昇給率の計算方法とは?中小企業と大企業の平均昇給額・昇給率を解説

従業員の昇給は、働く上でのモチベーションに直結する経営の重要課題です。

しかし、どのくらいの昇給ペースが妥当なのか、判断に迷ったことがある担当者や経営者も多いのではないでしょうか。

昇給を考える際にひとつの指標となるのが「昇給率」です。昇給率の計算方法や平均値を知っておくと、従業員の給与額の決定に役立てることができます。

この記事では、昇給率の概要や特徴、計算方法、中小企業と大企業の平均昇給額・昇給率を解説します。

昇給率とは?

昇給率の概要と基本的な計算方法について解説します。

昇給率の概要

昇給率とは、昇給後の給料が昇給前の給料に比べて何パーセント昇給したのか、その割合を示したものです。企業や職種の昇給率を知ることで、現状からどのくらいの昇給が期待できるのか把握することができます。

さらに、昇給率の計算方法を知っておくと、会社での目標を考える際や転職をする際に将来の給与額を予想できるため、キャリアプランの設計にも役立てることができます。

多くの企業では昇給制度が導入されており、企業平均や職種ごとの平均給与が公開されていることもあります。自社の昇給率を計算して他企業と比較してみることも、参考になるかもしれません。

昇給率の計算方法

昇給率は、以下の計算式で算出することができます。

昇給率(%)=昇給後の給与÷昇給前の給与

例えば、入社時の月給が25万円で、翌年の25万4500円だった場合は、以下のように計算します。

254,500÷250,000=1.018

ですので、昇給率は1.018%となります。

昇給と似た言葉との違い

昇給と似た意味で使われる用語が幾つかあります。ここでは昇給とベースアップ、昇進・昇格との違いについて解説します。

昇給とベースアップの違い

昇給とは、基本給の額をあげる一般的な方法です。日本の多くの企業では、年1回や2回の定期的な昇給機会があり、年齢や勤続年数、成績に応じて給与水準が設定されています。

対して、ベースアップとは給与水準そのものを増額するものです。例えば、25歳で現在25万円の給料をもらっていた場合、昇給すれば1年後には自分より1年先輩の社員と同額の給料がもらえます。ベースアップが行われると、先輩が現在もらっている給料よりも、高い額が支払われることになります。

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労働者は春闘など協議を通してベースアップを要求しますが、企業側は一度ベースアップが行われると年間の人件費負担が増加するため、安易に応じることはできません。実際に、景気が低迷していた2013年までの20年間はベースアップを行う企業はほとんどなく、2014年から実施する企業が復活するようになりました。

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昇格・昇進との違い

昇格とは、職能資格制度のある組織において、等級が上がることです。また、昇進とは、課長から部長になるケースのように会社が定めた職位が上がることです。一般的には昇格・昇進にともなって昇給しますが、必ず昇給するとは限りません。

昇給の種類

ここでは昇給の種類を6つ紹介します。企業によっては存在しない種類もある点に注意しておきましょう。

自動昇給

年齢や勤続年数に応じて、自動的に昇給する制度です。条件を満たしたすべての従業員は、個人の能力や実績などに関係なく昇給します。

考課昇給

考課昇給とは査定評価とも呼ばれており、人事考課(評価)に基づく昇給です。人事考課で実績や勤務態度などが査定され、昇給の有無や昇給額が決まります。

臨時昇給

臨時昇給とは時期を定めない昇給です。一般的には、企業の業績が伸びた際に、社員の功労に対する報酬として臨時昇給があります。

定期昇給

定期昇給とは、時期を決めて定期的に行われる昇給です。一般的には、年1回(4月)または、年2回(4月と10月)実施されます。

企業の規定にもよりますが、年齢や勤務年数に応じて昇給する自動昇給と同じになるケースが一般的です。ただし、企業の業績や従業員の成果によって昇給しないなど、企業側の判断が入る場合もあります。また、一定の年数に達すると定期昇給がなくなる仕組みにしている企業もあります。

普通昇給

普通昇給とは、従業員の技能、職務遂行能力が向上した際に行われる昇給です。一般的な理由に基づく昇給であることから、次に説明する特別昇給と対になっています。

特別昇給

特別昇給とは、格別の功労、実績があった従業員に対して特別に行われる昇給です。特別昇給にともなって昇進・昇格があり、これらの昇給分もプラスされるケースが少なくありません。

