深刻な人手不足、働き方改革関連法の施行、そして新型コロナウイルスの感染拡大-。
目まぐるしい環境変化にともない、多くの経営者が難しい判断を迫られています。
そこで今回は立教大学ビジネススクールの田中道昭教授を招き、あしたのチーム代表の髙橋恭介と対談を実施。
中小・ベンチャー企業に求められる羅針盤、経営者の本質的な目標設定と成長を支援するコーチングプログラム
「あしたの履歴書®」などについて、語りあってもらいました。
※この取材は2020年3月26日に行ったものです
髙橋 恭介(たかはし きょうすけ)
株式会社あしたのチーム 代表取締役社長
1974年、千葉県生まれ。東洋大学経営学部を卒業後、興銀リース株式会社に入社。2002年、プリモ・ジャパン株式会社に入社。副社長として人事業務に携わり、当時数十名だった同社を500名規模にまで成長させる。2008年に株式会社あしたのチームを設立し、代表取締役社長に就任。
3,000社を超える中小・ベンチャー企業に対して、人事評価制度の構築・クラウド型運用支援サービスを提供している。
田中 道昭(たなか みちあき)
立教大学ビジネススクール 教授
「大学教授×上場企業取締役×経営コンサルタント」 シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。株式会社マージングポイントの代表取締役社長として、企業の経営コンサルティングも行う。近著に『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『ソフトバンクで占う2025年の世界』(PHPビジネス新書)、『経営戦略4.0図鑑』(SBクリエイティブ)など。髙橋恭介氏との共著に『あしたの履歴書』(ダイヤモンド社)
今後もクライシスは起こりうる。経営者は短期と長期の視点を
―新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本社会も深刻な影響を受けています。中小企業を取り巻く経営環境について、どのように捉えていますか?
髙橋恭介(以下、髙橋):
昨晩、小池都知事が今週末の外出自粛要請を表明しました(取材日は3月26日)。いまは平日の昼間ですが、当社オフィスが面する銀座中央通りも閑散としています。
中小企業が直面している最大の問題は、資金繰りです。つまり、手元のキャッシュとの戦い。緊急融資や債務保証などの資金繰り支援策については、刻々と状況が変化しています。新型コロナウイルスの感染拡大も含め、まったく予断を許しません。
田中道昭さん(以下、田中):
同感です。欧米と比較すると日本は小康状態ですが、厳しい状況に変わりはありません。リーダーこそがより高い危機感をもつべき状況だと思います。
髙橋:
会社が倒れては元も子もないので、短期的な対処療法は極めて重要です。その一方、経営者には長期的な視点が欠かせません。
なぜなら、突発的な経営環境の悪化は決して珍しくないからです。ここ20年間だけでも、リーマン・ショック、東日本大震災と原発事故など、「未曾有」と呼ばれる危機がたびたび訪れました。きっと、これからも起きるでしょう。
田中:
こんな厳しい時期に思い出す問いがあります。
「貧困・災害・戦争など、究極の困窮状態に陥ったときに、人や組織が生き残る条件はなにか?」
-その答えは自分や自社の目標にくわえて、社員・顧客・社会などに対する目標をもつことです。
髙橋:
個人的な目標だけでなく、大義が必要。まわりを巻きこむ力をもたないと生き残れない、というわけですね。
田中:
ええ。自分のことだけしか考えていない人はもろい。まずは自分の目標が重要ですが、それだけでは結局長続きしないのです。
一方で、「自分がどうしたいのか」という欲求もなく、ステークホルダーや社会に対する貢献意欲は抱けません。どちらも必要です。
髙橋:
自分の目標がないのに、現在の社会状況を批判してはダメですか?
