HRBPとは?人事やCHROとの違い、役割、必要とされるスキルなど紹介

大企業を中心にHRBPという役割を果たす名称を見る事も少なくないのではないでしょうか。HRBPは事業を遂行する人に焦点をあて、人事視点から貢献をはかる組織機能です。欧米を中心に発展し一度は衰退しましたが、今また脚光をあびています。

本記事ではHRBPの意味、CHRO・人事との違い、必要とされる背景、役割、必要なスキル、導入のポイント、企業事例を紹介します。

HRBPとは

HRBPとはHuman Resource Business Partner(人的資源ビジネスパートナー)の略で、人事の視点からビジネスへの貢献をはかる組織機能です。HRBPはアメリカが発祥で、日本でも外資系企業を中心に広がりを見せ、今では大手の日系企業がHRBPを設置するのはめずらしいことではありません。

HRBPの役割はビジネスを遂行する事業部門における人事戦略の構想を立て、人事的観点で改善に向けアドバイスを行う役割です。事業部長と従業員との間に立って両者間の意見や情報を吸い上げ、社員へは説明やアドバイスを、事業部長には情報提供と提言を実施します。

HRBPとCHROの違い

CHRO(Chief Human Resources Officers)は、日本語で「最高人財責任者」を指す言葉です。経営陣の一員として人事関連の業務やチーム統括に最高の権限を持ち、社内人材の活用や採用・人員配置に責任を負うポジションです。

以前は、主に外資系企業における肩書でしたが、近年では国内でも登用する企業が増えています。また、「最高人事責任者」を意味するCHO(Chief Human Officer)という言い方もありますが、ビジネスシーンではほぼ同義の言葉と考えて問題ありません。

HRBPと人事部の違い

人事部は企業で社員の採用、研修、人事評価制度の設計・運用、労務管理を担当する部門です。企業の重要な資源であるヒトにまつわる管理業務を行います。経営戦略に人事戦略を合わせて立案し、採用計画や必要な仕組みを立案・運用する役割を負うでしょう。

HRBPがひとつの事業部門に対して一人担当がつくのに対して、人事部は部門が企業全体の人事関係の仕事をします。HRBPとは組織形態が違うことと、またミッションも、事業部門の上下間で発生する事柄について取り組むためアプローチや業務内容にも違いがあるでしょう。

HRBPが必要とされる背景

それではなぜ今HRBPが必要とされているのでしょうか。人口減少により優秀な人材の確保がますます難しくなる中で、企業間で人材の取り合いが激化しています。企業は如何に離職率をさげ、社員がパフォーマンスを上げて働ける環境を提供できるかが課題です。

また、人の価値観が多様化する中で、集団に対して同一的な方法ではなく、個別へのアプローチが有効となってきています。HRBPは部門ごとに配置されるため、現場に最も近く人事機能を発揮できます。人材の離職防止に向けた情報を最速で入手でき、個人に対してアプローチ可能です。

これまで人事部全体の管轄では、個人的なところでの気持ちや考えの変化が把握しきれず、気が付いた時には離職の意向が強い状態で防止できないというケースが多かったでしょう。全体から個へとアプローチが変わる中で、HRBPは個人に対してアプローチできるという点で、再度価値が見直されてきているのです。

HRBPの役割

それでは具体的なHRBPの役割にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは大きく3つにわけて説明します。

人材戦略の決定

HRBPは事業部門の社員と事業部長との間で相互に情報交換しながら、人材の要員計画、採用、異動・配置の決定を行い、人材戦略を立てます。

業績シナリオ別の人員・人件費の予測、事業部門が管轄するビジネスニーズを踏まえた求める人材の提案、事業部門内の戦略的ローテーションの提案、人員増減のための具体的な施策提案・実行などです。

人材のエンパワーメント・離職防止

事業部門内の人材のエンパワーメントを促し、離職防止のために業務を行うのもHRBPの役割です。中長期的視点による選考での応募者の惹きつけ、企業側・本人側のキャリアニーズの把握・提言、長時間労働者のヒアリング・改善提案、本人のニーズを踏まえた業務アサインや教育の提案、評価結果・処遇案のチェックと修正提言。

事務業務

OPEという部門人事が下層に設置されていない場合には、上記役割に付随して、事務的な業務もHRBPの役割となります。人員数の管理、候補者レジュメのスクリーニング、異動者情報の整理、研修における事務局業務、評価結果・処遇の取りまとめなどです。

ただ、日本のHRBPの場合、こちらの事務業務が、他の役割のための仕事を圧迫していることも少なくなく、OPEを設置する場合にはこちらの役割はすべてOPEに移してしまった方がよいでしょう。

HRBPに必要とされるスキル

人事をつかさどるHRBP。実は人事の深い専門知識よりも重要視されるスキルがあります。ここでは、HRBPに必要とされるスキルを紹介します。

事業部門のビジネス知識

HRBPは事業部門で展開しているビジネスについての知識が必要不可欠です。HRBPは事業戦略に必要な人材戦略を立てます。そもそもどのような事業展開を行っており、今後必要とされる情報・技術、仕事量、そこから想定される採用ターゲットの人物像、人数などが把握できなければ仕事になりません。

