PEST分析は、自社を取り巻く外部環境をマクロな視点で分析するマーケティングフレームワークで、経営資源を有効活用するために取り入れられています。
SWOT分析など他のフレームワークと組み合わせることで、効果的な経営戦略の策定が可能です。
PEST分析の4つの要素や具体的な分析方法、他のフレームワークとの連携について解説します。
PEST分析とは?
PEST分析とは、自社を取り巻くマクロ環境(外部的な環境)をチャンス・ピンチ両方の視点から分析して、経営戦略の策定などに活かすためのマーケティングフレームワークです。
アメリカの経営学者フィリップ・コトラーが提唱した手法で、4つの要素の頭文字から名付けられています。
- P(Politics、政治的要因)
- E(Economy、経済的要因)
- S(Society、社会的要因)
- T(Technology、技術的要因)
外部的な環境は、自社でのコントロールが難しいマクロ環境と、自社である程度コントロール可能なミクロ環境に細分化されます。
ちなみに、マクロ環境はマーケット(市場の)外部環境である「世の中」のことをいい、ミクロ環境はビジネスが展開される市場そのものです。
マクロ環境をあらゆる視点から分析することで、自社の課題と強みを明らかにした上で経営資源の有効活用につなげられます。
PEST分析の各要素
マクロ環境(世の中)には無数の環境要因があり、PEST分析を構成する4つの要素のどれに当てはまるのか迷うものもあります。
一方で、複数の要素にあてはまるものもあります。
環境要因に含まれる具体的な要素を確認し、自社に影響を与える重要な要因を見落とさないことが大切です。
PEST分析のそれぞれの要素を、具体的な事例と共に確認してみましょう。
P(Politics:政治的要因)
政治的要因は市場競争のルールそのものを変化させる要因で、具体的には次のような要素が分析の対象です。
- 法律・条例・規則
- 規制の緩和・強化
- 裁判制度・判例
- 税制面(課税条件・税率の変更)
- 政治や政権交代、政治的思想
- 公的支援制度(補助金・助成金)、特区制度
- 国際的な政治動向(条約、貿易・関税の問題) など
厚生労働省では働き方改革の一環として2018年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表しました。
その結果、労働者にとっては多様な働き方の実現につながり、能力発揮の機会も増えています。
また、企業にとっては優れた人材を確保できるチャンスも生まれています。
リモートワークを活用すれば、全国規模での求人も実現できるでしょう。
規制強化や増税といったネガティブな要素でも、戦略の進め方次第では自社にとって優位に働くことも少なくありません。
法律や税制の改正動向をはじめ国内・海外の政治動向にも着目した上で、現在の事業活動や将来の事業展開にかかわる影響を分析することが大切です。
E(Economy:経済的要因)
経済的要因はマーケティングそのものに影響を与える可能性がある要因で、具体的には次のような要素が分析の対象です。
- 景気動向、消費動向
- 株式・為替の動向、金利の変動、原油価格
- 物価の変動(インフレーション・デフレーション)
- 経済成長率
- 雇用情勢、賃金動向 など
新型コロナウイルス感染症の影響で旅行需要が減少し、観光地の宿泊施設や飲食店などでは従業員の休業や解雇が相次いでいるようです。
手元に得られる現金が減ることで消費者の買い控えが起こり、小売業をはじめとする別の業界にも影響が広がっています。
コロナ禍の収束の道筋で、経済環境も変化するでしょう。
景気動向の変化によって雇用情勢に影響が出るように複数の要素が関係し合っているだけでなく、政治的要因など複数の要因によって経済環境が変化する場合もあります。
表面的な数字だけでなく、需要と供給のバランスや経済的要因の変化の背景にも着目した分析を行うことで、ビジネスチャンスの獲得や差別化戦略の推進につながるでしょう。
S(Society:社会的要因)
社会的要因は企業の経営環境や消費者のライフスタイルの変化に関連する要因で、具体的には次のような要素が分析の対象です。
- 人口数、人口密度
- 人口構造、世帯構成
- 流行、文化、ライフスタイル
- 社会問題(事件・犯罪)
- 世論、風潮
- 教育制度、言語、宗教 など
コロナ禍を受けて、2021年1月時点では外食需要も落ち込んでいます。
売上減少を補うためにテイクアウト・デリバリーに活路を見出し、巣ごもり需要にも応えている実例もみられます。
「三密」となりがちな宴会を避けてオンライン飲み会を行う際に、テイクアウトやデリバリーを利用したという人もいるのではないでしょうか。
社会的要因の変化によって消費行動が変化する可能性があるなど、マーケティング戦略にとっては身近な分析要素です。
一方で分析対象が極めて広く、なおかつ漠然としているため緻密な分析には限界があります。
顧客の声に耳を傾けた上で、自社の方向性やターゲットを定めて事業戦略を練ることが大切です。
