年末調整が終わると、雇用主は従業員のために源泉徴収票を作成しなければいけません。
翌1月末までに税務署と市区町村、そして社員に対して交付するのは企業の義務です。
ここでは源泉徴収票の概要や作成方法・手順と、算出するべき源泉徴収額(所得税)の計算方法を説明します。
また、e-taxやソフトなど申請の手間を短縮する方法についても紹介するので、担当者の方は源泉徴収票を発行する際にお役立てください。
源泉徴収票とは
源泉徴収票とは、企業が従業員に対して支払った給与額と収めた税金を記載した書類のことをいいます。人事や総務などの管理部門が源泉徴収票を作成するタイミングは、主に従業員の「退職時」と「年末調整時」の2つです。
- 退職所得の源泉徴収票
従業員が退職する際に、1月1日から退職時までの給与に基づいた源泉徴収票を発行しなければいけません。
- 給与所得の源泉徴収票
年末調整のあと、給与を支払ったすべての従業員に作成します。作成する枚数は、従業員一人につき合計4部です。従業員1部、税務署1部、市区町村に2部提出します。このとき市区町村に提出する書類は、給与支払報告書という名前で呼ばれます。
源泉徴収票は、法定調書であり国税庁に必ず提出しなければいけません。とくに、年末調整時に作成する給与所得の源泉徴収票は、毎年1月31日までに所轄の税務署長に提出する必要があります。
源泉徴収票の作成方法とは
源泉徴収票を作成するには、国税庁のフォーマットを利用します。その際、手書きの作成方法以外に以下の4つの方法でつくることが可能です。
- エクセル
- 給与計算ソフト
- e-Tax
- 税理士等の専門家に委託
エクセル
インターネット上で、国税庁が公開している源泉徴収票のテンプレートをもとに、無料のフォーマットが公開されています。従業員の人数が中規模くらいまでで、パソコン上で作業したい場合はエクセルで作成する方法が便利です。
ただし、無料で利用できるため、エクセルに組み込まれている計算式が正しいかどうかは責任を持って確認する必要があります。最新の税制に対応しているかの確認も重要です。
給与計算ソフト
源泉徴収票の作成は、源泉徴収で算出した給与の支払い金額、所得控除額、源泉徴収額等を記載します。この計算のミスをなくし、効率化を図るには給与計算ソフトが役に立ちます。
源泉徴収で算出した金額をもとに、従業員別に源泉徴収票を自動生成する機能がついている給与計算ソフトもあります。導入にあたってはコストがかかりますが、源泉徴収だけではなく、毎月の勤怠管理、給与計算もあわせて効率化が可能です。従業員の人数にあわせて、導入後のメリットを検討してみるといいでしょう。
e-Tax
国税庁が配布する国税電子報告システム・納税システム「e-Tax」を利用して源泉徴収票を作成することも可能です。国税庁のサイトから源泉徴収票の作成ソフトをダウンロードできます。
e-Taxで作成した源泉徴収票は、Eメール添付等の電子データで従業員に配布することが可能です。また、企業から税務署に提出する分は直接出向く必要はなく、オフィスからe-Taxを利用して従業員の源泉徴収票を提出できます。
ただし、e-Taxを利用するには「利用者識別番号」「電子証明書」を事前に取得しておく必要があるので、ご注意ください。
税理士等の専門家に委託
年末調整から源泉徴収票の作成まで、専門家である税理士に委託する方法もあります。会社を立ち上げたばかりで経理業務について不慣れ、12月の業務が忙しく年末調整まで手が回らない場合など、検討してみるといいでしょう。
源泉徴収票の作成手順
では、源泉徴収票を実際に作成するにはどうしたらいいでしょうか。
最新の給与所得の源泉徴収票フォーマットをもとに、基本となる箇所を解説します。
- 支払いを受ける者
従業員の住所、マイナンバー、氏名を記載します。従業員に交付する源泉徴収票には、マイナンバーの記載は不要です。 - 種別
「給与」「賞与」という形で給与の種別を記載してください。 - 支払金額
1月1日から12月末までに支払が確定した給与等の総額を記載します。源泉徴収票作成時に未払の金額がある場合は、未払額も併せて記載します。 - 給与所得控除後の金額
支払い金額から給与所得控除を差し引いたあとの金額を記入してください。年末調整をした従業員のみ記載します。 - 所得控除の額の合計
給与所得控除後の金額から、社会保険料控除、小規模企業共済掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寡婦控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除の合計額を差し引いた金額を記載してください。年末調整をした従業員のみ記載します。 - 源泉徴収額
