認知的不協和とは?理論や分類、ビジネスにおける具体例、克服方法など紹介

認知的不協和という心理は、ビジネス上でも知っておきたい概念です。

認知的不協和とはある事柄について、矛盾した知識を持っている状態を意味します。そして、認知的不協和な状態の人間は不一致を低減させるための行動を起こしやすいため、ビジネス上で発生する行動においても影響を及ぼすのです。

今回は、認知的不協和の意味、理論、低減方法、具体例、ビジネスにおける具体例、克服方法、活用方法など紹介します。

認知的不協和とは

認知的不協和とはアメリカの心理学者レオンフェスティンガーが提唱した理論で、ある事柄について矛盾した、相反する知識や認知を持った状態を指します。

認知的不協和の状態では矛盾への不快感から心理的な負荷が大きくなり、その結果、不協和を低減させようと考え行動を起こす傾向が高まるのです。

認知的不協和は、一貫性・正当性を求める動機付けが、人間の認知や行動を変化させるため、心理学の発展にも大きく寄与した理論だと言われています。

フェスティンガーによる認知的不協和の理論とは

それでは、アメリカの心理学者レオンフェスティンガー(以下、フェスティンガーと呼ぶ)が提唱した認知的不協和理論とはどのようなものなのでしょうか。フェスティンガーは、認知的不協和はごく日常的に生じる事象だと言いました。

まず、認知的不協和は新しい事象が起こったり新たな知識を習得したりした際に、既存の知識との差が発生し、少なくとも一時的には発生するでしょう。

また、認知的不協和は日常的に発生する小さなことに対しての判断でさえも白と黒はっきり明白に一方であると認知できる状態はきわめて稀です。そのため、認知的不協和は大なり小なり、誰しも日常的に遭遇している事象と指摘したのです。

フェスティンガーによる認知的不協和理論の実証実験

フェスティンガーはカールスミスと共に強制応諾に関する実験を実施し、認知的不協和理論のメカニズムを説明しました。まず、被験者を2つのグループにわけ、両グループに60分間ごく退屈なつまらない作業を実施させました。そして、一方のグループには作業の対価として1ドルと低額な報酬を条件とし、もう一方のグループには20ドルと高額な報酬を条件としました。

そして、実験の終了後に、「次の実験参加のために待っている参加者がいるので、実験は面白いという予期を抱くように、その人に自分の経験を説明して欲しい」と指示しました。実際には非常につまらない作業であったにもかかわらず、実験が面白かったと説明せねばならず認知的不協和が発生している状態です。

実験の結果、各被験者に「課題の面白さ」「科学的な重要性」など印象を確認したところ、報酬額1ドルのグループの被験者の方が高く評価する傾向がありました。これは、酬額20ドルの高いグループについては「報酬が高かったから」という不協和を低減させる要素があったのに対して、1ドルのグループの方は報酬で不協和を低減させることができなかったため認知的錯覚が発生したと考えられたのです。

参考:青森公立大学  阿部敏哉教授「フェスティンガーの認知的不協和理論に 関する一考察」

株式会社星和ビジネスリンク 中小企業診断士「自己の一貫性と正当化が引き起こす錯覚」

認知的不協和の2つの低減方法

認知的不協和を低減させるためにはさまざまな方法がありますが、ここでは代表的な2つ方法を紹介します。

すっぱいぶどう

一つ目は、認知的不協和に直面した場合に、認知を変えて自分の行動を正当化することで認知的不協和の低減を図る方法です。この認知的不協和の低減方法の具体例として有名なのがイソップ童話「酸っぱい葡萄」の物語が挙げられます。ある日、主人公であるきつねは美味しそうに実ったぶどうを見つけました。

食べようとしましたが、ぶどうはきつねの届かない高い場所に実をつけていたため、手に入れることができず食べるのをあきらめることに。

きつねは「どうせこんなぶどうは、すっぱくてまずいだろう。誰が食べてやるものか」と認識を変えました。「おいしそうなのに食べられない」という不一致を「まずいだろうから食べなかったのだ」と考えることで、矛盾する気持ちを解消しようとしているのです。