昇給の特徴

全社的に給与水準を底上げするベースアップと違い、昇給は現行の給与水準を基に従業員個人に対して行われるところが特徴です。

前述の通り、ベースアップを実施すると年間に支払う総人件費が増額されるため、企業はベースアップに対して慎重にならざるを得ません。

昇給は、毎年一定数の新規採用と定年退職がある企業の場合であれば、各従業員の給料が毎年昇給したとしても、年間の総人件費に変動はありません。そのため、企業にとっては毎年の人件費を固定できるといったメリットがあります。

従業員側のメリットとしては、大きな成果を上げられなくても毎年一定の昇給を見込めるため、長期的に就労する上での安心感を得られるといった点があげられます。

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定期昇給の時期

一般的に、昇給というと「定期昇給」を指すことがほとんどです。定期昇給とは、年齢や勤続年数に応じて、毎年一定の時期に昇給機会を設ける制度です。

一般的には、毎年4月に年1回の昇給を実施する企業が多くなっています。理由として、新年度であることから4月に新入社員が入社してくること、新しい事業年度を4月から始める場合が多いこと、一斉に変更したほうが人事や総務部からしても業務効率がいいことなどがあげられます。

もちろん、昇給時期は企業によって自由に設定できますので、年2回の昇給機会を設けている企業や、資格取得などによる臨時昇給を設けている企業もあります。

また、昇給が実際に給与に反映されるのは、昇給が実施された翌月です。4月に昇給額が決定した場合、5月分の給与から差額が反映されることになります。

昇給率の平均

労働組合連合がまとめた、2019年の組合のある5405社の平均昇給額は5,997円、昇給率は2.07%が全体平均となりました。2018年の5,934円から、63円の上昇となっています。

企業規模や年齢によって昇給率に差はあるのでしょうか。詳しく見ていきます。

中小企業の平均昇給額

従業員が300人未満の中小企業の昇給率は、以下の通りと発表されています。

従業員数 昇給額    昇給率   
300人未満(合計) 4,785円 1.94%
100人未満 4,288円 1.87%
100~300人未満 4,949円 1.97%

企業規模が最も小さい100人未満の企業で、昇給率が最も小さくなっていることがわかります。全体的に、後述する大企業の平均昇給率よりも、中小企業の昇給率は低い傾向にあることがわかります。

原因としては、企業規模が小さいため利益の上昇幅があまり大きくない、経営者の権限が強く、経営者の考えに左右される傾向にあるといったことがあげられます。

また、中小企業は大企業よりも景気の影響を受けやすいことや、元請けの経営状況に左右されるといった特徴から、時期によって昇給率にばらつきがあることも注意が必要です。

大企業の平均昇給額

連合から発表された、従業員300人以上の大企業の昇給率は、以下の通りです。

従業員数 昇給額    昇給率   
300人以上(合計) 6,199円 2.09%
300~1000人未満 5,389円 1.98%
1000人以上 6,430円 2.12%

中小企業と比べると、企業規模が大きいほど昇給率も高くなっていくことがわかります。理由としては、経営資金が潤沢であり、人件費の増額に耐える体力があることがあげられます。

企業規模が大きいほど利益余剰金のストックが十分に用意してあり、昇給にも対応できる資金を持っていることが最も大きな理由です。

大企業ほど労働組合の力が強いことも一因といえます。大企業の労働組合のほうが活動も活発で強い影響力を持っていることが多いため、交渉が結果に反映されやすいのです。

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年齢別の平均昇給額

連合の発表では、年齢別の昇給率は公開されていませんが、東京都産業労働局が東京都の中小企業の平均昇給額を公開しています。

以下は、2018年7月と2019年7月の所定時間内賃金の金額から、昇給額を算出したものです。

2019年年齢別昇給額

年齢 男性の平均昇給額   女性の平均昇給額  
22~24歳 -612円 1,273円
25~29歳 6,073円 6,221円
30~34歳 9,799円 14,420円
35~39歳 -1,833円 6,065円
40~44歳 2,539円 -810円
45~49歳 8,398円 -12,418円
50~54歳 -11,386円 -1,650円
55~59歳 198円 -8,506円
60歳以上 15,746円 -6,810円

年齢別の昇給額についてはばらつきが大きく、明確な傾向がとらえづらいことがわかります。女性の昇給については、30代までは昇給が続くものの、40代に入ると昇給が難しくなると考えることもできそうです。

