学校での座学と企業での実習を並行することで、学びながら仕事への実践的な知識や経験を養える「デュアルシステム」。
日本では、本場・ドイツの仕組みを取り入れた「日本版デュアルシステム」として2004年からスタートし、若年者を対象に訓練を推進しています。
今回は、デュアルシステムの概要をはじめ、その効果などについて詳しく解説していきます。
デュアルシステムとは
デュアルシステムとは、ドイツで始まった35歳未満の若年者を対象とした人材育成プログラムを指します。
デュアル(dual)とは日本語で「二重」「二者」を意味する通り、訓練生は職業学校での教育と職場でのOJTによる職業訓練を同時に受講することができ、まさに「働きながら学べる」職業訓練制度となっています。
デュアルシステムは中世の時代からドイツで活発だった「徒弟制度」の流れを汲み、19世紀から制度化が進められました。
「徒弟制度」とは、親方の家で寝食を共にしつつ技術を修めるといった後継者の養成と技術的訓練を行う制度です。
歴史的に馴染み深いこの制度をより現代的にブラッシュアップしたのがデュアルシステムといえるでしょう。
現在では、ドイツだけでなく世界中でもデュアルシステムを導入する国が増えています。
日本版デュアルシステム
日本でも2004年から、文部科学省と厚生労働省の連携により「日本版デュアルシステム」がスタートしました。
ドイツと同じく若年者が対象で、職業能力開発施設における座学と企業における実習で構成されたカリキュラムを並行的に学ぶことができます。
日本版デュアルシステムでは、企業がパートなどの雇用形態で訓練生を受け入れ、職業訓練機関で訓練を実施させる場合、訓練にかかる費用(受講料)や賃金を負担した企業に対して助成金(キャリア形成促進助成金)が用意されています。
訓練経費及び賃金の助成
企業が対象若年未就職者等を雇用し、デュアルシステムによる訓練を行った場合には、キャリア形成促進助成金における訓練経費及び賃金の助成率を以下の通り引き上げて支給します。
- 中小企業 1/3 → 1/2
- 大企業 1/4 → 1/3
- 対象若年未就職者職業訓練実施計画策定経費
企業が対象若年未就職者を雇用し、当該企業におけるデュアルシステム実施に関する計画を策定した場合には、15万円が支給されます(ただし、1事業所ごとに1回限り)。
ドイツのデュアルシステム普及
デュアルシステム発祥の国・ドイツでは、中学校段階を終えると3年半、週3日を企業で、残り2日を学校で学ぶのが一般的です。現在も若者の2/3がこの職業訓練に参加しています。
その大きな理由は、デュアルシステムを終えると得られる「熟練労働者資格」を持たなければ職業に就きにくいという社会構造といわれています。
訓練生は、期間中に企業と職業訓練契約を結ぶため訓練生手当が支給されるほか、社会保障制度にも加入することができます。
手当をもらいながら将来、確実に役立つ資格取得を目指せるシステムとあって、ドイツの若者の間ではデュアルシステムは一般的な選択肢となっています。
インターンシップとの違い
日本でも広まりつつあるデュアルシステムですが、よく疑問を持たれるのがインターンシップとの違いについて。
大きく分けて「目的」「期間」「能力評価」といった3つの点が、インターンシップ制度と異なるポイントといえるでしょう。
まず、デュアルシステムには、単なる職業体験ではなくその後就労するといった確固たる目的が掲げられています。
また、その期間も1〜3年と比較的長いのが特徴。訓練修了後は能力評価を行い、訓練生の実践力を保証する訓練となっています。
デュアルシステムを通して企業と訓練生双方が得られるメリットも特徴的です。
訓練生にとっての大きな意義は、自分の適性を見極めながらより確実な就業に繋げることができるという点です。
すぐに正規雇用に就けなくても、パート賃金を得ながら実習を続けることができたり、修了時の成績評価により採用の際に企業から適正な評価を得られたりするといった点もメリットといえます。
企業側にとっては、良質かつ若い人材を比較的容易に確保できるというのが大きなメリットです。
パートなどの形態で実習を実施しつつ、その能力や適性を見極めてから正規雇用に繋げられるといった採用に関するリスクヘッジの意味合いも大きいといえるでしょう。
デュアルシステムの訓練カリキュラム
デュアルシステムには、さまざまな訓練カリキュラムのパターンがあります。一例を挙げてみましょう。
- 週3日は学校における学習、週2日は実務実習
- 午前中は学校における学習、午後は実務実習
- 1〜2 ヶ月ごとに学校における学習と実務実習を交互に実施
- 最初の半年は週5日学校における学習、7ヶ月目から実務実習を開始し、