甘いレモン

二つ目は、認知的不協和に直面した場合に、選択した方に価値があると正当化することで認知的不協和の低減を図る方法です。すっぱいぶどうと共に紹介されやすい話に「甘いレモン」があります。甘い果実を食べたいと思っている状況下で、甘い果実が手元になく、レモンしかありません。

その場合、「甘くておいしい果実がない」という現実と、「すっぱいレモンしかない」という現実が相反するでしょう。これにより、「このレモンは甘い」と認知をゆがませることで、認知的不協和を低減するのです。

参考:錯思コレクション100「合理化すっぱいぶどう」

認知的不協和の具体例

ここでは、実際身近にある認知的不協和の具体例を3つ見てみましょう。

タバコを吸う

喫煙者が、タバコが健康上有害であることを知っていながら、タバコを吸うことは認知的不協和の代表的な例です。

この不協和を低減させるために喫煙者がタバコを吸う行為について、「タバコを我慢すると逆に体に悪いから」「自分は健康を害するほどタバコを吸っておらず、適度にたしなむ程度だから」「現状健康診断でまったく問題がないから」「タバコを吸うことが人生の楽しみだから」などと自分は正当性をもってタバコを吸っているという考えになる傾向があります。

恋人と別れられない

付き合っている恋人に対して、「暴言を言う」「お金にだらしがない」「価値観が合わない」など自分にとって決定的に許せないと思う点があるとわかっていながら別れられない、付き合いを続けてしまう場合にも認知的不協和が働いています。

恋人に対して好きという気持ちがあるのに、イヤな部分があるという認知的不協和に対して、「彼を好きなのだからイヤなところがあっても仕方がない」と正当化してしまいやすいのです。

また、例えば恋愛感情を抱いていないとしても「周りから恋人がいると思われたい」と思っているような場合にも、別れたい要因があるにもかかわらず認知をゆがめて恋人関係を続ける動機となりやすいでしょう。

ダイエットに失敗する

太りすぎて痩せたいと思いながらも、ついつい食べすぎてしまいダイエットに失敗する際にも認知的不協和は働いています。

例えば、ダイエットをした方が健康の面でも自分が求めるスタイルの面でもよいのでバランスの良い食事を適量摂取した方がよいとわかっていながら、ジャンクフードが好きでたくさん食べたいという矛盾した気持ちが発生しているのです。

その場合、「少量なら食べてもよいだろう」「我慢のしすぎは逆にダイエットを失敗させる」「今日は特別な日だから」など食べることを正当化する理由付けを行い、結局ダイエットに失敗するということが起こりやすいでしょう。

ビジネスにおける認知的不協和の具体例

認知的不況は日常的に誰であっても起こることであり、ビジネスシーンにおいても行動の動機になっている場合が少なくありません。ここでは、ビジネスにおける認知的不協和の具体例を紹介します。

上司に意見を言えない

仕事において自分の意見を述べ仕事を進めていく必要があることを理解していながらも、上司という存在が自分を評価する人間であり下手なことを意見しては自分の評価が下がる可能性があるという認知的不協和は起こりやすいです。

そのため、仕事上必要とされていると思いながらも、自分の意見を言えず、上司の意見に合わせてしまうということが少なくありません。この認知的不協和を解消するために、「上司は自分よりも経験豊富で意見は正しいに違いない」「自分の意見より優れている」などと認知を歪めやすいでしょう。

適正な人事評価ができない

企業であれば必ず実施される人事評価についても、認知的不協和は関与しやすいでしょう。例えば、上司が人事部に対して「こういった条件の人材がほしい」と依頼した上で、入社した人材の評価を行うとしましょう。

そうする場合、上司の中では「自分が必要と思ったことは正しい」と思いたいが働きます。そのため、公平公正に見た場合にそこまで高くない職務態度や実績だったとしても、認知が歪んで高めに評価してしまう可能性が高まるのです。

