高年齢者雇用安定法とは、希望する中高年を65歳まで雇用するよう企業に義務付けるなど高齢者の働く環境整備を目的とした法律です。
企業は、定年の年齢を延長する、定年を廃止する、契約社員等で再雇用するといった措置を講じなければなりません。
2013年に行われた改正ポイントを振り返りつつ、現状で企業が講じるべき対策について解説します。
高年齢者雇用安定法とは
高年齢者雇用安定法とは、少子高齢化が進む中、高齢者の雇用促進の一環として事業主が、高齢者が働き続けられる環境整備を目的とした法律です。
2013年には法改定が施行され、定年等の基準を見直しや、企業に高齢者の継続雇用措置を導入するなどいずれか選択することを企業に義務付けられました。
1971年に「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」として制定された同法律は、1986年に高年齢者雇用安定法に名称が変更。
60歳以上の定年設定が努力義務とされました。その後、60歳以上の定年の義務化、65歳までの雇用確保の努力義務、限定した対象者につき65歳までの雇用確保の義務化と措置の基準が厳格化されました。
2013年に再度改正された同法律は、定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、定年制を廃止、65歳まで定年年齢を引き上げる、65歳までの継続雇用制度を導入のいずれかの措置を講じることを企業に義務付けました。
また、高齢者雇用確保の措置義務に従わない企業は勧告の対象となり、企業名が公表される恐れもあります。
高年齢者雇用安定法の要点
高年齢者雇用安定法のポイントは、以下の3つです。
- 60歳未満定年の禁止
- 65歳までの「高年齢者雇用確保措置」
- 中高年齢者が離職する場合の措置
以下に、それぞれについて説明します。
1.60歳未満定年の禁止
企業が、60歳未満を定年年齢として設定することは禁じられています。定年制度を定める場合、高年齢者雇用安定法第8条に基づき、その年齢は60歳以上としなければいけません。
ここでいう定年とは、就業規則や労働契約で定められた退職の年齢を指します。この退職は、定年年齢に達したことを理由に、自動的または本人の解雇の意思表示によって、その地位を失わせる制度です。
なお、早期の退職を優遇させる制度での退職年齢は、高年齢者雇用安定法が指す「定年」には当てはまらないので注意しましょう。
もし定年年齢を60歳未満に定めている場合、その定年の規定は民事上無効となり、企業は年齢に達したことを理由に従業員を退職させることはできません。
2.65歳までの「高年齢者雇用確保措置」
定年年齢を「65歳まで」としている企業は、以下のいずれかの高年齢者雇用確保措置を講じなければいけません。
- 65歳まで定年年齢を引き上げる
- 65歳まで継続雇用制度を導入する
- 定年制を廃止する
ここでいう継続雇用制度とは、定年後も引き続き雇用するために再雇用制度や勤務延長制度を利用することを指します。これまで、高年齢者雇用安定法では、65歳まで継続雇用制度の対象とする従業員を限定することが可能でした。しかし、2013年の改正で、継続雇用制度の対象者は「希望者全員」に変更されました。
3.中高年齢者が離職する場合の措置
事業主は、解雇や離職が予定されている45歳以上65歳満の中高年齢者が希望するときは、再就職のサポートについての必要な措置を講じなければいけないとされています。具体帝には、求職活動支援書の作成が当てはまります。
また、5人以上の中高年齢者を離職させる事業主は、あらかじめハローワークにその旨を届け出る必要があります。
高年齢者雇用確保措置の導入フローチャート
高年齢者雇用確保措置の整備・見直しが必要な企業は、以下のフローチャートを参考に導入をしましょう。
まずは就業規定で定年について言及があるかどうかを確認し、設定されている定年年齢によって、その後の流れが変わります。
「高年齢者雇用確保措置」による労働条件見直の3つのポイント
希望する従業員全員を65歳まで雇用する場合、賃金や勤務時間等の労働条件を見直す必要があるケースが存在します。
原則として本人と企業の間で労働条件が決定されます。その際、厚生労働省の定める高年齢者雇用確保措置に関する指針を参考にできます。
賃金・人事処遇制度の見直し
年齢を基準に給与等の階級制度を設定している企業は、能力・職務等で賃金の決定を重視する人事制度への見直しが望ましいとされます。
その際の賃金設定は、高年齢者の雇用と生活に配慮した計画的で段階的なものである必要があります。
