バリューチェーンとは、企業が生み出す価値が顧客に届くまでの流れを表したものです。バリューチェーンを理解することは、企業の競争優位性を高め、事業を成長させることにつながります。
本記事では、バリューチェーンの意味や分析方法について、企業事例を用いながら解説します。
バリューチェーンとは
バリューチェーン(Value Chain)とは、自社の価値を顧客に届けるまでの流れを、「つながり」として捉える考え方です。「価値連鎖」ともいい、原材料の調達から顧客に提供するまでの流れを、一つ一つ分類したうえで、つながりとして考えます。
バリューチェーンを分析することで、事業活動が自社の価値創出にどのように影響を与えているのかを理解することができます。プロセスごとに生み出される価値を明確にし、自社の強みや弱みの把握に適しています。
バリューチェーンとサプライチェーンの違いとは
バリューチェーンと似た言葉に、サプライチェーンがあります。この二つの大きな違いは、バリューチェーンが「価値」に注目しているのに対して、サプライチェーンが「原材料」に注目している点です。
サプライチェーンとは、原材料が加工され消費者の手に製品となって届くまでの一連の流れを表したものです。「共有連鎖」とも呼ばれます。自社だけで完結しているわけではなく、「1次原材料業者」「加工業者」「卸売業者」など、複数の業者をまたぐのが一般的です。それに対して、バリューチェーンは1つの企業内で完結します。
別のものに焦点を当てていますが、価値の創出とサプライチェーンは無関係ではありません。バリューチェーンを考える際は、サプライチェーンについても理解し視野に入れる必要があります。
バリューチェーンの企業事例
自社のバリューチェーンを構築することは、経営戦略上、注力するべきポイントを明確にし、他社との差別化を図る効果があります。以下に、効果的なバリューチェーンを用いている企業の事例を2つご紹介します。
開発からアフターサポートのバリューチェーンでコストを最適化|コニカミノルタ
コニカミノルタは、2020年度の中期計画以降、メーカー型ビジネスからソリューション提供型ビジネスへの転換を測っています。そのなかで、「研究開発」「調達」「生産」「物流」「営業・販売」「アフターサポート」のバリューチェーンを構築。それぞれにコストの最適化や人事施策など、創出するバリューを分析しています。
ただ作ったものを売るだけでなく、営業・販売、アフターサポートのバリューを明確にすることで、顧客のニーズや課題を汲み取り、顧客密着型の販売・サポート体制を強化しているのです。
小売業の流れを変革したバリューチェーン|ユニクロ
ユニクロを展開するファーストリテイリングのバリューチェーンは、従来の小売業には珍しかった「製造」を組み込んでいます。既製品を仕入れて販売するのではなく、自社で商品企画、素材開発、製造、販売・マーケティングまでの一連の流れを請け負うことで、他社とは違う価値を顧客に届けています。
とりわけ、ユニクロの強みは「マーケティング」と「販売機能」と言われています。人気の商品を分析し、自社製造で大量生産することにより、価値の高い商品を手ごろな価格で消費者に届けることができるのです。
バリューチェーン分析とは
バリューチェーン分析とは、フレームワークを用いて自社のバリューチェーンを分析する手法のことをいいます。事業を、「主活動」と「支援活動」にわけ、どの工程で付加価値が生み出されているのかを分析するために使われます。
主活動には、価値を届けるまでの一連の流れが該当します。製造業では、主に「商品企画」「資材調達」「製造」「物流」「購買・マーケティング」「アフターサポート」といった工程が該当します。
支援活動とは、主活動をサポートするための取り組みをいいます。主に、「全般管理」「技術管理」「人事管理」「調達」といった、組織の間接部門での働きがそれにあたります。
たとえば、コニカミノルタの「研究開発」から「アフターサポート」までの一連のバリューチェーンは「主活動」に該当します。そして、主活動のそれぞれの工程で「品質向上施策」「環境施策」「人財施策」「コスト施策」の支援活動を定めています。
バリューチェーン分析は、企業の価値の流れを明確にし、強み・弱みを把握できます。ユニクロのように、これまでのビジネスモデルにはないバリューチェーンを構築し、他社との差別化や、市場での競争力強化に役立つものです。
近年では、DX化(デジタルトランスフォーメーション)の流れを受け、DXを踏まえたバリューチェーン分析が登場しています。
バリューチェーン分析の目的
バリューチェーン分析は、自社の状況を把握することで、経営戦略や事業戦略に活かすことを目的としています。
バリューチェーンで把握できる状況は、大きくわけて「コスト」と「強み・弱み」の2種類があります。バリューチェーン分析を行うことで、各工程で発生するコストを把握することができます。無駄なコストを浮き彫りにし、コスト削減を検討する際に有効です。
同時に、自社ならではの強みも明らかになります。たとえば、自社のバリューチェーンを洗い出したあと、他社のバリューチェーンと比較します。それにより、価値を創出するにあたって、どのような違いがあるのかを分析することが可能です。今後どのような工程を改善するべきか、どのような方向に注力するべきか、戦略を組み立てることができるようになります。
バリューチェーン分析は、自社の価値の作り方を理解し、競合との差を把握することで、注力するべき場所や改善点を明確にすることができるのです。
バリューチェーン分析の方法
バリューチェーン分析は、以下の4つのステップで行います。
- 自社のバリューチェーンの洗い出し
- コスト分析
- 強み、弱みの分析
- VRIO分析
自社のバリューチェーンの洗い出し
自社のバリューチェーンの洗い出しでは、事業に関わるすべての活動をリストアップするところからはじまります。具体的な活動を、「研究開発」「製造」といったバリューチェーンの工程にあてはめていきましょう。このとき、業界の標準的なバリューチェーンを参考にすると、洗い出し作業がはかどります。
