承認欲求とは、誰しもが持っているものです。欲求を理解し、それを満たすことで、人はモチベーションを高めたり、成長を実感できたりします。
本記事では承認欲求について理論の観点からメリット・デメリットを説明するとともに、人の承認欲求に基づいた社内制度を紹介します。社員がイキイキと働ける職場を作りたいとお考えの場合に、参考にしてください。
承認欲求とは
承認欲求とは、他者から認められたい、自分を価値のある存在だと思いたいという欲求です。価値ある評価を与えてくれる内容には、他者からの誉め言葉であったり、コンテストの受賞であったりと、人によって異なります。
また承認欲求は、「肯定的な評価を得たい」という欲求のほか、「否定的な評価をされたくない」という欲求も含まれます。
時代による承認欲求の変化
かつては、昇進や高価な品の高級など、いわゆる「モノ・カネ」といった物欲的な充足が承認欲求を満たすことにつながっていました。同期よりも早く出世した、高給取りでよい暮らしをしている。承認欲求は、ある種「わかりやすい」形で満たされていたのです。
しかし、現代はSNSの発展と共に、さまざまな形で「評価されている人」が可視化されるようになりました。昔は一部の有名人や芸能人のみに限られていた「名前も知らない誰かから賞賛される」という現象を、「誰もが得られるかもしれない」のがSNSです。ごく普通の一般人でも、芸能人のような発信力を持てるかもしれない。誰からも承認を得られる可能性がある世界で、承認欲求は「誰からも肯定されていたい」と形を変えてきています。
承認欲求の3つの理論
人の承認欲求は、何に対して抱き、どのような形で充足するのでしょうか。心理学の世界で承認欲求について唱えた3つの理論を解説します。
マズローの欲求5段階説
「欲求5段階説」は、アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローによって唱えられた、人間の欲求の階層です。マズローによれば、人間の欲求は5つに分けることができ、ピラミッドのように低階層(低次の欲求)が満たされることで、次の階層への欲求が生まれ、人は最高次の欲求である「自己実現」に向かって絶えず成長するといわれます。
欲求5段階説では、一番はじめに飲食や睡眠といった、生きるために必要な要素を求める「生理的欲求」がきます。そして次に、病気やケガといった危険を回避したいという「安全欲求」、その次に社会に帰属し何らかの役割を果たしたいという「社会的欲求」が続きます。
ここまでが家族や学校、会社といった周りの環境によって満たされる低次の欲求です。そして、上から2つの欲求が内的に満たされたいと思う高次の欲求であり、「承認欲求」「自己実現欲求」と続きます。
承認欲求と自己実現欲求は、どちらも精神的な充足を求めることですが、承認欲求がクラスや職場など他者からの承認を欲するのに対して、自己実現欲求では、本当に自分が求める理想の状態になることを願うといった違いがあります。
ダグラス・マグレガーのXY理論
XY理論とは、アメリカの心理学者ダグラス・マグレガーが提唱した理論であり、現代ではマネジメント理論の一つとして発展しています。
マグレガーによれば、人間には「本来なまけたがる生き物で、放っておくと仕事をしなくなる」というX理論と、「本来進んで働きたがる生き物で、自己実現のために行動し問題を解決する」というY理論があるといいます。
そして、マズローの欲求5段階説で唱えられた低次の物質的欲求が満たされた世界では、Y理論をベースに、承認欲求や自己実現の欲求を満たすようなマネジメント手法が有効であると説きました。
ハーズバーグの2要因
もうひとつ、承認欲求と関連して人間の動機付け(行動の源泉)を理解するために欠かせないのが、フレデリック・ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」です。この理論では、人が仕事に満足する要因と、不満を解消する要因はまったくの別物であるとされます。
満足する要因は、動機付け要因と呼ばれ、「達成感を感じるか」「承認されていると思えるか」「成長が実感できるか」という点がポイントとなります。つまりは、やる気を向上させるような環境や評価制度が、動機付け要因に結びつきます。
一方、不満を解消する要因は、衛生要因と呼ばれます。衛生要因は、「給与」「地位」「労働環境」「勤務時間」といった条件が大きく関係します。ポイントは、衛生要因が解消されたからといって、動機づけ要因のようにモチベーションが上がるとは限らないという点です。
たとえば職場の残業時間が減っても、仕事に満足感を覚えるのではなく、どちらかといえば「マイナスが普通になった」と感じるのではないでしょうか。それよりも、上司からの適切な声掛けのほうが、「仕事をがんばろう」と思えたりします。このように、人の行動と結びつく承認欲求が何によって満たされるかを理解する上で大事な理論といえます。
承認欲求のメリット
