HRTechとは、人事領域にデジタル技術を活用する考え方です。
テクノロジーの発達によってこれまではデジタル化が難しかった人事領域でも効率化やパフォーマンスの向上が可能になりつつあります。
経営者や人事部の担当者は人事領域の機能を強化するために、今進化しつつあるHRTechを理解しておくことが欠かせません。
今回は、HRTechの考え方や具体的なサービス内容、導入メリットや事例を紹介します。
HRTechとは
HRTechとは、人事・人材(Human Resources)とテクノロジー(Technology)とを組み合わせた造語で、人材採用や人材育成、人事評価といった人事領域に活用できる主にデジタル技術という意味です。
ビジネスにおいての人事領域は、これまでアナログな業務方法が主流でした。
人材採用を例に取っても、採用担当者が応募者とやりとりするのは基本的にメールか電話でその都度対応し、エントリーシートも担当者が1枚ずつ目視で確認。面接は、遠隔地でもない限りほぼ必ずフェイストゥーフェイスが基本でした。
HRTechは、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット化)、ビッグデータといったテクノロジーの進歩を受けて、そういった既存の枠組みや個別のツールの限界を取り払い、テクノロジーを活用して業務を劇的に転換するという考えが背景にあります。
人事領域は幅広いので、HRTechにもシステムごとに強み・弱みがあり多岐種類にわたって存在。日進月歩で様々なサービスのHRTechが登場しています。
HRTechの読み方とは
HRTechについて、よくある疑問としてどのように読めばよいのか。
HRTechとは、「えいちあーるてっく」と読みます。ローマ字で書かれているため、はじめて見た方は戸惑う人が多いようです。
徐々に一般的な言葉となってきているので、いざという時に恥ずかしい思いをしないよう、読み方は覚えておくようにしましょう。
## HRTechのカテゴリーとは
HRTechは日々様々なシステムが登場しており、それぞれ特徴が微妙に違ったりと多岐化しています。完全にカテゴリー分けすることが難しいですが、大まかに分けると下記の通りです。
・求人
・採用
・人材育成・人事評価などエンゲージメント
・労務管理
・適性検査・分析
・上記全体
・アウトソーシング など
アルバイトや中途採用など対象を限定した求人募集に特化しているものもあれば、求人サイトを作成しつつ連携させ採用活動から採用まで一元管理できるものもあります。
HRTechは、カテゴリーを分断して機能を保有しているものも少なくありません。
HRTechの具体的なサービスとは?
HRTechにはどのようなサービスがあるのでしょうか。ここでは主なシステムと、その特徴を紹介します。
人事評価システム
人事評価システムとは、経歴や実績、給与、等級といった社員データを管理し、人事評価を適切かつ効率的に実施するためのシステムです。
人事評価は、評価プロセスを定めた上で社員のプロフィールや成績などをもとに、適切に行わなければなりません。
また、人事評価は原則として全社員に対して実施するもので、その労力や時間は少なくないものです。
人事評価システムは、社員情報を一限管理できるだけでなく、評価項目や評価基準も設定し、評価者の評価プロセスもツール上で可視化できます。
結果として効率的かつ透明なプロセスのもとで人事評価を実施できるのです。
採用管理システム
採用管理システムとは、採用活動におけるあらゆる情報を一元管理し、業務を効率化するためのツールです。
採用管理システムの大きな特徴とは、採用活動に関連する膨大な情報をデジタル上で管理できるという点にあります。
採用活動では、応募者のプロフィールやエントリーシート・履歴書の内容、書類選考・面接日、面接官のスケジュール、メッセージ履歴などあらゆる情報を扱わなければなりません。
特に、応募者の多い企業ではこういった情報量は膨れ上がり、スマートに管理するのは非常に困難です。
採用管理システムはこういった膨大な情報をデータとして保存し一元管理できます。これによって、調整業務が効率化したり、社内の情報共有が容易になったり、データの分析が可能になったりするのです。
勤怠管理システム
勤怠管理システムとは、打刻や勤務時間といったデータを収集・管理し、勤怠管理業務を効率化するためのツールです。
勤怠管理システムの特徴は、勤怠データをシステム上で管理することで集計や給与計算といった業務を自動化できるという点にあります。
勤怠管理については、企業によっては従来からタイムカードを手作業で集計するケースや、パソコンに勤怠データを手で入力するといったケースもありました。こういった作業は時間も手間もかかり、担当者には大きな負担が生じてしまうものです。
勤怠管理システムでは、打刻データの管理や集計がシステム上で可能になる他、シフト作成機能や給与計算機能とも連携することで担当者の負担を軽減します。
労務管理システム
労務管理システムとは、社会保険や福利厚生、労使関係の情報を管理するためのツールです。
社員の扶養家族やマイナンバー、年齢・住所といった情報や、年末調整の手続き、給与・源泉徴収の管理など労務に関する機能を広く揃えています。
一般的に、労務管理の担当者は社員の入社や退社に伴い社会保険の申請書類を整えたり、雇用契約書を作成・締結したりなど、数多くの情報を扱った上で適切に手続きも実施しなければなりません。
労務管理システムではこういった情報をシステム上で管理し、手順に沿って手続きを進められるようにサポートする役割があります。
目標管理システム
タレントマネジメントなど社員の能力やスキルの情報を一元管理し、最大限に活かす人事マネジメントがトレンドとなる中で、目標管理システムも重要なHRTechとして注目されています。