HRBPは人事部で通常必要とされる知識はベースとして必要となるものの、人事領域での深い知識よりも、事業部門のビジネス知識が必要不可欠なのです。

ビジネス構造への幅広い理解

事業部門のビジネス知識のみならず、幅広い領域でビジネス構造を把握しておく必要です。ビジネス構造への幅広い知識、知見がなければ、長期的な事業展開を見据えた上で効果的な人事戦略を策定することができないからです。

また、ビジネスへの知見に長けていない場合、事業部長と対等に話をすることは難しいですし、実りのあるディスカッションも望めません。HRBPは経験や勉強などにより習得したビジネス知識の蓄積場所から、適宜必要な情報を引き出せることが大切です。

バランス感覚

HRBPはバランス感覚が非常に重要となるでしょう。事業部長と社員間の間に入って情報の収集、共有、提言を行っていく中で、さまざまな情報をもとに客観的な目線でそれぞれの立場の人と接することが必要とされます。

話をする中では、客観的な事実を基に報告している情報と、感情が混ざった状態での情報、ただ単に感情を受けとる場合など、さまざまなケースがあります。それらの情報をどの情報なのか把握している上で、共有内容やアドバイスの内容などを決めコミュニケーションすることが求められるのです。

そのため、HRBPは偏見や主観によって偏りやすい人には向いておらず、バランス感覚の優れた人が適任でしょう。

知的好奇心

物事に対して知的好奇心が旺盛なこともHRBPに欠かせません。
近年は特にですが、ITの劇的な進化に伴いスピーディにビジネス環境の変化、複雑化が進む中で、スピード感をもって情報収集する姿勢が必要となりました。現状維持に満足せずに新たな情報を取り入れたいという好奇心の旺盛さは、HRBPは持っておきたい特性でしょう。

HRBPの導入のポイント

それではHRBPの導入のポイントを見てみましょう。

ミッションの明確化

まずは、HRBPをなぜやるのか、関係者へのミッションの明確化が必要です。HRBPが欧米と比較して日本で失敗しやすい理由のひとつとして、事業部門においてどのようにHRBPにどのような役割を担ってもらいたいかがわからない、もしくはないと考えるケースが少ないことが挙げられます。

HRBPがどのような役割を担い、何を達成するのか、そこからHRBPの体系的な情報の共有が関係者間に欠かせません。

人的なKPIの設定

人的なKPIを設定するのも効果的でしょう。離職率の低減の目標値や、エンゲージメントの指標設定など定めます。欧米では人的なKPIが明確に決められていることが多いですが、日本では事業部門とのミッション共有が不足していることも原因となって、人的なKPIを設定するところまでなかなかいきません。

そして、事務的な仕事がHRBPのメインの仕事となってしまい、役割を発揮できないということが起こっています。人的KPIを明確にし、その上で事業部長から人事に対する情報や施策のニーズをヒアリングするとよいでしょう。

職務資格等級と評価の連動

日本では従来から職能資格等級制度が活用されており、仕事内容の明確化とそれに対しての実績と等級・報酬とが切り離されてきました。一方、欧米では職務資格等級制度をベースとして職務記述書に自分の仕事の範囲が明記されており、その遂行状況から職務評価が行われます。

こちらの仕組みの方が、HRBPがすべき仕事および権限がはっきりするため、HRBPの運用が上手くいきやすいでしょう。日本ではまだ一般化されていない、わかりにくいHRBPの仕組みを、事業部門に周知する根拠としても職務記述書は活用できます。

HRBPの企業事例

実際にHRBPを制度に取り入れている企業は、どのように運用しているのでしょうか。ここでは、カゴメ株式会社のHRBPの事例を紹介します。

カゴメ株式会社の事例

カゴメ株式会社(以下、カゴメ)は2017年度よりHRBPを導入し、2020年8月現在で営業部門、生産調達部門、その他全般の各パートに1名ずつ計3名の社員がHRBPを担っています。2008年時点での体制では、カゴメは人事異動や昇格を各事業で管轄しており、人事部は基本的にそれを取りまとめる役目を担っていました。

これにより専門性のある人材を育成することには成功しましたが、部門を超えた人事異動はほとんど発生せず、事業部を超えて経営的な視点を持ったゼネラリストの育成に課題を抱えていました。

そこで、CHO(最高人事責任者)の下にHRBPを配置し人事部長と同格にし、事業部門から切り離しを行いました。社内に浸透しやすいようHRBPではなく「人材育成担当」という名称にし、HRBPが板挟みの御用聞きにならないよう、経営側にも現場にも寄りすぎないブリッジの役割としての運用を図っています。

参考:DIAMOND online「事業部人事(HRビジネスパートナー)の役割は、経営と現場をつなぐこと」

HRBPを企業の成長に活用しよう

HRBPは事業部門を管轄するため、個人ベースで収集した情報を人事に活かすことができるメリットがあります。HRBPを上手に運用できれば、社員の離職率の低下や、エンゲージメントの向上、戦略的な人事の計画・実行が見込めます。ビジネスの要であるヒトが社内で十分に力を発揮できるよう、HRBPの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

参考:KPMG「Future of HR 2020」

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