毎月目にする給与明細に記載されている「基本給」。
いつも給与総額や手取り額にばかり注目してしまい、意識していない方も多いのではないでしょうか?
実は、給料の中でも基本給は大切な役割を果たしており、「毎月の支給額が同じならなんでもいいや」という考えでいると、損をしてしまう可能性があります。
今回は、知っているようで知らない基本給について、概要や最低賃金、かかってくる税金や知らないと損する情報などをお伝えします。
基本給とは?
基本給とは、「基本賃金」のことを指す言葉です。通勤手当や残業代、インセンティブなどの各種手当を含まない、ベースとなる給料のことを言います。
基本給の決め方は企業によってさまざまです。一般的には同業や同職種の相場によって決める企業や、年齢や勤続年数に応じた基準を作り機械的に算出している企業、その年の評価によって決定する企業もあります。
毎月の給料は、この基本給に手当金を加え、さらに各種控除を減額して支給されています。
つまり、基本給が高ければ必ずしも毎月の支給額が高くなるわけではなく、基本給が低いからといって支給額が低くなるとも限りません。
基本給は給料全体のベースとなる金額を指しています。
給与と基本給の違い
それでは、基本給に対して「給与」とはどのようなものなのでしょうか。
給与は、所得税法28条に明確な定めがあります。
給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費収び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう
所得税法28条
つまり、基本給に加えて各種手当や残業代、インセンティブなどを合わせて、会社から支給される全ての報酬を「給与」と呼ぶのです。
さらに、給与は金銭のみとは限りません。
給与は原則的に現金で支払われるものですが、労働協定で現物支給が認められる場合には、それも給与にあたります。
例えば、ボーナスとして自社製品が現物で支給されたときも、それは「給与」の一部です。会社から何かが支給され、それが課税対象となる場合には必ず給与明細に記載があるため、チェックするようにしましょう。
なお、給与の内訳は大きく「基準内賃金」と「基準外賃金」の2つに分けられます。
基準内賃金とは変動しない手当のことで、毎月の支給額が固定されている基本給はこれに該当します。その他、役職手当や職能給なども基準内賃金に分類されるのが一般的です。
一方の基準外賃金は、就業内容や生活条件によって支給額が変動する手当のことです。代表的な基準外賃金としては、深夜労働手当や時間外労働手当などが挙げられます。また、住宅手当や家族手当も条件に応じて変動するため、基準外賃金に該当します。
ただし、基準内賃金と基準外賃金の定義は厳密に定められているわけではありません。会社によっては、基本給のみを基準内賃金とし、その他の手当てをすべて基準外賃金としている場合もあります。
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基本給と固定給・月給・俸給の違い
基本給とよく似た言葉に、固定給や月給、俸給などがあります。間違えることのないように、それぞれの意味を理解しておくとよいでしょう。 固定給は月や時間などの単位に決まった額を支給する賃金で、基本給との違いは家族手当や住宅手当といった手当が金額に含まれることです。
基本的に、固定給は基本給に変動しない手当を足したものだと考えれば問題ありません。ちなみに、営業などで給与が完全歩合制の場合、固定給は支給されません。業績に応じた金額の歩合給のみが支払われる形になります。
一方、月給は1カ月に支払われる賃金全体のことです。固定給の場合は変動しない手当のみが含まれますが、月給には時間外労働手当などの就業内容に応じて変動する手当も含まれます。 前段落で解説した、基準内賃金と基準外賃金を合わせた給与の総体が月給です。
俸給は給与と同じ意味です。ただし、国家公務員が受け取る、手当を除いた基本給などの意味もあるので気を付けましょう。
基本給の決め方
基本給の決め方は、各企業によって異なります。代表的な決め方を紹介します。
- 仕事給
- 属人給
- 総合給
上記の基本給の決め方には、特徴やメリット・デメリットがあります。これらを詳しく見ていきましょう。
仕事給
仕事給は職務内容や責任、難しさなどで決定します。年齢や勤続年数は関係ないため、人件費を抑えられるメリットがあります。
ただし、同じ仕事なら同じ給料なのが、仕事給制度の特徴です。例えば、レストランで新人もベテランも同じハンバーグを作るなら、腕前に差があっても給料は変わりません。
