
  2. 職務分掌表(職務分掌規程)の作り方

職務分掌を明文化した職務分掌表(職務分掌規程)について、作り方のポイントなどを解説していきます。

職務分掌表とは?作成時のポイント

職務分掌表とは、職務分掌規程の基盤となるものです。人事などの担当者が職務分掌表を作成する際は、職務分掌に対する経営層のビジョンを聞いておきましょう。

経営者や組織幹部は、職務分掌によって組織運営が円滑になることを願っています。現場を知る担当者と経営層のビジョンを擦り合わせておくことで、職務分掌にともなう内部統制やリスクマネジメントもスムーズに進められるでしょう。

職務分掌表を作成するにあたり、各部門に対して仕事内容に関するアンケートをとっておくことも重要なポイント。

作成者の主観が強くならないように、各部門から提出された仕事内容をもとに職務分掌表を作成します。

作成した職務分掌表は各管理職にチェックしてもらい、組織全体の声を反映した職務分掌規程となるように心がけましょう。

職務分掌表(職務分掌規程)の作り方

職務分掌を作成するにあたり、まずは企業の組織図を把握しましょう。

本社・支社・営業所、各部門・部署というように、企業全体を表した図を作成します。組織の全体像を把握することで、各部署の関係性や連携するべき作業範囲などが見えてきます。

続いて、さらに細かい職務ごとの組織図として、各役職に与えられた役割・責任を具体的に記載します。企業全体の組織図と、職務ごとの組織図をもとに職務分掌表を作成し、さらに職務分掌表をもとに職務分掌規程を整理していきます。

職務分掌の運用は定期的に見直す必要がある

職務分掌は組織の変化に合わせて定期的に見直すことが重要です。主な理由は以下のとおりです。

  • 組織構造の変化への対応
  • 業務効率の向上
  • 新たなリスクへの対応
  • 従業員のスキル向上に合わせた調整
  • 法令遵守の確保

見直しは年次レビューや部門別レビューを通じて行い、従業員からのフィードバックも取り入れます。必要に応じて外部専門家の意見を求めることも有効です。

定期的な見直しにより、職務分掌を組織の現状に合わせて最適化し、その効果を最大限に引き出せるでしょう。

職務分掌に関するよくある質問

職務分掌に関するよくある質問に回答していきます。

  • そもそも職務分掌とは?
  • 職務分掌のメリット・デメリットは?
  • 職務文章表をエクセルで作成する際のポイントは?

浮上する疑問を先回りして解消し、時間を短縮しましょう。

そもそも職務分掌とは?

職務分掌とは、組織内の部署や役職を、担当者ごとに明確に定義し配分することです。

配分するのは、以下に記載する内容です。

  • 職務内容
  • 責任
  • 権限

多くの企業が「職務分掌規定」や「職務分掌表」として文書化し、社内共有しています。

英語では「division of duties」や「segregation of duties」と表現されます。

類似概念に「業務分掌」がありますが、こちらは部門ごとの大まかな分担を指し、職務分掌とは異なります。

職務分掌のメリット・デメリットは?

職務分掌のメリット・デメリットは以下のとおりです。

【職務分掌のメリット】

組織運営の円滑化役割や権限が明確になり、業務上の混乱を防ぐ
人材育成の促進個々の職務が明確になることで、効率的な業務遂行と適切な評価が可能となる
内部統制とリスクマネジメントの強化責任範囲の明確化により、非効率や不正を防止する

【職務分掌のデメリット】

従業員の行動制限指揮命令系統の明確化により、主体性が失われるリスクがある
責任の押し付け合い役割が明確すぎると、自分の担当外の仕事を避ける傾向が生じる可能性がある
中小企業での実施困難従業員数が限られている場合、柔軟な対応が難しくなる可能性がある

職務文章表をエクセルで作成する際のポイントは?

エクセルで作成する際は、以下のポイントに注意しましょう。

​​組織構造を反映させる部門や役職を列や行に配置し、組織の階層構造を明確にする
具体的な職務内容を記載各セルに具体的な職務内容を簡潔に記入する
責任と権限を明示各職務に対する責任の度合いや決裁権限を明確に示す
凡例を使用責任の度合いや権限のレベルを表すために、記号や色分けを活用する
更新日を記録職務分掌表の作成日や最終更新日を明記し、常に最新の情報を確認できるようにする
フィルター機能の活用エクセルのフィルター機能を使用し、必要な情報を素早く抽出できるようにしておく
相互チェック関係部署や上司によるチェックを行い、内容の正確性と妥当性を確保する

上記のポイントをおさえることで、より効果的で使いやすい職務分掌表を作成できます。

職務分掌は人材育成にも効果的!

組織内の職務分掌は、業務を効率化するだけでなく人材育成にも効果を発揮する重要な要素です。本記事では、職務分掌の意味やメリット・デメリット、作成方法などを具体的に解説しました。

職務分掌を導入することで、責任範囲が明確になり、業務の効率化や人材育成、内部統制の強化などが期待できます。しかし、導入する際には、従業員の行動制限や責任の押し付け合い、組織の規模によっては運用が難しいといったデメリットも考慮する必要があります。

組織全体で職務分掌の意義を理解し、定期的な見直しや従業員とのコミュニケーションを図りながら、組織の状況に合わせて柔軟に運用していくことが重要です。

適切な職務分掌の構築は、組織の活性化、持続的な成長を実現しましょう。

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