当然ながら、承認欲求の強さには違いがあります。「同期よりもいい成績を残したい」と競争心を燃やす社員もいれば、「そこそこでいい」と昇進を強く望まない社員もいるでしょう。
誰しもが強い承認欲求を持つのがいいとはいえませんが、承認欲求が強い社員が組織にいることでもたらされるメリットや、承認欲求がうまく満たされる仕組みがあることで社員に与える良い影響があります。
高い成果を発揮できる
他者からの承認を強く求める人は、それを得るための行動を惜しまない傾向にあります。承認欲求がうまくエネルギーにつながると、成果を出すために行動し、努力を重ねます。
こうした人々は、仕事へのモチベーションが高い人材であり、与えられた目標以上の結果を望みます。そのため、常に視座を高く持ち、達成に向け努力する姿勢が他のメンバーにも良い刺激をもたらします。
仕事での自信がつく
たとえ強い承認欲求を抱かない人でも、他者から肯定されたり、仕事を誉められたりすると、自信がつきます。満たされた承認欲求は、「やればできる」という感覚につながります。たとえチャレンジングな仕事でも挑戦しようと思えたり、会議で積極的に提案したりできるようになるのです。
仕事の評価は、目標数字など定量的なものが中心となりがちです。しかし、目標をただ達成するだけでなく、このように「他人が見てくれている」という形で承認欲求が満たされることも、個人が成長し続ける上では重要なのです。
働きがいを感じられる
承認があることで、仕事への満足感が高まります。帰属する職場に安心感があるため、「この仕事をやってよかった」という働きがいを感じられるのです。自分の仕事の成果や結果を実感できるようになり、イキイキと働く姿勢につながります。
承認欲求のデメリット
人の原動力や自信につながる承認欲求ですが、一方で他者からの承認を、自分で完全にコントロールすることはできません。そのため、承認欲求にとらわれすぎてしまうと、メンタルの不調など思わぬ落とし穴にはまることがあります。
メンタルが不安定になる
過剰な承認欲求は、バーン・アウト(燃え尽き症候群)などメンタル不調の要因となります。他者からの承認を得たいという気持ちが、周囲の期待に応えようという強迫観念となり、頑張りすぎてしまうのです。
また、成績優秀者を評価するような制度を導入している企業では、その評価に該当する成果をあげられない社員へのケアも重要となります。評価される社員=優秀な社員という図式がなりたつ環境では、それに該当しない社員は無力感を覚えてしまうでしょう。
他者の評価=目的になってしまう
承認欲求は満たされたときの充足感の強さから、ときに目的化してしまうことがあります。たとえば、営業であれば顧客の課題解決のため、商品やサービスを提案することが本来の仕事であるのに、契約数を競い、顧客へのケアが不十分になってしまうといった感じです。
仕事でなくても、評価の目的化は往々にして発生します。SNSで注目を集めようと、店舗に迷惑行為を行う動画をアップするといったことも、承認欲求のいびつな発露といえます。
友人や同僚など人間関係に悪影響をもたらす
承認欲求の強い人は、さまざまな形で自己アピールを行います。良い成果を収めたとき、SNSに投稿するというのも自己アピールの一つです。また、アピールするのは良い評価とは限りません。他者からの言葉がほしいばかりに、不安な内面を吐露するのも、承認欲求の表れです。
たとえば、まったく成果が出ない物事に対して「私なんてどうせダメなんだ」というネガティブな呟きを行うことは、珍しくありません。それに対し、周囲の人は優しさで慰めたり、励ましたりしてくれるでしょう。しかし、このような方法で他者からの承認を引き出す方法に慣れてしまうと、「あの人はいつも愚痴を言う」などネガティブな評価をされてしまう可能性もあります。
日常生活で承認欲求を満たす方法
過剰な承認欲求は、感情を振り回し時に悪影響を与えますが、「認められたい」と思う欲求自体を抱くのは自然なことです。承認欲求とうまく付き合うことで、やる気を引き出したり、メンタルを安定させたりできます。以下に、承認欲求を満たすための方法をご紹介します。
インターネットの世界から離れてみる
インターネットの世界は、過剰な承認欲求に溢れています。「いいね」の数ひとつ違うだけで、「自分は他者からは求められていない」と落ち込んでしまう人も、けして少なくはありません。
エネルギーに溢れているときは、発信の方法の一つとしてうまく活用できるインターネットでも、落ち込んだ気分のときは、暗い気持ちにさらに追い打ちをかけてしまうことがあります。なんとなく元気がないときなどは、意識してインターネットの世界から離れてみましょう。
おいしいものを食べたり、部屋をきれいに整えたり、現実世界の環境を満たすことが、自分の存在を認める一歩につながります。
小さな成功を認めてあげる
他者からの評価のハードルを、自分自身で引き上げてしまうことがあります。たとえば、同僚が仕事について誉めてくれたのに、「私が評価されたいのは、もっと上の上司だ」と、同僚の誉め言葉に耳を傾けないのがその例です。