つまり、個人の能力や経験で生まれる差が給料に反映されにくいです。公平さを大切にする半面、一人一人の貢献度を正確に評価することは難しい課題となっています。
企業は制度のメリット・デメリットをよく理解して、うまく使いこなす必要があるでしょう。
属人給
賃金制度には労働者の属人的要素で決める属人給が存在します。例えば「年齢」や「勤続年数」などです。
勤続年数と仕事の成果に関連性がある場合、勤めた年数に応じて給料が上がる「年功給」の仕組みは、従業員にとって納得しやすいでしょう。
例えば、会社で長く働くほど、知識やスキルが向上し、それにともなって仕事の成果も徐々に良くなるような状況です。しかし、本人の努力と成果が直接的に関係しないため、成果を出した社員と成果を出していない社員は、属人給では差をつけられません。
総合給
総合給は、これまで説明した仕事給と属人給を組み合わせた給与決定方式です。この方式では、学歴や年齢、勤続年数といった個人的要素を基礎としつつ、職務内容、能力、業績など仕事関連の要素も考慮して基本給を算定します。
日本経済団体連合会が実施した調査結果によれば、一般社員の場合は「職能給」が主流で、「年齢・勤続給」がその後に続きます。対照的に、管理職層では「役割給」がもっとも多く、次いで職能給が続く傾向がみられます。(出典:2019年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果|一般社団法人日本経済団体連合会)
上記のように、総合給制度は従業員の職位や状況に応じて、各要素の重みづけを柔軟に調整できる特徴があります。この適応性の高さから、日本企業の多くがこの制度を採用しています。
基本給を含む給与9つの内訳
基本給を含めた毎月の給与総額は、具体的にどのような内訳になっているのでしょうか。
具体的な内訳は以下の9つです。
- 各種手当
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 介護保険料
- 所得税
- 住民税
- 社宅費
- 各種積立金
- 欠勤控除
それぞれどのような意味を持ち、どのように計算されているのでしょうか?給与に関する理解を深めましょう。
1. 各種手当
手当とは、特定の条件に当てはまる社員にのみ支給されるものを指します。
具体的には役職手当、資格手当、家族手当などがあります。
また残業代は「時間外手当」と呼ばれ、規定時間外に労働した社員に支給される手当の一種です。
2. 健康保険料
ケガや病気にかかって病院を受診した際に、医療費負担を軽減するための保険料です。
3. 厚生年金保険料
会社員は必ず加入しなければならない制度で、年齢が65歳に達したときや障害を負ったときなどに年金が支給されます。
4. 介護保険料
40歳以上の国民が義務付けられている保険で、介護が必要になった際に保険金が支給されます。
5. 所得税
所得の金額に応じて国民が支払う税金です。
6. 住民税
「都道府県民税」と「市町村民税」を合計した税金です。
7. 社宅費
会社が用意している住宅に居住する際に支払う費用です。
8. 各種積立金
社員が任意で参加する社内親睦会や社員旅行のための積立金です。
9. 欠勤控除
「ノーワーク・ノーペイの原則」により、企業によっては欠勤や早退した分の給料を天引きされることがあります。
基本給の平均額
基本給は、各会社によって異なりますが、厚生労働省のデータから平均額を算出します。
以下は雇用形態別にみた平均賃金です。
年齢 | 正社員・正職員 | 正規社員・正職員以外 |
20〜24歳 | 228,700円 | 194,800円 |
25〜29歳 | 263,600円 | 216,400円 |
30〜34歳 | 294,100円 | 221,400円 |
35〜39歳 | 327,000円 | 220,500円 |
上記の金額は、以下の金額を含まない額です。
- 時間外手当
- 深夜手当
- 通勤手当
また、社会保険料や税金の控除前の金額となります。
基本給が影響を与える手当や控除
基本給が影響を与える手当や控除を紹介します。
- 時間外手当
- 賞与
- 退職金
- 社会保険料
基本給はさまざまな手当や控除にも大きく関わっています。項目がどのように基本給と連動し、従業員の総収入や将来の保障に影響を与えているのか、本章を読んで基本給の重要性を理解しましょう。
時間外手当
時間外手当(残業手当)は、時間外や休日労働に対して支払う割増賃金です。
計算式は以下のとおりです。