田中:
ダメではないですよ。価値観は人それぞれ自由。ただの傍観者でかまわないなら、自己実現すら不要です。
でも厳しい時代を生き残り、社会をリードするためには、大きな目標が欠かせません。これは歴史的な研究から導き出された真理です。
もしも日本中の経営者が社会全体のために大きな夢や目標をもって一致団結すれば、グローバルな課題解決のきっかけになります。新型コロナウイルスに対する戦いの活路も開けるかもしれません。
新型コロナウイルスが世界の歪みを表面化させた
―危機的状況だからこそ、経営者に長期的かつ本質的な考え方が求められると。
田中:
今回の新型コロナウイルスの感染拡大によって、さまざまな歪みが表面化しています。
たとえば、中国は責任を問われて然るべきだと思いますが、その一方でアメリカのトランプ大統領が「チャイナウイルス」なんて呼び名を喧伝する。
仮に中国から発生したウイルスだとしても、適切な表現ではありません。米中新冷戦の時代が続き、世界の分断を生むだけでしょう。
いま求められているのは、分断ではなく連帯。米中関係が悪化し、欧米が甚大な被害を受けるなか、日本の果たすべき役割は大きいといえます。
そのなかで私たちは中小・ベンチャー企業の経営者とともに、「ともに社会全体のための大きな夢や目標をもち、それをともに叶えていくという」連帯の輪を広げたい。
そんな使命感を抱いて、経営者向けの「あしたの履歴書®」をリリースしました。
―「あしたの履歴書®」とは、なんですか?
髙橋:
もともとは2017年に出版した田中教授との共著です。ビジネスパーソンが自分自身の長期的目標を設定し、実現するためのメソッドを記しました。
その内容をもとに今回開発したのが、同名の社長コーチングプログラム。私たちの人生設計の手法やノウハウ、田中教授が精通するマネジメントやリーダーシップ理論、あしたのチームの目標管理メソッドなどが詰まっています。
この「あしたの履歴書®」を活用すれば、経営者自身が本当にやりたかったことやビジョン・ミッションなどを見出せる。そして長期的目標から逆算し、今日やるべきことが実践できるようになります。
田中:
目標設定のポイントは長期目標のなかから「いま、ここ」を見ること。30年先の未来を見据えて、壮大な目標を立てることです。
逆説的ではありますが、30年目標のような長期目標をもち、そこから逆算して今日の行動を実行していくことが30年後も勝ち残るための秘訣なのです。
「あしたの履歴書」はリーダーシップ理論にもとづいています。その土台となるのは‟セルフリーダーシップ”。
自分自身に対するリーダーシップを発揮できて、初めて隣の人にリーダーシップを発揮できるようになる。そこから、チームや会社全体へリーダーシップの範囲が広がっていくわけです。
同じように、私と髙橋社長ふたりだけの力は限られています。でも私たちの想いが広がり、多くの中小・ベンチャー企業の経営者が周りのみんなのための夢や目標をもつようになれば、大きな力になる。そうすれば、日本から世界に新しい価値を提供できるかもしれません。
目標をもつ勇気は、進化する力となる
―なぜ、中小・ベンチャー企業の経営者にフォーカスしているのですか?