日本型雇用システムの年功序列を基礎とした評価制度が崩れる一方で、社員の目標から目標に対してのアプローチ、成果までを公正に管理するシステムが目標管理システムです。
目標管理システムには、AIによる目標添削機能や評価者を評価するサービスがあるものもあります。また、人事評価システムと連動して、目標管理が評価へとつながる仕組みのものも便利でしょう。
HRTechを導入するメリットとは
HRTechの導入を検討する際に気になるのがメリットです。ここでは導入することで期待できる効果を紹介します。
業務の効率化
人事分野における煩雑な業務が大幅に効率化できる点は大きなメリットです。
先述の通り、人事関連部署の業務は人材採用、人材評価、人材教育など、非常に人間の手間がかかる作業が多いという特徴があります。
従来はデジタル化が難しかったような人事業務も、現在はテクノロジーによって自動化ができるようになりつつある状況です。
HRTechを導入すれば、人事に関する書類をデジタル化したり、社会保険の手続きを電子上で処理したり、勤怠管理をICタグで自動化したりといったことも可能になり、業務効率化が実現できます。
業務の質の向上
業務の質が向上するというメリットもあります。
紙媒体での手続きであればチェック漏れや記入ミスなどが発生する可能性がありますが、書類の入力をデジタル化すれば機械がミスや漏れを自動でチェックするため、作業の質が上がるのです。
また、採用や人事評価などでも同様で、人材の情報をデジタル上で管理するようにすると、定量的な分析が容易になりミスも減らせるため人事業務の質が高まります。
人事分野の可能性拡大
HRTechは既存業務のパフォーマンスを向上させるだけでなく、新しい業務の可能性を広げられる点も大きな魅力です。
HRTechを活用することで、人材データのデジタル化の促進に繋がり、情報収集が容易になります。そして、情報の一元管理をも可能にします。
こうすることで、例えばこれまではできなかったような、勤怠と人事評価上位者という2つの情報を分析して優秀者の特性を抽出するといった全く新しい活用方法も生まれる可能性があるのです。
そうすることで、より優秀な人材を経営戦略上重要な箇所に配置できたり、人材の適材適所を効率的に実現できたりと人事分野の可能性が大きく広がるでしょう。
HRTechを活用した企業の事例
HRTechを導入する際に参考になるのは成功企業の事例です。
ここではHRTechを効果的に活用している企業の事例を紹介します。
日立製作所
日立製作所社は、人事領域にAIやビッグデータ活用といったITを活用する先進的な取り組みを実施してきました。
世界中の社員のデータベース化に取り組み、その後システムを本格導入したり、人材を分析したりする目的でピープルアナリティクス部門を組織したのです。
手始めに、定量的かつ事業変化にマッチする採用スキームを設計。従業員の協力(適正テスト、評価データ、部署データなど)によって得られた人財ポートフォリオや、社内のハイパフォーマーの特徴分析、過去の採用プロセスなどから得た定量的な情報を活用し、まずは面接官の主観を排除した客観性の強い採用の仕組みを構築しました。
さらに、従業員一人ひとりの経歴やスキル、評価、専門分野やキャリア志向など、人財情報の一元管理と見える化が可能な基盤を整備。は本人自らが能動的にキャリア開発を行うことも可能となり、迅速な適材適所への人材配置を実現しています。
引用文献:日立製作所「「働き方改革」を加速するHRテック」
ソフトバンク
ソフトバンク社は、業務効率化により創出した時間を新規事業や自己成長に利用する「Smart & Fun!な働き方改革」を推進しています。
「ITでスマートに楽しく!」をキャッチフレーズにHRTechの活用を積極的に進めているのです。
一例として、人材採用においてAIを活用する取り組みを導入しました。
同社には年間約3万件のエントリーが届いており、それらを全て目視するのは労力や時間がかかります。
そこで同社はエントリーシート(ES)の内容から、求める人物像の最低条件を満たしているかどうかをAIによって判定する仕組みを構築。判定の結果、不合格になったシートだけを人事部がチェックすることで、大幅に業務効率が改善されました。
以前はESのチェックに約680時間かかっていたところを、170時間までに削減。対応時間を75%削減することに成功しました。
引用資料:ソフトバンク「HRテック」
かりゆし
かりゆし社は、社員の成長につなげる人事評価制度を構築する目的で人事評価サービス「ゼッタイ!評価®」を利用しました。
同社の大きな狙いの1つは提案型スタッフの育成です。
そこで評価指標に企画提案数や採用数なども盛り込み、それに応じて評価を変える仕組みを構築。スタッフからの提案が活発化し、採用されて定着したアイデアもあります。
また、運営するホテルの稼働率アップや旅行業者主催のアワード獲得など、着実な成果につながっているのです。
HRTechを上手く活用して時代を勝ち抜こう
HRTechは、業務の効率化や質の改善に役立ち、人手による仕事が多いのが当たり前であった人事領域で大きく貢献するでしょう。
また、新しいテクノロジーの活用によって、人事データの一元管理や高度な分析もできるようになり、これまでは技術的な制約で不可能だった革新的な取り組みも実現できる状況です。
今後はHRTechを活用できるかどうかで業務の効率化や経営力に差がつくことは間違いないと言えるでしょう。
経営者や人事担当者は、自社の課題を振り返りながら、HRTechで解決することを検討してみましょう。
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