勤務日・勤務時間の見直し
継続雇用を希望する高年齢者に対して、時短勤務の導入や隔週出勤など、本人の希望に応じて勤務スタイルを選べるように労働環境を整えましょう。
意欲・能力に応じた適正な配置・処遇
高年齢者雇用確保措置では、これまでに役職付きであった従業員が、マネジメントの責任から外れ別の部門・異なる職位に変更になることで、働くモチベーションが低下する事例がみられます。
継続雇用での配置や仕事内容は、本人がこれまでに培ってきた経験等を考慮し、本人の希望を尊重したうえで決定しましょう。
継続雇用制度を導入した企業は経過措置を取っている場合あり
2013年の改正では、高年齢者を65歳までとする継続雇用制度の導入に、一部経過措置が設けられました。
改正前の2013年3月31日までに、労使協定で継続雇用制度の対象者を限定する基準を設けていた雇用主は、以下の対象について、引き続き基準を適用することが可能です。
- 2022年まで:63歳の人
- 2025年まで:64歳の人
なお、対象を限定する基準の設定の際は、企業は恣意的に対象者を排除してはならず、以下の点に注意する必要があります。
- 従業員の意欲や能力など、具体性を持つ基準であること。もし従業員の能力が基準に満たない場合は、研修等で能力の開発を促すことができるような具体性を示すこと。
- 必要とされる能力の基準が客観的に示されていて、従業員が基準に該当するか予測可能なものであること。
さらに、たとえ労使協定で合意した基準であっても、以下に該当する基準は認められない恐れがあります。
【認められない対象を限定する基準のポイント】
- 事業主が、恣意的に特定の従業員を排除しようとしている
- 他の労働関連法規に違反する基準
- 公序良俗に反する基準
たとえば、「企業が必要と認めた人材に限る」や「上長の推薦を得たものに限る」といった基準は、恣意的であり高年齢者雇用安定法の趣旨に反します。また性別等の差別を行わないことも重要です。
中高年齢者が離職する場合の求職活動支援書
企業は、解雇や離職を予定している45歳から65歳の中高年齢者に対して、本人が希望するときは、求職活動のサポートを行う必要があります。その具体例として高年齢者雇用安定法で定めているのは、求職活動支援書の作成です。これは、本人が希望した場合は企業は必ず作成し、交付しなければいけません。
求職活動支援書とは
求職活動支援書とは、中高年齢者のこれまでの職務経歴を記載した書類です。それがあるのことで従業員本人の能力・経歴を可視化することができ、再就職先を探す際に役立ちます。
求職活動支援書に盛り込むべき内容は以下の通りです。
- 本人の氏名、年齢、性別
- 離職予定日
- 実務経験や業績、達成事項を含む職務経歴
- 資格、免許、受講した講習
- 本人が有する技能、知識やその他職業能力に関する事柄
- 本人が自ら職務経歴書を作成する際に参考となりそうな事柄
- 事業主が講じる再就職支援措置の内容
なお、厚生労働省が実施する、生涯のキャリアプラン作成に用いるジョブカード制度では、記録した従業員の職歴や実務能力、資格についての情報を求職活動支援書に転記することができます。
参考元:厚生労働省 ジョブカード制度
70歳就業機会確保へ。高年齢者雇用安定法の改正動向
これまで改正を続けてきた高年齢者雇用安定法ですが、2020年2月にさらなる改正案が閣議決定されました。この決定では、「70歳までの雇用確保の努力義務」が盛り込まれています。
雇用保険法など6本の改正案をまとめたこの決定では、現行の「定年廃止」「定年延長」「再雇用制度の導入」の3つの雇用確保措置だけではなく、フリーランス契約への資金提供、起業支援、社会貢献活動参加への資金提供など、新たな形での就業支援が盛り込まれ、企業に過剰な負担にならないよう配慮されています。
高年齢者雇用安定法のまとめ
現段階では、65歳までの従業員に対しては定年を65歳以上まで確保するか、希望する従業員に対して継続雇用の措置を設けることが企業の義務です。
就業規定の見直しが必要な企業は、高齢者が働きやすい環境づくりに取り組みましょう。一方で、さらなる改正案が可決されたいま、70歳までの雇用確保の努力義務が適用される日も遠くありません。
日頃から中高年齢者にキャリアの棚卸の機会をもうけ、高年齢に差し掛かった際の就業の選択肢を周知し、本人の希望を聞きながら就業環境を整えることが大切です。
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