産業別の平均賃金の昇給額

厚生労働省の「令和6年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」で発表されている産業別の平均賃金の昇給額は以下の通りです。

産業1人平均賃金の昇給額1人平均賃金の昇給率
鉱業,採石業,砂利採取業14,616円5.9%
建設業15,283円4.3%
製造業13,262円4.4%
電気・ガス・熱供給・水道業14,619円4.3%
情報通信業14,989円4.3%
運輸業,郵便業9,030円3.2%
卸売業,小売業11,922円4.3%
金融業,保険業15,465円4.6%
不動産業,物品賃貸業12,554円4.0%
学術研究,専門・技術サービス業14,772円4.4%
宿泊業,飲食サービス業9,654円3.7%
生活関連サービス業,娯楽業8,543円3.2%
教育,学習支援業7,176円2.7%
医療,福祉6,876円2.5%
サービス業(他に分類されないもの)7,353円3.2%

産業別の平均賃金をみると、もっとも高いのは「建設業」の6,373円で、昇給率も唯一、2%台となっています。昇給額でもっとも低いのは2,855円の「医療、福祉」です。ほか、「生活関連サービス業,娯楽業」や「宿泊業,飲食サービス業」など生活に密着した産業の昇給額が低い傾向となっています。

定期昇給の停止年齢

公益財団法人日本生産性本部が2014年に行った調査によれば、一定年齢までの定期昇給があると答えた企業の停止年齢は、平均48.9歳でした。最も多い年齢層は51~55歳の30.1%で、次いで46~50歳の26.5%、36~40歳の14.5%となっています。

企業規模別に調査すると、従業員数1,000人~2000人未満の企業では、36~40歳での停止年齢が23.5%と比較的多くなります。また、従業員数2,000人~5000人未満の企業でも22.7%と同様の傾向がみられました。この結果を踏まえると、停止年齢を30代後半にしている企業と50代前後にしている企業が多いと分析できます。

日本の定期昇給の現状

ここでは日本の定期昇給の実施率や昇給額について、データを挙げながら解説します。

定期昇給・ベースアップの実施率

日本経済団体連合会・東京経営者協会の「2021年度1月~6月実施分、昇給・ベースアップ実施状況調査結果」によると、昇給・ベースアップの両方を実施している企業の割合は30.9%でした。一方、昇給は実施するがベースアップはしないと答えた割合は、残りの69.1%でした。なお、ここでの「昇給」とは、定期昇給、効果昇給などベースアップ以外すべての昇給です。

昇給・ベースアップともに実施する企業の割合は、減少傾向にあります。2014~2019年までは50%を割る年はありませんでしたが、2020年に39.2%、2021年に30.9%となりました。背景には、新型コロナウイルスの影響で経営が不透明になり、ベースアップを見送る企業が増えたことがあります。

昇給・ベースアップの引き上げ額

同調査によれば、昇給・ベースアップの引き上げ額の平均は前年比1.96%増の6,038円でした。内訳でみると、昇給が5,672円(1.84%増)、ベースアップが366円(0.12%増)となっています。

引き上げ額は減少傾向にあります。2019年に7,137円であった引き上げ額は、2020年6,174円、2021年6,038年と減少しました。引き上げ額は景気・業績の影響を大きく受けます。2020~2021年は新型コロナウイルスの影響が大きいと推定されています。

定期昇給のメリット

定期昇給には従業員、企業双方にメリットがあります。

従業員としては、安定的に給与が上がるため、短期的な業績を気にせず腰を据えて業務に取り組めます。また、ライフプランを立てやすいのも定期昇給のメリットです。

企業としては、給与や生涯年収をおおよそ把握できるため、経営計画を立てやすい点がメリットです。また、従業員に長期就労のモチベーションを持ってもらうことで人材が定着しやすくなります。結果として、長期的な人材育成もしやすくなるでしょう。

定期昇給制度の課題

年功序列的な人事評価が一般的だった日本では、年齢や勤続年数によって毎年一定の昇給機会が設けられる定期昇給制度が広く採用されています。

企業側にも従業員側にも一定のメリットがある定期昇給制度ですが、労働に対する価値観の変動と共に、定期昇給を廃止する企業も目立ってきています。

定期昇給制度が抱える課題を解説します。

実際の成果とのギャップ

最も代表的な課題といえるのが、年功序列的に昇給していくため、実際の成果と給与額にギャップが出てしまうことです。

勤続年数が長く、高い給与をもらっているのに成果を出していない社員や、逆に若くして高い功績を残しているにもかかわらず、給与に反映されない従業員が出てきてしまいます。

