業務改善の進め方、効果やポイント、業務改善助成金とは

残業時間の上限規制をはじめとする働き方改革を推進する中で、企業の生産性を向上させようと業務改善に取り組む企業が増えています。

業務改善によって、コスト削減や労働時間短縮など企業・労働者ともにさまざまなメリットが期待可能です。

今回は、業務改善の目的や期待できる効果とともに、業務改善を進める上でのポイントを解説します。

生産性向上に向けた設備投資や教育などの経費の一部が助成される、業務改善助成金を受けられる条件についても確認しておきましょう。

業務改善とは?

業務改善とは、企業の経済活動の中に潜んでいる問題点を抽出・分析した上で、業務の流れを効率化して生産性を高める取り組みです。

経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産」の使い方をトータルで見直す取り組みで、使う「カネ」を減らすことで財務体質の改善を図る経費節減も含まれます。

日常業務のプロセスから無駄を省く、あるいは手作業を機械化して業務全体にかかる時間を減らすことが、主な取り組み例です。

業務改善を通じて人員の適正化を図ったり、新しい商品・サービスを開発して企業価値を高めたりする効果も期待できます。

業務改善におけるQCD

「QCD」とは、生産管理の軸となる3つの英単語の頭文字を合わせた言葉で、業務改善でも活用されています。3つの英単語の意味について、簡単に確認してみましょう。

  • Quality(品質)…商品・サービスの品質を評価する軸で、期待した品質やサービス内容が保たれているかを確認します。
  • Cost(コスト)…商品・サービスの提供費用を評価する軸で、原価や販売価格が適正かを確認します。
  • Delivery(提供)…商品・サービスの提供時期を評価する軸で、数量や納期が守られているか、適時適切なサービスを受けられるかを確認します。

業務改善の目的

業務改善の一番の目的が、無駄な業務を見直して生産性を向上させることです。

無駄な業務にかかる時間を減らせれば、高い売上・利益を得られる業務にリソースを注げます。

業務の見直しを通じて人員配置や業務あたりの所要時間も見える化するため、従業員の業務量を平準化したりスキルに応じて再配分したりすることも可能です。

さらに、長時間労働を減らすことができるなど、従業員の労働環境の改善にもつながります。

業務改善助成金とは?

業務改善助成金とは、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を最低でも20円以上引き上げた上で、生産性向上につながる教育訓練や設備投資を行った中小企業や小規模事業者を対象にした助成金です。

地域別最低賃金が900円未満の地域にある事業場が対象で、事業場内最低賃金の引き上げ対象者の人数によって助成上限額が変わります。

また、助成金申請段階の生産性が3年度前に比べて1%以上伸びていれば、助成率が割増される場合があります。

具体的な助成率や助成上限額は、次のとおりです。

【助成上限額】

事業場内最低賃金の引上げ額 助成上限額
30円以上60万~130万円
45円以上80万~180万円
60円以上110万~300万円
90円以上170万~600万円

【助成率】

生産性要件事業場内最低賃金
900円未満900円以上
950円未満
950円以上
満たす4/53/4
満たさない9/109/104/5

参考:厚生労働省 「業務改善助成金」のご案内

業務改善の効果、メリット

業務改善を通じて日常業務の「ムリ・ムダ・ムラ」を見つけることで、経営資源の配分バランスを最適化できるのが特徴です。

テレワークや在宅勤務を推進して、感染症対策や災害時のBCP対策にもつなげられるでしょう。

業務改善を推進することで得られる、人事部門・企業にとっての5つのメリットを紹介します。

1.業務の効率化

作業の工程を見直すことで、業務の効率化を実現できます。

「昔からのやり方だから変えられない」といった従来の取り組みを見直し、重複するプロセスを統合したり本当に必要な工程かどうかを見極めたりしていきます。

業務のシステム化や設備投資を行って作業を自動化・簡略化し、人件費や時間を節約するのも一つの方法です。

2.労働生産性の向上

業務の効率化が実現できれば、人的リソースも節約できて労働生産性も向上できます。

例えば、1日あたり30分程度の単純作業をシステム化によって廃止できた場合、従業員15人が同じ作業をしていたとすると1日当たり450分、従業員1名分の作業を節約できる計算になります。