年末調整をした従業員へは、年末調整後の源泉所得税と復興特別所得税の合計を記載してください。年末調整をしなかった従業員には、源泉徴収するべき所得税と復興特別所得税の金額を記載します。 - 控除対象配偶者の有無
控除の対象となる配偶者がいるかいないかを記載する箇所です。
年末調整で配偶者控除の適用を受けている社員と、年末調整の適用を受けずに配偶者区分が「源泉控除配偶」である社員は、「有」に〇をつけます。
課税区分が「乙欄」であり、配偶者区分が源泉控除配偶である社員は、「従有」に〇をつけます。
老人控除対象配偶者を持つ社員は、「老人」に〇をつけます。
そのほか、詳しい記載方法については国税庁が発行する手引きに記載されています。
参照:『給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引』令和元年分
源泉徴収票に記載する所得税の計算方法
源泉徴収票に記載する所得税額(※復興特別所得税も合算)は、雇用主が計算する必要があります。計算の基本的な流れは以下の通りです。
- 支払金額から、所得控除(収入から差し引かれる金額)を差し引く(A)
- Aからさらに給与所得控除額を差し引く(B)
- Bの課税所得金額に、所得税率を掛ける(C)
- Cに復興特別所得税をかける(D)
- C+Dが個人負担の源泉徴収額=所得税(※復興特別所得税との合算)となる
仮に、支払金額が500万円、所得控除が186万円(収入から差し引かれる金額)の社員の所得税を計算してみましょう。
支払金額 | 5,000,000円 |
所得控除額(収入から差し引かれる金額) | 1,860,000円 |
内訳: 配偶者控除 | 380,000円(配偶者の年収が103万円以下) |
扶養控除 | 380,000円(配偶者の年収が103万円以下) |
厚生年金+健康保険 | 600,000円 |
生命保険料の控除額 | 120,000円 |
基礎控除 | 380,000円 |
給与所得控除額の計算
給与所得控除額は、税務署の定める表に従って計算します。必ず、最新の年度のものを確認してください。平成29年分~令和元年分の計算表は以下の通りです。
支払金額が5,000,000円の場合、給与所得控除額の計算方法は以下のようになります。
「支払金額(5,000,000円)×20%+540,000円=1,540,000円」
そのため、1,540,000円が給与所得控除額となります。支払金額から所得控除(収入から差し引かれる金額)である1,860,000円を差し引いたうえで、給与所得控除額を差し引き、所得税額を算出します。
「5,000,000円―1,860,000円―1,540,000円=1,600,000円(課税所得金額)」
課税所得金額に所得税率と復興所得税をかける
所得税の税率は、課税される所得税額によって変動します。国税庁のウェブサイトから所得税の速算表を確認できます。
課税所得金額が1,600,000円の場合、所得税率は5%です。控除額は0円なので、課税所得金額に税率5%をかけたものが源泉徴収額(所得税額)です。この所得税額に2.1%掛けて復興特別所得税額を算出します。
所得税額「1,600,000円×5%=80,000円」
復興特別所得税額「80,000円×2.1%=1,680円」
となり、今回のケースでは所得税(※復興特別所得税との合算)は81,680円と算出されました。
源泉徴収票を電子データで交付する際の注意点
作成した源泉徴収票を従業員に交付するには、メール添付、社内LANでの共有、書面での通知という方法があります。
電子データで交付する際、データが改変されないような措置は義務ではありませんが、源泉徴収票が企業から正規に発行されたものと真実性を担保するには、電子署名を付した電子証明書の添付が推奨されています。
電子署名および電子証明書とは、インターネットを介してデータをやり取りする際、そのデータの作成者が誰であるかを証明し、当該データが改ざんされていないことを示すものです。
電子証明書の取得は、公的個人認証サービスや帝国データバンク等で申請することができます。また、e-Taxで税務署に源泉徴収票を提出する際も、事前に電子証明書の取得が必要になるので注意しましょう。
源泉徴収票は一番手間がかからない方法で作成しよう
源泉徴収の作成にあたっては、各項目の意味を理解し、給与所得控除の計算等を正しく行わなければいけません。
こうした計算にあたっては、給与計算ソフトを利用することで計算ミスをなくすことができます。給与計算ソフトは源泉徴収票の作成だけではなく、毎月の給与計算や各種法定調書の作成に対応しているものもあります。
従業員の数や給与計算を行う人員のキャパシティーに合わせて、業務を効率的に行える方法を選択するとよいでしょう。
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