企業や官公庁などで、高額な製品を購入したり大規模な接待をしたりする際に求められる「稟議」。上層部の決済を得るための手続きですが、稟議内容をスムーズに通すためには書き方のコツを知っておく必要があります。
この記事では、稟議の基礎知識や基本的な書き方、承認を得るためのポイントなどを、例文を交えて解説していきます。
稟議とは
企業における稟議とは、「クライアントと会食をする」「経費を使って物品を購入する」といった上層部の承認が必要な場面で、その内容を文書にまとめて関係者に回覧させ、意思決定を求めることをいいます。稟議をまとめた文書のことを、「稟議書」と呼びます。
大規模な会食や高額製品の購入を決定するには役員クラスの社員の承認を必要とする企業もあり、いちいち会議を開いていては手間も時間もかかってしまいます。そこで、会議の手間を省いて関係者の承認を得るために、稟議書を用いた手続きがとられます。
一般的に、企業では案件ごとに稟議書を回すかどうかの基準となるフローが定められているでしょう。
例えば、購買の中で消耗品器具・備品の場合は総額20万円以上である場合は稟議書を、上長、総務部長、経理部長、取締役へ回覧するなど表にして表してある場合もあります。
案件が影響力の大きい内容であればあるほど、役職の高い人かつ多くの役職の人の決裁が必要です。
稟議が必要な場面
企業において稟議が求められる代表的な場面として、以下のものがあげられます。
購買
社内で利用する備品などを購入する際に稟議をとります。パソコンやITツールなどの高額な備品を購入する場合や、長期間にわたって定期購入する場合などに稟議が求められることが多いです。中には、100万円以上の費用がかかる場合に稟議にかけるなど、稟議の条件を金額で規定している企業もあります。
契約
他社や外部組織と規模の大きい契約を結ぶ場合や、新しい取引先と新規契約を結ぶ場合などに稟議が求められます。価格、契約条件、日程、期間、担当者、返品、ペナルティといった契約に関する重要事項を文書にまとめ、回覧して承認をもらいます。
新規プロジェクト
新規プロジェクトや部門などを新設する場合にも稟議書を回覧する場合があります。
プロジェクトに必要な費用もですが、新規プロジェクトの立ち上げで各部署から部員を集める場合に、部員の労働力をプロジェクトに割くことを場所長に書面で認めておいてもらうという意味でも役立つでしょう。
採用
新卒や中途採用も含め、新たに社員を採用するときにとられる稟議です。採用人数に過不足はないか、チームに求められている人材を採用できているかといった点が稟議を通して確認されます。稟議書は、採用関係者だけでなくチームの上長などにも回覧されます。
募集するために広告費用など予算を新たに獲らないといけない場合は、この金額についても稟議を求める場合があるでしょう。
接待交際
重要な取引先や協力企業に対して接待をする際、その接待費の申請のための稟議をとります。会食の費用だけでなく、贈答品の購入費用なども稟議の対象です。全ての接待が対象ではなく、一定金額以上の経費が発生する場合に稟議が求められる場合が多いようです。
その他にも、忘年会といった大規模な社内イベント、広告出稿、出張の可否を確認するときにも稟議が必要なケースがあります。
稟議書の書き方
一般的に、稟議書には以下のような項目を記載します。それぞれについて、具体的な内容を解説します。
件名
どのような事柄についての稟議なのか、一目でわかる件名であることが大切です。「中途社員の採用について」「忘年会の開催について」など、議題がシンプルに伝わる件名にしましょう。
申請番号、決済番号
稟議書は会社の規定に則って保管する必要があるため、多くの企業では通し番号によって管理しています。規定に従って申請番号や決済番号を記載します。
起案者名
起案した社員の氏名や所属、社員番号などを記載します。
起案日、決済日
いつ起案したのか、承認が完了した場合にはいつ決済が完了したのかを記載します。
稟議事項
稟議の意義を伝える、最も重要な項目です。簡潔に説明するため、要素ごとに項目を分けるか箇条書きで記載するのがおすすめです。会社にもたらすメリットや費用対効果、反対にデメリットやそれに対する対策など、具体的なデータを交えて示すと説得力が増します。
取引先、発注先
契約や物品購入の稟議書の場合、取引先の名称や担当者などを記載します。会社規模や業績など、どのような会社なのか簡単な説明文を添えるとよりわかりやすくなります。
金額
見積書をもとに、正確な金額を記載することが重要です。必要に応じて、見積もりの内訳や予算をオーバーしているかどうか、支払条件なども記載します。
押印欄
一般的に、承認者が押印する欄を稟議書の最後に設けます。左から順に、下位職位者から押印していくのが通例です。同時に承認者のコメント欄を設けておくと、承認可否の理由を確認でき、情報共有がしやすくなります。
