近年、融資とは別の資金調達手段として注目を集めているファクタリング。
ただし、給料ファクタリングについては違法であるとの指摘があり、金融庁からも注意喚起が出されています。
本記事では給料ファクタリングの仕組みや違法性、事件例、適法なファクタリングについて紹介します。
給料ファクタリングとは
給料ファクタリングとは、債権者の売掛債権を買い取るファクタリングとは異なり、賃金債権を対象としたサービスです。
個人が勤務する会社に対して保有する賃金債権を給料が支払われる前に、一定の手数料を徴収して買い取ります。
給料ファクタリングは個人に対して提供されるサービスですが、実質の資金業にあたるとの指摘があります。そもそもファクタリングとは、金銭貸借契約にはあたらず、借入金ではない資金調達方法であるため、実質の貸付である時点で給料ファクタリングは「ファクタリング」のサービスとは言えないでしょう。また、ヤミ金融業者による違法なサービスも存在しており、事件へと発展するトラブルも増加しており注意が必要です。
給料ファクタリングの仕組み
給料ファクタリングは、ファクタリングのサービスを提供する会社と個人の2者間で行われます。発生した賃金債権を利用者はファクタリング会社へ売却します。ファクタリング会社は賃金債権額から一部手数料を差し引いて、利用者へ入金。賃金債権の債務者ある勤務先企業から利用者へ給料が支払われたら、利用者は給料をファクタリング会社へ引き渡します。
このように給料ファクタリングはあくまでも利用者とファクタリング会社との取引となるため、勤務先企業が取引に介入することはありません。給料ファクタリングは「売掛債権」が「賃金債権」に代わる他に仕組みに違いはないように見えますが、なぜ違法性が指摘されているのでしょうか。
給料ファクタリングは違法
給料ファクタリングは金融庁より『個人が勤務先に対して有する給料(賃金債権)を対象とした「給料ファクタリング」を業として行うことは、貸金業に該当(貸金業登録が必要)』と発表されています。
また、2020年3月24日の東京地裁で下された判決(判例時報247号47p)によると、「経済的に貸付と同様の機能を有する金銭の交付」にあたるとされ、貸付業法・出資法に抵触し取引が無効であるとの判決を出しました。このように、給料ファクタリングは債権譲渡契約を意味するファクタリングには、該当しないとの判例が下されているのです。
給料ファクタリングはファクタリングをうたっているものの、実態としては貸付となりサービス提供会社が貸金業の登録をしていない、手数料が年利15~20%の利息制限の範囲を逸脱する場合は違法なサービスとなります。
なぜ給料ファクタリングは貸付とみなされるのか
給料ファクタリングが貸付とみなされる理由に、売掛債権にはない賃金の性質が関係します。賃金について、労働基準法24条1項では「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と規定されています。
本来の債権譲渡であれば、譲渡された債権を持つ会社は直接、債権の支払い義務のある会社へ支払いを指示する権利を有するはずです。
しかし、「勤務先が賃金を直接労働者へ全額支払わなければならない」という性質から、譲渡され債権を持つはずのファクタリング会社は直接、利用者の勤務先に取り立てることができません。
そのため、債権者は利用者である労働者に支払いをさせることになり、実質的に貸付のスキームを形成していると判断されたのです。
給料ファクタリングの事件例
ここでは、給料ファクタリング大手会社「ZERUTA(ゼルタ)」によるニュース事例について紹介します。
給料を受け取る権利を客から買い取り、現金を貸し付ける「給料ファクタリング」を貸金業に無登録で営み法外な利息を得たとして、警視庁は、給料ファクタリング大手「ZERUTA(ゼルタ)」の社長ら男女7人を貸金業法違反(無登録営業)と出資法違反(超高金利)の容疑で逮捕したと2021年1月14日に発表されました。
7人は2020年4月に都内の40代の男性ら男女12人に現金74万4607円を貸し付け、法定利息(年利20%)の約14~31倍の利息計18万7533円を受け取った疑いがあり、2018年6月以降に全国の約9万7千人に計約50億円を貸し、約13億円の利益を得ていたと報じられました。
朝日新聞
違法ではないファクタリングとは
給料ファクタリングが債権譲渡契約である「ファクタリング」には該当しないことがわかりましたが、それでは正規の適法なファクタリングとはどのようなサービスなのでしょうか。
ファクタリングとは売掛債権を、手数料を対価として譲り受けるサービスのことです。従来は資金繰りに不安のある債権者が、直接債務者に申し入れることを指す用語でした。しかし、現在は銀行の子会社などファクタリングサービスを提供する会社が売掛債権を譲り受け、代金や回収の保証をするサービスに対して「ファクタリング」と呼ぶようになりました。
ファクタリングには2社間取引と3社間取引の2つの契約形態があります。3社間取引は、契約は利用者とファクタリング会社で締結。そして、売掛金の送金は取引先からファクタリング会社へ直接行われます。一方、2社間取引は、取引先が関与せず、ファクタリングが行われる事を取引先にバレないメリットがあります。しかし、手数料が3社間取引よりも高めの傾向があるでしょう。