T(Technology:技術的要因)
技術的要因は商品開発や生産プロセスの変革に関連する要因で、具体的には次のような要素が分析の対象です。
- ITインフラの整備
- ICTやIoT技術の活用
- ビッグデータやAI(人工知能)の活用
- 技術開発、イノベーション
- 特許権の取得・消滅
- 代替技術の出現 など
コールセンターを持つ業界では、定型的な問い合わせ対応を「チャットボット」に移行することで顧客対応を一部リアルタイム化する事例が増えています。
顧客満足度を高めると同時にコールセンターの人員見直しを両立できる面では、行動の変革という社会的要因から考えてもメリットといえます。
一方で、雇用情勢など経済的要因への影響にも留意が必要です。
技術的要因の変化に伴い、商品・サービスに付加価値が生まれたり活用できる場面が広がったりすることも考えられます。
技術革新の流れを踏まえて経営戦略や事業戦略を構築することが差別化戦略につながり、企業が生き残っていくにも有効でしょう。
PEST分析の進め方
PEST分析の4つの要因を確認しましたが、分析結果を活用する目的が明確になっていなければ、せっかくの分析が無駄になってしまいます。
分析に入る前に、環境の変化に着目した上で課題を明確化した上で、情報収集やビジネスチャンス・ピンチ(課題)への分類を行いましょう。
PEST分析の進め方を、5つのステップに分けて紹介します。
01.目的の明確化
PEST分析の結果をビジネスチャンスに活かすには、分析前に目的を明確化することが重要です。例えば、
- 時代の変化に応じて経営戦略を見直す
- 新しい商品やサービスを開発する
- 将来の事業展開に向け社会動向に関する情報を収集する
というように、社会全体を俯瞰するマクロな視点で目的を設定しましょう。
02.各要素の情報収集
PEST分析の目的が決まったら、「政治的要因」「経済的要因」「社会的要因」「技術的要因」の4つの要素に着目して情報収集を行います。
公的機関や業界団体から発信された情報、あるいは専門家が作成したデータ・レポートといった信頼性の高い情報を収集しましょう。
ここでは要素の振り分けや評価を行わず、幅広い情報収集に専念することが大切です。
03.分析結果の整理
十分な情報が集まったら、情報に含まれている要素をピックアップして、4つの環境要因に分類して整理します。
自社に与える影響について、要素ごとに具体的にイメージすることが大切です。
客観的な事実と、取り方によって解釈が分かれる内容にも分類します。
情報の中には複数の環境要因にまたがるものもある点にも意識して取り組みましょう。
04.機会と脅威に分ける
分析結果が整理できたら、客観的な事実を「機会」と「脅威」に振り分けます。
自社が乗り越えるべき課題を克服し、ビジネスチャンスを有効活用することが目的です。
環境の変化によってチャンスがピンチ、あるいはピンチがチャンスに変わる可能性もあります。
複数の視点を持って振り分けを行いましょう。
なお、機会でも脅威でもない要素は、その他の項目として分類します。
05.分析結果の実行
振り分けた機会と脅威それぞれに対して、緊急性や重要度を評価した上で優先順位を決めます。
そして分析結果を経営戦略や施策に反映させます。
今すぐ取り組む必要のある短期的な施策なのか、あるいは将来的に検討を進める長期的な戦略なのかを明確化することで、分析結果の機動的な実行が可能です。
他のフレームワークとの連携
PEST分析の結果を経営戦略や事業戦略の中で効果的に活用するには、他のフレームワークとの連携が有効です。
PEST分析との連携に有効活用できる、2種類のフレームワークを紹介します。
1.SWOT分析
SWOT分析は、自社を取り巻く外部環境と資産・商品スペックといった内部環境に着目してマーケティングにおけるプラス面・マイナス面を分析する、フレームワークの一つです。
SWOT分析の項目は、4つの要素で構築されています。
- S(Strengths、強み)
- W(Weaknesses、弱み)
- O(Opportunities、機会)
- T(Threats、脅威)
SWOT分析を行うことで、市場における優位性や自社が乗り越えるべき課題を明確化し、経営戦略やマーケティング戦略に落とし込めます。
なお、PEST分析の結果は、SWOTの機会と脅威に当てはめることが可能です。
2.マーケティングミックス(4P分析)
マーケティングミックス(4P分析)は、商品・サービスの販売効果を最大化するために具体的な実行戦略を策定するプロセスで、他のフレームワークと組み合わせて行われるのが一般的です。
「4P」は、次の4つの要素から構成されています。
- Product(製品)
- Price(価格)
- Place(流通)
- Promotion(販促)
マーケティングミックスでは4つの要素ごとに戦略を立てて、最適な組み合わせを考えて実行に移していくのが特徴です。
売り手目線の4P分析に加えて、買い手目線の「4C分析」の結果を組み合わせる場合もあります。