「時間外手当 = 基礎賃金 × 残業時間 × 割増率」
上記計算式の、基礎賃金は通常、基本給と諸手当の合計を指します。つまり、基本給は時間外手当の算出に直接影響を与えます。
賞与
賞与は通常、基本給の数ヵ月分として計算されます。例えば、基本給18万円で2.5ヵ月分の賞与なら45万円、28万円なら70万円となります。
ただし、実際の企業では以下のような要因も考慮されることがあります:
- 業績連動型の要素
- 個人評価
- 職位や勤続年数
これらの要因により計算は複雑になりますが、基本的に賞与と基本給は密接に関係しています。
退職金
退職金の計算方法は、各企業により異なりますが、勤続中の平均基本給に、勤続年数別の支給率をかけて計算する方法が一般的です。
例えば勤続年数11年で基本給25万円の従業員は、125万円(※)の退職金を支給されます。計算式は以下のとおりです。
※25万円 × 5.0 = 125万円(11年~15年は5.0倍の支給率を設けている場合)
なお、退職金の支払い時期や、適用される労働者の範囲も、就業規則に明確に記載しておくと社員に誤解を与えずに済むでしょう。
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社会保険料
社会保険料は健康保険・厚生年金保険・雇用保険・介護保険・労災保険の5つの保険にかかる保険料です。その金額は、標準報酬月額や全国健康保険協会または健康保険組合への加入有無によって異なります。
標準報酬月額とは、基本給に通勤手当、時間外手当などを加えた1ヵ月の総支給額(報酬月額)を保険料額表に当てはめ、等級分けした金額をいいます。
基本給も関わっているため、支払う社会保険料に影響を与えます。例えば、基本給の上昇で給与額が増えた場合、標準報酬月額の等級が上がれば社会保険料が高くなります。また、所得に応じて支払う税金が増える可能性もあります。
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手取りはどこに該当する?
給与にはさまざまな内訳項目がありますが、いわゆる「手取り」とはどの部分をさすのでしょうか。
毎月の給与は、勤怠記録や評価によって支給額が決定されます。
下記の通り、支給額から、保険料や税金などが控除として差し引かれた金額が「手取り」となります。
支給額
基本給に各種手当、残業代、インセンティブなどを加えた、会社から支給される金額です。
控除
会社を通じて支払われているお金のことです。
控除にあたるものには、以下のようなものがあります。
- 各種保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、介護保険料など)
- 税金(所得税、住民税など)
- 控除(寮費・社宅費、各種積立金、欠勤控除など)
基本給と手当どちらも税金はかかるの?
基本給と手当どちらにも税金がかかるのか、以下の項目に分けて解説します。
- 通勤手当
- 出張旅費
- 宿直手当・日直手当
上記の手当は、それぞれ異なる取り扱いを受けています。課税となるものもあれば、一定の条件下でのみ課税されるものもあります。本文を読んで、各手当の取り扱いについて理解を深めましょう。
通勤手当
基本的に非課税です。ただし、月額150,000円を超えた部分は課税対象となります。
出張旅費
常識の範囲内での出張旅費は非課税ですが、社内で出張旅費規程を作成する必要があります。
宿直手当・日直手当
1回の宿直あたり、4,000円までの宿直・日直手当が非課税となります。
また、手当の中には社会保険料がかからないものも存在します。
出張旅費や見舞金、退職金など臨時の支給は標準報酬月額に含まれないため、社会保険料の計算に入りません。
ちなみに、ボーナスは社会保険や労働保険の対象にならないといわれることがありますが、この認識は誤りです。支給額に応じて徴収の対象となります。
このように、支給される手当にも課税対象や、社会保険料の徴収対象になるものがあり、手当の種類によって手取り額が変動する点に留意しておきましょう。
基本給とともに給付される8つの手当の種類
基本給とともに給付される8つの手当の種類を紹介します。
- 家族手当・扶養手当
- 時間外手当・残業手当
- 通勤手当
- 役職手当
- 資格手当
- 住宅手当
- 皆勤手当
- 地域手当
これらの手当は、多くの企業で見られる一般的なものですが、それぞれに特徴や目的があります。手当が給与にどのように反映され、税金や社会保険料にどう影響するのか理解を深めましょう。