ファクタリングのメリット・デメリット
ここではファクタリングによる資金調達のメリット・デメリットを紹介します。
ファクタリングのメリット
- 売掛金入金前に現金が調達できる
- 比較的与信審査を通過しやすい
- 借入金に含まれない
- 売掛金貸し倒れのリスクがない
ファクタリングのメリットとしては、第一に売掛金支払いの期日を待たずに現金を入手できる点があります。企業は迅速な資金の調達が可能になることで、スピード感を持って次のビジネスに資金を活用できるメリットがあるでしょう。
また、ファクタリングは融資ではなく譲渡契約であるため融資を受ける場合と比較して与信審査が通りやすい点や、借入金が増加しないメリットがあります。貸倒金のリスクを防げる点も活用したいポイントとなるでしょう。
ファクタリングのデメリット
- 手数料が必要
- 利用できるかは債務者の信用情報による
- 3社間取引は取引先に知られる
一方で、ファクタリングの利用には手数料がかかるため、本来回収できるはずの売掛金金額よりも回収金が減ってしまう点はデメリットでしょう。また、債務者の信用情報によってはファクタリングを利用できないケースや、3社間取引の場合は取引先にファクタリングサービスを利用していることがバレてしまうことで心証を悪くする可能性があることにも留意が必要です。
ファクタリング会社を選ぶ4つのポイント
ファクタリングサービスを検討する際に、チェックしたい4つのポイントについて紹介します。
信頼性があるか
第一に、ファクタリング会社が信用のおける会社かどうか判断することが必要です。ホームページの企業情報や会社の登記情報を確認し、担当者からの説明や実績を確認します。近年は大手金融会社の子会社や、出資会社がファクタリングサービスを提供するケースも増えており、そういった信用のおける会社を選ぶのもよいでしょう。
求める条件に合うか
ファクタリングに求めるメリットについて優先順位を決め、該当するサービスを選定しましょう。各ファクタリング会社によって、手数料の金額、現金入手までにかかる日数、3社間取引か2社間取引か、契約内容などサービスに違いがあるので注意が必要です。必要最低限何を必要とするか条件を整理してから、複数の会社のサービスを比較するとよいでしょう。
手数料は妥当か
一般的には、2社間取引の場合は金額の約10~30%、3社間取引の場合は約2~15%程度でしょう。手数料が高すぎる場合、違法な業者である可能性があるため注意が必要です。サービス内容と手数料と比較して、合理的な手数料金額の会社を選ぶようにしましょう。
償還請求権がないか
契約が償還請求権のない取り決めになっているか確認することも大切です。償還請求権とは、債務者が倒産したなどにより売掛金が貸し倒れとなってしまった場合に、回収不可能になった売掛金分の金額をファクタリング会社からファクタリングの利用者へ請求する権利のことです。
そもそも、ファクタリングは債権譲渡の契約であるはずですが、貸し倒れなどによる回収不可能分について保証するということは、実質の貸付ではないかとの指摘がなされるようになりました。そのため、現在ではファクタリングは「償還請求権のない契約」となっていることがほとんどですが、契約書で償還請求権の有無について確認することが必要です。
ファクタリング会社のサービス例
ファクタリング会社のサービス例として、OLTAと静岡銀行の共同提供の事例を紹介します。OLTA株式会社は、株式会社静岡銀行と共同でクラウドファクタリング事業「OLTAクラウドファクタリング supported by 静岡銀行」を立ち上げ、2022年3月7日よりサービスの提供を開始。
OLTA株式会社は2017年に日本初のオンライン型ファクタリングのサービスの提供を開始した企業です。面談が不要でオンライン上で申し込みから入金手続きまでが完結でき、最短で即日で振り込まれることから人気を集めています。
共同事業ではOLTAがWebサービスの企画・開発・導入および運用におけるコンサルティングを静岡銀行に提供し、静岡銀行は自社ブランドの金融商品のサービスラインナップに加え、顧客にクラウドファクタリングのサービスを案内します。金融機関のサービスに加えクラウドファクタリングの選択肢が増えたことで、より気軽に短期・少額の運転資金を必要なタイミングで早期での調達を可能にしました。
PR TIMES
給料ファクタリングは利用しないよう注意しよう
給料ファクタリングは、ファクタリングの特徴である債権譲渡契約に当たらず実質の貸付サービスであるため、ファクタリングとは言えません。違法な業者によるファクタリングとうたった実質の貸付、法外な手数料のサービスを提供する事例も増加傾向にあるため、社員が給与ファクタリングを利用しないよう注意が必要です。
一方で、正規の適法なファクタリングは、中小企業の資金調達手段として注目されています。ファクタリングを検討する場合、企業担当者は正しいファクタリングの知識を身に付け、安心安全にサービスの検討を行うようにしましょう。
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