同僚との関係性が良くない

仕事における悩みでいつの時代でも上位に位置するのは職場の人間関係ではないでしょうか。同僚との関係性においても、認知的不協和は影響しやすいでしょう。上下関係が発生しない同僚であったとしても、ピラミッド型の組織においては自分の評価が誰よりも上か下かを意識する瞬間は多いです。

例えば、自分はこのような実績を上げており評価されるべきと考えていても、現実では同期の方が評価され出世した場合も、認知的不協和は発生します。

この場合、自分よりも同僚が評価されている現実に対して、「本当は能力がないのに上司に気に入られているから」と思い込もうとするなど認知の歪みが起こりやすいです。その結果同僚との関係性が良くないなどの事象の一因となるでしょう。

認知的不協和の克服方法

このようなビジネスシーンで発生する認知的不協和に対して、認知の歪みを発生させないようどのようなアプローチをとればよいのでしょうか。ここでは、認知的不協和を克服する方法を3つ紹介します。

ホラクラシー型の組織を目指す

従来からあるピラミッド型の組織ではなく、社員それぞれが役割を基に上下関係を発生させずフラットな関係を築く組織をホラクラシーと呼びます。ホラクラシー型の組織を目指すことで、上下関係を意識した認知的不協和が起こりにくいので、上司や同僚との関係性やコミュニケーションにおいて認知的な歪みが発生しにくいでしょう。

公正公平な人事評価制度を構築する

公正公平な人事評価制度を構築することも、認知的不協和により歪んだ人事評価を生まないために有効です。日本は従来からある年功序列をベースとした人事評価制度が未だに多い傾向があり、評価者の主観による評価の不公平さが指摘されています。従来からの人事評価制度では、評価基準があいまいで認知的不協和は起こりやすいです。

人事評価制度を人的な要素に依存しない、仕事役割、報酬と結びついた評価方法・基準の見直しが必要でしょう。

人事評価制度の再構築についてはあしたのチームまで、ぜひご相談ください!

ピアボーナス制度などコミュニケーションを活発化する

職場での人間関係における認知的不協和を低減するためには、コミュニケーションを活発化させることも有効です。

コミュニケーションが不足した中で認知的不協和から認知の歪みが発生した場合、相手に対して一方的にマイナスな感情を抱きやすいでしょう。ただ、日頃から活発にコミュニケーションをとってよい関係を築いている場合、相手への相反する認識が発生した場合であってもマイナス方向へは傾きにくいでしょう。

従業員同士が感謝や報酬を贈り合えるピアボーナス制度は、交流を活発化し相手のよい面を発見しやすい制度の一例としておすすめです。

ビジネスにおける認知的不協和の活用方法

認知的不協和はビジネスにおいて活用するという視点でも使用されます。ここでは、認知的不協和のビジネスにおける活用例を紹介します。

キャッチコピーに活用する

認知的不協和は商品をどのように広告するかという点において活用できます。例えば、キャッチコピーや商品名に「好きなものを3食たべて痩せるダイエット方法」など相反する内容にします。

すると、「ダイエットに成功するためには好きなものを我慢する必要がある」という認知に対して、ダイエットが成功するという認知的不協和をわざと起こさせることで、購入を促す手法です。消費者は本を購入することで、認知的不協和を解消しようとする傾向があります。

購買行動に活用する

認知的不協和は接客のシーンでも活用できます。例えば、消費者が商品を店舗で購入する場合に、店員によるコミュニケーションに認知的不協和を活用することが可能です。

服などを店舗で購入する際、店員が商品を複数提案し、その中から消費者が納得いく物を購入するシーンは少なくありません。顧客が購入において重要視している観点を把握した段で、相反する商品をおすすめすることで、認知的不協和を解消するために購入へと行動を移しやすいという活用方法があるでしょう。

認知的不協和のバイアスをビジネスに活かそう

認知的不協和はある事象に対して相反する認識を持つ状態を言います。認知的不協和による不一致の不快感・ストレスを解消するために、不協和の低減をはかる行動を起こす傾向があるでしょう。

認知的不協和は誰にでも日常的に起こっている事象です。ビジネスにおいても解消をこころみたり、活用できる考え方なのでぜひ、自身の仕事に活かしてください。

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