社員ひとりひとりの生産性や労働意欲を向上させる鍵として、「人間のマインドの全体像」を意味するマインドセットが注目されています。
その概念について聞いたことがあったとしても、実際にマインドセットの考え方を取り入れて、職場環境の改善につなげていく方法について悩んでしまう場合もあるでしょう。
今回はマインドセットに対する基本的な考え方や、企業内で取り組む際の具体的な方法について解説していきます。
マインドセットとは
マインドセットとは、これまで得てきた経験や受けた教育、個人の先入観、価値観、信念などによって形作られる思考や心理状態のことを指します。
また、社会の暗黙のルールやパラダイム(思い込み)など、自分でも意識していない要素もマインドセットの中に含まれる点を押さえておきましょう。
マインドセットは、人間の物事への判断・行動を決定する思考や心理は、1つの見方だけでは判断ができるものではなく、多角的な要素が合わさって全体像として形成されるという考え方が根底にあります。
なお、マインドセットは個人の思考についてだけを捉えるものではなく、企業という組織においても当てはまるものです。
マインドセットは企業組織にもある
企業にとってのマインドセットとは、いわゆる「企業の組織文化」に該当します。
企業の組織文化であるマインドセットを決定する要因には、大きく分けて下記3つの点が挙げられます。
- 商品やサービスの特性・事業特性
- 戦略・ビジョン・経営理念
- 企業が経験してきた出来事
1.商品やサービスの特性・事業特性
商品・サービスや事業の特性というのは、会社の組織文化に大きな影響を与える要素です。
例えばIT業界などサービスの変化・移り変わりが激しい業界においては、意思決定のスピードの早さが必要不可欠です。
この場合、必然的に長時間に及ぶムダな会議が無くなる、またストレートにリスクや意見を発言しやすいなど、商品サービス・事業自体が組織文化を形成することになります。
2 .戦略・ビジョン・経営理念
戦略・ビジョン・経営理念といった面では、自社の事業戦略や経営理念において最も大事にするものを追求していくなかで、いつしか組織文化として根付くといった点があげられます。
3.企業が経験してきた出来事
企業が体験してきた出来事というのは、成功体験もそうですが、不祥事などによって社会的な信用が失墜するといったことも含まれます。
そういった、成功・失敗を経験して、企業の文化は変化・形成されていきます。
いずれにしても、企業組織にとって「マイドセットを意識する意義」とは、自社の組織文化をマインドセットとして捉えることで、形成するひとつひとつの要素を点検・見直していくことにあるでしょう。
ビジネスで重要なマインドセットの2つの傾向とは
ビジネスの現場において社員のマインドセットを捉える際には、マインドセットを大きく分けて2つの傾向に分けます。
それは、「Growth Mindset(成長型マインドセット)」と「Fixed Mindset(固定型マインドセット)」です。
人間はどちらのマインドセットも当たり前に持っており、どちらだけというわけではなく、一方の傾向が強いか・弱いかで把握します。
本来はどちらが優れているというものではありませんが、ビジネスでは、成長型マインドセットに導いていった方が成果につながりやすいと言われています。
ここでは、この2つのマインドセットについて説明します。
成長型マインドセット
成長型マインドセットは、人間の基本的な能力や資質は努力次第で成長させることができるという思考です。
このマインドセットを養うと、学ぶことに意欲的であったり、新しいことにもどんどん挑戦したりする傾向があります。
また、困難にぶつかっても挫けずに、他人からの評価も甘んじて受け入れるなど、自らを成長させていくことに貪欲な面を見せるのです。
このように、成長型マインドセットは、忍耐力や柔軟性といった点でも優れた特徴が見られます。
固定型マインドセット
固定型マインドセットは、人間の能力や資質は固定的なものであり、努力などによって変わらないという思考です。
そのため、失敗を避けたり新しい物事に挑戦しようとしなかったりする傾向が見られます。
