帰納法とは?演繹法との違いや面白い例を交えてわかりやすく解説

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帰納法とは、個別事象から普遍性の高い原則を導き出す、論理的な思考法です。現代では、ビジネスシーンや何気ない会話のなかで、帰納法は活用されています。

本記事では、帰納法とはなにか、基礎知識を説明するとともに、事例を交えて活用方法について解説します。

帰納法とは

帰納法とは、経験・実験など個々の具体的な事例から、一般的な原理や法則を導き出す思考法をいいます。

もともとは哲学の世界から生まれた考え方で、イギリスのフランシス=ベーコンにより提唱されました。フランシス=ベーコンは哲学者であり「イギリスの経験論の祖」と言われています。実験や実証など、個別の具体例を集め、共通点を仮説として打ち立て、結論に導くという方法を通じて、自然を支配することができると考えました。

現代では、帰納法という言葉は数学で目にするのが一般的でしょう。しかし、帰納法の考え方は、論理的思考と呼ばれる考え方でビジネスの世界や日常生活で自然と取り入れられています。

演繹法とは

帰納法を学ぶ際、対で語られるのが演繹法です。

帰納法が個別の事象から普遍的法則を導き出すのに対して、演繹法では普遍的命題から個別的命題を論理的に導き出すという思考法をとります。簡単にいえば、すでに一般的に知られている理論や法則、前提から結論を導き出す方法です。

デカルトにより演繹法は提唱され、帰納法と同様に、現代では数学・科学といった幅広い分野で取り入れられています。

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帰納法と演繹法の違いとは

帰納法と演繹法はともに思考法です。その違いは、個別の事象と一般論の扱いにあります。

帰納法ではパターンを見つける

帰納法は、個別の出来事を集め、そこから共通点を見出す形で仮説を立て、一般的な法則や規則性を見出します。わかりやすい例で見てみましょう。

事例1:ライオンがシマウマを襲って食べた
事例2:ライオンがヌーを襲って食べた
事例3:ライオンがうさぎを襲って食べた
結論:ライオンは肉食動物である

帰納法では、すでにわかっていることや起こったことが思考のベースとなります。

一般論を前提に考える演繹法

個別の事象から出発する思考法である帰納法に対して、演繹法では一般論を前提に思考を発展させます。演繹法で代表的な考え方に「三段論法」があります。これは、大前提・小前提・結論と三段階で事象を解明するものです。

大前提: 生き物は必ず死ぬ
小前提: ライオンは生き物である
結論: ライオンは必ず死ぬ

このように、演繹法では大前提にゆるぎない一般論を用いることが重要になります。また大前提と小前提の論理が結びついていなければ、正しい結論は導き出せません。

抽象度の方向性に違いがある

帰納法も演繹法も、どちらも思考のために使われます。しかし推論の流れの方向性は真逆といっていいでしょう。

帰納法が個別事例から一般原則を導きだすのに対して、演繹法は一般原則や理論から個別の結論を導きだします。つまり、帰納法が抽象度を上げていく流れなのに対して、演繹法は抽象度を下げていく試みです。

結論の確実性の違い

導き出される結論の確実性にも違いがあります。

演繹法では前提が正しければ結論も正しいと言い切れますが、帰納法は個別の前提が正しくても結論は正しいとは言い切れない不確かさがあります。

思考法としてどちらが正しいと言い切れるものではありません。特徴を踏まえたうえで、場合によっては併用することで、より納得度の高い結論にたどり着けると考えられます。

帰納法と演繹法の具体例

帰納法と演繹法について、私たちが日ごろから日常で使っている思考をもとに具体例をみてみましょう。

帰納法の具体例1:自社にとって優秀な社員の共通項を見出す

ある会社の採用担当者が、マーケティング部署で過去3年間にMVPを獲得した社員の経歴を調べたところ、全員が経営学・法学・ジャーナリズム学のいずれかを大学時代に取得していました。また、長期・短期の留学経験があるか、もしくは英語力が高いことがわかり、これらの要素を次年度の採用条件に活用することを決定しました。

・ポイント:ある条件を満たしたメンバーのバックグランドを調査し、共通項を見つけ出すことで、条件を達成するのに必要な要件を導き出しています。

帰納法の具体例2:お客さんの反響から改善点を探す

とあるスーパーでは、お客さんからの声を集めています。クレームや不満といったお客さんの声を分析してみると、「商品がどこにあるかわからない」といった声が目立ちました。そこで、店内の陳列棚の標識の文字をより大きなフォントに変更。また、特売品をより入り口に近い場所に陳列することで、お客さんからの評判もよくなりました。

・ポイント:「不満」「クレーム」というカテゴリーの中から、共通項が多い意見を探すことで、より効果的な改善ポイントに優先順位をつけ対応できるようになります。

演繹法の具体例1:居住区の平均所得を推測する

ある小売店が新規店舗の出店計画を立てています。ここでは、「一般的に人口の多い都市のほうが、平均所得が高い」という大前提を使用します。A地区は大都市であり高層マンションが多く、B地区は人口が少なく木造戸建てが多い地域です。