稟議書の2つの例文
それでは、実際に稟議書の例文を紹介します。
購買稟議
購買稟議は、「購入する物品の詳細」「なぜその物品なのか」「購入数の根拠」が説明されていることが重要です。理由ともに、必要な数量と金額を明確に記載しましょう。
【件名】営業社員が使用するノートパソコン購入について
【件名への説明・詳細】
・現在営業社員が使用しているノートパソコンは5年前に購入したものであり、容量不足やバッテリーの劣化について指摘があった
・突然故障する可能性もあり、作業に支障を感じている社員もいるため、早急に新しいノートパソコンを購入する必要がある
【効果】
・営業活動の効率化により、成約率を○%向上させる
・1件の営業にかける準備時間を〇分削減する
【リスク・対策】
・新しいパソコンに慣れるまで、作業効率が低下する期間が発生する
・事前にマニュアルを配布の上、研修を実施する
【品名】
L社製 ○○○○
【数量】
営業社員10名に対し、1人1台購入
【想定価格】
69,000円/台×10台 計:690,000円
契約稟議
契約稟議を書く際のポイントは、「その契約を結ぶことでもたらされるメリット」「取引先を選んだ理由」「信用できる相手かどうか」が記載されていることです。この3点を意識すると説得力が増し、承認を得やすくなります。
【件名】○○社との取引開始について
【件名への説明・詳細】
・現在原料の仕入れに□□円かかっており、■■円を目標にコストカットしたい
・企業規模は小さくなるが、○○社は近年シェアを拡大しており、経営状況も安定しているため、安価かつ安定的に仕入れができると判断した
【効果】
・現在仕入れにかかっている□□円のコストを、■■円まで削減できる
・コストカットにより、売上が△△%向上することが見込める
【リスク・対策】
・原料の品質が今よりも下がってしまう
・新しい原料での試作品が完成しており、製品として問題がないことは確認済み
【取引先企業】
○○社(資本金:1億円、社員数:250人)
関東圏内で業界シェア×%、取引企業数××社
稟議が承認されるための6つのポイント
スムーズに決済をもらうためには、情報が簡潔にまとまっており要点のわかりやすい稟議書を作る必要があります。承認を得やすい稟議書を書くポイントを解説します。
短い文章で簡潔に書く
稟議を通したいあまり説明が冗長になってしまい、かえって論点がわかりづらくなる、というのはよくある失敗です。稟議は決済手続きを簡便化するものですから、要点がピンポイントで伝わる簡潔な文章であることが大切です。要素ごとに項目を分ける、箇条書きを使う、番号を振るといった工夫をして、短く明快な文章を目指しましょう。
メリットとデメリットの双方を提示する
メリットばかりが書いてあると、冷静さを欠いた印象を与えてしまいます。メリットとデメリットは偽りなくどちらも提示し、そのうえでメリットのほうが大きいと提示することで上長の納得を引き出すことができます。デメリットに対する対策案もあわせて記載しておくといいでしょう。
具体的な数字を書く
具体的な数字やデータが示されていると、稟議のメリットをより直感的に伝えることができます。「コストカットができる」よりも、「現在より〇円原価が下がるため、○%のコストカットになる」と記載したほうが、読み手も判断を下しやすくなります。
易しい言葉を選ぶ
専門用語を多用しすぎて、読み手に言いたいことが伝わらなくなってしまうこともあります。特に、システム導入やツール購入などIT関連の稟議を通す際は要注意です。別の言葉に置き換えるか、注釈をつけるといった対策をとりましょう。
不要な情報は省く
情報を盛り込みすぎず、不要なことは書かないという点も大切です。「これだけたくさん情報を集めた」という主張は稟議書に必要ありません。データはあくまでも稟議内容を補足するものとして使用し、必要な情報のみを記載したほうが回覧した人も判断しやすくなります。
事前に根回しをしておく
特に、契約やプロジェクトに関しての稟議の場合、関係者に事前に根回しをしておくことも大切です。
書面上ではわからない契約やプロジェクトがなぜ必要かと言う点をこまめに関係者と共有しておくことで、スムーズに稟議を通すことが可能です。
重要事項については、日頃から決裁者に相談しておく、もしくは上長に根回しをお願いしておくという配慮が必要でしょう。
ポイントを押さえて稟議でスムーズに決裁を得よう
稟議は、会議を省略してスムーズに上層部の決済を得るための手続き。書類を通して上長の納得を引き出すためには、要点や理由が簡潔にまとまった稟議書を作成することが重要です。
今回紹介した稟議を通すためのポイントをおさえて、論点が伝わりやすい稟議書の作成を目指しましょう。
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