その一方で、自分自身が能力の高い人間であることを周りから認められたいという意識も持つため、周囲からの批判を素直に受け入れることができません。
物事がうまくいかないときは、環境や他人のせいにしてしまうといった面も見受けられます。
企業にとって社員のマインドセットが重要な理由とは
マインドセットは、個人が選択・行動をする際に、無意識化で根拠となるものです。そのため、社員のマインドセットは企業全体の生産性の向上にも影響を及ぼします。
つまり企業としては、いかに社員のマインドセットを活かしたり、導いたりしていくのかが重要となります。なかでもマインドセットを成長型に導けば、「社員が自身を持つ」「社員がキャリアを前向きに考える」「ポジティブシンキングが浸透する」といったメリットが得られます。
次にそのメリットについて具体的に説明していきます。
社員が自信を持つ
自分の努力次第で「スキルを伸ばせる」「今以上に成長できる」と考えるのが、成長型マインドセットです。そのため成長型マインドセットに導けば、社員が自信を持って行動できるようになります。
自信がつけば”目標にも前向きになる⇒努力と成功を重ねる⇒さらに自信が高まる”といった好循環を作れます。また失敗時にも「どうすれば成功できるか」「成功に向けて努力しよう」と考えられるようになるため、マインドセットを成長型に導くことは重要といえるでしょう。
社員がキャリアを前向きに考える
成長型マインドセットに導くことで社員に自信がつけば、それだけモチベーションも高くなります。その結果、より大きな責任や期待を負うことにも積極的になり、管理職への挑戦にも前向きなります。社員を成長型マインドに導くことは、組織の成長・強化につながるということを覚えておきましょう。
ポジティブシンキングが浸透する
それぞれの社員が成長型マインドセットを得れば、「頑張って目標達成を目指そう」「みんなで切磋琢磨していこう」というポジティブな考えが定着していきます。結果的に風通しのいい空気、明るい空気も定着していくでしょう。
また、みんながポジティブになることで、失敗を責めるよりも、成功に向かって一緒に進むことを重視する空気が生まれやすくなります。会社全体が前向きになるためにも成長型マインドセットは重要です。
成長型マインドセットへ近づく5つの方法
それでは、どうやって実際に社員の成長型マインドセットを養っていけばよいのでしょうか?
成長型マインドセットに近づいていくための方法に、定まったものはありません。
ただ、「具体的にどうやったらいいのわからない」という方のために、ここでは、一例として成長型マインドセットを養う具体的な方法・手順を紹介します。
1.企業の中での目標を定める
まず、社員を成長型マインドセットへと導いていくためには、社員に会社の中で果たしたい目標を立ててもらいます。
特に、その目標が個人の夢や人生の目標に沿っていればいるほど、仕事において成長マインドセットの傾向が現れやすいです。
実際に、成長型のマインドセットの傾向が強い人は、「夢が叶えられる」「会社や代表者の方針に共感した」など、自分の目標や方向性と、企業が掲げる経営理念や実際の仕事がマッチしている人が多いことも報告されています。
そのため、社員が自分個人の夢や目標について、会社の中で果たせる事について改めて考え、会社での目標を立てることがまずは重要なのです。
2.マインドマップを作成する
目標を明確にした後は、「その目標を実現させるために」をテーマにして、マインドマップを作成します。
マインドマップとは、紙の中心にテーマを置き、そこから発想されるアイデアや思考を放射線状に、枝のような線で結んでいくものです。
テーマから発想されたキーワード(幹)から、さらに連想されるキーワードをつなげていくことで、テーマに関する思考の全体像を表すことができます。
ただ、「目標を実現させるために」というテーマで幹を考えようとすると、漠然としていて発想が逆に出てこない可能性があるので、今回は、「能力・スキル」「ふるまい・習慣・行動」「意識・想い・人生哲学」の三つの要素を幹にして、その先の枝を作っていきましょう。
①能力・スキル