髙橋:
仮に新型コロナウイルスの問題を除いたとしても、特に中小・ベンチャー企業の経営環境が厳しいからです。
生産年齢人口の減少と採用難、最低賃金の上昇や働き方改革のスタート…。そんな状況下で経営トップが近視眼的になったり、利己的になったりすると、企業の存続・成長は望めません。継続的に成長するためには、経営者が視野を広げ、長期的で大胆な目標を立てる必要があります。
とはいえ、事業承継したばかりの中小企業の社長、新興市場に上場したものの伸び悩むベンチャー起業家など、長期スパンの目標設定を後回しにしている経営者も多い。
だから、30年先の目標を設定し、それまでの計画を明確にする。そんな実践的メソッドを提供するため、社長コーチングプログラムとして「あしたの履歴書®」を改めて世に出しました。
田中:
共著のサブタイトルは「目標をもつ勇気は、進化する力になる」。まずは高い目標を設定し、それを公言し、実行していくことが自らを進化させます。
髙橋:
「あした」は未来、「履歴書」は過去を表します。30年先の未来から過去の自分を振り返ったとき、どんな履歴書になるのか? それを色がつくまで具体的にイメージして、まわりに伝える。その勇気こそが進化する力になるわけです。
実際、私も田中教授も大胆な目標を立て、そこに向かって行動してきました。「ビッグビジョンを掲げる」「大ボラを吹く」と言い換えてもいいでしょう。これは自身の人生を切り開いてきた人たちに共通する姿勢です。
人生の起伏をふりかえり、大切な価値観を紡ぎ出す
―コーチングプログラムの具体的な内容を教えてください。
髙橋:
プログラムは「きのうの履歴書」「きょうの履歴書」「あしたの履歴書」の3部で構成されています。各コンテンツの詳細を話すと長くなるので、ポイントをしぼってお伝えしましょう。
まず「きのうの履歴書」で行うのは、名詮自性ワーク。「名前はその人の本質を表す」という考え方にもとづき、自身の名前の意味を調べ、親がこめた想いや生き方の指針などを探っていきます。
次に作成するのは「エンゲージメント・グラフ」。いわば、人生の折れ線グラフです。生まれてから今日にいたるまで、成功や失敗などの起伏を描いてもらいます。
ここで重視するのは、ボトム(人生のどん底)から上がった背景。何がきっかけになり、誰に支えてもらったのか? そこから紡ぎ出すエッセンスが大切な価値観につながっていきます。
―田中教授の発言にも「究極の困窮状態」という表現がありました。
髙橋:
ボトムに落ちたきこそ、大切なものが見えやすくなります。その点は「きょうの履歴書」を通じて、明文化していきます。
ここで活用するのが「事業の重要性再発見シート」。自社や商品・サービスが社会に提供している価値などを見つめ直すワークです。
田中:
「自社や商品・サービスの特徴はなんなのか?」「商品・サービスがどのように顧客の役に立っているのか?」「事業や商品・サービスを通じて、何を実現したいのか?」-こういった問いかけを通じて、自社のミッション・ビジョン・バリューなどを見出していきます。
すでに理念体系が明文化されている会社の場合、経営者が重視する価値観を再認識できるでしょう。
髙橋:
「きょうの履歴書」のベースはミッション・マネジメントなどの経営学であり、田中教授の専門領域です。次の「あしたの履歴書」では、あしたのチームの目標管理メソッドを活用します。
30年先の大目標を設定し、10年先、3年先の目標を逆算
―「きのうの履歴書」「きょうの履歴書」をふまえて、30年先の目標を設定する?
髙橋:
ええ。最初に30年先の長期目標を設定し、10年先、3年先の中期目標へブレイクダウンしていきます。まずは思考の制約をとっぱらい、スケールの大きな目標を立てるわけです。もしも、現在の延長線上しかイメージしなければ、おのずと目標は低くなってしまうでしょう。
とはいえ、やみくもに目標を高くすればいいわけではありません。
たとえば、30年先に「時価総額1兆円企業の創業社長として、世界に羽ばたく」という目標を設定した場合。10年先、3年先を逆算して考えていくと、なかなか現在の状況とつながらないでしょう。
だから、それ相応の大目標を立てるべき。腹落ちした長期目標を意識し続けて、マインドを変えて、行動を変えるのです。
― 一般的な経営者向け研修や自己啓発セミナーとの違いはなんですか?