1. 家族手当、扶養手当
家族のいる社員に対して支給される手当です。一般的に、扶養する家族の人数に応じて金額が増額されます。
2. 時間外手当、残業手当
既定の就業時間を超えて労働した際に支払われる手当です。
また、時間外手当の中には「固定残業代」「みなし残業代」と呼ばれるものがあります。
固定残業代制度が採用されている場合、毎月想定される残業代があらかじめ給与の中に盛り込まれており、一定額までの残業代しか受け取れません。
3. 通勤手当
通勤のために公共交通機関を使用する際、その交通費が支払われるものです。複数の通勤ルートがある場合、基本的には最も安いルートの交通費が支給されます。
4. 役職手当
管理職や主任職など、一定以上の役職に就いている社員に支給されます。
5. 資格手当
高度なスキルや免許など、特定の資格を有する社員に支払われます。どのような資格が対象となるかは、企業によって規定が異なります。
6. 住宅手当
社員が支払っている賃貸料や住宅ローンの一部が補助されます。
7. 皆勤手当
企業の稼働日、または社員の定められた出勤日すべてにおいて、欠勤することなく就労した場合に支給されます。
8. 地域手当
東京など物価や賃料が高い地域で、生活の補助として支給される手当です。
基本給の最低金額を知る方法
固定の月給を受け取っている場合でも、最低賃金の制度は適用され、それにより基本給の下限も決まります。
最低賃金の対象となる「月給」は、基本給と諸手当の合計額です。
ただし、手当のうち、結婚手当などの臨時で支払われる手当、残業代や割増賃金、皆勤手当、通勤手当および家族手当は対象外となります。
月給を時間額で換算して、最低賃金を下回る場合は違法となりますので、以下の計算方法で自分の賃金を計算してみましょう。
【月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)】
最低賃金額以上かどうかを確認する方法/厚生労働省
また、最低賃金は都道府県によって金額が異なります。この計算式で算出して金額が地域の最低金額を下回っている場合、労働局や労働基準監督署に問い合わせてみましょう
基本給の最低金額は、その他の手当と合算した時に最低賃金を上回るように設定する必要があります。
基本給が低いと損をする3つの理由
基本給が低いと損をする3つの理由は、以下のとおりです。
- 残業代が低く算出されてしまう
- ボーナスが低くなってしまう
- 給与額が補償されない
多くの人は手取り額にのみ注目しがちですが、実は基本給の水準が将来の収入や生活の安定性に大きく影響します。基本給が低いことによるデメリットを本章で知りましょう。
1. 残業代が低く算出されてしまう
残業代の計算は、「残業時間×1時間あたりの基礎賃金×割増率」で算出されることが労働基準法で定められています。
基礎賃金とは、基本給に家族手当や通勤手当など特定の手当を除いて、諸手当を加えた金額です。
基本給は必ず計算に含まれますので、基本給が低ければ低いほど、残業代も低く算出されてしまうことになります。
2. ボーナスが低くなってしまう
ボーナスの計算は会社によって様々ですが、こちらも基本給が基準となることが多いようです。
例えば、月給の額面が25万円だとしても、基本給が15万円の場合には、
20万円 × 2ヵ月分 × 年2回 = 80万円がボーナスの額となります。
一方、基本給が20万円であった場合には、80万円がボーナス額となり年額20万円も差が生まれてしまうのです。
3. 給与額が補償されない
基本給と違い、手当は支給が廃止される可能性もあり、支払いが補償されているものではありません。
業績によってボーナスがカットされることもありますし、住宅手当や資格手当なども会社の方針によって廃止されることがあります。
また、働き方改革によって残業が削減されたり、休日出勤が減らされたりしてしまうと、給与が大幅に減額されてしまうことになります。
企業と給与交渉するときは基本給での交渉を
基本給は各種手当と違い、法律によって保障されている給与です。
「不利益変更禁止の原則」という決まりに基づいて、企業が合理的な理由なく、社員の同意なしに基本給を減額することが禁止されています。
そのため、基本給を低く設定し、いつでも変更が可能な手当で給与を増額している企業や求人には、注意が必要です。
手取り額のみで判断するのではなく、内訳をしっかりと確認し、基本給で交渉することを忘れないようにしてください。
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