節約できた人手を別の作業に振り向けることで、新たな価値を生み出せる可能性が生まれるわけです。

3.コスト削減

業務手順の見直しと労働生産性の向上によって、コスト削減を実現可能です。

無駄な作業や工数を省くことで、業務の品質を犠牲にせず人件費や備品代などの経費を節約できます。

節約できた経費をシステム化や設備更新に振り向けることで、製品の品質向上も目指せます。

サービス業の場合だと、接客に専念できる時間が増えて顧客満足度を高められるでしょう。

4.働き方改革の実現

業務の効率化や簡素化によって、長時間労働の是正をはじめとする働き方改革を実現できます。

特定の工程や従業員への業務集中を防ぐだけでなく、短時間勤務など多様な働き方の実現や年次有給休暇の取得日数増加にもつなげられます。

コスト削減で生まれた利益を昇給や賞与で還元できれば、従業員のモチベーションアップにもつながるでしょう。

5.在宅勤務・テレワークの実現

業務の簡素化や効率化、あるいはシステム化によって在宅勤務・テレワークを実現できる可能性が広がります。

業務のペーパーレス化、あるいはワークフローなどによる業務の可視化が業務改善の効果を発揮するでしょう。

テレワークは難しいと思われがちな生産現場でも、遠隔監視や遠隔操作システムの導入によって現場勤務の従業員を最小限に抑える事例がみられます。

業務改善の進め方

業務改善の効果を最大限に発揮するためには、業務の課題や問題点を見える化して具体的改善案を提示することが大切です。

企業全体としての目線で業務をチェックすると、部署を超えた業務改善につながり、従業員の改善意識も高まるでしょう。

業務改善の進め方を、4つのステップに分けて説明します。

1.業務の棚卸しと可視化

改善対象となる業務を洗い出し、業務の全体像を把握することが業務改善の第一歩です。

現場社員へのインタビューや業務分析に必要なデータ収集とともに、作業内容や手順・使っている設備やツールなどを調査し、担当者の業務内容や他部署との関連性についても明確化します。

日常業務だけでなく、季節ごとの業務・過去の突発業務についても内容を把握しておくことが大切です。

2.問題点の分析

業務の現状を把握した後、問題点を分析し改善項目を特定します。

以下の視点で分析を進めると効果的です。

  • 無くす:目的のない業務を廃止する
  • 減らす:業務の回数や頻度を減らす
  • 変える:担当者や利用システムを変更する
  • つなげる:業務を統合したり担当業務を拡大したりする

3.改善策の立案

業務改善が必要な項目が特定できたら、優先順位をつけた上で具体的な改善案を作成します。

低い難易度で大きな改善効果が得られるものから先に取り組む計画を立てるとともに、適切な実施タイミングを決定します。

業務改善の対象業務を担当する従業員に解決案を示して、意見を求めるのもよいでしょう。

4.実行

立案した改善策を現場と共有し、業務改善を実行します。

改善初期には想定外のトラブルが起こりやすいため、不測の事態への対応や計画の調整を行える体制を整えておきましょう。

改善した業務をマニュアル化しておけば、業務改善の効果をすべてのメンバーに反映させられる他、業務の属人化を避けられます。

業務改善のポイント

業務改善に取り組む内容を洗い出したとしても、改善の目的が不明確だと適切な業務改善にはほど遠い結果になってしまいます。

抜本的な業務の効率化を図れるからといって急に業務体制を変更するのも、従業員の負担を考えると考え物です。

改善にあたってのポイントを押さえて、継続して業務改善に取り組みましょう。

1.目的の明確化

業務改善に継続的に取り組むためには、目的の明確化が大切です。

何のために業務改善を行うのかが明確になっていなければ、解決しやすい問題に目が向いてしまい、本当に解決すべき問題が先送りになる懸念が生じます。

現場の従業員が当事者意識をもって業務改善に取り組める環境づくりが大切です。

工数削減など業務改善によって得られるメリットや残業時間が減らないといった業務改善を行わないことで生じる不利益を具体化するのも、業務改善への意欲付けには効果的でしょう。

2.スモールスタート

業務改善が効果的だからといって、立案した改善策を一気に展開すると現場の混乱を招いてしまいます。

一時的とはいえ混乱によって従業員の負担が高まると、業務改善への協力を得られない懸念も生まれます。

業務改善の重要性や優先順位を明確化した上で少しずつ取り組みを開始することが、スムーズに業務改善案を展開するには大切です。

改善プロセスに課題が生じたとしても、スモールスタートであれば軌道修正も簡単に行えます。

3.定期的な効果測定の実施

業務改善への取り組みを現場に定着させ、長期にわたって改善活動をつづけるためには定期的な効果測定の実施が大切です。

PDCAサイクルを取り入れ、改善策の結果や課題を把握して更なる改善を目指す体制を構築しておきましょう。

改善の結果が思わしくない場合には、改めて現場を調査した上で原因・問題点を明らかにし、新たな改善策を講じていきます。

短期間で業務改善の結果が出なくても、現状のまま放置せず腰を据えた対応を行うことで、業務の効率化に対する現場の意識が高く保たれるでしょう。

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