髙橋:
最大の違いは、目標管理のPDCAサイクルをまわすことです。
私たちはワークショップだけではなく、クラウドを通じた目標達成支援プログラムを提供しています。
その名も「あしたのPDCA」。経営者に1年間伴走し、行動の習慣化をサポートします。
世の中には多種多様な研修や自己啓発セミナーがありますが、「気持ち変われど、行動変わらず」という結果に終わりやすい。行動変容と習慣化までサポートする点が、このプログラムの特長です。
月次ミーティングと四半期フィードバックで行動変容を支援
―具体的なサポート内容を教えてください。
髙橋:
ワークショップ自体は1日か2日間です。いわば、きっかけづくりですね。その後、1ヵ月ごとに進捗状況を可視化したレポートを提出。
私とオンラインで1on1ミーティングを行い、行動や心境の変化などを確認します。そして、3ヵ月ごとに本格的なフィードバックを実施。場合によって、行動目標や数値目標の修正などを提案します。
だから、受講者との真剣勝負なんですよ。「勉強になった」「意識が変わった」というレベルで終わらせません。
‟おせっかい”なくらい運用に口を出し、行動変容に導き、高いパフォーマンスを発揮してもらいます。
中小・ベンチャー企業のオーナー社長は、名実ともに経営トップ。他人に指導される機会が少ないからこそ、私たちをうまく使ってほしいですね。
―目標管理や運用支援に、あしたのチーム独自のノウハウがあるのですか?
髙橋:
その通りです。もともと、当社はHRテック企業。人事評価制度の運用支援に強みがあります。
これまでに13万人以上のビジネスパーソンの目標管理をサポートし、企業の業績や生産性などを上げてきました。そのノウハウを活かし、満を持してエドテックの領域に進出したわけです。
だから、一般的な目標達成メソッドと「あしたの履歴書®」「あしたのPDCA」は似て非なるもの。クラウドの主眼は業務効率化ではなく、コミュニケーション強化にあります。
当社だけでなく、田中教授も人や組織に対するサポートは得意ですよ。大学の生徒はもちろん、上場企業の社外取締役や顧問として多くの経営者に助言しています。
―人事評価制度と異なり、目標達成の度合いと経営者の報酬は連動していません。行動変容をうながす力が弱いのでは?
髙橋:
確かに、その点は評価制度と異なります。だから、経営者の目標を会社全体の目標に練りこむことをおススメします。
そこから単年度の計画を再設定し、各部署や各社員の目標へ落としこむ。さらにミッション・ビジョン・バリューを全社員に共有すれば、エンゲージメントの高い状態で遂行されるでしょう。
たとえば、ソフトバンクグループがそうですよね。創業経営者である孫さんのビッグビジョンが会社の経営計画に練りこまれ、ダイナミックに戦略が実行されている。そこにステークホルダーなど第三者の視線が注がれ、いい緊張感が生まれています。
経営者が変われば、社会が変わる
―「あしたの履歴書」をつくることで、どのような未来が描けますか?
髙橋:
まずはコーチングプログラムを通じて自己肯定感が高まり、長期目標や大義が明確になります。そこから進化する力が育まれ、自己成長を実感できるようになるでしょう。
端的にいえば、経営者人生が豊かになる。その効果は周囲に波及し、社員をはじめとするステークホルダーの幸せにもつながります。
経営者が変われば、社会も変わります。経営トップが大胆な目標を立て、それを公言し、愚直に実行する。そんなムーブメントが広がれば、閉塞感の強い日本に明るいきざしが生まれると信じています。
―最後に、中小・ベンチャー企業の経営者へメッセージをお願いします。
髙橋:
まずは目の前の危機を乗り越えることが先決です。そのうえで大局的な見地に立ち、ゴーイング・コンサーンを考えましょう。
苦しい状況だからこそ、自身や自社の本質を見つめ直すべき。「会社や社員がどこに向かうのか」という羅針盤を改めて設定し、進化する力を身につけてください。
―先行きが不透明ないまこそ、経営者の視座が問われているわけですね。本日は貴重な話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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そんな「あしたのチーム」を率いてきた髙橋恭介がこれまで取り組んできた人生設計の手法「あしたの履歴書®」。
その中から、特に重要となる「目標」と「行動」に焦点を当て、経営者の皆様に余すところ無くお伝えいたします。
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