大きな目標を追い求めるあまり、それよりも小さな他者からの評価を切り捨ててしまい、結果としていつまでも満たされない状況が続きます。周囲の言葉に耳を傾け、さりげない評価を見落としてしまわないようにしましょう。
自分のやりたいことを満たす
自己肯定感を高めることも、承認欲求を満たすことにつながります。また、一方ではうまくいかなくても、別の場所で評価されることで承認欲求が満たされ、自信がついて全体の歯車がうまく回り始めるということもあります。
仕事でうまくいかない日は、趣味で楽しむ時間を持ちましょう。落ち込んでしまったら、自分のためにおいしい料理をつくってみるというように、気分転換の方法を身に着けておきます。やりたいことがわかっており、それを自分で満たすことができれば、他者の評価にすべてをゆだねなくても、自分の存在を認められるようになります。
本当の自分を出してみる
たとえ他者からたくさんの評価を得ていても、それが本当の自分の姿でなければ、承認欲求が満たされるどころか苦しくなってしまいます。SNSでキラキラした一面だけを見せ続け、たくさんの「いいね」を獲得しても、どこか満たされない気分になってしまうのは、「本当の自分を見せたら嫌われるかも」という恐れが消えないからです。
他者との関係性において、誰もが「否定されたくない」という恐れを抱いています。しかし、作った自己で取り繕うのではなく、本心や思っていることを少しずつ表に出していくことで、「周りは受け入れてくれる」という経験を積むことができます。自分の内面を認められた経験が、承認欲求の充足につながります。
仕事における4つの承認欲求
仕事をする上で、承認欲求はどのような形で表れるでしょうか。「認められたい」「評価されたい」という感情は、以下のようなシーンで表れます。
仕事で成果を出し認められたい
まず代表的なのは、「成果」に対する欲求です。営業目標を達成し、職場のエースとして認められたい。コンペで勝って、大きな契約を取りたい。コンテストに入賞して、周囲をアッと驚かせたい。
成果を出すことで他者が評価してくれると考えます。このとき、承認欲求が満たされる度合いは、その人が成果に抱く期待値によっても変わります。
能力があると思われたい
成果に関係なく、能力がある人だと評価されたいというのも承認欲求の一つです。たとえば、社運をかけたプロジェクトメンバーに選出されたら、うれしいと思うのではないでしょうか。このように、「仕事ができる人」と他者から認識されている状態が、承認欲求の充足につながります。
上司・部下から信頼されたい
職場の人間関係においても、承認欲求は関係します。上司や部下から信頼されているという実感により、「自分の存在が認められている」と思えるのです。仕事で成果を出すだけではなく、人材育成に携わるなどという過程で、こうした信頼を得ることができます。
取引先から褒められたい
仕事で大きくかかわる、取引先からの賞賛や信頼が承認欲求を刺激することもあります。顧客からの感謝の言葉が、仕事のやりがいになるというのは、そのパターンです。よい成果を出せば、顧客に満足してもらえる。それにより、自己肯定感やモチベーションが高まるといった良いサイクルを生み出します。
承認欲求を満たす社内制度
社内制度への工夫も、社員の承認欲求を満たすためには重要です。さまざまな働きかけが、働きがいある職場作りにつながります。
目標管理制度の導入
目標管理制度は、会社の方針と本人の希望をすり合わせ、一定期間ごとに設定した目標に対する実績をもとに評価を決める管理制度です。設定される目標は、測定できるよう数値化されたものが多いため、成長を実感できます。
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ピアボーナス制度の導入
ピアボーナスとは、従業員同士で報酬を送り合う仕組みのことをいいます。アプリや社内システムを通じ、感謝や評価を送り合うことでポイントがたまります。たまったポイントは、会社が設定した特典と交換が可能です。
他者からの評価が可視化された仕組みといえるでしょう。
人材育成制度の充実
会社から期待されている実感や、成長できている感覚は、承認欲求を満たし自己肯定感を高めます。キャリアに応じた研修が選択できるような、人材育成制度の充実を図るのも、承認欲求の充足につながる取り組みです。
目標管理制度とうまく連動できれば、社員はより働きがいを感じられるでしょう。
社員が承認欲求を満たせる制度を構築しよう
「認められたい」という感情は、人が自然に持つものです。承認欲求とうまく付き合い、原動力に変えられるような仕組みがあることで、人はイキイキと働けるようになります。
社員にもっと働きがいを感じてもらいたい。元気がない社員を応援したい。そうした気持ちがある場合は、承認欲求を満たせるような制度を構築したり、社員との接し方を変えてみたりするのがいいでしょう。
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