掲げた目標に対して、必要な能力やスキルが備わっているのかを確認すると同時に、足りない部分があるときには何が足りないのか思いつくままに書いていきましょう。
②ふるまい・習慣・行動
掲げた目標が大きなものであるほど、「ふるまい・習慣・行動」など日常的な行いの取捨選択がのちに大きな影響を及ぼします。
掲げた目標を達成するための「ふるまい・習慣・行動」について、現在できていることはあるか、どういったことが今後必要となってくるか整理しましょう。
③意識・想い・人生哲学
その目標を達成したい根底にある、「意識・想い・人生哲学」を改めて言葉にしてみます。
これによって、根底にある、自分の生き方や信念と目標とのつながりを意識すること、また自分でも意識していなかった想いが自分の中にあることの発見にもつながります。
3.目標を阻害しうる要因を加える
次に、作成したマインドマップを眺めて、「目標を阻害しそうな事」が思い浮かんだら、それを思い浮かんだキーワードの付近に書いていきます。
これが、次の「自分のマインドセットの傾向に気づく」につながりますので、思いつくままに、できるだけだくさん書きましょう。
4.自分のマインドセットの傾向に気づく
次に、「目標を阻害しそうな事」から、自分がどのような時に「固定型マインドセット」の方に傾くのか、自分が陥りやすい固定型マインドセットの傾向をつかみます。
実は、阻害されそうな要因への発想は、自分の過去の行動や、経験、価値観から導き出されます。
そのような自分の要素から思考される、目標達成を妨げる要因こそが、固定型マインドセット自体であると言えるのです。
目標達成を阻害されそうな要因をヒントにして、自分の固定型マインドセットがどのようなものか把握するようにしましょう。
5.日頃から固定型マインドセットを意識する
自分の固定型マインドセットを、文字にして具体化したことによって、同じような思考に陥っていないかを日常から気付くことができます。
まずは、普段から固定型マインドセットによって生み出される、行動や考え方を意識することからはじめてみましょう。
さらに、気付くことができたら、固定型マイドセットによる行動が現れた時に、成長型の方の思考を意識して、ポジティブな方向に向かうよう思考をチェンジするよう努めると、より効果的です。
成長型マインドセットに失敗する原因は完璧主義
マインドセットを変えるということは、このように、自分の意識や価値観といったアイデンティティと常に向き合うことでもあり、大変ですし自分の内面を変えることは簡単ではありません。
そのため、「成長型マインドセットの方に向かうよう実践してみたが失敗した」という声もよく聞きます。
多くの人が失敗する大きな要因には、「完璧主義」が原因として挙げられます。
そもそも、固定型マインドセットは、ビジネスの場では悪者のように扱われますが、アイデンティティの一部であることも確かで、それを完璧に成長型マインドセットにしなければならないと思う必要はありません。
ところが、「固定型マインドセットはなくした方がよいもの」と日常生活で固定型マインドセットを完璧になくそうと頑張りすぎるがゆえに、挫折し、失敗してしまうケースが多いのです。
はじめから完璧に成長型マインドセットにしようとするのではなく、自分が目標とすることを実現したいのなら、「ここは成長型マインドセットでポジティブに受けよう」など少しずつ継続的に実践することが大切でしょう。
自分が求める方向に行きたいがために行っているということを忘れずに、時と場合に応じて、柔軟に対応していくことが、結果的に挫折なく自分自身の成長につながっていきます。
マインドセットを定着させるためのポイント
マインドセットはすぐに定着するものではありません。次のようなことを意識的に繰り返して、徐々に定着を図るのが大切です。
■小さな成功体験を重ねる
成功体験を何度も経験することで、成長型マインドセットが定着しやすくなります。大きな成功経験を重ねようとすると、時間を要すだけでなく途中で挫折する可能性も高くなります。そのため、「1日のタスクを問題なくこなす」「1日の行動目標を達成する」「1週間の目標成約数を達成する」など、短期間で小さな成功を重ねることを意識しましょう。
■理想とする人とともに過ごす