このことから結論として、A地区に住む人の方が、平均所得が高いと考えられ、店舗の売り上げが伸びる可能性が高いと推測されます。そこで、A地区を予定地としてさらなる構想を練ることにしました。

・ポイント:一般論や一般的なデータをもとに、方向性を決めるために演繹法を使用している

演繹法の具体例2:前提から事業案を膨らませる

ある会社で30代・40代の女性をターゲットにした新しい服のレーベルを展開することになりました。大前提として、「ターゲット層は若いころの服装が似合わなくなった」と悩んでいると想定。

つまり、30代・40代は20代に読んでいたファッション雑誌をどこかの時点で辞めているとの小前提ができる。その動線の中で、30代・40代向けファッションの購買力を上げられないかと、いつの時点で変えたか、どのような雑誌か、購入方法(電子、店頭)など調査をすることにした。

・ポイント:一般的な前提から出発し、新規事業のアイディアを創出する。

帰納法のメリット

帰納法は、効果的に活用すれば、いつもなら考え込んでしまう思考に道筋をつけたり、発言の説得力を増したりすることができます。以下に、帰納法をビジネスシーンや日常で用いるメリットを見てみましょう。

効果的なマーケティングに応用できる

効果的なマーケティングとは、商品やサービスのターゲット層のニーズに合ったメッセージを伝えることです。いくら優秀な商品でも、それを必要としていない人に訴えても響きません。また、メッセージの打ち出し方が一つ違うだけで、受け取る側の印象はまったく異なってしまいます。

細分化された個々の悩み、たとえば「きれいな肌になりたい」と願いを持つ人でも、「ニキビで悩んでいる」「乾燥肌がいや」と多岐に渡ります。細分化された悩みに対してどのようなターゲット層が想定できるのか、購入履歴や潜在顧客の動向などの膨大な情報から結論を導き出します。統計データから仮説を立て結論へと導く帰納法は、現在有効と言われるマーケティングのベースとなっています。

主張に説得力を持たせられる

会議でプレゼンをするとき、聞き手が「なるほど」とうなずけるのは、そこに根拠があるからです。「食洗器を必要とする家庭が増えている」という主張に対して、根拠がなければ「なぜ?」と聞き返したくなるでしょう。主張のあとに「なぜなら、共働き世帯の増加によって家事時間が減少しているからです」と続けば、主張の裏付ける根拠があることになります。

帰納法では、個別事例を集めそこから共通点の仮説を見つけ出します。なにかしらの主張を訴える際、その仮説が根拠となり、主張の説得力を高めてくれるのです。

新しいアイディアの種を見つけられる

集めたデータから意外な一面が見つかる可能性があります。Aだと思っていたものが、Bだとなるかもしれません。

帰納法では個々の事象の共通原則を探るという思考法から、これまの想定とは違った事業の種となる独自性のあるアイディアが見つかるかもしれません。「このグループの共通点はBだ」という発見から、新しいサービスや商品が生まれる可能性があるでしょう。

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帰納法のデメリット

ビジネスや日常生活に役立つ帰納法ですが、デメリットもあります。

信頼できる十分な個別事例が必要

帰納法を正しく用いるためには、信頼できる情報の質と量が必要です。マーケティングに帰納法を活用するにしても、集めたデータが信頼できるものでなければ役に立たないでしょう。

また、特定のターゲットの志向をリサーチする際も、データが数十件と少ない場合、見出した共通点に対して確度が高いとはいいきれません。十分な量の、信頼に足るデータを収集しなければ、結論の整合性そのものが失われてしまいます。

誤った結論を導き出してしまう可能性がある

帰納法は万能ではありません。誤った使い方をすれば、正しくない結論にたどり着いてしまいます。

たとえば「がんになった患者の食生活を調べたところ実に8割以上の人が日常的にパンを接種していた」というデータがあったとします。ここから「パンは発がん性物質だ」と主張するのが誤った帰納法の使い方です。

冷静に考えればすぐに誤りだと気づけますが、日常の中にはこうした「誤った個別事象」から「誤った共通原則」を主張するようなマーケティングも少なくありません。

限られたデータに基づいてしか考えられない

帰納法は個別事例をもとに共通項を見出します。そのため、集めた個別事例以外のデータについては、考えが及ばないという欠点があります。

たとえば、A店舗に来る顧客データから、人気ドリンクを抽出したとします。しかし、それはA店舗のみで言えることであり、気温や立地が異なるB店舗、C店舗のデータを踏まえた場合、ドリンクの売れ筋は大きく変化するかもしれません。

このように、帰納法では導き出される結論にも限界があるといえます。

帰納法のパラドックス

帰納法には「すべての馬はおなじ色である」という言葉に代表される、帰納法のパラドックスがあります。パラドックスとは、一見すると正しそうに見える前提と、妥当だと思える推論から、まったく受け入れがたい結論にたどり着いてしまうことを意味する言葉です。