コスト分析
リストアップした活動ごとのコストをリスト化します。工程ごとにコストをまとめることで、何にどれだけの費用がかかっているのかが把握できます。コストをリスト化したあとは、「価格を高めることにつながる活動」「コストを下げることにつながる活動」を洗い出してみましょう。それにより、適性コストのための取り組みを明確にすることができます。
強み、弱みの分析
構築したバリューチェーンにおいて、価値を創造するために重要な活動をみつけましょう。自社内で重要だと思われる活動が、すなわち企業の強みとなります。強みは一つだけとは限りません。この分析にあたっては、一人で行うのではなく、複数の意見を参考にすることも重要です。
また、他社のバリューチェーンとの比較により、強み・弱みの把握が行いやすくなります。
VRIO分析
バリューチェーン分析の最終段階では、VRIO(ブリオ)分析を行います。VRIO分析とは、「Value(価値)」「Rarity(希少性)」「Imitability(模倣可能性)」「Organization(組織)」という項目において、自社の内部資源の有効可能性を判別するものです。
バリューチェーン分析の例
ユニクロのバリューチェーンをもとに、「強み」の分析について見てみましょう。
商品の企画と素材開発
ユニクロのバリューチェーンは、従来の小売業とは異なり、商品開発・素材開発に重きを置いています。ただ単に「世間で支持されるデザインの商品」を作るだけでなく、新たな時代の素材と組み合わせた商品を生み出すことで、他社にない価値を創り上げているのです。
たとえば、近年爆発的なヒットとなった「ヒートテック」がその一例といえます。ヒートテックの開発では素材開発メーカーと協業し、保温性や保湿性、伸縮性や薄さに優れた素材を数年がかりで開発しました。
ヒートテックの発売は2003年ですが、ヒットとして人気を得るには4年ほどの月日がかかっています。この間、ユニクロは販売実績や店舗からの意見、世界のトレンド情報などを分析し、商品開発に盛り込むことで、改善を続けていました。世間から支持されるヒット商品の裏には、年月をかけた商品企画と素材開発があるといえます。
店舗運営
ユニクロは、店舗で「ヘルプ・ユア・セルフ方式」を採用しています。これは、顧客が希望したときにだけ商品案内や接客を行うというものです。顧客が気軽に商品を選ぶことができる上、接客の負荷を軽減できるメリットがあります。
こうした形式を店舗で成功させるには、商品情報が顧客に行き渡っていることが不可欠です。また、店舗の作りはわかりやすいものであり、商品陳列も視覚的に判断できるなど工夫が凝らされていなければいけません。
ユニクロは、チラシやTVCMなどの販促と連携し、目玉商品や特定の商品を売り場でも分かりやすく陳列することで、ヘルプ・ユア・セルフ方式を可能としています。
マーケティング・販売
TVCMを活用したユニクロのマーケティングは、特定の商品を消費者に届けることを可能にしました。また、著名人がベーシックなユニクロの服を着ることで、「人そのものの個性」というユニクロが提供する価値を体現しています。
人事管理
明確な店舗の人事管理も、ユニクロのバリューチェーンを支えるものです。店舗では、店長、スーパーバイザー、ブロックリーダー、スター店長、スーパースター店長など、各ポジションが設けられています。
給与は店舗の売上と連動し、それぞれのポジションに応じた自発的な活動を促しています。店舗が事業の利益を創出する要であるという認識のもと、ビジネスマンとして優秀な人材の育成に力を入れているのです。
バリューチェーン分析と合わせて実施したい分析方法
事業の強みや弱みを把握し、経営戦略に生かす分析にはSWOT分析や3C分析などさまざまなフレームワークがあります。下記に、代表的な分析手法をご紹介します。
SWOT分析
SWOT分析とは、企業の外部環境と内部環境を分析するためのフレームワークです。強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、企業を取り巻く外部環境における機会(Opportunities)、脅威(Threats)を洗い出し、企業の戦略立案に役立てます。
自社の状況を適切に把握し、外部環境を含め競合他社との比較を行うことで、市場で優位に立つための戦略を打ち出すことができます。
3C分析
3C分析とは、マーケティング環境を分析するためのフレームワークです。顧客・市場(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの視点から分析を行います。市場に価値あるものを届けるために、顧客のニーズを探り、競合の強み・弱みを分析し、自社との関係性を明確にすることで、マーケティングにおける成功要因を探ることを目的としています。
3C分析は、ミクロ環境分析としてSWOT分析の外部要因を洗い出す際に活用できます。
4P分析
4P分析とは、市場における競争優位性を確保するために、販売する製品や価格帯、支払方法、流通方法、販促方法を定めるために活用するものです。Product(製品)、Price(価格)、Place(場所)、Promotion(販促)という4つの分野でのマーケティング具体策を分析し決定します。
製品コンセプトの見直し、価格帯の再検討、流通経路の最適化、販促方法の立案で活用できます。
バリューチェーン分析で企業の強みを生かそう
バリューチェーン分析は、自社の状況を適切に把握し、市場での競争優位性を高めるために活用できます。他社にはない独自性を打ち出したり、企業の経営戦略を見直す際に活用したりできるものです。
バリューチェーン分析とあわせ、そのほかのフレームワークを理解することで、コストの最適化や事業成長につなげることができるでしょう。
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