尊敬する人物や、実際に成功している人物と過ごすと「自分もこうなりたい」「自分も努力しよう」という考えが身につきます。社内でリーグシップのある人物を各チームに必ず含める、ときにはその人物と社員でランチに行ってもらうといった工夫をしてみましょう。なお、先輩や上司となる人物は、周囲から一目置かれる立場になるためにも、日々の行ないや振る舞いに気を配っておく必要があります。
■先を見据え、常にミッションを意識する
ミッションを意識できるようになると、「将来こういう目標を達成したい」「会社の事業をこういう立場から支えたい」といった、少し先の未来に向けて意欲的に動けるようになります。会社としてどういうことをしていくのか、そのために何を達成していく必要があるのかなど、日頃から社員に伝えてミッションを意識してもらうようにしましょう。
■ポジティブな言葉を繰り返して潜在意識に訴える
業務中には「○○させて申し訳ない」「失敗したら困るからやめておこう」というネガティブな言葉ではなく、「○○してくれてありがとう」「一回みんなでやってみよう」といった、ポジティブな言葉を使用するようにしましょう。そうすることで自信が持てるようになったり、一度試してみる習慣が定着したりと、良い効果が得られるようになります。
企業におけるマインドセットの活用例
マインドセットは次のような場面で活用できます。必要に応じて積極的に活用してみましょう。
■採用面接
採用面接時に「成長型マインドセットの傾向が強いかどうか」を確認することで、会社が求める人材かどうか判断しやすくなります。過去の成功体験や、自己評価について問う質問をしてみるといいでしょう。
■目標設定
目標設定において成長型マインドセットを活かすと、前向きな目標を立てやすくなります。また、そうすることで意欲的に行動できるようにもなります。逆にネガティブな目標しか立てらない場合は、固定型マインドセットが定着している可能性があります。必要に応じてマインドセットを成長型に導くといいでしょう。
■人材育成
企業として成長型マインドセットの社員を求めているのであれば、人材育成時にはそれを意識した教育をしましょう。具体的には、結果ではなくプロセスを褒めたり労ったりするのが重要です。また、社員の行動や思考へのアドバイスも行ない、適宜思考の変化を促すといいでしょう。
マインドセットに関する研修の実践方法
企業が臨むマインドセットを定着させるために、研修を行なうこともあるかと思います。その歳には、次のような流れで行なうのがおすすめです。
1.定着させたいマインドセットを決める
最初に、どんなマインドセットを社員に定着させたいのかを決めます。「経営理念や会社の方針にどんな思考がマッチしているのか」「業績のいい社員はどんなマインドセットなのか」といったことを意識するのがいいでしょう。
2.研修の時期や対象者を明確にする
次に、いつ研修を行なうのか、どの社員に対して行なうのかを決めます。新卒研修や中途研修、管理職研修などで実施すると、適切なマインドセットに導きやすくなるのでおすすめです。
3.研修の流れを決める
どのような流れで実施するかを決めましょう。もしどう実施すべきか悩む場合は、「会社が望むマインドセットを共有⇒社員のマインドセットを確認⇒会社と社員のマインドセットのギャップを確認⇒ギャップを埋める課題を設定」という流れで行なうとスムーズです。
4.研修を実施する
実際に研修を実施します。ポジションによって必要となるマインドセットが異なることもあるので、役職ごと、部署ごとなどに分けて実施するとより効果的でしょう。
成長型マインドセットでひとりひとりが活躍できる企業になろう!
マインドセットを整えることは、社員ひとりひとりが活躍できる機会を生み出し、ひいては企業全体の生産性の向上などにもつながっていきます。
社内研修の一環として、マインドセットの研修を取り入れてみるのも良いでしょう。
ただ、マインドセットは個人のアイデンティティに触れる部分でもあるため、丁寧に説明を行って社員が気持ち良く取り組んでいけるような配慮を施すことが重要です。
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