たとえば、「すべてのカラスは黒い」ということを、帰納法を用いて証明しようと試みます。その場合、1匹目のカラスが黒く、2匹目のカラスも黒く……と枚挙的帰納法を用いれば「すべてのカラスが黒い」となってしまいます。しかし実際には、グレーのカラスも存在するかもしれず、世界中のすべてのカラスを調査しなければ、「すべてのカラスが黒い」とは言い切れません。

ほかにも帰納法パラドックスを導き出す例として、「砂山のパラドックス」があります。これは、「砂山から砂を一粒減らしても、残りは砂山である」と結論づけると、次々に一粒ずつ砂を減らした場合どこまでいっても砂山のはずですが、「最後の一粒になっても砂山である」とは言えないパラドックスのことです。

砂山のパラドックスでは、「なにが砂山なのか」を定義していないため、最終的に誤った結論を導き出してしまっています。このように、帰納法のパラドックスに陥らないよう、活用の際は注意が必要です。

帰納法の面白い例2選

帰納法を用いると、自らの思考を発展させたり根拠を持たせたりすることができます。ここで、帰納法を用いてわかりやすく論理を展開している記事の例をご紹介します。

何気ない会話にも帰納法と演繹法

本題はAI開発なのですが、前段で紹介されている「牛タン屋のカップルの会話」が、見事な帰納法と演繹法になっています。

「自分では気づかなかったが、いままで好きな芸能人の特徴を考えてみると、みんな唇が肉厚だった」という点は、まさしく個別事例から共通項を見出す帰納法です。そして、会話のクライマックスである「初恋の人は唇が肉厚だった」「私は唇が肉厚の人が好き」「あなたも唇が肉厚である」と畳みかけるセリフは、見事な演繹法となっています。

「渋谷の牛タン屋で横にいたカップルとAI開発における演繹と帰納について」

STORIA法律事務所

特定の問題を帰納法で考える

筆者は、3Dプリンタの世間での普及と、世間の間で議論される問題点について「帰納法で考えたほうがいいのでは」と論理を展開しています。3Dプリンタが世間で「なぜ普及しないのか」という問いに対して、「観察事項」や「実験結果」から推論を導き出す、帰納法が適しているとの主張です。帰納法を用いた実際の思考を見ることができます。

『3Dプリンティングと形状最適化は「帰納法」で考える?』

丸紅情報システムズ

帰納法のビジネスにおける活かし方

帰納法をビジネスに活用する場合、活用しやすいポイントを以下にまとめました。

改善点を探す

お客様アンケートや従業員満足度調査などから、改善するべきポイントを見つけるのに帰納法が適しています。集めたデータの中から、回答者が多い項目を抜き出すと、改善するべきポイントが見つかります。

プレゼンで用いる

なにかしら主張に説得力を持たせたいとき、帰納法が役に立ちます。ターゲット層に〇〇という共通項があるから××が必要だと、説得力のある論理を展開できるでしょう。

マーケティングに応用する

なにか仮説を立てるのにも帰納法が役立ちます。マーケティングは「こうした課題がある」「このようなニーズがある」といった仮説に基づき施策を決定します。多くの仮説を立てる際に帰納法が役に立つでしょう。

組織開発に応用する

採用や配置決定、人事評価制度の構築、チーム作りでも帰納法が役立ちます。「特定の環境で活躍できる人」や「ある分野で成果を発揮している人」の共通項を導き出せれば、強い組織作りに役立つでしょう。行動特性を評価の基準にすることで、優秀な人材の育成・評価制度の構築につなげられるでしょう。

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帰納法で失敗しないために注意したい3つのポイント

上述したように、帰納法を誤って用いたが故に、誤った結論にたどり着いてしまうことがあります。そうしたパラドックスに陥らないようにするには、以下のポイントを意識してみましょう。

定義づけをする

「砂山のパラドックス」のように、定義があいまいなままでは、誤った結論にたどり着いてしまう可能性が高くなります。たとえば、採用のシーンで帰納法をもとに「優秀な人材の条件」を考える場合には、前段階として「優秀な人材」の定義を明確にする必要があります。

論理を飛躍させすぎない

個別事象から共通項を導きだしても、その論理展開に破綻があれば間違った結論にたどり着いてしまいます。「がん患者の8割はパンを食べている」「パンは発がん性物質だ」というように、論理を飛躍させては、帰納法は成り立ちません。

十分なデータをそろえる

限られたデータから結論を導き出す帰納法ですが、データの量が不十分な場合、結論の確実性が低くなります。マーケティングや改善案の検討など、個々の声をもとにするときは、なるべく多くのデータを集めることで信頼性を高めることができます。

帰納法を意識的に活用しよう

「どのように考えたらいいかわからない」というシーンでも、帰納法で個別事象の共通項を見出すことにより、説得力のある結論を導き出せます。また日頃の会話やビジネスシーンでも、帰納法により導き出された結論は、普遍性が高く、説得力が増します。

帰納法を意識することで、論理の破綻を少なくし、スムーズな論理展開を身に着けられるようになるでしょう。

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