段階的に週当たり日数を増やしていく
訓練を効果的に進めるため、訓練カリキュラムのパターンは学校と企業が十分に協議して決めることが望まれます。
「毎日継続的に来て欲しい」「繁忙期は避けてほしい」など、受け入れ先である企業側の要望を加味して決定されます。
次に、デュアルシステムの各コースについてご紹介します。
公共職業訓練活用型(委託訓練活用型)
専門学校などの民間教育訓練機関で座学を受けながら企業実習を行う、標準5ヶ月間の短期コース。ほか、1~3年間程度と長期間のコースも。
公共職業訓練活用型(専門課程・普通課程活用型)
独立行政法人雇用・能力開発機構の公共職業訓練施設で座学を受けながら企業実習を行う2年間のコース。
企業における技術部門と現場を結びつけるマネジメント能力を持った専門家の養成を目的としており、修了後は技能士補の称号を得られるほか、就職に当たって職業能力開発大学校のサポートを受けることができます。
専門学校等民間教育訓練機関活用型
専門学校等民間教育訓練機関が自ら生徒を募集し、座学実施後、実習先企業において1年~2年程度の実習を実施するコース。
認定職業訓練活用型
都道府県知事の認定を受けた職業訓練を行う認定職業訓練施設が既存の訓練科をデュアルシステムに関わる訓練科に変更、または新規にデュアルシステムに関わる訓練科を設置することで実施されるコース。期間は9ヶ月〜4年程度。
注目される理由と期待される効果
日本版デュアルシステムは現在、ドイツでのデュアルシステムから離れた日本独自の職業訓練システムとして機能しています。
少子高齢化による労働力不足、若年層の高い失業率・離職率、増え続けるフリーターやニートといった日本が抱える社会問題を解決に導くシステムとして注目され、またこれまでも一定の効果が認められています。
若年層の雇用拡大
近年、若者を取り巻く雇用状況が非常に厳しい状況であるだけでなく、若者の就業意識にも大きな変化が現れているといわれています。
たとえば、少し前までは経済的に豊かな生活を送りたいと望む人が多かったものの、最近ではその割合は減少し、無理なく楽しい生活をしたいと望む人が増加しています。
その結果、就業が続かず安易な離転職を繰り返すなど、若者の就業意識が希薄化しているのが現状。
企業での実践的な学びを体験できるデュアルシステムによって、若いうちから働くことについての意識を芽生えさせ、就業能力を構築させることが期待されています。
フリーター、失業者の救済
フリーター、失業者、ニートといった問題の救済にもデュアルシステムが効果的といわれています。
日本版デュアルシステムの導入が検討され始めた2002年ごろ、15歳から24歳までの失業率は13.2%、フリーターの数も200万に達するなど、過去最悪の数値となっていました。
デュアルシステムでは、企業の求める職業能力と訓練生の持つ職業能力とのミスマッチを減らしながら、一定の時間をかけて就職に繋げるという機能が発揮されています。こうした特性により、より確実性の高い就業が可能となっていきます。
実践力の向上と職業観の育成
デュアルシステムでのより実践的な企業実習を通じて、若年者は職業観を育成しながら実践力を向上させることができます。
座学だけでは心もとなかった学習に実地的な実習が加わることで、よりその職業や就労後の自分へのイメージを具体的に膨らませることができるでしょう。
実際「基礎技能を習得した上で、現場での実習を通じて職業人としての行動規範を身につけることができ、実践的な職業能力の習得に効果的である」との結果も認められています。
失業率、離職率の改善
学校卒業後、就職してもすぐに離職する若年者は以前から少なくなく、新卒就職から3年以内に離職する割合から「7・5・3問題」と称されてきました。これは、就職前と実際働き始めた後のギャップが大きな要因として挙げられます。
デュアルシステムの場合、訓練修了後に実習先への就職に繋がりやすいのが大きな特徴です。すでに実習として勤めた企業に就職することで、こうした齟齬が発生しにくく、離職率も低くなることが予想されます。
また、若年層における高い失業率の改善にも期待が寄せられています。
少子高齢化と労働力不足
少子高齢化の進展によって生産年齢人口が減少する中、誰もが意欲と能力に応じて働くことができる「全員参加型社会」の実現が日本の課題と言われています。
それには、若者一人ひとりが長期的なキャリア形成を図り、次世代を担う存在として活躍していくことが重要です。
デュアルシステムでの学びが若者のキャリア形成にも良い影響を与えるといえるでしょう。
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