優秀な人材の流出

成果が正確に評価されないことで、優秀な人材が流出してしまう可能性も考えられます。すると、社内に給与と見合う成果を出していない社員ばかりが残ってしまい、結果的に大規模なリストラにつながってしまうこともあります。

モチベーションの低下

成果を出している社員に適正なインセンティブを与えられないことは、従業員のモチベーションを大きく低下させてしまいます。

成果を出さなくても昇級することが確実な環境であれば、社員は自然と成果を出すことへの意欲を失ってしまうでしょう。定期昇給制度と同時に、モチベーション維持のための適正な人事評価と、インセンティブ制度が必要といえます。

定期昇給制度を廃止した企業の例

ビジネス環境が変化するなか、定期昇給の廃止に踏み切る企業が増えています。ここでは4社の事例を取り上げ、制度変更の内容やその成果について紹介します。

キヤノン

キヤノンでは2005年から全社員を対象に「職務給制度」を導入しています。職務給制度は年功序列で決まっていた定期昇給をなくし、仕事の役割と成果に応じた公平・公正な人事評価で昇給を決めるのが特徴です。これによって、同期入社の従業員の年収格差は150万円から200万円程度に開いたとみられています。

実力主義の職務給制度は、欧米社会では一般的です。一見ドライな制度にみえますが、業績不振の際は、職務変更や評価の見直しによって給与をコントロールしてリストラを避けやすいメリットもあります。

ソニー

ソニーは2015年度より定期昇給、ベースアップなしの「ジョブグレード制」を全社員に適用しています。ジョブグレード制は、過去の実績と将来の期待で評価する要素をなくし、現在の役割を「時価」で評価する等級制度です。役割遂行に対する評価はベース給の昇給で、実績評価は業績給(賞与)で反映されます。

ジョブグレード制導入の背景には、当時の厳しい経営状況、平均年齢の上昇、管理職の過多、若手登用の減少など、複数の要因がありました。また、ビジネススピードの低下、カルチャーの保守化などの懸念もあったといいます。そして現在、管理職の半減、年功要素の完全廃止を達成したソニーのジョブグレード制は、経営改革の成功事例として評価されています。

日立製作所

日立製作所は「よい働きに応じた給与を与えることで若い社員が元気になる」「社員に危機感を持って仕事をしてもらいたい」などの目的のもと、「毎年昇給」をなくしました。従来あった年平均約2%の定期昇給をなくし、世界各国の拠点共通の能力給制度に移行したのです。

能力給制度の前提となるのは、的確な人事評価です。そのために、日立製作所では全世界共通の人材データベースを作成しています。マネジャー以上の従業員はジョブディスクリプション(職務記述書)を作成し、7段階の職務格付基準で統一しました。給与は職務格付とパフォーマンス、およびグループ会社の給与水準や各国の労働市場水準を考慮して決められます。

トヨタ自動車

トヨタ自動車は、定期昇給を含めた一律的な昇給をなくし、個人の評価のみで給与を決める制度を2021年から導入しています。従来は職位による「職能基準給」と、個人のパフォーマンスに基づく「職能個人給」で給与が決まっていました。新制度では2つの制度を統合し、個人のパフォーマンスをより重視しています。

新制度では、評価によっては定期昇給がゼロになります。このシビアな制度は、横並び評価や年功序列の傾向が強かった製造業において、驚きを持って受け取られました。しかしトヨタは、自動車業界が変革期にある今、社員のやる気を高め、生産性を上げるために必要な制度だと述べています。

正しい評価で納得感のある昇給を

自社の昇給率の計算方法や、平均値との比較方法を知っておくことで、自身のキャリアプランや経営戦略の設計に役立てることができます。

また、定期昇給制度は社員に安心感を与えるメリットがあるものの、成果と給与が結びつかずモチベーションを低下させてしまうという課題もあるため、運用設計を見直すことも大切です。

社員が納得感を得られる公平な昇給には、適正な人事評価制度が不可欠。併せて人事評価制度の見直しも忘れないようにしてください。

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